魔女の房中術
冒険と○ックス。古い時代では割とおおっぴらに行われていた事らしい。今みたいに携帯ゲームがある訳じゃないですからね(笑)
俺たちは寝台の上で互いの体を貪り合った。
魔女は自ら足の間に俺を招き入れると、爪先立ちになって自分から快楽を求め出す。
二人の中に繋がりができているのを感じる。──それは魔力の繋がりと、生命の同調だ。
互いの中を流動する魔力と気の循環が起こる。それは強い快楽を呼び起こし、体中を駆け巡りながら徐々に、魔力を増大させているみたいだった。
その行為の中で、魔女シェルアレイから魔女の房中術に関する知識や、技術を与えられた。
それは奇妙な感覚だ。
自分の中に昔から、その技術を使っていたみたいに感じるほど──それは自分の一部として、馴染みのあるものとして感じられたのだ。
俺の中に魔女の房中術が定着したらしい。
「さあ、それを使って、今度は私の中から『新月光の刃』を複写しなさい。ただ、狙って相手の持つ技術を複写させるのは難しいかもしれない。だから今回は私が『新月光の刃』まで導いてあげるわ」
俺は彼女に覆い被さりながら「無作為に相手の能力を複写する事しかできないという訳か?」と尋ねる。
魔女は身体の奥を突き上げられて、背中を大きく仰け反らせる。
「そっ、そうよ……あなたが房中術を完全に、制御できるようになるには──んっ、それなりの、時間が……んんっ、掛かるはず──何事も、訓練あるのみよ──ぁあっ」
魔女の細いくびれた腰を抱き抱えると、激しく彼女を責め立てる動きを開始する。
房中術を使って、これからは様々な女から、新しい力を手に入れられると考えると──興奮してきた。
こんな安易な方法で、魔法や能力を自分の物にできるようになるなんて──画期的だ。いや、革新的だ。
俺は目の前の白い肌の魔女を強く、激しく責め立てながら、彼女を使って得られる快楽を求め、さらに新しい魔法を獲得する為に奮闘した。
新月光の刃を俺の中に複写した後も、彼女との行為は続いた──。彼女の許しを得て、他の魔法もいくつか複写する事になったが、何を得られるかは選べないのは変わらなかった。房中術の研究を重ねないと、相手が持っている能力の把握や、複写する能力の選択などはできないだろう。
寝台の上で横になっていると、建物の屋根に雨粒が落ちる音が微かに響いてきた。それは、ざ──っと音を立てて木の葉に雨を打ち付け、森全体に大きな音を響き渡らせた。
「食事と……お風呂の用意をしてくるわ」
シェルアレイはそう言って寝室を出て行く。
それにしても便利な術を手に入れられたものだ。魔眼も便利なものだが、この房中術という技術は、さらに新たな技術や魔法を、自分の物とできる可能性があるのだ。
しかも魔力を回復する手段としても使えるのである。
「最高じゃないか」
ディナカペラから得た「病害無力化」能力がある為、性病などの心配もしなくていい。
こうなったら魔法を持っている奴は、片っ端から交接して魔法を複製するべきか──相手が男でも? ……俺にその気はないのだが。
しかし、魔導の奥義に精通する為には、そういった趣味趣向すら変化させなければならないのだ。好き嫌いで物事を選り好みする者には、魔導の道の先に先にあるのは──行き止まりが待つだけだ。
忌避の感情など、一番はじめに捨てておくべき事だとも言われている。
魔導とは──個人を捨てた先にある、強大な力を手に入れる事を目指す者たちの道。真理への探求者が追い求める──究極の終着点へと至る道。
神への道なのである。
まあ、そこらの宗教家が聞いたら、憤激して襲い掛かって来るかもしれんがな。
しかし、一部の宗教は女と同衾するのは忌避する半面、男色傾向が強くなっているという噂だ。
「奴らの方が、よほど魔導向きなのかもしれんな」
いやいや、奴ら宗教家の「敬虔」さには頭が下がる。
誰が言い出したかも分からぬ、普遍的価値とは程遠い──宗教理念とやらに縋るその姿は、「思考を放棄した奴隷そのもの」だ。
「家畜よりも劣る生き物だな」
俺は相手が男であろうと、悪魔であろうと、そうする事で自らの理想に近付けるというのなら、躊躇わずに抱く事ができる。
例え自分がそれを望まぬとしても、その望まぬ事以上の成果が得られるなら、何を躊躇う必要がある? 誰が決めたかも分からぬ宗教理念を引っ張り出してしか、物事の正しさを決定できぬ連中など、生ける屍も同然。
俺は個人的な感情も取っ払って、自らの目指す目的を最優先にすると決めている。誰が望まなくとも、この俺自身がそれを望む限り、その決まりが最も重要なのだ。
もしその事で誰かと、あるいは何かと争う事になれば、力で捩じ伏せるか、力でかなわぬなら一時撤退し、戦略的に振る舞うまで。
力を付け、太刀打ちできるまでは隠れていれば良い。
逃げる事が卑怯だの、恥ずかしいだの考える奴は、物事の道理が分からん獣以下の愚か者というだけだ。
戦力差がはっきりとしているのなら、正面から戦う必要などない。それだけの事。
何かを捨てなければ何かを得られない、そういった状況になれば、その都度。自分の頭で考えて、捨てるものの価値と、得られるものの価値を考えて結論を出せばいい。
捨てるに見合わぬものなら、無理をして得る必要もないだろう。
一つ一つの状況は同じではない。
状況に合った対応。それが未来に及ぼす影響などを考慮して、決定する以外にはないのである。
自尊心や誇りを持つのも良いだろう。
しかし、それらの為に自らが目標とするものを諦めるのか? だとしたら、それは、大した価値を持っていなかっただけの事。
何が何でもそれを求めるだけの意志があるならば、最も大切だというものですら、切り捨てる覚悟を持たなければ。
およそ深遠なる魔導の奥義に触れようとする者は、その魂の根幹をしっかりと保持していなければ、到底その深奥に辿り着く事はできないだろう。
誰がそれに手を貸してくれるというのか、その道の先は孤独なもの。
最後はたった一人で、その険しき道の先を歩み続ける覚悟がなければ、自らの弱さに飲み込まれ滅ぶだけだ。
寝台の上で、思わずそんな小難しい事を考えてしまう。性交の後の気だるさが、そうさせるのだろうか? まあどうでもいいか……
その後は魔女シェルアレイと共に風呂に入り(木製のしっかりとした湯船が作られていた)、簡単な昼食をご馳走になった。
宿屋で手配してもらった包みを開け、二人でそれを分ける。
その間もずっと、雨が屋根を打つ音が響いていたが、兎肉の汁物や、茹でて膨らませてから焼いたパン(ベーグル)などを食べ終える頃には、すっかり雨音は止み、窓から日の光が射し込んできたのである。
シェルアレイから得た魔法は「新月光の刃」の他にも、「暗視」や「岩砕破」というものも手に入れる事ができた。
「岩砕破」は岩場や地面を伝って、岩盤や岩を砕いて撃ち出す魔法であるらしい。地形によっては有効な攻撃方法になりそうだ。
魔女からドナッサングの場所を詳しく聞き、森を抜ける近道を見分ける方法を教えて貰うと、魔女の家を後にする。
「色々と世話になった」
「いいえ、こちらこそ。いつでも遊びに来ていいのよ」
彼女はそう言って、日持ちする「魔女のパン」(薬草などが入った固いパン)を布に包んで渡してくれ、別れる事になった。
彼女の家から外に出ると、雨上がりの森の匂いは一層強くなり、ぬかるんだ地面と、踏み固められ滑りやすくなった道を歩いて戻る。
集落の出口に向かうと、二本の木の精霊が居る場所の近くに、少女の魔女エンビーアも立っていた。
「あ、さっきの……名前はなんだっけ?」
少女が尋ねるので、「レギ」とだけ答えておいた。
「レギ……あなたは魔女王ディナカペラの何なの?」
「……似たような境遇にいる者、という関係かな」
俺の言葉に少女は眉を顰る。
「それだけ?」
俺は肩を竦める。
「そうだが。その所為で、彼女の手助けをしたのさ。それで彼女の協力を得る事になった訳だ」
この少女も魔女なら、俺にはない魔法も持っているのだろう。──ふと、そんな事を考えた。
なんだったらこの少女と、どこかでしっぽりと過ごすのも悪くない。そうして新たな力を吸収していく……そう考えると股間が──ではなくて、新たな力への欲求が膨らむのを感じる。
この新たな技術を得た事で、新しい感覚も宿したようだ。その欲求は、技術や魔法を吸収して、さらに生物として強くなろうとする、根源的な活力を持って立ち現れてきた。
そういえば、この集落には建物の数が四、五軒あるようだった。他に住んでいる者は居ないのかと尋ねると、少女は答えた。
「居るよ。けど、今は森の外に出ているの。山にある洞窟でおこなわれている、魔女の集いに参加して来るって言ってた。──あとは、古い魔女が居たらしいけど、私が来る少し前に死んじゃったって」
エンビーアの言葉に木の精霊が『彼女は土に還ったのだ』と訂正する。精霊にとっては、人の魂や精神などよりも、有機的な肉体と生命の循環の方が重要なのかもしれない。
「そうか。それでは次の機会があったら、別の魔女も紹介して貰おうか。それではまた、縁があればまた会おう」
俺は少女と二本の木の精霊と別れて、森の中に入って行く。
雨の後の森の中はジメジメとした空気に満ち、ぬかるんだ足下が滑りやすく、しっかりとした足場を探しながら、魔女から教わったドナッサングの街へ向かう道(魔女には分かる目印が所々に設置されている)を辿り、森を抜ける。
時間は掛かったが、森の外へ出る事ができた。
森の先に広がる草原。その先に黄土色の筋が見える。
どうやらそこに街道があるようだ。
シェルアレイから教わった通りならば、その街道を道なりに進んで行けば、一時(二時間)くらいでドナッサングの街に着くだろう。
地面は雨でまだ濡れているが、空は晴れ、雨を降らせた雲はどこかへ行ってしまった。
今度こそ、何事もなく街へ辿り着けばいいのだが。
ケアーファードの風は湿気を流し去り、涼しい空気へと替えてくれた。
旅の疲れと、房中術を駆使した交合の疲れを拭い去る心地良い風を浴びて、俺は次の目的地まで歩き始めたのである。




