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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第二章 魔狩りと妖人

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現れた強大なる力

 なんとかその一撃を後方に跳んでかわしたが、額を切りつけられてしまった。右目の上辺りを斬られ、その流れる血が右目に入り、片目で戦わなくてはならなくなる。

 斬られた傷口が焼けるような痛みを訴える。派手に流れる血を指先に付け、俺は呪文の詠唱を始めた。


「魔術師の血を以って我は呼び掛ける。古き理の神霊よ、我に力を貸し与えよ!『断罪の霊刃』!」


 中空に浮く相手に向かって指先を振り、血から──鈍い深紅の光を放つ魔法の刃を作り出し、それを撃ち出して攻撃する。

 白く輝く白銀の鎧に向かって赤い霊的刃が飛ぶと「天幕の守護者」は、それを小さな盾で受け止めて防ぐ。


 さすがに霊的攻撃に対して──呪文を唱える事で、魔法の効果を弱める結界内でも威力を底上げした攻撃に──無防備に突っ込んで来るような真似はしない。──予想通りだ。いかに上位存在とはいえ、霊的攻撃に対しては無傷という訳にはいかないのだろう。


 しかし、それが光の者であれ、闇の者であれ、多くの上位存在に対して、人間の使用する魔法は、ほとんど彼らには通用しないと考えられている。物質界に現れる事自体が少ない上位存在だが、彼らの力を研究する事が、昔からの魔術や魔法の基礎研究なのだ。

 霊的な攻撃魔法の多くは、彼ら上位存在に対する──魔法使いの、ささやかな対抗手段として編み出されたものなのである。


 少なくとも俺が知る限りでは、上位存在に有効な魔法は──彼ら上位存在と同じか、それに類する力を持った存在から与えられた力のみである。


「それなら俺の持つ、ラウヴァレアシュから与えられた『闇の攻撃魔法』や『霊子干渉魔法』が──」

 そう考えながら現状を打破するには、この周辺に張られた結界──「光輝の封陣」の効力を消す他はないと思われるのだ。


 無論、術者の排除が無理なら──一か八か、この「天幕の守護者」の支配権限を「霊子干渉魔法」で無力化する他はない。この魔法の力が結界の効力下でどこまで弱まるかは分からないが、この窮地を脱するには、結界を解いて逃げるか、この聖霊を排除して残りの聖騎士共を皆殺しにする以外、方法はない。


 片目を閉じた状態でじりじりと後退しながら、岩場の陰から出て聖騎士らの動向を窺うと──どうやら奴らは、こちらに攻めて来る気はないらしい。完全に女神官が召喚した聖霊に俺の捕獲、または抹殺を任せきっている様子だ。


 もしかするとこの聖霊の制御が、まだ完全に果たせていないのではないだろうか。


 天幕の守護者はゆらゆらと身体を揺らしながら、こちらに向き直ったと思った瞬間。動きを加速させて、一気にこちらの間合いまで移動し、大剣を振り回してきた。

 これでは奴ら聖騎士も迂闊には近づけまい。聖霊の振り回す剣に巻き込まれる可能性もある。


 俺は魔眼の力(攻撃などを察知する)もあり、すんでのところで聖霊の刃から逃れ、次の岩場がある所まで後退する羽目になった。

 試しに岩場の陰に来た時に、魔剣で聖霊を斬りつけてみたが──大剣で受け止められた。鈍い動きだったが、こちらの動きを見て、()()()()自らを守る事はしているらしい。


 ちらりと杖を持った女神官を見てみると、ずっと杖を構えて集中している様子だったので、この「天幕の守護者」は、()()()()()()()()()()のではないかと思ったが──岩場で見えなくなったとしても、攻撃の防御くらいは対応してくるみたいだ。


 俺は精一杯の力を込めて魔眼の力を行使し、両手から同時に──守護者と聖騎士の一団に向かって、闇属性の初級攻撃魔法を撃ち出す。


 手から放たれた濃い紫色の光を放つ光弾が数発飛び、天幕の守護者の肩と盾にぶつかり、聖騎士らの前に出た、大きな盾を構える巨漢の騎士に「魔衝弾」が防がれてしまう。


 凄まじい発破音を響かせたが、どちらの敵も被害ダメージらしい被害ダメージを負ってはいないのは明らかだった。


「こりゃぁ、死力を尽くす他はないな」

 改めて覚悟を決める。このような窮地に飛び込んでしまった事を呪いながら死ぬなど、まっぴらごめんだ。まずは目の前の天幕の守護者を排除する為に一か八か接近し、奴と接触して「霊子干渉魔法」を使って()()()()()()。これしか、生き残る術はない。


 身体に強化魔法を掛け、速度と防御力を底上げし、守護者が前に出た瞬間を狙って奴の背後に回り込む。──そう企みを抱いて待ち構えていたが……奴は、浮き上がった状態から岩の向こうに顔を──兜の面甲を──向けて動かなくなった。


「なんだ……?」

 俺は片目に入った血を拭いながら、岩陰からそっと様子を窺う。




 すると、聖騎士の一団があらぬ方向を向いて──何か慌てた様子で話し合っている。

 奴らが見ている広場の中央──そこは、魔女や妖人の死体が積み重なるみたいに置かれていた場所だ──を見ると、死体が何かに引き寄せられているのだ。


 ずるずる、ずぶずぶと奇怪な音を立てて、それらはどんどん融合していく。

 死体が一塊ひとかたまりの肉塊になると、それが青白い炎を噴き出した。炎の噴き上がる音ではない──バチバチ、ブウンブウンと、耳障りな音を周囲に響かせる青い炎。


 炎の頂点が高々と噴き上がり、結界の天井に届くと、それを突き破って結界を打ち砕く。


『ギュァアァアォォオッ』

 そんな獣の吠え声、あるいは竜の咆哮ほうこうのようなものが、炎から聞こえた気がした。

 死骸の寄せ集めは今や巨大な肉と、青く燃え上がる炎の塊と化した。結界を突き破るまで燃え上がったそれは煙りを上げる事もなく、耳障りな音を放ちながら──醜い何かを、その中から解き放つ。


「化け物め……!」

 静まり返った空間に、聖騎士の怨念めいた声がこちらまで聞こえてきた。


 死体の山の中から現れたのは、確かに化け物であった。一目見ただけで並の魔物では無いのが分かる。少なくとも下級魔神ではない。中級魔神か、それ以上の力を持つ魔物だ。それが魔女や妖人の死体と残った魔力を使って受肉したらしい。


「これは好機チャンスだ」

 結界の効力からも解放され、自由になった今なら──俺は片目をつぶると、横を向いたままの「天幕の守護者」に近づき背後を取ると、高い位置にある背中を越え、首に向かって「霊子干渉魔法」を掌から打ち込んだ。


「あぁあああぁぁあぁっ‼」

 女の悲鳴が上がった。

 木偶でくの坊の騎士人形が上げたのではない。聖騎士に守られた、杖を手にする女神官が悲鳴を上げて地面にひざまずく。


 霊子干渉魔法を打ち込まれた天幕の守護者は、頭を前に倒し、ゆっくりと浮いていた状態から地面に前のめりに倒れ込んだ。


「やったぞ、支配権限を奪ってやった!」

 俺は小躍りした。窮地が一転して、強力な手駒を入手するのに成功したのだ。倒れ込んだ守護者の背中に乗ると、首に刻まれた呪文を確認し、魔法が確実に、この「鋼鉄の聖霊」を支配した事を確認する。


 だが──今すぐには使えないみたいだ。まだ霊子干渉が、この半霊的存在を捕らえきっていないのだろう。

 俺はその木偶鎧を放っておき、岩陰から聖騎士らと、突然現れた中級魔神の様子を窺う事にした。


 鎧姿の三人の聖騎士が武器や盾を構えて、大きな化け物に挑んで行った。その後ろで倒れ込んだ女神官を、もう一人の目の細い女神官が後方に引きずって介抱を始める。


 杖を持った神官が倒れたのは、霊子干渉魔法の効力が彼女にも精神的な被害ダメージを与えたからだろう。術者として半人前だった彼女は、杖の力を借りながら召喚魔法を安定させていたが、自分との接点を切らずに、言わば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 その為、術士の霊体に魔法の支配力が侵食し、被害を被ったのである。


 でっぷりとした魔物と聖騎士の戦いが始まった。もはや彼らの標的は「異端者」ではなく、目の前の魔物に移行していた。


 灰色の皮膚に青い魔術的紋様を描いた化け物は、圧倒的な強さを持っていた。長剣や大剣で斬りつけられ傷を負ってはいるが、まるで気にする様子もなく平然と反撃し、聖騎士達を弾き飛ばしている。


 頭から焦げ茶色の捻れた角を数本生やし、背中には大きな無数の──くすんだ青色の棘が突き出ており。尻尾からは太い、鋭い槍状の刃が付いた尻尾があり、魔物が攻撃する度に、左右にぶんぶんと振り回されていた。


 手に付いた大きな鉤爪で聖騎士の鎧を剥ぎ取り、貫通させ、若い男の騎士が血を吐いて地面に倒れ込んだ。──鎧を貫通した爪に心臓を貫かれ、その場に倒れ込む。


『ヴォルア、バハゥム、エーハ、グラド……』

 魔物の横に大きく裂けた口から、聞き慣れない、忌まわしい響きを持った言葉が紡がれる。──呪文か? そう思った時には、詠唱が終わっていたらしい。


『グリズァール、・ラァベベンテォ!』

 空気が一瞬、凍り付いた──そんな感じがした。次の瞬間、盾を持った巨漢の騎士が血を噴き出し、後方に()()()()()()()地面にうつぶせに倒れ込む。

 出血の量、倒れ込んだ勢い。ぴくりとも動かない身体……即死だったろう。鎧も引き裂かれ、背中からも真っ赤な流血が溢れ出ている。


 ──その騎士の背後。離れた位置に居た二人の女神官も地面に倒れ込んでいる。二人とも法服ローブを真っ赤に染め、地面に大量の鮮血を撒き散らしながら絶命したのだ。


 残されたのは団長と呼ばれていた聖騎士ただ一人。勝敗は目に見えていた、戦いにすらならない。

 果敢に攻め打った剣をものともせず、凄まじい殴打の一撃を受けた聖騎士は、首を失った胴体を置き去りにして──頭部だけが、俺の目の前に転がって来たのである。

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