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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第四章 魔神の依頼と異端の魔導師

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イラ湖に向かう途中の様々な思索

第四章「魔神の依頼と異端の魔導師」開幕。


またしてもレギの過去の一部についてと、よくわからん人名が……サバランもびっくりの美食家ですね(汗)

 満月になる日の午後に宿屋を出て、ブレアノスの街の東にある湖──「イラ湖」を目指す事にし、この日の午前中は休憩に当てた。

 体力的にも精神的にも充分に安定していたが、念には念を入れて疲労が残らぬように考えての休憩だ。


 体調を確認した時にはっきりと知ったのだが、死の結晶を取り込んだ作用が、肉体的な影響を与えている事も分かった。まるでその宿()()()()()()()()()、肉体を強化しているのだ。


 体力の上昇や回復力の向上など以外にも、筋力や精神的な部分にも影響している。──特に瞬発力や、周囲への無意識的な警戒や反応などが向上し、死に対する回避能力が増大したみたいだった。


 そんな自身の肉体に新しい発見をしたあとで、俺は道具屋や雑貨屋で夜営用の道具や保存食などを買いに行った。

 錬金術で使用する素材も買っておく。


 錬金術はまだまだ初期段階のものしか使えないが……簡単な回復薬などなら作れる。……これでは錬金術ではなく、薬師くすしの調合だな。

 錬金術に関しては今後の課題だろう。錬金術で作れる魔導具を見たが、それらを自分の手で作れれば──冒険や旅が楽になる。


 影の魔術の──「()()()()」を使えるようになったので、多くの物を持ち運べるようになったのだ。これを有効に使うべきだろう。


 買い物で気分転換をしたあとは小さな庭園があったので、そこの長椅子に腰かけて空を見上げたりしながら──妖人や魔物相手の対応策を考えていた。

 プリシアが言っていたように、魔法反射を有効に使おうと思う。冒険者になってからは、あまり実戦で魔法反射を使った事はないが……感覚は覚えている、大丈夫だ。


 離れた場所に、犬を連れた女の子数名が居る。

 どういった家庭の子なのだろうか、裕福な家庭の子供だというのは分かるが、あまり貴族的ではない感じの三人……商人の娘とかか?

 犬を飼うなど、貴族の中でも()()()()()()()()()()()だと思っていたが。──子供の情操教育に良いという奴か? どこかでそんな文化が広まりつつあると、学生時代に耳にした事があったが……まあいい。


 家畜を飼うのとどのような違いがあるのか、俺には今一つ理解できない。いや待て、そうだ──子供の頃に、白いねずみを飼った事がある。

 小さな子鼠だ。

 貧乏貴族の俺が、親や兄弟に隠れて飼っていた白い鼠。

 だがある日、そいつは小さな木箱で作った籠の中から逃げ出して、近所の野良猫に食われてしまったのだ。


 思えば弱肉強食というものをまざまざと知ったのは、あの瞬間かもしれない。

 そして愚かな動物的思考で籠の中から逃げ出したところで、力が無ければ生き残れぬのだという事を知ったのも、あの鼠のお陰とも言える。


 なるほど、社会的、知的な発達をうながすのにちょうど良いのは、()()()()()()()()という訳だな。

 俺は情操教育についての認識を改める事にした。

 それは確かに必要であり、有意義な教育だろう。


 そう、()()()()()


 なにも知らずに生きている限り、我々は上位存在を認識すらせず、ただ漫然と生きているだけ。籠の中の鼠に等しい。

 力もなく、考えもなければ、彼らにあらがう事もできずに捕食されるだけ。

 籠を出た瞬間に、運命は決定されるかもしれない。


 俺は鼠に甘んじたりはしない。

 例え鼠のままであったとしても、俺はその牙で猫の喉を食い破り、噛みちぎり、猫の肉を食って生き抜く──そんな鼠になる。

 それを目指さなければ、俺の存在の本質が失われてしまう。弱者でも良い、いつか必ず力を付けて、相手を打倒できる存在になるのだ。


 一歩一歩を油断無く進み、一段一段を確実に上って行く。

 それがレギスヴァーティという存在なのだ。


 その為にはあざむき、時に正面から激しくぶつかって行くだろう。

 小さな己を守る為に、最善の手を模索し続ける小さな獣。

 やがて全身を覆うその毛は──刃のように鋭く尖った、危険な武器へと変わるだろう。


 俺はここ数ヶ月で、確実にそれを身に付け始めている。

 危害を加えてくる者をズタズタに引き裂く──棘や牙を持った、危険な獣へと……


 *****


 日が沈む前にイラ湖を目指して街を出た。

 一人旅で、しかも徒歩だが──フィエジアでは珍しくはなかったようだ。街を守る門番も、それほど不思議がる様子を見せなかったのである。

 治安は悪くないとは思っていたが、なかなかに気の緩みが激しい国民性があるのかもしれない。

 レファルタ教が浸透しつつあるというのもうなずける。


 街道はわだちもしっかりと残る踏み固められた黄土色の道が、どこまでも続いていた。草木の生える野原の中を通過し、時に大きな岩を迂回うかいする道が、緩やかに曲線を描く。


 虫の音が辺りの草むらから聞こえ、それらを捕らえる小さな鳥の群れが草むらに襲いかかる。

 パタパタと羽を広げて飛び立つ飛蝗ばった

 それを捕らえる小さな鳥。

 緑色の羽を持つ、綺麗な鳥だ。


 離れた所を歩く俺を警戒し、大きな葉っぱに掴まったまま、こちらを()()()()と確認しつつ、くわえた虫を飲み込んでいく。


 こうした光景を見ると、いつも思うのだ。

 なぜ人間は料理をして食事を食うのかと。

 食中毒の危険があるから火を通す。

 味が物足らないからと塩を使う。

 人間はなんと──欲が、業が深い生き物なのか。


 自然を自然のままでは口にできぬほど、傲慢ごうまん脆弱ぜいじゃく

 鳥や獣を家畜として飼い慣らし、その卵や肉を食う獣。それが人間だ。


 不味まずければ不味いと文句を言い、食材になったものに感謝など感じない。そんな人間ばかりだ。

 自分が食われる番が来たら、彼らは何と言うのだろう?


「だからこそ彼らには宗教が必要なのだ」

 そうだ、異端の魔導師ブレラ。あなたは正しい。


 品性のない、あるいは知性のない彼らにとって、知性(それ)を身に付けたと()()させるには、()()()()()()()()()()()なのだ。


 だから俺はえて言う。

 俺は小さな獣だと。


 俺はそれを()()()()()、そこから獣以上の獣へと変化する。

 知性も品性も、獣の中で昇華しょうかしてやればいい。

 誰かにお仕着せられた知性や品位など、俺はいらない。それらは俺が独自なものとして自らの中で構築してやる。


 俺の価値観はあらゆるものを見極めた先に得られるものだ。

 多くの者は、今ある自分が完全だとでも言うように変化を嫌う。それは小さな自分を守りたいだけだ。──小さな巣箱の中で。


 俺は常に変容し、形を変えつつ、根幹にある部分は変わらない。

 それこそが小さな獣たる俺なのだ。




 日が傾き始めた。遠くにあった森が迫って来ている。

 山の姿もだいぶ近くに見えてきた。ここから少し北にある小さな丘のような山、あの近くに湖があるはずだ。

 林や森が湖の近くにあり、草原から続く道がその湖まで伸びている。

 イラ湖に辿り着いた時には、ちょうど日が山脈の陰に姿を消したところだった。


 俺は湖に近づく前に、離れた場所にある岩場でき火をして、暖かい食事を軽く取った。

 食べる事は喜びだ。

 獣も人間もその点は変わらないだろう。

 しかし人間は命を長らえる以上の「意味」を食事に与え、食べ物を味わう事に魅力を感じるようになっているのだ。


「私たちは快楽を追い求める獣である」

 ある国のお抱え料理人が残した手記に書かれていた言葉だという。調理法レシピが書かれているかと思いきや、とんだ信仰告白が出てきたものだ。


 その言葉について触れているのは、自分を「希代の美食家」と呼んでいた「()()パーサッシャ」である。


 彼自身も大変な料理好きだったようで、数々の料理をその自伝で公開していたほどだ。

 変人と呼ばれるほどに、食べ物について異常なほどの執念を燃やしていた彼は、その()()に「悪魔に魂を売った」などと言われる死に方をした事でも知られている。


 人間の狂気について、彼の「美食」が槍玉として挙げられるのは──彼のした事が、あまりに常軌じょうきいっした行為だったからだ。


 なんと、愛人に産ませた赤子を「調()()」し、それを食べたのだ。

 彼はその数日後に自らの屋敷の一室で首を吊って死んでいたのだが、どういう訳か内臓のほとんどが無くなっていた状態で発見され、明らかに他殺だったが、彼を殺害した痕跡こんせきが見つからなかったらしい。

 愛人や彼の妻には、明確な現場不在証明アリバイがあり、その人間関係にもおかしな点はなかったという。


 この不可思議な話は結局、犯人が誰だったのか分からぬまま、気味の悪い話として語り継がれている。


 内臓も血の跡も残さずに、屋敷から消え去るなど……魔物の仕業としか考えられない、という意味で「悪魔に魂を売った」と言われたのだろうが。──俺のような魔導に通じる者からすると、それは幽世かくりよでなら可能な気がする。


 幽世に引きずり込んで血肉を喰らい、残った死体を元の世界で自殺したように見せかける、そんな手口だったのではないだろうか。もちろん推測に過ぎないし、仮にそうだったとしたら、犯人を突き止める事は不可能だろう。


 パーサッシャが悪魔に魂を売っていたかはともかく、それに類するなにかから目を付けられていた可能性は否定できない。


 いずれにしても人間の──それも自分と血の繋がった──赤子を食べるという、その常軌を逸した美食の追求は、彼の評判を地に落とす結果となったようだ。

 国によっては彼の著書は──発禁、または禁書として焼かれたりしているそうだ。


 俺は彼の料理と美食にかける情熱は買うし、彼の書いた伝記に載っている料理については、害はないと思うのだが(大変手の込んだ料理だが)。




 そんな事を食後に考えていると、辺りは真っ暗闇に包まれた。

 近くの林や草むらから虫の音が、「リ─リ─リ─」「リュイリュイリュイ」と聞こえてくる。


「そろそろか」

 上空には、金色に輝く満月が上っている。

 俺は焚き火の火を消し、改めて覚悟を決める。──戦いになるかもしれない。

 その覚悟は持って進む。

 危険は覚悟の上だ。


 これから進む場所は魔神の領域。

うつろの塔」なのである。

今回の話には、レギが若い頃から変わった思考を抱く、そのきっかけになったようなものが書かれていると思います。ペットについてや、情操教育についての考えなど……自分自身を含めて、客観的に物事を見る視野を若い頃から得ていたんでしょう。

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― 新着の感想 ―
まだ読み始めたばかりだけれど、面白いです!!
[一言] 読んでいて楽しく、極めて続話が楽しみなこの物語に出会えた幸運とこの物語を綴っている作者様に感謝。
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