表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十五章 死霊の王と魔剣の再生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

268/298

冬籠りと年明け

 前金を弾んだ事でディノアはやる気を出したようだった。

 まずはブラモンドに張られている結界や魔術的防衛に関して、俺と彼女は議論を始めた。

 建設的な意見を交換し、どの術式と型式を組み合わせ、触媒をなににしてどこに配置するかなど、互いの意見を交換し、最終的には実際に術を組むディノアに一任する形でまとまった。


 そこで少々雑談をした時に、彼女がなぜ西の果てにまで来る事を選んだのか、本当のところを話してくれた。


「実家に帰ってみたら、親父が新しい母親だとかいう女を紹介してきたの。それがなんとレファルタ教の信者よ! ふざけんな! って思ったわ。

 まあどのみち実家に戻ったのは一時的な保養のつもりだったから、もうあんな家に帰るつもりもないけどね」


 どうもその新しい母親というのが熱狂的なレファルタ教信者だったらしく、ディノアは発狂するかというくらいの信仰心を見せつけられ、危うく呪詛をその女に吐き出してやろうかと思ったほどだったとか。


「やらなかったけどね。……奴らは護符のような首飾りを付けて魔術的な防御をするから。まあ、わたしの力をもってすれば、奴らの護符なんか意味がないけど」

「やらなくて正解だよ……」

 迂闊な対応をすれば、奴らは数で押し寄せてくる可能性もある。狂った群衆というのは、いつも群れだって行動する事で自分を正当化しようとするものだ。


 人を呪うような呪術は封印するつもりで生活しろと説き、エブラハ領に骨を埋めるつもりで働けと言い含めておいた。


「ぇえ──? ……まあ、ほかに行く当てもないけれど。けどあなたはエブラハ領を出て行くんでしょ」

「まあ冬の間はエブラハ領内に居るさ。魔術師の導入や、戦士ギルドとの話し合いも続ける必要がありそうだからな」

 そんな話をして、まずはディノアと共に各地を回る護衛の手配をしようと、ブラモンドにある領地守護兵士の兵舎に出向いた。

 領地を守る役目を負った兵士は領主との契約関係で成り立つ兵士であり、国家の軍隊のそれとは異なる──言わば私兵である。


 兵舎に勤める兵士たちは俺が顔を出すと敬礼してくれた。どうやら領主の息子だという事以上に、スキアスから領地を解放した人物として周知されている様子だ。


「今後数ヶ月、新しく雇い入れた魔術師の護衛をして、各地を巡り歩く案内役が欲しいんだ。かなりの時間を拘束され、難しい任務だと思うが、誰か居ないだろうか」

 もちろん給金はそれなりのものを出す、という言葉を付けてなんとか護衛役を買って出る者を探そうとしたが、この場に居る数名だけでも三名の兵士が名乗りをあげてくれた。

 これはもっと兵士の正確な情報を確認してから選別すべきだと考え、とりあえず名乗り出た者の名前を紙に記し、領地内に詳しく、責任感のある兵士を見つけ出すよう指示を出すと、数日後には護衛候補がそろうだろうという言葉を聞いて、俺はディノアを宿屋に送り、別邸に帰った。



 * * * * *



 俺はこのあとで様々な領内の仕事の手伝いをする事になった。

 二日後にはブラモンドにエンリエナがやって来て、ウイスウォルグ送ったディノアとの契約書が入れ違いになってしまい、慌てて雪の積もり始めた中を早馬を飛ばしてブラモンドに戻らせた。

 エンリエナと領地管轄魔術師に関する話をじっくりとして、前任者の弟子は改めて馘首かくしゅとし、後任にディノアを就けた。


 兵士の中から技能的にも知性的にも優れた二人の兵士を抜擢ばってきし、ディノアの護衛としてすぐに各地を回って、人の生活範囲を守る魔術の行使を認めた。

 ディノアはエンリエナから直々に仕事を依頼された。どうやらディノアとエンリエナは相性がいいらしく、新たに任命された女魔術師は喜んで旅立って行ったのだった。


 他にも数名の魔術師を雇い入れる事も決め、戦士ギルドの仲介をしていると、ピアネスの中央政府から書簡が届き、国家魔法師を各領地配属させる、といった通達があった。

 どうやら国家の支配力を強めると同時に、外国勢力からの魔法や魔術に対する弾圧を警戒しての事らしく、そうした内容がアゼルゼストから送られてきた手紙に書かれていた。


 最近の政府は、レファルタ教を中心とする外国から流入する宗教思想に警戒するようになってきたらしい。

 というのも一部の貴族からレファルタ教に対する高額な献金があったというので、これはよろしくないとどこかの貴族が大臣に提言し、国王を動かす事に成功したようだ。

 これ以上貴族間にレファルタ教の思想が広まるのを危険視した一部の貴族が結束し、各地に広まりつつある民間的な間での思想の広まりに対しても、大きな危惧を抱いて居るので、近々新たな布令ふれが出されそうだという事も手紙に書いてあった。


 アゼルゼストはかなり根回しして今回の事を成し遂げたようだ。──アゼルが動いたとは一言も書かれていなかったが、あえて手紙に書かなかった部分がそれを感じさせた。


 国家魔法師の育成や、各地にそうした魔法師を配置するのも、今後の外部からくる危険思想を食い止める為の措置を兼ねているのは明白だった。

 そして魔物の出現に対抗する兵士も各地に手配し、軍所属の正規兵もエブラハ領に常設される事になった。



 * * * * *



 他にも様々な変化がエブラハ領に起こったが、その間も雪が降り続け、俺はすっかりブラモンドに閉じ込められてしまったのだ。

 冬の間にできる仕事を任された俺は街の為に、エブラハ領の為に働き、氷星末(❇注1)も終わりを迎えたのだった。


 冬籠りの時期に入り、初月冠(一月)を迎えるまで、俺はエンリエナの手伝いや、自分の成長の為に活動した。


 新しい年の始まりを迎え、雪の積もる中を歩き、人々は互いに挨拶を交わして新年の祝いをする。

 幸いにも雪は降らず風も吹かず、晴天の年初めを迎え、小さな祭りが執りおこなわれた。

 祭りと言っても、市民がそれぞれの家庭で使っているテーブルを持ち寄り、酒盛りをするだけの小さなものだ。

 辺境の新年の祝いにしては、今日の内容はかなり良いものだったようで、彼らはエブラハ領の明るい未来を願って何度も乾杯していた。


 と言うのも領主が代わり、悪政を敷いていた領主が権力の座より追放され、善政をたっとぶ者が領主となった為だ。──乾杯の音頭の前にそんな演説をする男の話を聞き、市民はそうだそうだと声を上げていた。

 男の素性は知らないが、街の男たちからかなりの信任を受けているようだった。

 五十代くらいの男が乾杯と言って酒杯を掲げると、大勢の男女が声を上げて応じ酒杯をあおった。


「彼は元冒険者で、街の自警団の団長であり、エブラハ領の防衛の要とも言える人物だよ」

 と、のちにクーゼから教えてもらった。

 以前に自警団の団長をしていた男は、年齢を理由に第一線から退き、各地にある自警団と接触して、それぞれの場所にある自警団の団員を纏める活動をして、領内全域を巡回するように働きかけたらしい。

 そのお陰で流動的に人員を回しつつ、街道の安全も町や村の安全も守れるようにしたのだ。


「なかなか使える奴のようだな」

「実際かなり堅実で、頼れる人物だよ。少なくとも領地の防衛に関しては彼に任せておけば大丈夫さ」

 などとクーゼもその男を信頼しているようで、エブラハ領防衛組織の首長として取り立てるつもりらしい。


 新たに防衛組織を設立する理由は、魔物の侵略もそうだが、ベグレザとの関係性も保つ為に、戦力としてのはっきりとした規模を用意したいからだと言う。

 なにより中央政府から兵士が送られて来て、魔法師なども同時に管理せざるを得なくなるのだ。どちらにしてもより大きな集団を形作らなければならなかったのだ。


 エンリエナもブラモンドで新年を祝い。俺はクーゼの邸宅に招かれて、アルマや料理人の用意した料理を食べ、酒を飲み、彼らとの会話に花を咲かせた。

 そんな日常を、ありふれた、代わり映えのない日常を感じたのは久し振りの事だった。


 そうした酒の席でクーゼは、話の途中で聞きそびれていたと、北西にある荒れ地の「遺跡の跡」について説明を求めてきた。

「ああ、そうだったな。まだ話していなかったか。──確かに遺跡らしい物はあったぞ。調査隊が見つけ出した物と同じかどうかは怪しいが、俺が見つけたのは広場を形作る列柱で、その石の柱には文字が刻まれていたよ。

 だがそこには二種類の文字があるようだったな。いろいろ調べてみたが、たぶん荒れ地の奥地には鉱山がある──かもしれない」

「なんだそれ、その石柱に書かれていたのか?」

「それは秘密だよ」

 肝心な部分は誤魔化して説明し、あの辺りは危険なものを感じるから、気軽に開発に出たりしないようにと警告しておいた。


「わかってるよ。ただ将来的にいつかはあの荒れ地にも、開拓の手を伸ばす事になるだろうね」

 それはまだまだ先の事になるだろう。

 交易路が順調に機能し、多くの人が流入するようになって初めて、そうした問題に取り組むだけの人員や財力を得られるのだから。


 新年を祝いに多くの商人がクーゼの邸宅に集まって来た。俺は彼らとそこそこ言葉を交わしてから別邸に戻った。

 別邸にも多くの人がやって来ていたが、商人たちの集いに比べれば大した事はなく、貴族の親類と顔合わせして、少々気を遣ったくらいで済んだ。



 * * * * *



 その後の数日も平穏な日々が続いた。

 新年から五日が経つと、朝から吹雪いてきた。

 夜には嵐のような風の勢いはなくなっていたが、場合によっては建物に被害が出ていても不思議ではないほどの風と雪が吹きつけていた。


 そんな時は魔術の門を開いたり、時には神霊領域に入って作業をした。魔導人形に使う魔力結晶が用意できたので、それを組み込んで魔導人形を完成させた。


 まずは自動で活動できるだけの仮初かりそめの意識を作成し、その設計どおりの行動をできるかどうか確認する。

 単純な意識の移し替えをしてみて、物質界から意識だけを乗り移らせる事ができるようにも設計できた。


 魔導人形は俺が影の倉庫から神霊領域に送った物を、魔法陣の上から小屋や石テーブル、石床などに運んだり、畑や花壇を作ればその手入れをするようにした。

 設計どおりの行動を取れるか確認すると、くわを手にして草の生えていない地面を耕し始めた。


「よし。こんなもんか」

 魔導人形が耕している空白地帯の周辺に石を並べていき、簡易的な花壇を作った。そこに薬草や香草などを育てるよう種を用意しておく。


 神霊領域は魔導人形に任せ、俺は現世に戻り睡眠を取る事にした。



 そして俺はこの冬籠りの中で一番の、奇妙な出来事に遭遇するのだった。

❇注1=現実世界の十二月に相当する月。この世界で使われている暦の一つで、十個の星の名を冠した月がある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ