エピローグ(モノローグ)
おかしな夢を見ていた。夢だとあとで気づくのだが、遠くの山の陰から日が差し、早朝と思われる、ひんやりとした空気が立ち込める、無人の街中に立っている。自分以外に生きているものはなく、鳥の鳴き声すらしない。
聞こえるのは風の音。風に揺られた雨戸がバタン、バタンと壁にぶつかる音。他はなにも聞こえない──無人の街。この街だけの事ではないのかもしれない。地上からすべての人類は消え去ってしまったのかもしれない。
だが悲しみも恐怖も感じない。むしろすべての憂いから解放されて、自由になった気さえしている。いつから自分は他人の事を必要とはしなくなったのであろうか。それは……そうだ、以前パーティを組んでいた仲間たちといざこざがあり、それからずっと一人でやって来たのだ。
やれない事はなかった。むしろ依頼の報酬を自分一人の物にできるのだ。ギルドから報酬を受け取る度に、冒険で得た戦利品の分配を決める度に争わなくて良い。なんと気楽な事だろう。
しかし、いま居る世界は──何かが違う。
誰とも会話せず、誰とも触れ合わず、無味乾燥な感情を持て余している。誰も居ない世界に段々と不安な気持ちがあふれてくる。
別に仲間などいらない、ただ寂しさを紛らわす他人が欲しいのだ。
そう感じている自分に、今度は別の疑問が湧き出てくる。
いやいや、まあ待て。俺は元々孤独の中に存在し、他人と距離を置いて生きてきたではないか。何故なら多くの人間は邪魔な存在だったからだ。つまらない身の上話や自慢話。身近な人間に関する他愛のない噂話。……そのどれもが俺を苛つかせるだけのものだった。中身のない人間と中身のない会話──、そんなものになんの価値がある?
俺はそれらを捨てて、探索者の道に入ったのではないか。魔法、魔導、神々、そして人間……。自分自身の存在に対する呼びかけの為に、俺は旅と冒険へ乗り出し、ギルドでの仕事もほどほどにして、仲間とも袂を分かった。
上位存在との接触は、むしろ望んでいた好機であったのだ。それを忘れていた。かつて魔導関連の書物を読み漁っていた若き日の自分は、いつか上位存在と出会って、神々や人間について語りたいと考えていたものだ。
それが最近では、上位存在と接点を持つなど夢のまた夢と諦め、日々の生活の中で、あらゆる感情を腐らせてしまっていたのだ。
実際、会おうとして会えるものではないのは理解していた。しかしそれでもなお、冒険の旅に出ていたのは自分の中で、それを目標の一つとしていたからではないか。
仮に人類がいなくなったとしても、上位存在は残るだろう。
──そうだ、自分は今。人の道を外れてでも新たな道の探索、探求への道へと、足を踏み入れたのだ……
第零章を最後まで読んでくれてありがとうございます。
新章『魔導を極めた魔女王』を投稿しました。主人公の(若干哲学的な内容を含む)独白を楽しんでくれる人がいればありがたいですね。
第一章は、多少は読みやすい物になっていると思います。