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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第四章 魔神の依頼と異端の魔導師

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人跡未踏の草原を南下し続ける冒険

もう少しこの章は続きます。

今回はサブタイトル通り、南へ向かうだけの場面で起こる事柄などのお話。

 魔眼を用いて周辺の地形を探って、地図と照合して自分の居る位置を特定しようと考えたが──この辺りは平地ばかりだった(暗くて遠くは判然としないが)。山がないのだ。

 辛うじて北側に見える大きな山の陰が確認できるが、それはとても遠い様子だ。


「あれだけの大きさの山となると……大陸中央にある『大陸のへそ』と呼ばれる『ブルボルヒナ山』か?」

 それはシンとピアネス、二つの国の間にある大きな死火山だ。巨大な岩山がそびえ立ったような一つの山が、平地の真ん中に忽然こつぜんと現れるその姿は、周辺に住む人々から「神の住む山」とも呼ばれるのもうなずける、圧倒的な存在感を誇る山であった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()が、その雄大な姿は見間違えようがない。

 離れた場所から見ただけだが──遠近感がおかしくなったのかと思うほど大きな山で、横にも縦にもその威圧的な風貌を開けた大地の中に一つ、どっしりと腰を落ち着けている姿が印象的だった。


 とりあえず南へ向けて歩いて行こう。

 そう考えて夜の闇の中を歩いて行く。


 俺の勘では、もうすぐ朝日が昇る時間であるはずだ。

 夜行性の獣もそろそろお帰りの時間だろう──たぶん。


 夜空を流れる雲が音もなく、さ──っと流れて行く。上空の風は相当な速さで流れているのだろう。

 平地にある草原にもたまに強い風が吹き抜けて行く。


 町や村が近くにあるといいんだが……そう思いながら歩き続け、遠くの空がしらみ始めると──俺の生命探知の視野になにかが映った。小さな生き物の青い影だ。

うさぎか」

 数匹の──あまり耳の長くない白い兎がぴょこぴょこと歩いている。

 どういう訳か俺から離れた位置につけ、ぴょこぴょこ、ぴょこぴょこと飛び跳ねながら()()()()()()()()()()のだ。


「おいおい、まさか肉食じゃあないだろうな」

 兎が人を襲ったなどとは聞いた事がないが……

 一応用心している(生命探知には危険な反応はない)と、まばらに生えた樹木の間を通る時に、木の枝の上に黒っぽい毛を持った栗鼠りすが居るのに気づいた。そいつは木にる小さな黄色の木の実をかじっていた。


 木には大量に実が生っていて、地面にはいくつもの木の実が落下している。──だが、それらはすべて食い荒らされた物だった。


 地面近くの枝を曲げて、木の実をむしり取って地面に数十個ほど放り投げておく。

 するとあとをつけていた兎たちが木の実に群がって来た。やはり草食であるらしい──俺はほっとした。


「雑食だったらどうしよう……」

 まあ兎程度の動物に襲われても問題を感じないが。小さな的を正確に斬る練習にはちょうど良いだろう。


 木の上からは黒い栗鼠が恨めしそうにこちらを見下ろしている。

 俺は朝日が差し込んできた草原を歩き続け、周囲に建物などはないかと見渡しながら──だだっ広い草原を歩き続けたのである。


 ──

 ────

 ────────

 ────────────────


 どこまで歩いて行っても草原から草原に続いているだけだ。

 離れた場所に森があるが、それは南にではなく西や東側にあるのだった。

 自分の進んでいる先にも林や丘が見えているが、歩いても歩いても、ぜんぜん辿り着く気配がない。


 別に方向感覚が狂う魔法が掛けられているとか、一定位置を無限(ループ)している訳でもない。

 ただ単純に──この草原が広大なだけだ。

 いやもう、本当に途方もない。


 馬が居たら、その背中を借りたいところだ。

 動物を操る魔法もあったと思うが、俺は持っていない……


 一休みしようと岩陰に身を寄せて座り込む。

 一度ならず、転移魔法を使って異端の魔導師の館──今は俺の館であるが──に戻ろうかと思ったほどだ。

「足が棒になる前に、どこか屋根のある場所に行きたい」

 遠くの空模様も怪しくなってきた。


 背嚢はいのうから食料を取り出して、朝食だかなんだか分からない食事の用意を始める前に、革帯に取り付けた古びた短刀に目が行く。


 いざという時はこれを使って幽世かくりよへ向かうか……? 安易に使うには危険な領域であるのは充分に理解しているつもりだが──

「雨に濡れて長距離を移動するのは危険だ」

 そんな呟きに応えて、離れた場所に居る兎が鳴き声を発した。

「なんだお前、まだついて来てたのか」

 なんでこんなに後をつけて来るのだろうか……俺は考えてみた。


 人を見た事がなく、興味本位で近づいて来ている。

 あるいはこの辺りに住んでいる人が兎に餌を与える為、彼ら()は人間が餌をくれると思い込んでいる。

 そのどちらかだとしても後者ではなさそうだ。


 兎は少なくとも人間を襲ったりはしないだろう。相変わらず生命探知にも安全を示す青色や緑色が映っていた。

 彼らは五匹ほどの群れであとを追って来ていた、他の連中は飽きてどこかへ行ったのだろう。


「やれやれ──食料が尽きたらお前らを食う事になるぞ、それでもいいならついて来い」

 体長二十センチほどの小さな兎だ。食べる部分は少ないだろうが、そこらに生えている雑草を食べるよりはマシだ。


 簡単な食事を取り、残りの食料を確認しておく。大丈夫だ、まだ五日分は余裕である。

 影の倉庫にしまった食料の一部も確認したが──大丈夫そうだ。影の中では時間が流れていないのか、腐敗が進む事もなさそうだ。まだまだ未知の部分が多いので、安易に食料すべてをその中にしまう気にはなれないが。


 食料はともかく問題は水か。

 小川すら見当たらない。


 これだけの草原ならどこかに川が流れているはずだが──今のところ、川も池も発見できていない。

 一番近くに見えている丘に向かってみる事にした。その上から周辺を眺めてみようと考えたのだ。


 あとかたづけをしている時、背嚢に入ったある物を見つけた。


 魔神ヴァルギルディムトから与えられた「伝書()の骨」と、それを復活させる「霊薬」の入った小瓶の二つ。

 ──そうだ、これを使ってブレラの行方について、ブレラの館に居た召し使いたちに報告をしておこう。


 そう思いつくと、魔術の門を開いて伝書鳥に掛けられた魔法を読み解く。幽世をも移動する力を備えた魔力を与えられた鳥。

 その行く先は魔神ヴァルギルディムトの居た、暗い空に覆われた炎がくすぶる大地。そこにある魔神の館に戻るよう設定されていた。

 その設定を変更するのは簡単だったが、この骨の複製を作るのは無理そうだ。少なくとも今の俺には手に負えないだろう。


 特に骨を復活させる霊薬については、さらにお手上げだ。死霊術に関する知識は、まだまだ未熟なのをはっきりと理解した。

 ──しかし、この伝書鳥と霊薬の構成について細かく調べ、それを書き記した物を書斎にしまっておく事にした。

 いつかはこの伝書鳥を、自らの力で生成できるような死霊術の知識や技術を手にする日まで、この資料は保管しておく。


 俺は紙に魔導師ブレラが魔神との契約を反故ほごにして姿を消した事、契約相手の魔神が滅びた事などを簡潔に記し、それを鳥の足の骨に結び付け。伝書鳥を異端の魔導師の館に飛んで行くよう設定すると、霊薬をかけて骨を復活させる。


 骨に肉や皮や羽が生えるかと思いきや、それは小さな骨から──胴体や翼などの骨を生成して鳥の全身骨格を形作ると、地面を蹴って飛び立った。

 小さな鳥はあっと言う間に空高く飛び上がると、北に向かって勢い良く飛び去ったのである。




 丘の方へ向かい始めて一時(約二時間)ほど、やっと丘の手前までやって来た。高さは自分の身長の三倍ほどの高さはあるだろうか、緩やかな斜面と急な斜面の二カ所がある。

 盛り上がった地面には草が生え、場所によっては()()()()と勢い良く伸びた草が生い茂り、進むのも大変そうだ。


 緩やかな斜面を上って頂上から周囲を見回す。

 川はいくつかあるが、自分の進んでいた方向に向かって伸びている小川が、左右にあるのが分かった。かなり離れた場所を流れる物もあり、南側を横切っている大きな川らしき物も見えているが──水量までは分からない。


 深い川だったら大きく遠回りするか、それとも幽世に入って川を越えるか……後者は、幽世の中を移動した距離が現世の距離と一致しているとは限らない事を考えると難しいし、前者は場合によっては無理矢理にでも川を泳いで渡る事になりそうだ。


 さらに周辺を見回して見たが、建物らしき物は見当たらない。

「長い旅になりそうだな」

 俺は南へ向かって斜面を下りながらそう口にする。


 気づけば兎の姿もなく、ときおり生え出ている灌木かんぼくから生る小さな果物を口にしたりしながら、南西側にある小川に近づいて行った。


 小川の水は綺麗で、透き通った水の中を泳ぐてのひらよりも大きな川魚の姿も見えた。小川の周辺には小さな石が大量に転がっていた、雨が降ると結構な量の水が流れるのだろうと思われる。

 砂を被った石の上を歩いていると、川辺近くに綺麗な石があるのを見つけて拾ってみた。


「おっ、青玉サファイアだ。……こっちは翠玉エメラルドか?」

 河原の石には宝石や輝石なども落ちているのだ。大量にある訳ではなかったが、手付かずの小川の側を探して歩いていると、両手一杯の宝石類の原石が見つかったのだった。


「思わぬ幸運に巡り会ったな」

 水晶や孔雀石マラカイト、色彩豊かな蛋白石オパールなども見つかり、それらを皮袋に収めて影の中へしまっておく。

 ──気づいた時にはだいぶ南へ向かって歩き続けていた。


 途中で昼食を取り、川魚を焼いて食べながら、このまま小川に沿って南へ向かうか(若干西よりになる)、南側にある林に向かって行き、そこで一夜を過ごすかを決めなければならない。

 風が吹いてくる方向から、暗い色をした大きな雲が向かって来ているのだ。雨になる前に屋根がある場所か、地面の高くなった場所などに腰を落ち着けたいものだ。


 俺はギリギリまで小川に沿って歩きながら宝石探しを行って、林に向かう道筋を選んだ。

 日が傾いて来る頃に林の全貌が見えてきた。森と言っても差し支えないくらい大きな物だった。

 近づいてみて分かったのは、背の高い木はそれほど多くはなく、多くは十メートルもない樹木ばかりだ。


「旅人の宿木があればいいんだが」

 大きな木のうろの中で座るのもありだが、できれば枝を広げた大振りの木の樹上で横になりたい。

 地べたでは獣からも襲われやすいし(結界で防げるはずだが)、雨の時は尻が濡れてしまう。


 樹林の中を歩いてしばらくすると──それっぽいならの木を見つけた。四メートル程の高さの所から枝が大きく左右に広がって、上の方へと伸びる枝葉に囲まれている樹木だ。


 生命探知で周囲や樹上を確認してから、周辺に動物除け、魔物除けの結界を張る。

 木の枝に縄を投げて枝に引っかけると、それを掴んで上に上る。


 樹上は割と広く、幹の太さはないが──大きく広がる枝のお陰で横になる事はできそうだ。枝と枝の間に縄を結んで、そこに横になるのだ。

 枝を集めて紐で縛り──天然の傘、あるいは屋根を用意する。背嚢を置いて中から布を取り出し、影の倉庫にしまった寝袋も取り出して用意しておく。

「影の倉庫さまさまだ」


 寝床の準備を簡単に済ませると、地面に降り立って玉石と枯れ枝を拾い集める。大きめの石が三つしか見つけられなかったので、地面を掘り返して土の一部を盛り上げて火を囲む炉を作る。

 薪となる枝は大量に発見できた。木陰にあった香草ハーブも摘んでおく。


 火をこし、柄付き鍋(フライパン)を使って料理していると──結界の外側を移動する動物の気配を感じた。生命探知で確認すると、それは大きなねずみに似た生き物であるらしい。

 そいつは低木の葉を揺らしながら通り過ぎて行く。

 樹林に退避して来たのだろう。葉っぱを打つ雨音が聞こえてきた。

 それほど大きな音ではない──小雨だ。


 周囲の警戒をしつつ料理をし、塩漬け燻製肉(ベーコン)や魔女のパンなどを切って焼き、乾酪チーズ胡桃くるみと、薪拾いのついでに入手した香草ハーブなどと一緒に口にする。


 少しだけ葡萄酒ワインを飲んでから馬の毛の歯ブラシを使って歯を磨き、木の上へと登った。


 寝袋を二本の太い枝の間に渡した縄の上に寄りかからせて、横になった時に頭に水が流れてこないようにする為、枝の上部にも縄を巻いておく。

 葉っぱや枝を伝って流れ落ちてきた雨を、縄を縛った所から下に落とすのだ。


 頭や体の上に布を張り、枝葉の屋根と、布の傘を取り付けて雨を防ぐ。

 その下で寝袋に入って横になる。

 今日はかなり大変な一日だった。戦いに次ぐ戦い、その後も一日中──人跡未踏じんせきみとうの地をたった一人で歩き続けたのだ。


 ひたすらに南へ向かう歩み。人の住む建物などはまったく見当たらない場所だ。どこまで行けば人の通る道に出るだろうか。

 まるで見捨てられた土地のように広大な草原がある。


 人を警戒しない兎。

 草木の生える豊かな土壌。

 広大な平地。


 人の手が入り込まないのは何故だ?

 嫌な予感が頭をぎる。

 それらには()()()()()()()()()のではないだろうか。


 うとうとしてきた意識を──魔術の門を開く事で肉体的な疲労から引き離し、俺は魔術的な作業を始める準備に入る。


 まずは手に入れた「死王の魔剣」と「黒曜石の仮面」を調べるところから始めようではないか……

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― 新着の感想 ―
[良い点] ファンタジーとして面白い。 魔術の門の設定は、漫画『ベルセルク』の魔法使いが心の中に用意した神殿に精霊を迎え入れて力を行使する話を思い出した。 魔法使いのエリートくらいになると、精神体や意…
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