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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第一章 魔導を極めし魔女
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オコロの町での出来事

新章です、主人公レギの(厄介な)独白の多い内容ですが、楽しんで頂けたらと思います。(苦手な人はブラウザバックしてください)


第一章を読みやすくなるよう、句読点に注意して改稿しました。

 荒れ地を抜け、草原の中を移動し、人馬の通る道を捜していると、やっとそれを発見した。

 あとは道を辿り、オコロの町へ戻るだけだ。


 オコロは小さな町だ。高く険しいボルム山を迂回する道の途中にある、宿場町として作られた町であったらしい。

 東にある大きな街と、西側にある都市を繋ぐ道の間にあるオコロは、荷物を積んだ荷車などが行き交う町だ。


 俺は西にある都市グァネイダで、大昔に滅んだという、大きな街への地図と、伝承の情報を手に入れ、いまでは人の入り込まぬ荒れ果てた未踏の地を探索し、魔神ラウヴァレアシュと接触するに至った。


 の魔神から、三つの魔法と魔眼を授けられた俺は、魔神の言った「同胞」を捜す事を目的の一つとする事になったのである。

 同胞とは、彼の者が名乗る時に言った「闇に沈みし暗き力ある五本の柱」──、つまり四(はしら)の魔神が居るという意味であろう。「闇に沈みし」というのは、彼の者が魔神などと呼ばれる以前は、光輝なる眷属の一員。……つまり「神」の側の存在であった事を暗示しているのではないだろうか。……まあ、こんな事を聖職者に聞かせれば、「魔神の吐く虚言」の一言で片付けられてしまうだろう。


 だが、魔導に関する書物を読み漁っていた頃に得た知識の中には、「神の座から堕ちた者」から知識を得た、とする事柄が書かれている内容の物があった。もちろんその中には嘘や誇張や思い込みで書かれた物もあるだろう。だが今の俺には、その内のいくつかが本物であるという確証を得たのだ。


 残る四柱の上位存在の居場所についてだが、ラウヴァレアシュが知っていた事は少なかった。ただ「魔神ツェルエルヴァールム」の配下であった者が居る場所なら見当が付いたと言って、大体の場所を俺に教え、魔眼にその配下の魔力を感じ取れるようにしたのである。


 その場所は、ここからかなり距離がある所の鉱山や荒れ地の多い、これまた人の近寄ろうとしない、辺境に近い場所であった。

 鉱山と言っても昔は大規模な鉄や銀の採掘がおこなわれていた、というのは聞いた事があるが、最近ではその名を耳にしない。


 まずはそこへ向かうにしても、オコロの町へ戻り──旅の疲れを癒してから、再び遠方へ旅立つ準備を始めなければならない、冒険に慣れているとはいえ、体力が無尽蔵に湧き出ている訳ではないのだ。


 オコロの町へ戻って来た俺は、一度泊まった宿屋へ行き一泊する事にした。時間的にはもう夕暮れ前だったが腹が減っていたので、宿の食事がまだ用意できない事を知ると、食事はいいから風呂場に湯を張っておけと命じて銀貨を投げる。


 部屋に荷物を置いて町の通りへ出ると不思議な感じがした。自分は上位存在と対峙して生きて戻り、魔眼や強力な魔法を得る事で、新しい自分に生まれ変わったような、そんな気持ちになったのだ。


 ひなびた町を行く人々の何と小さなものよと哀れみさえ感じる。彼らは自分が何者かさえ知らず、上位存在の事など忘れ。日常や、宗教や、金を稼ぐ事にばかり気を取られている。

 周囲との共依存や軋轢あつれきなどに一喜一憂する彼らは、鏡に向かって吠えている犬か何かに思える自分が居た。


 魔導の奥義に向かって足を踏み入れた自分が、いかに彼らと価値観において、存在の仕方において異なるか、という事を再認識した。

 元々自分は強欲でありながら、節度をわきまえる事も知っていた。それに引き換え多くの人は、快楽主義を自称しながらも、これこれについては許容できず、ここまでは受け入れ可能。などと自ら範囲を狭める選択をする。


 そうなのだ、今はっきりと分かった事がある。──それは自分が、魔導の道を求め始めていた頃すでに、その道の()()に入っていたのだと。自分は他人の価値観や、その他大勢の常識、などというものに愛想を尽かし、新たなる価値観や、本来の自分に向かっての思索の歩みを始め、ついにその答に至る道を見出したのだ。


 俺は通りを行き交う人間の間を歩きながら、声を出して大いに笑ってしまった。道行く者が一人で大笑いを始めた男を、怪訝けげんな表情で見つめている。

 そうだ、彼らには分かるまい。孤独なる道、思索と行動と、あらゆる過ちと正しさを秘めた険しい道の先に待つ、恐るべき真実へと至る答えの事を。




 料理を提供している店がいくつか目に入ったが、その中でも(この町では)一番良さそうな店に入る事にした。当分金の心配をする必要はないだろう。ラウヴァレアシュから貰った古代の金貨や、装飾品は、今の価値にすれば相当の値段が付く事は知っていた。

 これらをしかるべき店で売れば、かなりの額が手に入れられる。ただしその店は、王都や好事家こうずかの領主が住む都市などに限られる場合が多い。古代の物だと鑑定できる者、あるいは正直な査定をする者が居るかどうかも重要である。


 適当にいくつかの料理を注文し、赤葡萄酒も注文する。僻地を歩き回って、やっと町へ戻って来た最初の飯だ、ありがたく頂く事にしよう。


 この地域では珍しい、牛肉を使った料理を注文したが、なかなか旨い。骨髄を使ったソースなど手も込んでいた。ここの料理人はおそらく外部から流れて来た者だろう。この宿場町にまでわざわざやって来た理由は分からないが、都会の料理屋で修業したような味付けであったのだ。


 食事と酒に満足すると宿へ戻り、すぐに風呂で汗を流す事にする。銀貨を渡された宿屋の店主は、この客は金になると踏んだのだろうか、自分の娘に背中を流させると言って、俺たちを風呂場へ押し込んだ。……娘の方も、俺の事を見るなり乗り気になって、背中を流す事に積極的になる。


 どうやらこの宿は、そういった気配り(サービス)もおこなっていたらしい。彼女は俺が小さな湯船に浸かると、外へと出て行ったが、風呂場から出て部屋に戻ると、ドアの前で待っていた。

 俺はドアの鍵を開けると彼女に部屋に入るよう促し、ドアをそっと閉めた……


 *****


 翌朝早くに宿を出る事にした。朝食と昼食用の包み(弁当)を用意してもらい、()()()()に対する心付け(チップ)を手渡すと、店主は満足げに笑って下がって行く。

 部屋に戻る前に風呂場で汗を流し、簡単な身支度を済ませると宿をあとにする。


 別に急いでいる訳ではないが、幸い都市グァネイダに向かう荷車に同乗させて貰える事ができた。この町ではいい鍛冶屋が居ない為、都市の方で手に入れたばかりの魔剣を修繕してもらうつもりだ。


 特に鞘は布を巻き付けて応急措置をしただけなのだ。この得難い武器を、この様な姿のままにしておくのは忍びない。荷車に揺られながら俺はそんな事を想い、辺りの景色を眺めながら荷車で運ばれて行く。

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