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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第五章 戦士の精髄

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魔法使いディジェとの出会いと別れ

今回の話の中では、相手の対応によって冷徹にも、優しくもなるレギが見られます。

ただの悪人では無く、哀れみなどもちゃんと持っている人なんですよ。(だからこそ、いざという時には、哀れみを感じた相手をも切り捨てられるレギは、やっぱり怖い人なのです)

 殺害した五人の野盗から戦利品を奪い取っておいた。首領格の男の革帯ベルトから下がっていた短刀は、なかなか見事な作りだったので、それを拝借はいしゃくした。あとは連中の持っていた皮袋の中身を確認してみたが──銀貨や銅貨しかない。

 装備していた武器や防具は品質が悪く、鎖帷子(かたびら)などは所々が錆び付いていた。


(一本の鉄の剣は悪くない状態だったので、影の倉庫に入れておく)


「まるで小鬼ゴブリンと同じだな、こいつらは」

 しかし──もしかするとこいつらは、他にも居る野盗の一部なのかもしれない。

 魔法使いに──それも実戦経験のない素人同然の魔法使いに、「不破の隠幕」などを掛けるように指示する事ができていたのは、そうした経験を積み重ねてきた連中が他にも居て、この辺りを縄張りとしているのではと思わせた。

 少なくとも馬鹿丸出しの首領格だった男では、そんな作戦を練れるとは思えないのだ。


「他の連中(野盗)に気づかれる前に、先へ行った方がいいか──?」

 あるいは()()()()()、そいつらの隠れ家を襲撃してやるべきか? 大した戦利品が得られるとも思えないが、実験しておきたい魔法などもある。

 この死王の魔剣を使えば、新しい戦い方も可能だという事はすでに証明された。


 いや……そんな野盗たちを相手にするよりも、南下する道を取るべきだろうか?

 早めに火山島へ渡る方法を考えた方がいいかもしれない、南の海が荒れて渡れなくなるなどの自然現象が起きる事もあり得る。季節の変わり目に大きな天候の変化が現れる地域も多いと聞く。


 東か西かは忘れたが、冬の前に風が強く吹き始めるとかなんとか──大陸の南側で、同じような現象が起こらないとも限らない。

 そんな事を考えていると、怪我をした魔法使いが目を覚ました。


「大丈夫か?」

 魔法使いの若者は青白い顔を真っ青にして、急に何度も謝罪を始めた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。攻撃するつもりなんてなかったんです、けどあいつらに無理矢理──」

 そんな言い訳を始めたのであった。


 確かに魔法の威力は大した物ではなかっただろう。だからこそ魔法を反射されても切り傷くらいで済んだのだ。

 俺は「分かった、分かった」と俺よりも少し年下くらいの男の言葉をさえぎると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思い立った。──つまり、こいつが野盗の隠れ家に戻るのなら……こいつは死ぬ。

 村や町へ行くと言うなら生かしておこう。


 前者の場合、エンファマーユに呪いを掛けた魔導師から得た呪術を使ってみようと思う。──それは、呪詛じゅそを掛けた相手を触媒しょくばいとして、呪力の爆発を起こす危険な呪術だ。

 威力はそれほどでもないが、飛び散る血が刃となって周辺に居る者たちに襲いかかるという、少々残酷な呪術である。


「た、たすけてくださいぃ~~」

 命乞いをする魔法使いに「分かったから俺の質問に答えろ」と低い声で脅しをかける。

 男は泣き喚くのを止めて、話しを聞く気になった。


「こいつらの仲間が他にも居るんだろう? お前はどうするつもりだ? こいつらの隠れ家に逃げ帰るか、それとも近くの町や村に向かうのか」

 野盗の死体を指しながら──どっちだ? と尋ねると男は「マリシ村に行きます」と即座に答えたものだ。

 どうやら心底、野盗どもにこき使われ──逃げ出したいと思っていた様子である。


「そうか。それで? そのマリシ村とはどこにある?」

 革帯に付けた小鞄から回復薬を取り出すと、それを男に差し出して飲むように言うと、男は感謝の言葉を何度も口にしてそれを飲み干す。

「……ふぅ、マリシ村は……ここから南西にあります。距離は──歩いて三時間くらいでしょうか」

 結構距離が離れているらしい、反対側に続く道の先はどうだ? と聞くと、半日以上歩けば「ムクハ」という町があるそうだ。


「僕はまだ行った事はありませんが」

 そうかと言って腰を上げる。

 男も立ち上がり、空になった小瓶を返してきた。

 傷はうずくだろうが、太股の怪我は大したものではないだろう。投げつけた短刀も回収しておいた、男の持っていた短刀はそのまま持たせてある。


「よし、それじゃマリシ村に向かうか」

 男はか細い声で「はい」と答え、踏み固められた黄土色の街道を歩き始める。

 その薄汚れた姿は、金目の物を奪われた街男にしか見えない。彼の居た野盗の隠れ家では、汚れた衣服などを洗濯する余裕がなかったのだろう。

 歩きながらの会話はしばらくなかったが、互いの名前を伝えあった。


 男の名は「ディジェ」と言うらしい。

 この冴えない魔法使いは一月ひとつきほど前に不運にも、あの禁忌きんきの地との「境界路」と呼ばれる道を通過する荷車に乗り込み身柄を拘束されたのだという。

「奴らは荷車から一部の品を『通行料』として拝借すると、僕が旅をしている魔法使いだと知って、強引に盗賊の仲間に入れると言ったんです」


 魔法使いが貴重な戦力になるからと、相手の素性も知らずに仲間に引き入れるとは……やはり、相当に頭の悪い連中であるらしい。

 もしディジェが貴族関係の魔法使いであったら、私兵を送り込まれて皆殺しになっていてもおかしくはない。


 だがこの弱そうな魔法使いは、どこだかの(聞いた事がない)魔法学校をなんとか卒業したばかりの、冒険者としても()()()()の、ど素人であるようだ。


 シンは武力に重きを置く国であるが、魔術や魔法などと関わりの深い土地柄であるのも本当で、「禁忌の地」を筆頭に、いくつもの魔物の溢れる迷宮や、危険な領域を抱える国でもあるのだと、ディジェは説明する。

「魔法学校の教師が言っていた事の受け売りですが……」

 控えめに言う魔法使い。魔法学校もここ数年の内に創設されたらしく、他国と比べて魔法使いや魔術師の総数は少ないらしい。


 大昔に栄えたと思われる文明が魔導の最先端を行く国()()()()()()()、その継承が為されずに滅びれば、あとに残るのは──魔導に対する忌避きひの思いのみだったという訳か……?

 しかしここ最近の国王は、魔術師や魔法使いの育成にも力を入れ、国のあり方を徐々にだが変えようとしているようだ。


「それにしても、シンは治安が良い方だと聞いていたが、野盗どもを野放しにするとは。噂は噂という事か」

 するとディジェは「そうでもありません」と反論を展開する。

「国の北側は禁忌の地に近い為、警備の手が行き渡らないみたいです。中央付近は安全な場所が多いと思いますよ」

 なるほど、北側の土地は相当に「禁忌タブー」として扱われてきたのだろう、誰もそこを通りかかりたくないと思うほどに。




 そんな調子でたまに会話をし、草が生え出たりしている街道を歩きながら、かなりの時間が経過した。

 林や森の近くを横切り、丘と岩山を避けて曲がっている街道の先に、灰色の建物が見えてきた。

 背の低い石の壁と、木の杭が打ち込まれて作られた柵に守られたマリシ村だ。


「ああ良かった……無事に着きました」

 ディジェはほっと胸を撫で下ろす。

 体力的にもきつかったのだろう。途中で何度か休憩を取ったが、正午過ぎには村に辿り着いたのである。


「ここには料理屋とかあるのか?」

「ええ……一軒だけ、酒場を兼ねた宿屋がありますよ」とディジェは言った。この魔法使いはマリシ村からムクハの町に向かう途中で拉致された訳だが、ムクハまで行くのを止めて、この村から西にある実家の方まで帰る事にしたのだった。


「ほら」

 俺は野盗から奪った金の入った皮袋の一つを投げてやった。

「それで飯を食って、宿に泊まるといい」

「あ、ありがとうございますぅ……」

 感激したと言わんばかりの声で、今にも泣き出しそうな表情をする魔法使い。


「俺は昼食を取ったらここから南へ向かう。お前とはここでお別れだな」

 そう言って村にある武器などを買い取ってくれる店の場所を聞き、そっちへ向かう事にした。野盗から奪った短刀などの装備品を売る為だ。

 小さな村だが鍛冶屋があり、そこでなら武器の買い取りをやっているのではないかというので、奴らから奪った鉄の剣などを売る事にした。


 店の店主は無愛想で、鉄の剣を見るなり「状態が良くないな」と口にした。二本の鉄の剣と短刀を売って(シンで使われている)銅貨二十枚ほどと交換した。

 首領格の男が持っていた短刀を見せたが、そうした物はここで売るよりも、正式な武器屋に持って行った方がいいだろうと、鍛冶屋の親父は親切に申し出たので、俺は「確かにそうかもしれない」と応えて、その短刀は背嚢はいのうにしまい込んだ。




 野盗どもが持っていた硬貨はシンで使われている「ガイン硬貨」と、この国の南にある国「アントワ」で作られる「エナス硬貨」の二つが多かった。

 ベグレザやフィエジアで使われる「ピラル硬貨」は、多くの国で信頼のある硬貨であったはず(フィエジアの貨幣かへいはオラス硬貨だが、ベグレザの国境近くではピラル硬貨の使用を求められる場合が多い)。

 ブラウギールの「テジン硬貨」は銅貨ですら粗悪な品質だと言われ、最も忌み嫌われている貨幣であり、「犯罪都市アーヴィスベル」などでは、他国の貨幣しか使えない有様だったのを覚えている。




「あの国は真実、いっぺん死んだ方がいい」

 俺は毒突いてから酒場に向かって歩き出す。

 乾いた黄土色の地面が剥き出した道を進み、ぼろい木造の建物が多く集まる場所で、小さな酒場の看板を見つけた。


 やたらと立て付けの悪いドアを開けて中に入ると、客はほとんど居なかった。これから別の町まで商品を届けに行こうという商人や、荷運び屋が数名席に座っているくらいだろう。

 どいつもこいつも暗い顔をして、テーブルに置かれた料理を前に黙々と食事を取っている。


 ディジェの姿はなく、すでに二階にある部屋を借りて一休みするつもりなのだろう。


 俺は小さな木製のテーブル席に座ると、大柄な女店主の娘らしい給仕を呼んだ。

「どうぞ」と献立表差し出すが、あまり品数はない。入ってきた食材の品数によって書かれている料理が変動するのだろう。

 今日は「き肉パイ包み焼き」と「山羊の鉄板焼き(ステーキ)」がおすすめだと、給仕の女が言うので──その二つと大きめの丸いパンを二つ注文する。

「──それと麦酒を」

 給仕は「かしこまりました」と丁寧に言って調理場に向かう。


 このさびれた村も行商人などが通る為、それなりにやっていけているみたいだ。

 この国では商人や荷運び屋は共に活動している場合が多いらしい。村や町の間で行われる定期的な物資の調達を請け負う、固定区間の商人のような「荷運び屋」は、安全が確保された街道のある地域で多い職業だった。

 短い区間(一つの町と街の間など)を行ったり来たりするだけの荷運び屋と、遠方まで荷車を移動させる運び屋が居るらしいが──要するに、目的地まで物資を届けて欲しい人が依頼するのである。

 そうした運搬業は信頼が重要で、固定客の間を繰り返し移動する事から「運び屋」と呼ばれるようになったのだとか。


 店の中に居る数名の客を見ながら、そんな事を考えていると──香ばしい匂いがする皿を持った給仕がやって来て、注文した物を二回に分けて運んできた。

「うまそうだ」

 予想外な料理の数々を前に、俺は正直な感想を口にした。

 このひなびた村の、一軒しかない料理屋に期待などしていなかったが、それは自分の先入観に過ぎないものだと反省した。──表面上の事ですべてが決まるはずはないのだと、改めて思い知らされた気分になって、それらの料理をありがたく頂く事にする。


 それは見た目だけでなく、どれも美味しい料理だった。山羊肉の鉄板焼きなど臭いがきついのではと思ったが、大蒜にんにくや香草を使って臭みを消している。

 パンも古い小麦粉を使っている事もなく、ちゃんと小麦の香りがする──口当たりも良い、丁寧に作られたパンであった。


 パイに包まれた挽き肉も、古くなった肉を細かく砕いて香辛料を()()()()()ような適当な料理ではなく、肉の味と練り込まれた野菜の味も味わえる──絶品と言って良い品だ。


 麦酒はいまいちがったが、それ以外は素晴らしい昼食だった。

 俺は給仕に「ピラル銀貨」を手渡すと釣りはいらないと言い、満足して店をあとにしたのである。

貨幣の話は──まあ、雰囲気程度で。(フィエジアの貨幣をエメトン硬貨からオラス硬貨に変更しました。──硬貨の話は厳密には貨幣単位と違うのですが。エメトン硬貨は古い時代の貨幣、くらいの認識でもいいかな~とも思いましたが)

古くなった肉を砕いて──というのは、中世のある国では、そうした事が行われていたらしいです。

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