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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第四章 魔神の依頼と異端の魔導師

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異端の魔導師の秘密と魔法の習得

 二階に上がり自室として使っている客間に戻ると、まずは地下の隠し部屋から持ってきた手記を細かく見直して見る。

 窓硝子(ガラス)の前に置かれた机に手記を置き、椅子に腰を下ろしそれを読み始める。

 手記の中にはブレラに関する重要な秘密が書かれていた。




「私は自らの無意識領域を探索する事で──ある日、その事実を知った。私には()()といったものがあり、その『()()()()』から魔導の道へと進むべく、力の一部を受け継いでいるというのだ。しかも『以前の私』は今の私が魔導へと進むよう、その無意識下に『心理的傾向』を刻み付け、魔導師となるべく操作していたのだという。──心当たりは十二分にあった、むしろ納得してしまったほどだ」




 そんな内容が書かれていた。

 彼が近年の魔導師の中でも突出した知識や能力を持っていた理由の一つが「前世の記憶」にあるのなら、彼は自身の無意識に刻まれた知識や能力を身に付ける事ができたのだろう。

 手記によると潜在的に受け継がれる力はわずかで、前世の記憶などの継承はされていなかったようである。


 そして今回の彼の失踪について示唆しさを与えてくれそうな内容が、最近のページに書かれているのを見つけた。




「私が幽世かくりよの魔導師や魔女の集まる領域に来ていた時の事、そこで奇妙な男と出会った。その男はおそらくは──ただの魔導師や魔法使いなどではなかった、上位存在の類だっただろう。何故そのような存在がそこに来たのかは分からないが、奴は私に黒曜石でできた仮面を渡してきて、こう言った。


『この仮面の封印を解く為には死の力が必要だ。お前が自らの本質とするところを求めるのならば、この仮面の封印を解き、死霊の王としてこの仮面の持ち主を呼び起こし対峙たいじせよ。そうすればお前の定命じょうみょうの者としての定めをくつがえせるやも知れぬ』

 その為には『<不死者の魔神>の力を借りるといい』と、その上位存在は言ったのだ。


 私はその者の言葉を今一つ信用できないと感じたが、確かに黒曜石の仮面には大きな力が秘められており、私の探究心はその仮面の復活を望み始めた。

 私は不死者の魔神との接触を求め、ついに<魔神ヴァルギルディムト>と接触する事ができた。

 館の一角に魔法陣を描いて、異空間への入り口の先に死霊の王を復活させる為の領域と、儀式を執り行う準備をすると私は時間をかけ、死霊の王と対面する事に決めたのである」




 死霊の王……これがグラーシャとラポラースが言っていた危険な存在であろう。

 あの隠し扉の先には異界への入り口があると知ると、それなりの心構えができた。


 さて次に俺は『秘術師の晩餐ばんさん──魂魄こんぱくの消失に関わる肉体と霊体』という書物を手に取る。内容は魔法や魔導を駆使した生物の生命と霊質の解明から、魂を探る研究内容と著者の推論が書かれている物であった。生命反応の消失と同時に魂と言われているものが、どのように消え、あるいはどこに()()があるかを突き止めよう、という研究だったようだ。


 この本では魔法による生命の源と魂の探索は、意味がなかったと結論づけられている。生命探知の魔法は表面上の「事柄」には反応しても、その本質的な部分にはまったく無知なのだ。魔法探査で行う生命に関する調査も、大した収穫は得られないと結論づけられたようだ。

 肉体を維持するのは肉体であり、その肉体に宿る生命については厳密に、これというものは見つからなかったのである。


 魔導の扱う分野は広大で繊細だが、肉体と霊体の区別は一般的な生き物や人間には不可分になっており、魔術師や魔導師などの一部の精神的技術の先進者だけが、()()()()()()()()新たな「霊的身体」というものを獲得する事だけは確かだが、それだけでは死を排除する事はできないと書かれている。


 霊的な身体を保持する事は、この物質界では不可能なのだ。魔力もまた霊体には結び付かず、どちらかというと肉体の方に魔力は依存する事が分かっている。


 ここで著者が提案したのが「魔力の体」を作るという事であるが、魔力のみでは霊体と同じく霧散するのみであり、いずれは消失する事を逃れられない。

 よってこの霊と魔力を混合する新たなからだを作る事に、著者は自らの命と人生を賭けたのだった。


 そこから先は錬金術や魔術といった魔導の技術のあらゆる実験と研究から、彼は「魔魂体」と彼の呼ぶ新たな躰を生成する事に成功した。しかし魔魂体もまた物質界では体を存在させ続けるには不安定だったようだ。


 やがては魔法生命体ホムンクルスの身体の基礎となる魔魂体ではあるが、それのみでは存続させる事は難しい。だがこの魔導師は、幽世でなら魔魂体の維持が可能だという事を発見したのだ。彼は魔魂体に自らの精神や魂を移植する事で、劣化し使い物にならなくなった肉体の代わりに──幽世へ自らを移行する事を提唱していた。




 ……ここまで読んで異端の魔導師が新たな躰を作り、魔神との契約を反故ほごにした可能性について考えてみた。

 その可能性があるとしたら、黒曜石の仮面をブレラに渡したという上位存在が、彼に協力し──世界記憶からも異端の魔導師の行方を消し去った、と考えるのが自然だと思われる。


 書物を流し読みした限りでは、この書物の内容はつまり、魔魂体の創造が不死を獲得する鍵になるかどうか、というところに尽きる。そしてそれは(この書物の中では)結論として、現世の肉体から供給される生命力と呼ばれる力や、魔力の維持なしには不可能であるとされていた。


 幽世で存在するにも魔魂体のみでは、いずれは幽世で霧散むさんしてしまうか、幽世の異空間に取り込まれてしまう可能性が高いらしい。

 幽世の強い魔素の影響が、魔魂体に悪影響を与える可能性を否定できないというのだ。


「しかし」と『秘術師の晩餐』には続けてこう書かれていた。

「冥界と幽世を行き来する存在の『霊核』と呼ばれるものを手に入れられれば、こうした一連の問題も解決するであろう。そうした上位存在の力、あるいはからだ──我々のような死を克服しようと欲する魔導師にとって、大きな叡智えいちを授けてくれる宝物ほうもつである」


 この一文はもしや()()使()()の事を言っているのだろうか? するとつまり「死の結晶」こそが彼らの望む結果を与えてくれる秘宝という訳か。

 まさか異端の魔導師ブレラは死の使いから、その核を奪おうと考えたのだろうか……


 彼は魔魂体を進化させ、魔法生命体のような身体を手に入れて、そこに自らの魂や記憶を移したのだろうか。──俺は書物を置くと部屋を出た。




 客間に入ると隠し扉を開けて地下へと向かう。狭い螺旋らせん階段を下りながら、地下の書斎まで来ると、俺はそこで片っ端から書物を手に取り、神々や魔神などについて書かれている物を探し出し、それらを書棚から出して机の上に置く。


 椅子に座った俺は、それらの物を読む為に意識を集中した。多くは流し読みだが──こうしておけば、一度目を通した物は魔術の門の中で書物として生み出し、「記憶書庫」に保管できるのだ。そこで読む方が実時間の数分の一の時間で読破できるので効率的である。


 そうして丸一日、俺は地下書斎で本を読み続けた。

 さすがに疲労を感じ始めた頃には、書棚の三分の一くらいを読み終えていた。残りは今まで読んだ物を細かく補足する程度の内容の本や、今は必要性を感じないような物が多い。

 すでに読んでいて「記憶書庫」に保管されている書庫も何冊かあった。

 初めて読む本や、今まで読みたいと思っていたが出会う機会のなかった書物が、ここの書棚に置いてあるのを発見すると──俺は小躍りしたものだ。


 異端の魔導師ブレラは様々な魔術や魔法に精通し、錬金術の分野でも深い見識を持っているのだろうとうかがわれた。彼の持っている物の中には、錬金術の象徴図案なども豊富にあり、彼が錬金術に対しても研究熱心だった事が分かる。


 その他にもここには哲学書などもあり、書棚の一角はそうした学術書が置かれていた。魔術や魔法関連の読書の合間に、そうした書物を読んで魔術的な書物から遠ざかり、精神を回復させていたのだろう(一般人には理解できない(分からない)感覚だろうが)。




 地下書斎から出て客間まで戻るとすでに日が落ち、窓からは月明かりが差し込んでいた。

 しまった……ずいぶん長い間、読書に集中してしまったものだ。そういえば空腹を覚えているが──今日はこのまま眠ってしまおう、そう決めると廊下に出る。


 薄暗い廊下には所々に携帯灯の明かりが灯り、その明かりを頼りに寝室まで戻ると、部屋の前にぼうっと立ち尽くしている人影が見え、亡霊でも現れたかと身構えてしまう。

「あ……こんばんわ」

 そう声をかけてきたのは死者の侍女だった。

 彼女は虚ろな表情でドアの前に立ち尽くし、こちらを向くと「食事の用意は……」と小さな声で言う。


「ああ……すまない。今日はもう寝ようと思っている。食事は明日まとめて食べる事にしよう」

 彼女は「そうですか……」と呟くと、暗い廊下を()()()()と歩いて去って行く。

 亡霊のような彼女の後ろ姿を見送り、俺は部屋に入ると背嚢はいのうの中から魔女プリシアが作った強壮薬と水を取り出して、その二つを飲み──寝台ベッドに横になった。


 腹の減りはもう感じない。


 *****


 眠る前に魔術の門を開くと、今日読んだ書物を無意識下で具現化し、記憶書庫の中に一冊一冊くわえていく。

 こうした作業は実に楽しい。

 ここに置くだけでは自分の記憶として残りはしないが──覚醒時にも、この記憶書庫に目を通す事は可能なのだ。それはすなわち、自身の知識が増えているのと似たようなものだ(実時間の思考作業なので効率的ではないが)。


 今日読んだ本の重要な部分については覚えているので、改めてここで本を読み続ける事にした。肉体は睡眠状態にある、体力については問題ない。精神的には多少疲労状態になるかもしれないが──強壮薬が効けば大丈夫だ。


 重要と思われる書物を取り出すと、それを重点的に目を通す。──中には他の書物と同期して読むと、そこに書かれた意味が簡単に理解できたり、重複的に新しい知性として自己の中に確立できるのが実感できた。

 久し振りに充実した知的好奇心の愉楽ゆらくと、精神的拡充の体験をした時間を持てた。

 研鑽練磨けんさんれんまの有意義な時間。

 思索をって自らの意識を拡張していく愉しみと喜びを感じる。新しい発見とはすなわち、己の可能性に新たな道筋を照らす光のようだ。


 魔法や魔術についても、新しい技術を獲得できる準備が整った。魔法陣などを用意して自らの意識の中に、魔法と呪文などを使った術式を組み込めば──また新たな力を手に入れられるだろう。

 この魔術の門の中にある研究室でも新たな魔法は獲得できる。その為の魔法陣を作れるのだ。


 俺は書斎を出ると魔導の研究室に入り、新たな魔術や魔法を獲得する魔法陣を描き出して、その円の中に入り、自らと深遠な魔導の領域との接点を結び付け──新たな魔法を獲得する呪文を唱えながら、その魔法の体系より力を自身の中に迎え入れるのだった。




 かなり短時間で多くを獲得するという無茶をしたので、なにを得たのか訳が分からなくなりそうだ。


 対死霊系攻撃魔法として、「聖櫃せいひつの霊光」という魔法を獲得した。冥界神の娘たちの警告を受け、死に対抗する魔法を第一に覚える事にしたのだ。

 霊的な存在に対する攻撃魔法では他にも「ベレアスのいばら」や「紫紺しこんの闇」などを獲得し、「深淵しんえんの音無き雷」や「影(さそり)の毒針」などの闇魔法も獲得した。

 武器に霊的な存在に対する攻撃力を持たせる「霊呪の銀印」を憶える事もできた。


 変わった物では重圧を与える「暗月の魔力」などを使えるようになり、他にも「炎獄の火柱」や「巨人の腕」や「雷精の守護」などの四属性魔法も憶える事ができたのである。

まさかの主人公以外の登場人物が「転生者」という展開。しかも記憶の引き継ぎとかは無理っぽい……

魔法を習得するレギ──ちょっと鬱陶しいくらいの細かい内容かな。

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