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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第四章 魔神の依頼と異端の魔導師

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異端の魔導師ブレラの館へ

建物の中を探索するお話。

斜め読みで平気かな(苦笑い)。

魔法を覚えたりしながら、魔導師ブレラの痕跡を追いかける話だけど、ミステリとかそんな展開ではありません。

 魔神ヴァルギルディムトに案内され裏庭にやって来ると──彼は、手にしたいくつかの大きな骨を地面に放り投げながら、呪文を唱え始める。

 魔神の呪文の詠唱が終わると、辺りの魔素と瘴気が集まり出した。地面に置かれた骨に暗い霧が集まるみたいに大きな固まりを形作る。

 みしみしと音を立てる暗い紫色の霧かもやの中から白い骨の脚が現れた。それは大きな鉤爪を持つ獣の前足で、霧の中から現れたのは──巨大な鷲の上半身と、獅子の下半身が合体した魔獣「鷲獅子グリフォン」の骸骨が現れた。


「これに乗って行けば、幽世かくりよ()()()()()()()目的地まで移動できます。物質界の──ピアネスという名の国にある森の中に、魔導師ブレラの館があります。館には数々の──()()()()()()()使()()が居ますが、それらを含め建物ごとレギスヴァーティ殿に与えるものとする──召し使いたちには、そう伝える文書を読み上げてください」

 彼はそう言って懐から封筒を取り出し、鷲獅子の骸骨に乗るように言う。


「もちろん理解しているとは思いますが、魔導師の館には様々な罠や隠匿の呪術や技法が掛けられているので──気を付けるように。何日、あるいは何ヶ月、何年かかっても構いません。ある程度の調査が済んだら報告してください」

 魔神ヴァルギルディムトから封筒を受け取ると、彼はさらに小さな骨と赤い液体の入った小瓶を取り出す。


「これは伝書鳥の骨です。これに小瓶の中身をかければ伝書鳥が甦り、手紙を私のところまで運んでくれます。その手紙を受けたその日の内に、魔神ベルニエゥロ様にあなたが仕事を果たした事を伝えましょう。そうすれば、あなたはベルニエゥロ様から報酬を貰えるでしょう」

「分かりました。全力を尽くしてブレラの追跡をし、あなたが納得するだけの情報を手に入れるよう最善を尽くします」

 魔神は俺の返答に満足げに──右側の顔のみで微笑み、何度も頷く。

「どうか、よろしくお願いします」


 魔神はそう言うと、鷲獅子の背骨にまたがった俺を乗せて飛ぶように指示を出す。

 皮膜のない翼を持ち上げると、鷲獅子は地面を蹴って飛び上がり、翼を羽撃はばたかせて空中へと巨体をおどらせる。

 骨の身体を持つ魔獣は空高く舞い上がると、どんどん加速して魔神の屋敷から飛び去って行く。


 暗い夜空をかける鷲獅子の下に焼け野原を彷徨さまよう亡者の姿が見える。──そういえば、この領域を彷徨うろつく亡者どもは何者なのだろうか。不死者の魔神と呼ばれていると言った魔神ヴァルギルディムト。

 彼の姿も異様な男女両性具有を体現していたが──それについてはあまり考えない方がいいだろう、そんな確信がある。


 あの魔神の丁寧な物腰や口調には、表には出さない「なにか」があるのだと思われた。隠しておきたい秘密が彼自身にある為に、言葉や態度で自身の本性を隠している。そんな風に思われるのだ。

 おそらく魔神ベルニエゥロの配下に過ぎなかった彼は、今のあのような姿になる頃には、不死の術法に秀でた力を持つ魔神へと生まれ変わったのだろう。

 それは推測に過ぎないものだったが、言いようのない確信がある。


 彼の左半身がときおり見せる──顔の痙攣けいれんや、表情の小さな変化。

 あの表情が意味するものは──彼女の魂に安らぎがない事を意味しているのではないか。そんな気がしていた。

 魔物から、あるいは人間から──魔神へと変化するという事は、それだけ大きな変容があるのではないか。


 肉体的なものだけでなく──魂が、霊が、心が……その存在の根幹を変質させる。そうした異質な体験を経て、魔神への変容を成し遂げる。そんな風に考えながら、俺は骨の魔獣に連れられて、真っ暗な幽世の断絶の中へと飛び込んだ。


 *****


 魔素の満ちる暗闇から抜けた先は現実の世界。

 冷たく暗い夜の空気の中に突如として突入した俺は、寒さに凍える思いがして身を震わせる。

 もうじき冬になる季節だが、そろそろ厚手の防寒具などを用意しなければならないな。──そんな事を考えながら鷲獅子の背骨にしがみつく。


 現れた場所は、大陸の中央に位置する国ピアネスにある広大な森林のある山近く。

 上空を旋回し、骨鷲獅子は森の中にある広々とした空間に着陸しようとしている。

 森の外にある村らしき物が見えたが──一瞬の事だった。

 骨魔獣は急降下すると、大きく羽撃いて地面へと着陸する。


 するとどうだろう。上空からはただの空き地に見えていた場所に、壁に囲まれた館が現れたのである。

 結界に隠されていたのだ。

 異端の魔導師ブレラがいかにこの場所を隠そうとしていたか、それがはっきりと分かる。おそらくは魔神の目から逃れる為にも大がかりな結界や、小さいが厳重な結界なども用意したに違いない。

 この建物には近年まれに見る天才魔導師が施した、数々の罠や認識疎外(そがい)などの魔術が仕込まれている。


 それを肝に銘じると、俺は建物の周辺を回って中に入る門を探そうとする。

 骨の鷲獅子はどうなるのだろう、自分だけで帰るのだろうか。

 そう思い振り返ると、骨の魔獣はさらさらと灰となって崩れ落ちていくではないか。元々あった骨以外は魔力や魔素で構成された、かりそめの身体だったので、灰すらも残らず──大きな魔獣はあっと言う間にその姿を消し去ったのである。


 俺は気を取り直し、壁の周りを歩いて行き、建物の正面にある門までやって来た。


 建物の周囲には強力な結界が張られ、魔神からも秘匿する目的で張られた術であるようだ。上空からの視認もできないほど大きな規模の認識疎外の結界と、強固な侵入を拒む結界の二重構造だ。

 俺はその結界を魔眼を使用して、なんとか中に侵入する鍵の入手に成功した。気づけば星空だった夜空が、今はうっすらと日の光を受けて、海のように深く暗い蒼い色へと変わっていた。


 格子門には鉄のかんぬきがかかっていたが鍵はなく、閂を動かせば簡単に門を解放する事ができた。──大丈夫、ここに罠はない。

 この建物に入るに当たり、魔眼を使って念入りに探知魔法で調査する事にした。


 庭にあるのは花壇や芝生、植木など。

 林檎の木などもあり、庭の一角にはちょっとした庭園もある。

 雑草などが取り除かれた花壇には薬草や、見た事のない植物の苗などが植えられている。石板が敷かれた通路を通って館に近づく前に、庭の片隅に置かれた大きな石に、転移用の呪印を刻んでおく。こうしておけば、これを目印にして──いつでもここに戻って来れるのだ。


 それともう一つ、背負っていた背嚢はいのうを下ろすと──中から大きな三つの結晶を取り出して、それを影の倉庫にしまい込んだ。この中に入れておけば魔術の門を開いて、そこで研究をおこなう事もできる。




 さて、いよいよ異端の魔導師ブレラの館に侵入する。

 扉には別に罠はない──はずだ。

 ここで引っかかっていては、建物の中で何度も死の危険に晒されるであろう。

 木製のしっかりとした扉を開けて中へ入ろうか、それとも扉を叩いて館に居るという召し使いを呼ぶべきか──俺は少しばかり考えたが、ここは思い切った行動を取るべきだという答えを出す。


 それにしても改めて思う。

 異端の魔導師の残した物を丸々、手に入れられるとは──いや、もちろん魔導師ブレラが自らの研究成果を、そのまま残しているとは限らない訳だが──そう思うと胸が高鳴る。


 大きな木製の扉を開けて屋敷の中へと足を踏み入れると、俺は「魔導師ブレラ」の名を呼んで「あなたの契約者からの使い」としてやって来た旨を説明した。


 し──んと静まり返った屋敷の中に足を踏み入れようと思った矢先に、通路の一つから白い侍女服を着た銀髪の美しい侍女が一人現れた。

 それはよく見ると人間ではなく、()()であるらしかった。かなり精巧に造られた人形であるが、白い侍女服に隠れていない手首の関節が、明らかに可動式人形の()()なのだ。


「お客様、主はただいま不在でございます。お引き取りいただくか、中でお待ちになられますか」

 彼女は水色の宝石の目を開いてそう告げた。発音は女のそれとなにも変わらないが、冷たく、事務的と言うよりは、感情がまったく籠もっていなかった。


「ただいま不在、ではなく──半年以上不在なのでは? ……ともかく上がらせてもらおう。この館の主人と契約関係にある魔神の依頼があるので、好きにさせてもらう」

 俺は懐にしまった封筒を取り出し、その中身に目を通してみた。そこには厳しい調子で書かれた契約違反者への厳格な態度を表す言葉と、魔神ヴァルギルディムトの名が記されていた。


「魔神の言い分によれば『ブレラの不在は一方的な契約関係の破棄、または裏切りであり、彼の財産及び彼自身のすべてをこちらに譲渡したものとみなす』だそうだ。不本意かもしれないが、上位存在に逆らわない方がいい」

 俺は書状の一文を読み上げると、その紙を機械仕掛けの侍女に手渡す。


 彼女は魔法──魔力で動く人形なのだろう。魔導人形や魔法虚兵(ゴーレム)の類は魔導関連の書籍でよく目にする物だが、実物を見た事はほとんどない。

 それにこれほど精巧に造られ──また、言葉を喋る魔導人形など、見るのは初めてだった。


 俺の言葉に侍女の姿をした動く人形は目を閉じ、考え事をしているように見えたが「ではこちらへ」と、ついて来るように言う。


 彼女の後ろについて歩いて行くと、二階にある一つの部屋に通された。そこは客の使う寝室らしい。かなり広い部屋の中に寝台ベッドやテーブル、机や戸棚などもある。


「この部屋をご自由にお使いください。お食事は一日に三度、ご用意いたします」

 そう言って頭を下げて通路へ向かおうとした侍女人形を呼び止める。彼女から魔導師ブレラの事を尋ねたが、彼女も主が突然いなくなったという事しか認識していないらしい。


 主が帰って来るまで、屋敷の管理は各係の者たちが継続して行っているとも告げた。彼女以外にも、もちろん多くの者が活動しているのだろう。俺は、ここのすべてを自由に使う許可を貰っている、と告げると彼女は「かしこまりました」と銀色の頭を下げて去って行った。




 背嚢と腰から下げた魔剣を置き、机の前にあった椅子に座りながら窓の外を見る。遠くに続く自然の景色があるだけだ。一番近くの町や村へ行くにも、かなり歩き続けなければならない場所に建っているのだと改めて思う。

 窓硝子(ガラス)越しに景色を眺めながら──この館の主の所在について考えてみる。


 魔神に発見できないという事は、少なくともここ物質界には居ないし、また物質界で死亡してもいないだろう。もし死亡していたらその魂は契約の効力が働いて、魔導師ブレラの魂は魔神のものとなっていたはずである。

 だが幽世ならばどうだろうか? もし幽世異質な空間の中に、契約を無効化するような場所が存在したなら──いや、それは飛躍し過ぎた想像か。


 だが幽世でならば、魔神に気づかれる事なく契約を破ってしまえるような、そんな手立てを編み出す事が可能になるかもしれない。


 この館から幽世への隠された入り口を発見できれば、それが正解への第一歩になるだろうが──自らの足跡を残したまま幽世に移動していれば、魔神に発見されるはずである。


 ゆえにもう一つの可能性、契約相手以外の魔神などの上位存在によって、拉致らちされたという可能性が濃くなる訳だ。


 俺の見立てと、魔神ヴァルギルディムト自身の告白によると──あの魔神は通常の魔術にはうとく、魔神の等級の中でも下級に位置する存在だと思われる。中級以上の魔神によってブレラが誘拐、あるいは二重の契約を他の魔神と結んだ、という可能性も考えられた。


 まずは屋敷内の調査をし、侵入者用の罠を解除しながら──どの辺りが重点的に守られているかを探るべきだと結論づけ部屋を出る。


 活動している魔導師ブレラの召し使いたちにも話しを聞いてみようと考え、まずは屋敷の調査を開始した。

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