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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第二章 魔狩りと妖人

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妖人アガン・ハーグと冒険者の末路

主人公の残酷さが少しは出せたかな? 人を人とも思わぬ部分も持ち、といって、人間を無闇に傷つけるような真似はしない──そんな人物です。

 わだちがある道から外れると、人の足によって踏み固められた細々とした道があり、その道に沿って森の間を抜け、山脈へと向かって歩き続ける。


 目的の妖人アガン・ハーグが目撃された場所は山脈のふもとにある森。その近くの林にある掘っ建て小屋と、山脈の麓にある洞穴の近くで目撃されていた。

 掘っ建て小屋は元々、狩人が住んでいた物で、だいぶ前から空き家状態になっていたらしい。


 野原の近くを通ると、小さな木の影で休んでいる一匹の豹と目が合った。

 豹はぐったりとした様子で──人間を襲う気分ではないみたいだ。頭を持ち上げてこちらを窺う仕草を見せていたが、ふいっとそっぽを向いて、顎を前足の上に乗せて眠る姿勢になる。


 狩りをおこなって、体力を回復している最中なのだろうか。

 こちらから近づかなければ、襲いかかって来る事はないだろう。


 俺はその場を速やかに離れて、林にあるという小屋を目指した。




 目的の場所近くまで来たはずだが──なんというか、林と呼べる物がいくつか野原の中に点在している。あるていど林の密集した場所に行って、そこから魔力探知や生命探知を使って対象を探し出そうと考えたが、その必要はなくなった。


 離れた林の方から爆発音が聞こえたのだ。

 大きな爆発が起こり、周囲の林や草むらの中から驚いた鳥たちが、一斉に飛び去って行く。


「攻撃魔法か……? どうやら先に妖人の討伐に向かった奴が、攻撃を受けているらしいな」

 さて、それではどうするか……冒険者──おそらく数人のパーティのはずだ──が敗北する方に賭けて、このままその小屋まで行くべきか、それとも、もう一方の洞穴に向かうべきか……

 悩みつつも俺の足は迷う事なく──戦闘の始まった場所に向かって進み続ける。


 林の裏手に向かっている途中、二回目の爆発が起こった。激しい稲妻の弾けるような音が響き、空気を伝ってその衝撃の凄まじさが感じられた。


 すると林の陰から──一人の男が、こちらに向かって駆け出して来た。別に俺が居たからこちらに駆けて来た訳ではなく、ただ単に妖人から逃げる為に駆け出した先に、たまたま俺が居ただけのようだ。


 男は恐怖を顔面に張り付けたままこちらに走って来て、こちらに向かって何かを喋りかけている。


「おっ、お前、逃げろ。──よぅ、妖人が、あんなに強いなんて、きいてねえ……早く、逃げろ──ぼさっとすんな!」

 息を切らせながら言う男。

 そいつはついさっき、戦士ギルドの前で絡んできた、頭のおかしな冒険者の一人だった。


「妖人アガン・ハーグを討伐に行ったのは、あんたらだったのか。それで? 他の二人はどうなった?」

 俺の言葉にやっと、ギルド前で会った奴だと気づいたみたいだ。


「おっ、お前か──、あいつらは、妖人の魔法で倒されちまった。──そんな事より、早く逃げ──」

「そうか、それは良かった」

 後ろを振り向いて、妖人が追って来るのを警戒していた男の、腰の革帯ベルトに付いていた短剣を引き抜くと、それを男の胸に突き刺した。


 下から上に、一撃で心臓を貫く刃。

 男は、ごぼぉっと口から吐血し、何が起きたのか分からない、と言いたげな顔で絶命した。


 もし問われたら、俺はこう答えていただろう。

「害虫を駆除しただけだ、気にするな」と。


 地面に倒れ込んだ男の体が、わずかに痙攣している時に林の中から、すうっと──妖人アガン・ハーグが現れた。

 そいつは下半身が蛇。上半身が人の──老婆の上半身で、腕や背中から黒い羽毛が生えている。何とも奇怪で、不潔な感じの妖人だった。


「……なぜ、人間である貴様が、人間の男を殺したのだ」

 その妖人は見た目通りの老婆の声で、そう尋ねてくる。

「まあ、色々あってね。それよりも、あんたに聞きたい事があるんだが」

 俺がそう言うと、長い腕をゆらゆらと動かしながら、妖人アガン・ハーグは思案し始める。指からは長い爪が伸び、くすんだ灰色の髪はぼさぼさで、開いた口から見える歯は細く、汚らしい色をしていた。

 見るからに汚らしい化け物は、黄色い眼を用心深く光らせて──こちらを窺い、「なにを聞きたい?」と応じる。


「ああ、あんたらの神──魔神ベルニエゥロに会いたいんだが、居場所は分かるか?」

 その名をどこで聞いたと、妖人はいぶかしんだが、ラウヴァレアシュから四柱の魔神を探すよう言われている。と説明すると、醜い老婆の顔をしたその化け物は「う──む」と唸り、大きく一度、頷いて見せる。


「わかった、教えよう……いや儂は、魔神の居場所を知らん。だから、魔神の居場所を知っていそうな連中の集まる、『魔女の集会』がおこなわれる場所を教えてやる。そこに行って、話を聞くがいい」

 そうか、こいつらも「魔女」のたぐいだった。その醜悪な見た目から、化け物だと思って話していた。


 魔女王ディナカペラの助言でも、こいつらは危険な化け物だと聞かされていた為、こうして話している最中でも気を抜いてはいない。

 もし敵対的な気配を感じたら、それなりの手段を講じるつもりでいた。


 魔眼のお陰で呪文の詠唱なしに、多くの魔法をすぐに放つ事ができるようになったので、咄嗟に敵が襲いかかって来ても、瞬間的に対応できるのだ。

 その為の訓練はしてきている。


 ──だがここでは、使う機会は訪れなかった。蛇の下半身を持つ妖人は、大人しく魔女の集会がおこなわれる場所を説明し、そこへはこの近くに住む妖人──おそらく、洞穴に住む妖人の事だろう──も向かったと話す。


「その集会は、まだ魔女になったばかりの連中が多く集まる場だが、集会の長は、魔神との繋がりを持つ者であるはずだ」

 この妖人は、そこそこ長く生きている魔女なのだろう。下半身が蛇になるほど変異したのは、魔力の高さ故か、あるいは魔神の配下として長く生きた証であるかは、定かではないが。


 この妖人は、冒険者がパーティを組んで討伐に来ても、撃退し続けてきたのではないだろうか。先ほどの大きな爆発や雷撃の威力からすると、充分に考えられる事だ。


「それでは、その男の死体を頂いても構わぬか?」

 その妖人は長い指で、男の死体を指し示す。

「ああ、別に構わないが。何に使うつもりだ?」

「古い妖術、魔術の類の実験に使うのだ……せっかく新鮮な死体が手に入ったのだ、無駄にする必要はあるまい?」

 俺は肩をすくめ、男の革帯ベルトから硬貨の入った皮袋を奪い、「好きにしろ」と応える。




 異形の魔女と別れた俺は、「魔女の集会」がおこなわれるという場所に向かって、歩いて行く事になった。

 この場所からさらに南下し、山脈の外れにある──切り立った岩山の多い荒れ地に、魔女たちが集まる場所があるのだと言う。


 その道の途中までは森や野原が周囲にあり、羊や馬などの姿を見かけたり、鳥の鳴き声を耳にしたりしながら歩いていたが、しだいに──周囲の様子が変化してきた。

 空気も乾いたものに変わり、土の剥き出した地面と、岩や石ばかりの荒れ地に足を踏み入れたのだ。乾燥した空気はなにやら不穏な匂いを含んでいるように感じられる。


 草木の匂いに満ちていた先ほどまでの空気とは、まったく異なる──その大地の匂いは、砂埃すなぼこりと、朽ちた森の匂いに似ていた。かつては生き物や草木に満ちていた場所だったのではないか。

 岩などに混じって乾燥した木の根本や、倒木が目につくようになって来た。


 荒廃した大地に何が起こったのか、その道なき道の先に──その答えとなるものを発見した。


 ──それは、川の流れていた跡だ。


 乾燥した大地の中に──広い溝が現れた。

 その窪んだ場所に足を踏み入れると、柔らかい砂が堆積たいせきし、足を乗せた場所に、はっきりとした足跡が残された。


 その窪みの中央付近にさらに窪んだ場所があり、そこは少し湿っていた。──どうやら山脈側に雨が降ると、少しは水が流れて来るみたいだ。


 何故、川に水が流れて来なくなったのか、それは分からないが──ずいぶん前から水の流れがなくなり、この辺りは乾燥してしまったのだろう。小さな水の流れの跡が残る辺りには、細々と植物が生えている場所もあったが、森や野原のあった場所とは違い、なんとも頼りない感じの弱々しい草花が数本、ちまちまと生えているだけである。


 そうした砂地を歩き、川だった場所を南下していると──馬の足跡を発見した。


 野生の馬も居る土地だ、何の不思議もない……ところがである。砂地に残る馬の蹄の跡は一頭だけではなかった、数頭の馬の列が通過した跡が、はっきりと残されているのだ。


 最低でも四頭の馬が──ほぼ一列に並んで進んで行った跡。それがこんな荒れ果てた土地の中に残されている。


「嫌な感じだな」

 かつて川だった場所を通過して行った馬の隊列は、どこへ向かったのだろう。荒れ地の奥へ向けて進んで行ったと思われるその足跡が、何を求めて、どこへ向かって行ったのか。


 もしかすると、冒険者の一団パーティが、価値のある品が採取できる場所を知っていて、そこへ向かって行ったのかもしれない。


 俺は足跡を追う事はせずに、しばらくは川の跡を辿って南下を続け、山脈から少し離れた場所にある──切り立った岩山が無数に立ち並ぶ場所が見えて来ると、そちらへ向かう為に南東へ向かって歩き進める。


 遠くに見える茶色い岩山の数々が、大地から生え出た巨大な化け物の歯が立ち並んでいるような、不吉な物に見えていた……

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