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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第三章 幻夢界の幽鬼

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魔神からの助力と過去の記録

神々の争いらしい事柄については書くかどうか未定。魔神の過去については書く予定。


サークレットを日本語で「冠輪」と表記してみました。普通に「冠」と訳す事が多いようですが、クラウンと分けたかったので。何かいい日本語訳を知っていたら情報お待ちしています。

 どれくらい眠ったか分からないが──体調は悪くない。狙い通りに強壮薬の効果が睡眠中の回復効果を高めてくれた。窓の外は薄暗いが、まだ幻夢界に入り込んではいない様子だ。

 俺は背嚢はいのうを背負うと部屋を出て、薄暗い廊下を歩き──宿の外へ出た。町の外へ移動した方がいいだろうと判断し、町の門へ向かう。


 大きな門は閉まっていたが番兵の姿はなく、大きな門扉もんぴの横に設置された小さな扉を開いて町を出る。──肌を撫でる風は冷たく、暗い夜の中は死の予感に満ちていた。


 俺は東に向かって街道を進む事にし、月明かりの中を東へ向けて歩き出す。次の目的地「虚ろの塔」が近くにあるブレアノスの街に向かうのだ。それは幽世かくりよの中にある魔神の拠点なのだろう。まだ見ぬ恐るべき魔神の姿を想像しつつ──夜の闇の中を歩き続ける。


 ときおり風が音を立てて吹き抜け、近くの灌木かんぼくや草木を撫でて行く。

 松明たいまつを使ってもいいが、幸いにして月明かりが強く──魔眼の力もあるので、今よりも暗くなっても問題なく行動できる。


 そろそろ幻夢界へと引きずり込まれる頃だろうか──そんな風に考えていると、道の先に漆黒のよどみが集まり出す。

 それは闇の中でもなお暗い、闇の中に涌き出した影であった。


 俺は魔剣の柄に手をかけ、黒い影の中から人影が立ち上がるのを見ると──武器から手を放す。

 影の中から現れたのはエンファマーユで、彼女は青い法服ローブと銀の冠輪サークレットを身に着けている。


「お待たせ、ラウヴァレアシュ様の協力を取り付けたわ。……と言っても、魔神が幻夢界の中で力を奮う訳にはいかないので──代わりの品をあなたに貸し与えるそうよ」

 そう言って彼女はいびつな形の黒い短剣──いや、折れた金属片のような黒い剣を取り出した。


「なんだ、それは?」

「これは、かつて神々との戦いで巨人『ボルキュス』が使用していた()()()()だそうよ。それに柄を取り付けて、短剣の形に加工したらしいわ」

 俺はその黒い刃の短剣を受け取り、片刃の短剣をまじまじと確認する。分厚い刃の反対側──背の部分は折れ、欠けた状態のままであり、刃の部分が一直線に伸びているのとは違って──背の部分はギザギザで、柄近くの根本の部分が太くなっており、正に折れたままの剣の刃の部分を加工したのが窺い知れる。


「その刃は、神々のからだに傷を負わせる事もできる力を秘めているわ。私た──人間にとっては、神代の遺物といったところね」

 彼女が言い直したのは、自分が人間であった頃の記憶を忘れたい、忘れなければならない──という意味に受け取れた。エンファマーユがどのようにして魔神ラウヴァレアシュの配下となったのか、聞いてみたい気もするが……今は止めておこう。


 黒い厚みのある金属を魔法で調査してみたが、詳しい事は分からなかった。奇妙な事だがこの剣は実在しているのに、その実体が曖昧あいまいなのだ。

 ただ、この剣は──俺の持つ魔剣以上に厄介な代物である事は明白だった。神をも殺す武器になり得る──エンファマーユは、この剣を受け取った時に、人間の手にこれが渡る事をとがめなかったのだろうか?


 エンファマーユにとっても、この剣は──自らの身を危ぶませる力を持っていると気づいたはずだ。

 と言うよりも、この強力な魔剣──あるいは神剣を手にした時に、自らの魔導師としての欲求から、この剣を自分の物にしてしまおうと企み、魔神へ返却しないという事も考えられる。


 ……仮に俺が死の使いを倒し、なおかつこの剣を我が物にしようと企んだところで、おそらくは魔神ラウヴァレアシュが俺を殺しに使いを寄越よこすだろう。

 そんな危ない橋は渡るべきではない。どんなに大きな富が得られるとしても──すぐにその夢から覚め、無惨な死を迎える羽目になる行動を取るべきではない。一時の欲望の為に破滅を招くのは愚か者のする事である。


「死の使いをも滅ぼす神代の魔剣か、これは強力な武器を貸し与えてくれたものだな」

 俺はエンファマーユから白い布を受け取り、それを魔剣の刃の部分に巻き付ける。これで魔剣の力を隠し、外部に悟られぬよう工夫しているのだと彼女は語る。


「ラウヴァレアシュ──様は、あなたの才能を高く買っているようね。理由は分からないけど。せいぜいあの方の期待に応えるよう気をつけなさい。飽きられて捨てられないとも限らないでしょう?」

 それはそうだなと彼女の意見に賛同し、神代の時代について知っている事はあるかと尋ねる。


「あなたも魔導師の端くれなら、過去の記録が欠落している事を知っているでしょう。それがわた──()()()()()()()()()()()()()()()()が起こったのではないかと一部の研究者から言われている訳だけれど」

「それだけではない。無意識領域の探査範囲においても、我々魔導師が入り込めるはずの記憶領域が失われているのだから──上位存在が手を加えて、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは明白だ」

 俺たちは東へ向かって歩きながら、過去の記録についての情報を交換し合った。




 高度な魔導師になるほど、無意識領域に保存された、──わば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()──広大無辺な図書館のような領域に接続し、そこから知識を得る作業にのめり込む。


 この無意識領域の探索は、()()()()()()()()()()()()()()のを利用した活動であり、多くの術者は──他の魔導師の無意識領域に侵入し、相手の持つ知識や技術を奪ったりするが、もちろん対抗策を練っているので、下手をすると自らの野心によって滅びの道を辿るのである。




 俺は苦心して、深い──歴史的事象の記憶領域に接続しようと試みた事がある。そこまで深く潜ると、個別(個人)の案件に迫るのは不可能に近いが。俺はその時に古代の知識の断片でも入手できないかと考えて、無理を承知で危険を冒し、その無意識領域に侵入したのだが──そこは断片どころか、無窮むきゅうの闇が広がる断絶を感じたのだ。

 意図的にその溝が創られ、我々人間が踏み込めないようにと、上位存在の力が働いているのは明らかだった。


「あなたも古代の叡智に接続しようとした訳ね」

 エンファマーユは肩をすくめる。

「そう、古代に起きた事柄は──魔導師の力では調査しようがないほどに、人間の無意識領域と断絶してしまっている。人間の歴史の範囲なのにもかかわらず、明らかに手を加えて人間には隠されているわ」

 それは魔神の配下になった彼女にも越えられない溝であるらしい。もし、あの虚無の中に意識体が落ちれば──当然、術者の存在は消失し、二度と元には戻れない。(それは魔導の学問的には「存在の亡失」と考えられている──無意識に飲み込まれた「個我」が溶け込み、融和してしまうと言うのだ)


「神々にとって、なにか都合の悪い事実が、そこには記録されているのでしょうね」

 彼女は俺の考えを口のする。まったくその通りだ、でなければ説明が付かない。


「おっと、今は歴史的な事よりも、これから起こる死の使いとの戦いに備えるべきだな」

 そう言うと、俺は周辺を見回しながら、完全に幽鬼の領域に取り込まれる前に、自分たちの力の根源に近い場所──つまり物質界──側で戦えるよう結界で周辺を包み込む事を提案する。


「それについては大丈夫よ。私の持つ『四界の霊域』で作った結界をすぐに展開できるわ」

 ……それでは俺の用意した結界は無駄になったという訳だ。まあ、ここは彼女の実力を信じる方が賢明だろう。俺の張る結界は今まで──おもに冒険先での野営で、外敵から身を守る為の手段くらいしか講じてこなかったのだから。


 これからは魔神を相手にする為の、高度な結界についても考えていかなければならないだろう。

 彼女の持つ「四界の霊域」とは、結界内に四大属性の力を高める効果を付与した領域を作り、自分の魔法の効果を上げるが、敵対する者の魔法の効果を下げるという、特殊な結界であるそうだ。彼女の協力を得てその技術を学び取りたいところだが──奥手そうな彼女相手では、魔女の房中術を使用するのは難しそうではある。




 そんなやましい事を考えつつ歩き続けていると、俺の持つ黒宝玉が奇怪な音を立て始める。

 ギシギシ、ギュラギュラ、ドウンドウン、そんな音が頭の中に響いてくる。聴覚を通り越して──頭の中に響いてくるそれは……災いを運ぶ鼓動。

 破滅をもたらす力が現出する。


 俺とエンファマーユは街道を外れた先にある岩場に近づいて行く──


 そこで彼女は四界の霊域を構築する。緑色や青色、朱色や白色の炎が地面に広がる。それは火の姿をした魔法の顕現けんげん

 立ち現れた魔法の火が走り抜ける。結界を作り出す魔法の火が周辺に広がると──その結界の中に、石の柱や壁が生え出てくる。まるで地面から芽を出す草木のように。


 暗闇の中に構築された結界の中にそれは次々に現れた。灰色のそれらが建ち並ぶと──そこは、幽鬼の領域とは違う──失われた遺跡の様相を呈する場所に生まれ変わるのだった……

無意識領域の人類の記録は「アーカーシャ(年代記)」といったものを想定。

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