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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第三章 幻夢界の幽鬼

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死と古代帝国の魔導

だいぶ乱雑な内容になってしまった……いくつかの魔法に関することや、古代帝国のことなど以外は読み飛ばしても大丈夫だと思います(笑)

 俺は宿屋の部屋に戻ると、死を遠ざける魔術の首飾りを首に付けたまま寝台に横になり、魔術の門を開いて再び作業に入る。

 首飾りの効力を確認すると、確かに呪術的な効果が発生しており、光とも闇とも結び付かない不可思議な力──死を、完全でなくとも退ける効果がある事が判った。


 死の魔法は、闇に属する魔法の中に含まれているが、呪術の体系によると、一概に闇との関連を結び付ける事はできないとされている。

 魔術(呪術や巫術ふじゅつ)などが、魔法と一緒くたにできない理由がこういった点にもあるのだ。

 生命の謎は、その起源に由来するものだと考えられるが──未だに、その答えを導き出せた魔導師は居ない。


 ……よそう。この問題に石を投げると、余計な波紋が広がって意識が集中できなくなる。難解な事柄に真剣に取り組むのは楽しいが、今じゃない。──第一これから俺は、その死と対面する事になるかもしれないのである。

 それが死の領域内での通常とは違った死を迎える事であっても、俺の今までの人生を根底から否定する終焉しゅうえんが待ち構えているのだ──敗北すれば。


 ゆえに、俺は勝利しなければならない。不条理なる死を受け入れるなど、断じて容認する気はない。

 仮に冥府を支配する冥界の神が死の使いを寄越よこし、お前の魂を渡せと要求して来たとしても、命と魂と意思を持つ者として、それを受け入れる訳にはいかないのだ。


 個人の意識とは、自我とは、上位存在だからとか、下位存在だからとかで、簡単に割り切れるものではないのである。勝ち目のない敵である上位存在に「渡せ」と言われたからといって、簡単に手放せるものでは決してない。


 それは昨日俺が殺した、害虫のごとき存在でしかないあの男たちですらもそうなのだ。

 自己を持つ者として、決して自分自身を放棄する事など、いかなる権限を持つ存在であっても許してはならない。


 正に自我とは──そうした()()()()()によって初めて、自らの意識足り得るのである。そしてそれは、自らの意識であるが故に、決して代わりのない、唯一無二の()()()()()()となるのだ。


 だから俺は、昨日の害虫が短剣の一撃を免れて戦う意志を示したとしても腹を立てたりはしない。どんなに下らない存在でも、自らの生きる意志を主張するものなのだ。そこに貴賎きせんなどない。

 どんなちっぽけな生き物でも、格上の相手だからと抵抗せずに黙って食い殺されるだろうか?

 全力で逃げ、時には反撃し、なんとしても生きようともがくのではないか?


 もちろん潔く己の死を受け入れるのが──高潔な精神に相応しい場合もある。


 それこそ、人の意思の成せる業であろう。自らの終結を──自らの意志で決める。

 覚悟を以って望み、最後まで戦い抜くも良し。

 もはやこれまでと観念し、自らの生殺与奪せいさつよだつを他人に任せるも自由であろう。


 ()()()()()()()()()()。そういう()()()()が、()()()()()()()()()()()()()()のかもしれない。

 だからこそ俺は、全力で死の使いと戦う事を選択する。──逃げる事も可能だろう。それでもこの機会に一度、正面から「死」というものに立ち向かって、己の命の価値というものを確かめたいのだ。


 魔導の道にとって「死」とは、探究すべき大きな主題テーマでもある。これを避けて通る事はできない。


 その「死」を体現する者、冥界の名も無き神(名前を呼ぶのは危険だとされている)の使いが現れたのだ。これに挑戦し勝利を収める。──そういった大望を抱いてこの戦いに臨む。


 今の俺には(あまり期待はできないが)魔神の加護もある。簡単に敗北する理由はない。俺は空を飛ぶ事もできずに、親鳥から餌を与えられるだけのひなではない。何が危険で、どうすれば危険を回避できるかを知っている。

 そしてこの危険は、魔導においては必ずぶち当たる壁なのだ。今までだって何度も経験してきたものでもある。戦い、勝てないと判断がついたなら、その場を逃げる手段を講じればいい。戦う時も逃げる時も、それ相応の手段を持っている事が重要だ。行き当たりばったりでは、いつ命を落としても文句は言えない。愚か者だった己を呪うだけだ。


 知識とは力、知恵とは力、思考とはそれらを束ねる力。

 (これら)を駆使して武器を創り、守りを固め、敵対する者を排除する。やるべき事はそれだけだ。


「光輝の封陣」以外にも広範囲の領域を、己の魔法や魔術の使用を制限しない結界で覆う事が必要だろう。

 正直言って俺の苦手な分野だが(どちらかと言うと結界を破る方が得意だ)、死の使いを相手に、己の全力を出し切れない幽鬼の領域で戦うのは自殺行為に等しい。


 せめて標準的な無属性魔法で己の身体能力を強化したり、魔法に対する防御力を上げる魔法障壁くらいは張りたいものだ。

 死の使いの力を制限する結界があればそれを使用したいところだが、生憎あいにくとそのような都合の良いものはない。長い魔導の歴史においても、死の領域に関する技術は──それほど多くはない。


 死の使いを倒し、その霊的な存在のり方などを調べられれば、そうした対策も構築できるだろうが、今まで触れてきた書物や魔導技術の先達せんだつからも、そうした技術について見聞きした事はなかった。


『死の奥義は、我々の知性や倫理は、まったく無価値で許容され得ない、異なる理の中にある』


 そう書かれていた一文を思い出す。

 要するに、人の埒外らちがいの力なのだ。


 だが大昔の、太古の石板から解読された魔術の研究が進むと、いくつかの「死」を扱う魔術が明らかにされた。

 この知識に触れた、上層に位置する魔導師らは、この「死の魔術」に関する知識を隠そうとしたが──数名の魔導師らによってその知識は持ち去られ、紛失したらしい。


 ──おそらくだが、石板を持ち去った魔導師らは殺害され、石板はその魔導師らが隠した為に発見されなかったのだろう、というのが通説だ。




 古代の叡知えいちについては正確な情報が得られない。「アドリュラメント」だの「ハドラレウメント」だの言う帝国があり、その帝国を支配していたのが「女帝」だったというのは間違いないらしいが。


 この帝国魔導技術に触れられれば、あるいは「死」に関する対抗策も判明するのかもしれない。──この強大な魔法や魔術の技術を持っていたとされる古代帝国が、なぜ滅びたかのかも不明なのだが……神々とも近かった神代の時代の事柄は、現代においても最も大きな謎の一つである。


 さて俺は、そんな事も考えたりしながら、幽鬼の領域の影響を退ける結界を張る技術の開発に取り組んでいた。あの領域の影響を受けた、魔術の門を開ける者だからこそできる事だった。

 魔術の門は無意識領域を(危険だが)探索し、調査する事もできるのだ。これを利用して、自分が受けた攻撃や呪いを判別して、対抗策を練る事が可能なのである。


 ……現在の俺の技術では、それほど広範囲を防護できる訳ではないが──充分だろう。

 その結界を張る為の触媒しょくばいを作り上げ、その他の魔法や魔具の準備にもしっかりと取り組む。一か八かの戦いに臨むのだ、出し惜しみはしない。


 女神官から獲得した神聖魔法を研究し、神官が扱う基本的な魔法については学習できた。しかし──初級から中級程度の範囲だろう。

 基礎的な神聖魔法の性質や構成については理解した。ここからさらに研究を進め、残された時間の中で死の使いに対抗する魔法の強化に努めた。


 だが、女神官が使用していた物をそのまま修得し、新たな魔法を覚えるまでにはいかなかったのだ。新しい魔法の習得に必要な魔法陣の準備などができていないし、そもそも神聖魔法を扱う技術(能力)を成長させないと、新しい魔法を習得する段階にも入れないのだ。


 その点、魔女の房中術や魂魄こんぱく学習で得た力は、そのまま扱う事ができる。自らの魔法技術体系の中に組み込む事で、という補足が入るが──見習い魔法使いでもない限り、それくらいの事は意識的にできるはずである。


 そう言えば──霊的な攻撃魔法に該当する魔法に「新月光の刃」も入っているのだ。この魔法は相手が魔法を使おうとしている所へぶつけてやると、しばらくの間は使おうとしていた魔法を扱う事ができなくなる──という、変わった特性も有している。対抗魔法としての効果が高い。今の段階で一番強力な魔法は、闇の攻撃魔法であろう。魔神ラウヴァレアシュから与えられた魔法だ。


 闇属性の魔法は、物質の破壊よりも精神体、霊体などといった、物質よりも高度な次元のからだを破壊する為の力、と考えた方が良さそうだ。光属性も霊的な力に関係する魔法があるが、攻撃系統の魔法は多くはない。──俺の知る限りの知識では、という意味でだが。


 ともかく全力で死の使いに対抗する方策を練り、夜が近くなると決戦の支度を始め、強壮薬を飲んで寝台の上に横になった。

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