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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第四章 魔神の依頼と異端の魔導師

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暗闇の巨人の襲撃

 さらに仮面を調べる為に、最も古い記憶を探ろうとした。

 この黒曜石の仮面が誕生する切っかけとなった出来事を確認しようと思ったのだ。それはおそらく、()()()()()()()()()()であるはずなのだ。


 そうして過去の記憶を探っていた時に──俺の無意識が緊急事態を告げてきたのである。

 俺はすぐに仮面の探索を中断し、冥府の領域に戻って来た。


「すまない二人とも。俺の肉体に危険が及ぶかもしれない。いったん帰らせてもらう」

 俺は長椅子から立ち上がり──水鏡のある部屋に駆け出そうとしたが、双子は俺を引き留めて、空間に直接出口を開いてくれた。


「「事態が収まったら、また会いましょう」」

 彼女らはそれだけを言うと、俺を館の一室が映り込んでいる水鏡の中へと送り込む。

 俺の霊体が魔術の門の領域に戻ると──現実世界に戻る前に、己の意識をはっきりと覚醒させて戻るよう準備を整えてから戻った。


 *****


 目覚めると同時に周囲の様子をうかがう。

 三重に張り巡らせた結界の内、一番外側にある物を何者かが通過したのが分かった。

 俺は屋根代わりの布などを影の倉庫に放り込み、背嚢はいのうの中に寝袋をしまうと、それも影の倉庫の中に沈めた。暗闇の中で魔眼の視野を使い、周囲を窺いながら木の上から降りて行く。


 地面に降り立つと魔剣は鞘に収めたまま、木の陰に隠れてなにが結界の中に足を踏み入れたかを探る。

 人や獣だけでなく、魔物などに対する排除効果のある結界だ。

 多くの相手には、そこに結界があると認識させる事もなく、相手からその結界を避けて行動するはず。なのに今回の相手は結界の中へと躊躇ためらいなく足を踏み入れた。


 敵意は今のところ感じていないが、危険な相手のような気がする。

 この夜の暗闇の中で生命探知を使って探してみたが、大きな生き物は居ない。夕食時に見かけた獣らしい生き物も見当たらない。──ところが、俺の中にある危険を察知する感覚が危険を訴え続けている。なにかがこの夜の闇の中に居るぞと警告している。


 生命探知から魔力探知に切り替え、周囲を見ると──一瞬、なにかが映った。

 細い木の幹を思わせる赤紫色に光る二本の柱が見えた。

 離れた位置にあるそれは、林の周辺を歩いているみたいに動き回っている。

 俺は恐る恐る動く光の上を見上げてみた。


 するとそこには、大きな人影らしきものが立っていた。


 細長い脚に支えられた胴と、長い腕をだらりと下げた赤紫色の大きな人影。

 ぼんやりと夜の闇の中に浮かび上がる影は、十メートル以上の高さを持つ──()()()()()()()()()に見えた。


「なんだ、あれは──」

 視野の性質を細かく変更してみたが、魔力を持った存在であるのは間違いない。

 ただそいつは()()()()()()()──おそらく()()()()()()()()()だろう。特殊な霊質をした身体であるのは明白だった。


「魔物──いや、まさか上位存在か?」

 亡霊や幻霊のたぐいかとも思ったが、どちらかというと上位存在の持つ霊体に近い物で構成された身体であるらしい。

 離れた位置からなんとか調べた限りでは、半物質的な身体を持った存在だというのは分かった。


 あの細長い脚で身体を支えているという事はないだろう。つまり重さを持っている訳ではなく、浮遊しているのと変わらない存在だと推測した。半霊的、半物質的な存在だとすると──やはり上位存在を思いつく。

 それがこんな場所を彷徨うろついているとは──自然豊かな平地でありながら、人が入り込む様子がないのは、こいつの所為せいなのだろうか?


 それは林の周辺を音もなく歩き回り、明らかにこちらを探し出そうとしている、林から離れようとはしないのだ。


 それが急に立ち止まった。

 身体の上にある青い炎の玉の様な二つの目が林を見下ろし、()()()()()()()()()()()()()のだ。


(しまった!)

 俺は相手に視認されたと同時に寒気に似た危険を察知した。

 寄り添っていた木から離れると、木々の間を駆け抜ける。


 後方から「バシンッ」と空気が破裂したみたいな音が聞こえた。木の陰に隠れながら今さっき居た場所を見ると──木の一部が凍り付き、凍り付いた低木から靄があふれ出ているのが確認できた。


(魔法か……? いや、しかし妙だ)

 その大きな影は再び見失った俺を探して、林の周囲を彷徨き始める。

 林の中に俺が居ると分かっても、林ごと冰漬けにする気はないらしい。それは好都合だが、このままではいずれ見つかって攻撃を受けるだろう。


 俺はしゃがみ込むと、影の中から背嚢を取り出し、目的の物を取り出すと再び背嚢を影の中へ押し込む。

 松明たいまつを三本取り出し、油の入った瓶を開けて松明の布に染み込ませると、それに火を付けて奴の足下にそれを放り投げる。


『ゥォゴゴゴッ』

 そんな奇妙な声が上空から聞こえてきた。

 奴の身体は松明の光を受けて、黒と暗紫色の細長い脚を暗闇の中に浮き上がらせた。

 再び「バシンッ」という乾いた音が響くと、松明は氷漬けになって消火されてしまったらしい。


 奴はどうやら()()()()()()なようだ。

 昼間に奴が現れなかったのもうなずける。

 活動範囲がどの程度のものかは分からないが、おそらくこの近辺の草原を縄張りにしているのだろう。


 そして今の行動を観察していて分かった事がある。

 奴は魔法の行使に呪文は使わずに、手を伸ばした先に凍気を発生させる事が可能らしい。明らかに上位存在の力だろう。──ただ威力はそれほどでもなさそうだ。


 暗闇に溶け込むみたいな身体──その身体は炎の明かりなどに照らされない限りは、ほとんど肉眼で見えないようだ。──目の前に奴の脚があったとしても、夜の暗闇の中では視認する事はできまい。

 にしても奴は何故、俺を執拗しつように狙っているのか。


「いや、それを考えても仕方がないか」

 自分の領域に入り込んで来た人間を攻撃するのだろう。

 この平地の草原に人が足を踏み入れない理由は、それ以外には考えつかない。

 森を切り開いてまで自らの領土を拡げようとする人間が、こんな平地の肥沃ひよくな土地に手を付けないなんて、なにか理由があるに決まっているではないか。


 俺はなんとか奴の目から逃れようと木の陰を移動していたが、ついに林の端っこまで来てしまった。

 これは自分に強化魔法などを掛けて、奴と戦ってみた方がいいかもしれない。

 もしあらゆる攻撃が効かないようなら林の陰に隠れ、そこから古びた短刀を使って幽世かくりよへ逃げ込む方がいいかもしれ──いや、待て。

 半霊的、半物質的な上位存在なら、幽世に追跡して来る可能性もある。


「戦うにしても逃げるにしても、一か八かだな」

 俺は自身に抵抗魔法などを掛けると、林から飛び出し「暗闇の巨人」に向けて光属性の魔法の矢を撃ち出して攻撃した。

『ヴィォォン』

 そんな奇怪な音を発して、奴は光の弾丸を吸収してしまった。


 のろのろとした動きで手を伸ばしてくる──当然俺は、その手の先から退避すると、火炎魔法を撃ち出して、今度はその魔法を奴の胴体の手前で爆発させ、炎を浴びせかけてやった。

 黒い輪郭を持つ身体が炎に包まれると奴は、大きな手で火を押さえつけて消し去る。


 また凍気を発して来るかと思いきや、巨人は前屈みになって、地面に手を突いた。

 すると足下から影が──鋭く尖った黒い槍となって襲いかかってきたのである。

 俺は咄嗟とっさにそれをかわすのに成功し、腰の魔剣を引き抜きざま、影の中へと引っ込んで行く槍の先端を切断した。


『ギキキュィィッ』

 巨人の頭部がある場所から機械的な音が聞こえてきた。痛覚があるのだろうか──とてもそんな玉には見えないが。

 切断された二本の黒い槍の先──奴の身体の一部──がポロポロと地面に落ちた。……それは結晶化した黒い水晶を思わせる物になって転がっている。

 俺はその二つの水晶を拾うと、林の陰に退避した。


 暗闇の巨人から身を隠し、時間が経つのを待つ作戦に切り替えた。──何故なら、遠くの空がしらみ始めてきたからだ。

 このまま朝日が大地を照らし出せば、暗闇の巨人は幽世かどこかへと逃げ去るだろう。


 森の陰に隠れながら、奴の指先かなにかを切り落とした結晶を物体調査に掛けて、その事がはっきりとした。

 奴は日の光には弱く、この結晶も日の光に触れれば消えて無くなるだろう。俺は手にしていた結晶を影の倉庫の中にしまい込んだ。




 持久戦がじりじりと続いた。

 ただ林の中に身を潜め、相手の視線から逃れ隠れ続ける隠れん坊。

 のろのろと林の周りを一定の速度で移動する暗闇の巨人。

 ついに奴が音を上げる時がやってきた。


 日の光が、さ──っと草原を照らし始める。

 暖かい光。

 草木からもやが上がるほどの暖かい光に包まれると、暗闇の巨人は幻のように光の中へと溶け込むみたいに消え去った。魔力の反応もない──まるで最初から存在していなかったかのようだ。


 しばらくは周囲の様子を窺っていたが、安全を確認すると南へ向けて歩き出す。




 俺は魔術の門を開くと、肉体を自律制御して南へ向かって歩き続けるようにし、俺の意識は魔術の門の中で活動を続ける。

 まずは双子の用意した──「()()()()」のドアを開けて、水鏡を利用して彼女らの領域へと戻って行く。


 すると部屋の中には、目を閉じたままの侍女がドアの前で立ち尽くし、俺の姿を確認するとドアを開けて「こちらへ」とだけ口にする。

 こうして再び双子の待つ部屋に案内されて行った。


「「どうだった?」」と双子は揃って問いかける。

「ああ……それが、夜の闇に紛れる巨人が現れて──そいつと隠れん坊をしていた」

 ありのままを説明すると、彼女らは「あなたの身体は今、どの辺りに居るのか」といった事を聞いてきた。

 大陸中央部にあるシンと呼ばれる国の広大な草原を南下していると説明すると、彼女らは神妙な顔つきになる。


「その巨人は『魔神オグマギゲイア』大地の力──その()()()()()()()()()()()()、闇夜と死の古き魔神。死の魔術にも関わる力の根源とされる存在」

「かつてその魔神の力を使って『()()()()』といった存在が創られた強力な魔神よ。幽世と現世を行ったり来たりしているとは知っていたけれど、未だに彷徨さまよい続けているのね……」


 闇の精霊! なんと、それがあの暗闇の巨人……いや、魔神オグマギゲイアから生み出されたというのか。

 俺は影の中にしまった黒い結晶を思い出していた。あれを使えば「闇の精霊」を使役する事ができるようになるかもしれない。

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