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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十五章 死霊の王と魔剣の再生

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古代魔術言語と霊体

前話と同じくかなり煩雑な内容と文章……。高次領域は物質界の類似はあるものの、根本原理が異なる為、正確な把握(認識)は下界の存在には不可能。

あまり真剣に読まない方がいいかもしれません。斜め読み推奨です。

『古代魔術言語が霊的な影響をもたらすのは何故か、その理由を知っているだろうか』

灰より立ち(フィェナヴ)上がったもの(ディァティス)"は尋ねる。


「それは……言語そのものが力を有しているから──だろうか」

『それではことわりの一端しか認識できておらぬ。

 古代語はそもそも"神の言葉"を模したものなのだ。さらに古代魔術言語はその古代語よりもさらに深く、神の言葉を再現しようと迫って生まれたものなのだ。

 つまるところその言語を学び、自らの理性や悟性に組み込もうとする者は、霊的な変質をおこなう作業に取り組んでいるのである』

「なるほど。古代魔術言語を習熟する頃に、魔力体や霊体に劇的な変化が起きたのは、そもそもその言語が上位世界の理にあるものだった所為せいか」

『そのとおりだ』


 黄金虫の様な大きな体の全体が緑色の光を反射した。

 体表の光は色を変えながら青や黄緑に滲んでいき、虹色のつややかな光沢を映し出す。


『お前は光体アウゴエイデスを得てどれくらいになる?』

「光体を手に入れてまだ数ヶ月といったところか」

『それでもかなりの力を有しているようだな。──だがまだまだ不安定で、力を制御し切れていない様子だ。まさか、下位存在でありながら上位存在を倒し、その力を奪っているのか』

「ええ」

『素晴らしい。まさに魔導の極致を求め、挑まんとする魂なのだな。お主──名前は?』


 俺は名乗り、問われるままに魔神などの神々の力を取り込んだ事を説明した。


『下位世界で神々に挑戦し、その力を奪える者など一握りだ。

 レギスヴァーティは私よりも才能がある。まさにこの出会いは僥倖ぎょうこうだと言えるな』

 その言葉には、なにかを捨て去ったものの響きがあった。

 光体から響くその思念には声色を思わせる"色調トーン"があり、輝ける力の中には目には見えない濃淡が表れていた。


「いったいどうしたというのか」

 弱り切った老人が道端の岩に腰かけたまま動かず、じっと死を待っている──そんな様子に感じられ、レァミトゥスだった者の、人間だった頃の老衰の影がちらついた。



『レギスヴァーティ。お前に私がこの領域で手に入れた知識を受け継いで欲しい』

「なに?」

『私は永らくこの場に居て、自分の力の限界を知った。私は神々の領域を理解するにはあまりにも小さく、人間としての覚悟も足りなかったのだ。

 この領域で個我を有したまま存在するならば、決して下位世界の理から逃げ出す事なく、強靭な意思を獲得するように振る舞わなければならなかったように……今は思う』

「どういう事だ」

 そう問うと光体の周囲が淡く光を放ち、レァミトゥスは弱々しく笑ったようだった。


『この領域に私が来られたのは必然ではなくただの偶然。幸運だっただけなのさ。私の力では本来は光体の領域に手が届くにしても、その一番下の領域である"アゥシュファーズ(光輝の影)"止まりだったはずだ。

 ここ"アゥティスアヴェァータ(星界虚空)"に踏み入れるほどの技量も知性も、そして覚悟もなく、ただ私の関わってきた上位存在たちの気まぐれで、ここに来られただけなのだ』

 彼はまたしても古代魔術言語の言葉を使ったようだったが、それを自分の理解に当てはめる作業に難儀していると、彼はその知性の光輝ひかりを示し、俺にも分かるように言語化(思考化)してくれた。


 どうやら"光輝の影”というのは、いくつかある光体世界の一番下の領域の事で、そこでは物質界の壁を抜けた程度の知性体が眠りに就く場所とされているようだ。

 現在俺たちが居る"星界虚空"とは、光体世界の中域にある場所で、もっとも混沌とした力の奔流が広がる、膨大な領域であるらしい。

 現代魔術でも通じる自分の理解の範囲で表す言葉だと、「光輝の影」や「星界虚空」となるが、この領域を表す言葉としてはいささか簡略化し過ぎたものでもありそうだ。


『神々の領域において、私はまだまだ未熟だったという事だ。──だがレギスヴァーティもまだまだ未熟。しかし、お前にはまだまだ伸びる可能性がある。だからこそ私の知識を踏み台に、この神々の深淵に新たな力として留まって欲しいと望むのだ』

「あんたはどうするつもりだ」

 すると彼は大きな腕を伸ばし、遠くの混沌を指差した。


『私はあの光と闇の中へと向かうのだ』

「それは神々と──いや、この領域にある知性の総体と一体になるという意味か?」

『そうだ。個我を大いなるものの一部に融合させる。上手くすればあの中で私は、大いなる真理を目にするだろう』

「あんたはこの領域でたった独り、その個我を保ち続けてきたんじゃないか。それを手放すのか」

『私は光でも闇でも、その知性の本質を知りたいと、真理の一端でも知りたいとここまで来たのだ。だがこの場でいくら調べ続けても、根源たる神に手が届く事はなかった。

 私はそこで、私が今までこの領域で得た知識をこの場に残し、誰かが──この領域まで到達できた誰かに、その知識を引き継いでもらおうと考えていた』

 そこへお前という存在がすでにこの領域に来ているのを感じ取り、探していた。すでに上位存在となったその元人間はそう言って俺を見る。

 宝石の光を宿す眼が、小さな種火を思わせる光をその中に映し出す。


『もはや私にこの領域でできる事などない。だからせめてあの総体の一部となる前に、私の存在していた証とも言える知識を置いて、去ろうと考えていたのだ。この光(知)を偶然拾い、引き継いだ者が、この領域にいち早く順応できればと考えてな』


 石仮面の眼が光り、そこから種火が出現した。

 その種火は淡い光の玉へと変じ、ふわふわと俺の元に飛んでくる。


『受け取ってくれ。それは私の記憶、魂の記録だ。知識や技術。錬金術に関する私の知る限りの情報を残している。──そしてこの領域についても、多少の理解は得られよう』


 俺がそれを手にすると、光の玉は暖かな光を残して溶け、俺の光体と一つになった。

 膨大な情報の波、思考の痕跡が俺の無意識領域に入り込み、記憶領域に接続された。


「感謝する、レァミトゥスよ。あなたが望む結果に至れるよう祈ろう」

『ふふ……祈りなどこの領域では無意味よ。ここは言わば概念も形象も、すべてを有とも無ともしてしまう。望むべきものがあるのなら、自らの手を伸ばし挑まなければ、なにも得られぬ場所なのだ』

「それは物質界でも同じだと思うが」

『物質界では運命が働く。運とはある意味では無意識の導きであるのだ。すべてではないにしても、お前がなんの期待もせずに、それを手にしてしまう──という事があるようにな』


 俺が魔導への道を志したのも、そういえば様々な物事の成り行きから、自然とそこへと導かれたようにも思う。

 不思議だが、自分の意思の変遷へんせんなど、物心がつくのと同じようなもので、はっきりと自覚的に自らの意志で形作られたものではないものばかりだ。──魔術師となる前は特に。


 まるで魂に、そうなるよう予め決められていたかのように、偶然という形を装って自身の前に現れ、こちらの興味を引いていく。

 無意識の領域には、明らかに個人的な意識を超えた「自然現象(心理的現象)」が存在する。


 上位世界の理。それは下位世界のそれとは違い、偶然性やらなんらかの導きなどという、運が介在するものではないという事なのだろう。

 個の霊的な力。存在そのものの力が、外部のいかなる力とも調和せず、融和せず、並び立つものもなければ、干渉する事もない。そのような世界なのだ。

 もし接触すれば、それはたいていの場合戦いと同じような結果になる。強大なものが他を取り込み、小さなものは取り込まれて強大なものの一部になる。そのような世界なのだ。


 完全に独立した存在による、個我の絶対的な在り様。

 下位世界と繋がりを持つ概念が形になるような事もあり得る領域。それがこの領域の特異な力。無限にも思える具現の力を下位世界が借り受ける。それが魔術や召喚でおこなうものの正体の一つ。

 この高次元の純粋概念はいったいどのようなものなのか、それは魔導師にも想像する事すらできない。

 そこに(下位世界の)個我をもって存在するというのはそもそも不調和であり、矛盾している。


「この領域に、真理(神)などというものがあるのだろうか」

『それを確かめる為にも、あの光と闇の中に行かなければならぬ』



 俺と錬金術師であった者の対話はそこで止まった。

 魂だけとなった存在にとって、残すものは知識や技術だけだった。

 名誉や財産などを捨て去って、彼はここに居るのだ。

 命も、体も、家族も、人間として在る事すらも捨て、彼が目指したもの。

 彼の望みは真理を会得するという、ただその一点にのみあった。


『それではさらばだ、レギスヴァーティ。新たな世界に旅立つ前に、お前に会えて良かった』


 そう言い残すと、光を放つ水晶の構造物がぐるりと背を向け、頭から背中側に伸びた革帯ベルトのごときひだを揺らしながら、どんどん俺から遠ざかって行く。

 俺はその背中をずっと、見えなくなるまで見送っていた。

 あの遠い、光と闇が交わる混沌に行き着く前に、その姿は見えなくなっていた。




 光体を通して俺の記憶に結び付いたものを確認する。

 彼から受け取ったものはかなり膨大な量で、錬金術や星界虚空などの知識が範疇カテゴリーごとに分けて保存されていた。

 その情報を読み取っていた時、レァミトゥスの進んで行ったのとは違う場所で異変が起きた。


 彼の背を見送っていた方向より離れた位置で、紫色にほとばしる光の柱が伸びたのだ。

 それは闇の中から噴き上がる火柱のごとく、大きな火柱の槍となって伸びていた。

 かなり離れた場所で起こったそれは、相当に巨大な光の柱だったはずだ。

 暗闇の中から迸った紫色の火柱に似た物が消えると、その突出した先にあった白い光の固まりが消滅していた。

 あれは闇からの攻撃だったのだろうか?


 やはりこの領域は危険に満ちているようだ。

 あんなものに巻き込まれたら一溜まりもない。

 姿を隠しつつ、いつでも防御できるよう準備しているが、あれだけの巨大な攻撃を防げるとはとても思えない。


「レァミトゥスの残してくれた知識を応用すれば、この領域での力を強められそうだ」

 これでやっと、俺の中にある魔神などの力を安全に取り込む事も可能になるだろう。

 光体の強化成長の為に、この領域に存在する力あるものを倒しつつ、力を取り込んでいくのだ。

 それも俺が、物質界に意識を残している状態で、光体が自動的に「勝てる相手を選別して」戦い、危険な相手からは隠れて離れるように設定し、自動的に活動するようにする。


「神は神の領域にてき、神の意思は下界に力を顕現する」


 ならばその逆もしかり、という訳だ。

 地上に生きる俺の意思が、上位世界の領域にある力を活かす事もできるのだ。


「俺はこの領域でもさらに力をつけ、レァミトゥスも手に入れられなかった力を手にしよう。そして──」

 そしてあわよくば、彼の望んだ真理にも手を伸ばそう。そこに神の力があるのなら、その獲得が俺の存在を強化するはずだ。



「叡智のみぎわに光あれ。探究者の魂に光の導きあれ」



 名も知らぬ魔導師の言葉を俺は述懐していた。

最後の「叡智の汀~」については次話でその意味を解説。

かなりややこしいです。

レァミトゥスの「自己中心主義」についても次話で触れます。

魔術師にしろ錬金術師にしろ、探究者は本質的に貪欲で傲慢なものです。

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