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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十六章 迫い縋る死の腕

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歴戦の兵ども

 岩陰からこっそりと兵士たちの解析をおこなっていたのだが、こちらに近い位置を歩き回っていた兵士たちが立ち止まると、急にこちらに向き直り、武器を構えて向かって来た。

 ──どうやら魔眼を使用しての索敵が、俺の位置を教える結果になってしまったようだ。

 まさか解析魔法の逆探知をおこなう魔術師が兵士の中に居たのだろうか?


 三人の武装した兵士が距離を詰めて来るのが見えた。

 俺は岩陰にじっと隠れ、一番近くに来た兵士を斬りつけ、すぐにまた岩陰に隠れようと考えながら、魔神の鍛冶師から手に入れた兜を装着した。

 大丈夫だ、一人一人を相手にすれば、決して切り抜けられない状況じゃない。


 金属の具足を履いた足音が近づいて来る。

 背の低い草を踏みつけ、脛当てがぶつかる音がガシャガシャと響いている。


(今だッ)


 岩陰から躍り出ると、すかさず武器を持つ相手の腕を狙って剣を振るったが、かわされた。


(なにッ⁉)


 わずかに足を引き、体をのけ反らせるようにして、小さく振り下ろした剣先を躱す兵士。

 そいつは面頬の付いた兜ごしにこちらを見て、鋭い反撃を繰り出してきた。

 こちらは相手の攻撃を、踏み込むと同時に屈み込むようにして躱し、頭上を通過した剣を引き戻す間も与えず、脇腹の装甲の薄い部分に突きを繰り出した。


 魔剣の刃が深々と鎧に突き刺さったが、兵士は構わずに剣を振り上げ、躊躇ためらう事もなくそれを振り下ろしてきた。


「はァッ‼」

 俺は兵士の横を駆け抜けると同時に、脇腹に突き刺さった魔剣を両手で掴んで薙ぎ払い、兵士の一体を打ち倒した。

 だがまだ、二体の兵士がこちらに迫って来ていた。

 右から一体、左からもう一体が迫って来ている。そいつらはまるで、敵兵に挑むような鋭い殺意をみなぎらせていた。


 大剣を手にした敵が迫るのを前にして、左手側の兵士に向けて霊獣の青焔狼と幽鬼兵のオルダーナを喚び出し、右手側の兵士に向かって俺は突撃した。


 目の前に迫りつつある兵士に向き合った。

 肩当てと胸当てを装備した軽装の兵士で、大剣を前に構えると大きく一歩を踏み込み、大剣を振り下ろしてきた。

 俺はその攻撃を回避しながら胴体を薙ぎ払ったが、軽装の兵士は大剣を素早く引き戻し、剣の鍔で俺の攻撃を受け止めた。


(こいつッ……!)


 さらにその兵士は離れようとした俺に向けて剣を薙ぎ払ってきた。──兵士の横に回り込むようにして離れたのに、視覚外へと回り込む俺を狙い、正確に攻撃してきたのだ。


(手練れの兵士だったらしいな)


 現代に蘇った、古き時代の英霊という訳だ。


 だが──

 俺は左右に軽く足踏み(ステップ)をしながら気持ちを落ち着ける。

 そうしながら他の兵士たちの様子をうかがうが、どうやら離れた場所に居る奴らは、ある一定の場所をうろうろするだけで、統制の取れた連携などをするつもりはないようだった。

 視認される距離に近づかない限り、兵士は襲ってこないのだろう。


 後方ではオルダーナと青焔狼が、剣と盾を構えた兵士と戦っていた。

 驚くべき事にその兵士は、狼も暗殺者とも対等に渡り合っていた。

 青焔狼の吐き出す炎を盾で受け止め、暗殺者の連続攻撃を長剣で弾き返している。

 噛みつこうとする狼に蹴りを入れ、迫ってきた暗殺者を盾で弾き飛ばすなど、かなり乱暴な戦い方をするところを見ると、ただの兵士でないのは瞭然だった。


「おっと」

 向き合った兵士が大剣で連続攻撃を打ってきた。鋭い連撃を回避しながら相手の腕を狙って魔剣を振ったが、籠手に弾かれてしまう。

 まともに刃を受けぬよう、兵士は刃の側面を狙って籠手を跳ね上げていた。練度の高い兵士であると同時に、かなりの剛胆さを持った兵士だったようだ。


「生前に会ってみたかったぜ」

 弾かれた剣を構えながら間合いを慎重に計る。わずかな間合いの読み違いで腕を落とされたりはしたくない。

 俺と軽装の兵士は正面から向かい合い、じりじりと間合いを詰め合うと、半歩の違いで兵士が先手を打ってきた。



 オルダーナと青焔狼と俺は、ほぼ同時に敵を退けた。

 剣技において決して遅れを取るとは思っていないが、今回の敵はかなり手強い相手だった。魔法を使用してもよかったのだが、俺は戦士の矜持をもってこの難敵を迎え撃った。

 たとえまがい物の、魔術によって復元された物だったとしても、その戦闘技術は本物だった。

 敬意を示したかったのではない。単純に、戦乱を戦い抜いた兵士に打ち勝ち、自分の剣技が練度の高い戦士にも劣らない事を確認したかったのだ。


 俺は戦場を見回し、残りの兵士の数と位置を確認してから、暗殺者と青焔狼を影に中へと戻した。

 彼女らと共に戦ってもいいのだが、この戦場を一人で戦い抜けるところまで、限界まで戦ってみたいと考えたのだ。

 それが今後の危険に臨む時にも、きっと糧となる。──それに、あまり大きな力を披露すべきでないと考えた。もしかすると「明星の燭台」の魔術師が、この戦場を見ているかもしれない。

 俺の戦闘能力ががどのくらいか知る為に、この魔術領域に誘い込んだ可能性はある。


「まあ、つき合ってやるよ」

 奴らの思惑がどうであれ、ここで優れた戦士と戦って、俺の戦歴に勲章を加えてくれると言うのだから。

 それに戦場の奥にある砦に近づけば、どのみち幽鬼兵や魔法の力に頼る事になるだろう。ここは古戦場なのだ。という事は、あの砦で待ち構えるものは──


 俺は目を閉じ覚悟を決めると、まずは砦に近づく為に、周辺を警戒している兵士に戦いを挑んでいった。



 * * * * *



 十を超える数の兵士を相手に激しい連戦を演じた俺は、さすがに息を切らせていた。なるべく一対一の形になるように戦ったが、兵士同士の距離が近いと、二対一の戦いにならざるを得なかった。


 兜に掛けられた魔法のお陰か、戦闘感覚が研ぎ澄まされ、いつもよりも早く相手の攻撃を察知できるようになっていた。この感覚を自分の感覚のみでできるように、俺は自分の精神に集中し、手練れの兵士二人を相手になんとか勝利をもぎ取った。


 古戦場の中にある大きな岩の陰で残りの兵士の位置を確認しながら、回復薬を口にする。魔法は強化魔法を何度か使用した程度で、魔力が消耗している感覚はない。

「順調だ」

 どの兵士も強く、激しい戦いになったが、戦闘を重ねるごとに相手の動きが読めるようになっていった。


 何度も死線を越えた兵士たちは、形式的な戦闘訓練を積んだだけの兵士とは一線を画していた。こちらの攻撃を受け流しながら地面に剣を叩きつけようとしてきたり、攻撃を回避しながらの反撃を繰り出してきたりと、さまざまな戦闘技術を駆使して立ち向かってきたのである。


 精神領域でガゼルバロークやオルダーナとの戦闘訓練を重ね、剣による戦闘の研鑽をおこなっていなかったら、ここで致命傷を負って倒されていただろう。


 岩陰から先に見える砦の前に三人の重装備の騎士が立ち、砦に近づこうとする者を待ち構えていた。

 残すはこの三人の騎士たちだけになっていたが、砦の中にも敵が控えているのは明白だった。

 ここから先の戦闘は、俺の剣技だけで臨めるようなものではないだろう。

 砦の守衛らしき三体の騎士からは、威圧的な闘志があふれ出ていた。


 俺は離れた所から魔法の矢を撃ち込み、前に突出していた騎士の一人だけをおびき出そうとしたが、他の二体も外敵の存在に気づいて動き出した。

「やはりこうなるか」

 三体の騎士は連携して敵を迎え撃つよう制御コントロールされているようだ。


 中央に居た騎士は黒色の全身鎧を身に着け、手には大剣と盾を携えている。かなりの豪腕らしく、大振りの剣を片手で悠々と持っている。背中には黒い外套マントをはためかせ、小走りでこちらに駆け寄って来るところだ。


 黒騎士の後方から迫っている二人の騎士も全身鎧を身に着けていた。それぞれ黒い鎧に赤と青の装飾を施し、外套も同じ配色をしていた。

 青い騎士は大きな盾と槍を手にし、赤い騎士は奇妙な形状をした幅広の大剣のみを両手に構え、ゆっくりとこちらに迫って来る。


 俺は斜め前に手を伸ばし、影に向かって呼びかけた。

「来い」

 影から二体の幽鬼兵を喚び出す。

 オルダーナとガゼルバロークは影の中から現れると、すぐに武器を構えた。

 暗殺者を赤い騎士に向かわせ、かつてこの戦場で命を落とした英霊を青い騎士の討伐に向かわせた。


 俺は正面から向かって来る黒騎士を、魔剣を手に待ち構えていた。黒光りする装甲を身に着けた騎士が大剣を横に構え、盾を前に突き出した格好で突進して来た。

 重い足音を響かせながら、黒騎士は大股で迫っている。

 砦の前の地面には草が生えておらず、赤茶けた色の土が踏み固められていた。


 黒騎士はある程度近づいて来ると、横に回り込むような動きをして、慎重に間合いを計りだした。


(こいつ──できる!)


 盾を前に構えたその動きにまったく隙がない。右手に持った大剣は、赤い騎士が手にしている大剣ほどの長さはないが、幅広で厚みのある威圧的な剣で、それを片手で軽々と扱っていた。

 黒い外套がばさっと音を立てた瞬間には、俺は横に動いて攻撃を躱していた。鋭い斜め斬りが兜の横を通り過ぎていった。


(あぶねぇっ!)


 攻撃がくる瞬間を察知してなお、間一髪という感覚だった。

 相手の横に回り込む形で反撃しようとした俺に、黒騎士は横に跳びながらこちらに向き直り、しっかりと盾で攻撃を防ぐ構えを見せる。

 俺はその盾に向かって突きを打ち、盾を上げさせてから、視覚外からの薙ぎ払いで腕から腹部を斬りつけようとした。


 しかし黒騎士はその攻撃にも反応し、大剣の腹で剣を捌きながら体を回転させ、恐ろしい勢いで斜めに大剣を振り下ろして反撃してきた。

 しかも盾でこちらの視野をふさぐようにしてきたのだ。

 明らかに戦い慣れている者の動きだ。

 この黒騎士は多くの兵士よりも飛び抜けた戦歴を持った戦士だったのだろう。


 俺は敵の攻撃を躱すと、離れる事を良しとせず、真っ向から勝負を挑んだ。

 周囲に激しい剣戟の音が響き、斬撃の颶風が吹き荒れた。

 相手の攻撃の大半を躱したつもりだが、躱し切れない攻撃は魔晶盾アコラスを使って防ぐか、剣の根本で受け流した。


 一度、相手の右腕側に回り込んで体ごとぶつかり、剣の刃を押しつけるようにして攻撃したが、大剣で受け止められてしまった。そのまま鍔迫つばぜり合いをしている時に、相手が盾で殴りつけようとしてきた事があった。

 俺は身を伏せながら軸足を大きく引き、屈み込んでそれを躱した。


 本来なら互いに離れて仕切り直す場面だが、俺は攻撃を躱しつつ、体を回転させて強引に斬りつけにいった。

 崩れた体勢からの奇襲的な反撃を受けた黒騎士は躱し切れなかったようで、肩当てを弾き飛ばす事に成功した。

 感覚的には首を狙った攻撃だったが、そうやすやすと討ち取らせてはくれないようだ。

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