表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十六章 迫い縋る死の腕

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

281/298

砦を守る騎士たち

 黒騎士との戦いの最中にも、他の騎士と戦う二体の幽鬼兵を確認したが、向こうもかなり苦戦をいられている様子だ。

 できればどちらかが勝利し、こちらに援軍に来て欲しいという思いもあるが──

「だが、それじゃつまらねえよなぁ!」


 俺はすっかり戦いの高揚感に飲まれていた。

 以前の俺なら強敵との競り合いなどせず、いかに効率的に勝利するかを考えていただろう。

 それが今は、優れた戦士に対して正面から挑み、剣の技のみで勝とうとしている。

 そこにはおごりとは違う、目的意識も含まれていた。


 強敵と戦って勝利する事で、戦士としての力をつけようと考えているのだ。


 俺の中にあるいくつもの戦士たちの残像。その中でも強く魂に印象づけられたディオダルキスとシグンの存在。

 彼らのように数々の戦いをくぐり抜け、戦いの中で自らを錬成する。

 心身を強化する事は魔術の基本でもある。

 戦士たちは方法は違えど、戦いの中で精神を鍛え上げ、自らの本質に迫ろうとする取り組みに参入しているのだと、改めて気づかされた。



 俺と黒騎士の戦いは力と技の応酬となった。烈しい攻撃と回避の連続で分かった事は、黒騎士が魔法による強化を受けており、防御魔法によって守られている事だった。

 黒騎士本体は魔法を使用する事はなかったが、盾を掻い潜って胴体を捉えた刃が、防御魔法によって弾かれた。


(魔術師たちが掛けた魔法か?)


 俺は黒騎士から離れると、ディオダルキスが使っていた「呪いの刃」を魔剣に掛ける。

 魔剣の刃に手をかざし、刃全体に広げるように両手を広げる。呪いの刃を受けた魔剣は暗い光をまとい、冷たい気配を漂わせる──


「呪いの刃」は死導者グジャビベムトの霊核を調べて手に入れた魔法の一つだ。

 この魔法を掛けた武器で斬りつければ、魔法の防御を斬り裂きやすくなり、さらには斬りつけられた相手の強化魔法を打ち消し、呪いの効果が続く間は魔法による強化ができなくなるのだ。


「お前に掛けられた防御魔法なんぞ、一撃で打ち破ってやる」

 呪いの掛かった剣を前にした黒騎士は、一瞬の躊躇ためらいを見せた──ような気がした。

 下の部分が尖った盾を前に出し、横に回り込もうという動きを見せる黒騎士。

 俺はその盾に向けて鋭い突きを打ち込む。

 黒騎士は正確に盾で受け流し、反撃を打ってきた。その刃を魔剣で受け流しながら強引に前に出ると、盾で押し返そうとする。


 剣の柄頭で盾を殴りつけ、そのまま押し合う。

 相手の黒騎士はかなりの力の持ち主だった。俺は全力で盾をね上げようとしたが、びくともしない。

「ちっ」

 離れ際に蹴りを放ち、盾ごと相手を押し退けた。


 黒騎士の守りは固い。攻撃も重く鋭く、全身鎧の装甲も硬く、この相手に致命傷を与えるには、加減などしていられない。

 一呼吸置く間もなく、俺と黒騎士は激しい攻撃の応酬を交わした。

 大剣の攻撃をさばき、その隙を狙って腕や脇腹や首筋に魔剣を振るう。

 一撃一撃を鋭く、正確に急所を狙って攻撃する。

 黒騎士はその攻撃のすべてをかわし、防御してみせた。


 黒騎士の戦い方は繊細さと荒々しさの両面を持っていた。

 こちらの攻撃を横に動いて躱した黒騎士が、盾を大きく振って盾で殴りつけてきた。さらにその流れのまま大剣を薙ぎ払ってきて、危うくその刃が首筋に食い込むところだった。

 そんな荒々しい二段攻撃をしてきたかと思えば、正確な足捌きでこちらの攻撃を躱したり、盾や大剣を駆使してこちらの攻撃を受け流しもする。

 盾による固い守りも精度が高く、戦いの中で染みついた攻撃と防御の動きといった感じで、攻撃のあとでも隙らしい隙がほとんどない。


 それでもなんとか大剣と盾の防御を突破して腹部の装甲を斬り裂いた。呪いの刃の一撃は防御魔法を貫いたが、その装甲を引き裂く事はできなかった。

 黒騎士は魔剣の刃が当たる瞬間に身をそらしたのだ。体勢を崩した分、反撃はこなかったが、防御に徹した相手の盾によってこちらの追撃が阻まれてしまった。


「ガジャリッ」と、黒騎士の足下から音がするそのほんの一瞬前に、俺の感覚が危険を察知した。

 本能的に俺は足幅一つ分、敵から離れた。

 黒騎士は後ろ足に体重を乗せ、力を込めた一閃を振り下ろしてきた。続けて横薙ぎにされた刃が俺に襲いかかる。

 速攻の十字斬りが首筋をかすめそうになった。

 薙ぎ払われた切っ先を躱し、下がりながら回転斬りを浴びせたが、盾で防がれた。


 初めは黒騎士の防御を突破しても、鎧に傷を付けるのが精一杯だったが、戦いの中でしだいに相手の動きが読めるようになってくると、相手の少ない隙をけるようになってきた。


 黒騎士が盾を構え剣を引いた瞬間。俺は足を広げて剣を横に構え、防御の姿勢をとった。

 鋭い突きが繰り出された一瞬、その大剣を魔剣で受け流し、突きを体の外側にそらしながら踏み込むと、脇を締めた小さな挙動で魔剣を振り上げた。

 その一撃で肩口から右腕を斬り落とし、黒い鎧の中から黒い煙が漏れ出たのが見えた。

 続けて内股を蹴ってつんのめった黒騎士の背後を取り、振り上げた魔剣を振り下ろして首を打ち落とす。


 黒い兜が胴体から離れて地面を転がると、ガラガラと崩れ落ちた全身鎧から黒い煙が立ち上り、恐るべき敵を打ち倒す事ができた。

 魔術で復活した黒騎士は他の兵士たちと同じで、仮初かりそめの肉体を与えられていただけの騎士は、鎧だけを残して消え去った。


「よし」

 さすがに少々疲れを感じた。

 集中した戦いだった為、時間がどれだけ経ったのか判断できない。


 オルダーナはまだ赤い騎士と戦っていた。

 ガゼルバロークは大剣を槍に向かって振り下ろし、相手の得物を破壊していた。青騎士が盾を押し出してガゼルを打とうとした。

 重装備の英霊(ガゼルバローク)がよろめいたら、腰から下がっている予備の剣を抜くつもりだったのだろう。


 しかし屈強な英霊は、その盾に向けて肩口から体当たりをお見舞いし、逆に青騎士をわずかだが宙に浮かせ、がら空きになった頭部に大剣を振り下ろした。

 鋼鉄の兜を潰して斬り裂き、鎧まで深々と引き裂いた一撃は、鋼鉄の鎧を物の見事に真っ二つに引き裂いたのだった。

 俺はオルダーナに加勢する事にして、ガゼルを適当な場所で待たせた。


 赤騎士の長大な剣による攻撃を躱して、暗殺者はその短剣で何度も斬りつけたようだが、鎧を傷つけるばかりで、致命傷を与える攻撃にはならなかったのだ。

 無数の傷を負った赤い装飾の入った鎧を纏う騎士。そいつは俺が参戦すると、大きく薙ぎ払うように大振りの剣を振るい、圧倒的な力で空気を引き裂いてみせた。


 赤騎士がぐっ、と引き足に力を入れて地面を踏んだのが見えた。

 俺は大剣の間合いの外に引き、オルダーナは低い姿勢になって敵の懐に突っ込んだ。

「ビュオンッ」

 という凄まじい音が目の前を通過した瞬間。俺は一瞬で騎士に接近した。両手で振り上げた魔剣を背中に回しながら。


 オルダーナは薙ぎ払われた大剣の下を潜って敵に接近すると、短剣を下腹に突き刺し、さらにもう一方の手に握った短刀を脇腹に深々と突き刺して離れる。

 動きを止めた騎士が俺の方を振り向いた。

 面頬の隙間から空虚な暗闇が覗く。


「ォオオオオッ!」

 背中まで回した魔剣を渾身の力を込めて振り下ろす。

 赤い線の入った兜と鎧の間を狙い、首筋から胴体めがけて魔剣を振り下ろすと、白銀の刃が黒い煙ごと敵を引き裂き、赤騎士はがっくりと崩れ落ち、がらんどうになった鎧兜をその場に残して消え去った。



 古戦場に居た兵士たちは全滅させた。

 残すは砦の中にある、この異空間を維持している力の根源に向かうだけだ。

 しかしそれは、恐らくもっとも強大な敵が守っているはずだ。

「ガゼルバローク、準備はいいか?」

 返答などあるはずがないが、俺は幽鬼兵に声をかけた。

 砦の中で待つものがなんなのか、俺は察していた。

 回復薬を口にしつつ、強大な敵に向かう覚悟を決める。


 ここから先は死力を尽くさなければならないかもしれない。

 できれば最小限の魔法や手段で勝利したいが、先ほどの黒騎士を見る限り、そうはいかないだろう。

 この領域を作り出した魔術師は、なんらかの強化を施した敵を用意して、こちらを待ち構えているはずだった。

「いくぞ」

 俺は一休みすると、石壁に囲まれた砦に近づいて行く。


 二体の幽鬼兵は俺の後ろからついて来る。

 砦を囲む壁にある頑丈な大扉を開けると、土の庭が見えてきた。実際の砦では、ここに兵士や軍馬が控えていたのだ。

 だがここにはなにもなく、壁と砦の間に無意味な空間があるだけだった。


 石積みの砦は露台バルコニーがあり、そこから弓兵が侵入者を射るよう設計されていた。しかし、ここには弓兵は配置されていない。

 そのままずかずかと石砦に近づいて行く。

 無骨な作りの砦は急造された物らしく、石材の種類もまちまちで、石と石の間を砂利を混ぜた混凝土コンクリートで繋いであった。

 壁の表面はでこぼこしており、大きさの異なる乱雑な石組みの所為せいで、壁に指をかけて上る事ができそうなくらいだ。


 砦の扉は開放され、広間らしき大部屋が見えている。


 砦の中に踏み込むと、部屋の左右に通路があり、広々とした広間の奥には木製の両開きの大きな扉があった。

「この先だな」

 魔眼を使って砦の内部を見回すと、反応があるのはたった一つだけだった。奥の部屋にその反応はある。──大きな影がまるで一塊の岩のように部屋の奥に鎮座していた。


(予想はしていたが、屈んでいてあれかよ)


 赤黒い炎に似た極光気オーラを放つ大きな人影。

 俺と幽鬼兵は広間の奥の扉に近づくと、大きな扉を開けて奥の部屋に足を踏み入れた。



 そこも広間と同じくらいの広さがある部屋だった。天井が高く、柱のない大部屋。その奥にある石段に腰かけているのは巨人だった。

 左腕の肘から先を失った巨人の戦士。

「ギゥルム……!」

 俺は段差に腰かけた巨人の迫力ある体躯を見て、一瞬怯んでしまった。

 筋骨隆々の巨人は虚ろな目を床に向け、右手の指を巨大な剣の鍔にかけていた。


 大振りの剣を石床に突き刺したその姿は、死の渚を前にしている男のように、暗く沈んだ表情をしていた。力に満ちた体つきとは異なり、死に沈んだ巨人の容貌には覇気が感じられない。

 俺たちが大部屋に入ると、背後で扉がゆっくりと閉まった。

 俺は自分と幽鬼兵たちに強化魔法を掛け、巨人の恐るべき攻撃に対抗する防御魔法には、強力なものを掛けておく。


 すると部屋の奥に居た巨人が立ち上がった。

 天井が三階分ほどの高さの吹き抜けになっているのは、この部屋で巨人が剣を振れるように設計した為だろう。

 隻腕の巨人戦士ギゥルムは立ち上がり、巨大な剣を握り締め、侵入者である俺や幽鬼兵を見ると、ゆっくりと歩を進めて来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ