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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十五章 死霊の王と魔剣の再生

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神霊領域を使っての旅

「魔剣の代わりになる武器は……」

 俺は影の倉庫から大曲刀を取り出そうかと考えたが、鋼の長剣を取り出しそれを腰から下げた。

 いくつか予備の武器が影の中に入っているが、死王の魔剣に並ぶ武器は無い。

 刃が白銀色に変化した魔剣は、また新たな力を発揮するかと思われたが、強力なシグンの攻撃や死霊の王との戦いをくぐり抜け、かなり傷んでしまった。


「こんな戦場に送り込まれて、帰りは自分の足で帰れと?」

 俺は三つ首の魔犬に恨み言を吐きつつ、北に向かって歩き出す。

 魔力を回復する薬を限界まで飲み、徐々に魔力が回復するのを待って、転移魔法で移動する事も考える。

 一番近くにある町まで歩いて行っても、今日中には辿り着けない距離だった。

 尊敬すべき戦士を失った喪失感を胸に、俺は荒廃した地を歩き続けた。


 日は傾いており、すでに空の一部が夕焼けに染まっていた。蒼天と緋色の交わりが生まれ、雲の一部が赤紫色に染め上げられている。

 それは自然の色ではなく、もしかするとこの場にある魔素や瘴気しょうきが、そのように見えるようにしているのかもしれない。

 俺は濁った荒れ地の空気から離れた場所まで歩くと、そこで移動するのを止めた。疲れたからというよりは、この場で野営し、魔力を回復する儀式魔術などを併用して、転移するだけの魔力を溜めようと考えたからだ。


 転移して町へ戻ろうというのではなく、神霊領域への次元転移をおこなう為だ。

(あとちょっと魔力に余裕が必要だな)

 神霊領域に行けば時間の流れは緩やかになり、しかも短時間で魔力を回復させる事ができる。


 まずは岩陰に結界を張り、地面に単純な円を描いて、そこに儀式魔術の呪文を書いていく。棒で地面を削り、上空に月が浮かぶのを待つ。

 月の力を借りて魔力を充填する魔法陣。

 月の魔力を地の力(気脈)に影響させ、肉体を通して魔力を充填させる秘術。

 魔法陣を書き終え、その円の中に横たわると、今日一日に起きた出来事について思いを巡らせる。



 ──過酷な一日だった。



 エブラハ領での荒れ地の探索調査から、まさか不死者の群れを相手にする事になるとは思わなかった。

 あれだけの数を相手にして生き残れるとは、我ながら驚く。もちろんシグンの力があったのも大きいが。

 そしてそのシグンが敵の魔手に堕ち、俺と殺し合う事になろうとは。


 尊敬すべき戦士であり、戦う技術を教えてくれた「師」とも呼べる人物を、俺は殺さなければならなかった。

 彼の心臓を貫く前の、一瞬の躊躇ためらい。

 長いようで短かったその一瞬の間に、俺の中には複雑な想いと感情が渦巻き、遠い──無意識の闇の中から響く、神への呪いの言葉を聞いた気がした。



(奴らを赦すな)



 そんな言葉を。


 死霊の王を蘇らせたのが魔術師であれなんであれ、その淵源はすべて神に由来する。──その声なき声はそう言っているようだった。()()()()()()()()()()()()()()だと。


 その声の主もまたシグンと同様に、もうこの世には存在しない。

 にもかかわらず「彼」の声は、まだ俺の中で息づいているような気がしてならないのだ……



 疲労もあって魔法陣の中で横になっていた俺は、気づくとしばし眠っていたようだ。

 上空の夜空を淡い月光で照らし出す青白い月。

 ある程度の魔力を取り戻した俺は、次元転移魔法を使って神霊領域に移動した。

 同時に地面に描いた魔法陣を消し去り、横になったままふわりと体が宙に浮き、寒さから解放されたのだ。


 神霊領域は昼間の明るさで俺を迎え、いくつもある魔力の器に魔力を充填し始める。

 この神の大地に満ちた力が失われた力を回復させてくれる。

 中央にある台座に近づき、結晶を使った神霊領域の制御コントロールを使って、物質界との連結部分を移動──次元転移の出口を移動──できるかやってみた。


 するとゆっくりとだが、物質界の上空(上空という言い方はそぐわないが、分かりやすい言葉を使うとそうなる)を移動する事ができると分かった。

「お、──それならちょっと寄り道してみるか」

 転移魔法の刻印を刻んだ場所を目標にして、ある地点に行くよう設定する。

「寝てる間に着いているだろう」

 俺は石と木で作られた小屋に近づくと、室内に置かれた長椅子ソファに横たわり、毛布を体にかけて目を閉じた。



 * * * * *



 この領域は霊的次元にも近く、その所為せいか眠りにくと奇妙な夢を見た。


 焚き火を中心に見知らぬ冒険者が集まっている。周辺は暗く、彼らは地べたに座り込んでいた。数人の男女がなにも語らず、火を囲んでいる。

 よく見るとその男たちの中にはシグンの姿もあった。

 彼らの顔はだいだい色の火に照らし出され、一様に暗い顔をして焚き火の炎をじっと見つめている。その場には沈黙と、焚き火の薪がぜる音だけが聞こえていた。

 俺は彼らに声をかける事も、彼らの輪に加わる事もせず、離れた場所からただじっと、彼らの様子を目に焼きつけていた。



 * * * * *



 目覚めたあとで、夢の意味が朧気おぼろげに理解できた。


 焚き火を囲む冒険者たちは、不死者との戦いで死んだ者たちだったのだ。

 俺は彼らとの別れを夢の中でしたのだろうか?


 寝台ベッド代わりの長椅子から起き上がると、魔力がかなり回復したのを知り、幽世かくりよの狭間を移動する神霊領域がどの辺りまで来たかを把握し、まだ移動を続ける必要があるのを理解すると、畑をたがやす事にした。

 軟らかい地面を掘り起こし、なにか種を蒔こうかと考えたが止めておいた。

 まだ魔導人形を準備できていない。こちらでの作業をおこなう管理者を配置できたら、畑に種を蒔こう。そう考えて俺はくわを置いた。


「おっと、そうだ」

 疲れて忘れていた。死霊の王から獲得した魔晶石があるのを。

 小屋に置いた物入れ(ポーチ)から魔晶石を取り出すと、解析魔法に掛けて調べる。

「……おお、これは凄いな」

 容量の大きな魔晶石だが、中に残された力はそれほどでもなさそうだ。

 魔晶石を純化し、魔力結晶に変えられれば、かなり大きな結晶になるだろう。


 以前は魔神の配下から得た魔晶石を純化し、魔力の器として自分の魔力体の一部にしたが、高度な錬金の技術を獲得した俺なら、魔力結晶への構造変換が可能なはずだ。

「魔力結晶に錬成し、それに魔力を充填しなければならないか」

 それもここ神霊領域ならあっと言う間にできる。

 物質界でなら、満月の晩に魔法陣などを用意して魔力を集めなければならないが、この領域なら自然と魔力は集積される。



 俺はさっそくその作業に取りかかった。

 錬金術の一部の作業工程を扱う為の魔法陣を平らな石の上に描き、そこで錬成の準備をする。魔晶石から力や知識を引き出し、自らの霊体に接続するのも簡単な事ではないし、場合によっては危険もある。


 今回は二つの力に関する知識を得たが、その一つは人間の身体では使用不可能なものだった。

 霊的な存在としてなら使用できそうだが、物質界で使うなら、受肉した光体アウゴエイデスとしてでないと扱えないだろう。


 もう一方は死霊術に関するもので、大量の死霊を蘇らせて使役する力に関するものだった。

 あの大群の不死者を喚び出したり、強化する業を引き継いだのを知って、まるで自分が死霊の王になった気がした。──しかし、奴がシグンを幽鬼へと変えた青い短槍の力は残っていなかった。あの個体特有のものだったのだろうか。


 俺は嘆息し、ひとまず魔晶石を魔力結晶に変換する作業に入った。

 魔法陣の中央に魔晶石を置き、結晶体の中にある魔力を保持しながらその性質を純化させ、魔力に強く適応する結晶体へと造り変える。

 神霊領域での作業は実に安定しておこなえた。

 魔法陣の中で魔晶石はその性質と色を変え、透明な巴旦杏アーモンド型の大きな結晶体に変化した。


「おお……! これに魔力を溜めれば、かなりの魔力結晶になるに違いない」

 その作業を終えると今度は、魔力を集中させる魔法陣を小さな石の上に描き、その真ん中にできたばかりの魔力結晶を乗せ、魔力が溜まるまで待つ事にした。


 次に金の指輪を解析してみると、なにやら怪しげな呪いが掛かっている事が分かった。

 周囲にある魔素や瘴気を魔力に変えて取り込む力があるが、人間がこれを身につけると、人体も魔力体も魔素の影響を強く受け、正気を失った挙げ句、魔物に変貌するのだ。


 この危険な呪いの指輪を封印する小さな木箱を削り、指輪をしまって蓋をする頃には、神霊領域は目的の場所にやって来ていた。

 俺自身の魔力もかなり回復しており、余裕を持って魔法を使用可能な状態にまで持ち直した。

 俺は鋼の長剣を腰に差し、物入れなどを装着すると、次元転移を使って物質界へ戻った。



 そこはだいぶ前に来て、岩に刻印を刻みつけた場所。

 ブルボルヒナ山の南側に位置し、人が誰も入り込まない「禁忌の地」と呼ばれる場所だ。

 シン国の北に位置し、人が踏み入る事のない土地。

 闇夜を彷徨さまよう魔神オグマギゲイアに遭遇した場所にも近い、大きな川のほとりにある大岩のそばに降り立った。

 この川で上位の水の精霊から魔法を授かり、河原では多くの宝石や水晶を拾ったのだ。


 俺は再びこの場所で宝石の原石を拾い集めようと考えていた。

 正直に言うと、頼もしい得物であった魔剣を失い、さらには剣技を教わった友であり、師とも言えるシグンを手にかけたという二つの傷と、向き合う時間が欲しかったのだ。

 もしかするとそんな傷は大した問題ではないのかもしれない。俺の魔導への傾倒を考えれば、そうした感傷など、意味のない自己憐憫(れんびん)でしかないとも言えた。


 だがあえて俺は、シグンの件については存分に後悔しようと考えていた。もしかすると救えたかもしれないと、ああすればよかったとか、そういった事を考えるのではなく、今後の糧になるような思考的取り組みをしながら、亡くした友の冥福を祈る時間が欲しかったのだ。


 自分の足でごつごつした河原を歩き、下を向いて宝石の原石を探していたが、やがてその行為に飽きると、影の檻から影鼠の霊獣と、水精蜥蜴(とかげ)霊獣を喚び出し、宝石や水晶などを探させる事にした。

 影鼠は数匹がちょろちょろと石の転がる河原を歩いて行き、宝石の原石を見つけると、それを影の倉庫に収めて行く。

 水精蜥蜴は川の中に入って行き、川底に沈む原石を飲み込んで、陸地に上がって来ると飲み込んだ物を吐き出して、それを影の倉庫に送り込んだ。


 俺は大岩に寄りかかり、日の光を浴びながら物思いにふけった。

 感傷的な気分に浸りながらも、さてこれからどうするかと、今後について考えようとした時、足下に寄って来た影鼠や水精蜥蜴に気がついた。

 どうやら探せる範囲はあらかた探し尽くしてしまったようだ。

 俺は彼らを影の檻に戻すと、入手した大量の原石を確認し、まとめて神霊領域へと転送した。


(かなりの数が手に入ったな)


 彼らが運べない大きな原石は俺が直接影の倉庫に取り込み、神霊領域に転送しておく。

 別の場所に行けば、さらに多くの原石が手に入るだろう。俺はそう考えると下流に向かって行き、その途中で再び影鼠と水精蜥蜴を喚び出した。


 そうしてとぼとぼと河原を歩き続け、魔剣について考えていると、この欠けた刃を修復できる存在に思い当たった。

「そうだ、魔神アウスバージス。あの魔神の配下ならあるいは」

 以前も次元の壁を切り裂く魔法の短刀を鍛え直してもらった。ならば魔剣の刃を修復する事もできるのではないだろうか?


 アウスバージスからもらった力の宝珠には、あの魔神の領域へと繋がる鍵の役割もあるのだ。

 あの領域に居る魔神と戦いたければいつでも来い。そんな風に言われてはいたが、こんな理由で訪ねても大丈夫だろうか。

 なによりも、危険な上位存在の巣窟そうくつには違いない。

 慎重に行動すべきだったが、一縷いちるの望みをかけて魔神の領域への転移を考えた。宝珠の力を利用して、魔神の領域に転移するのは可能だろう。


「……行くか」

 解放していた霊獣たちを喚び戻すと、それなりの準備をして、俺は魔神アウスバージスの領域へ移動する魔法の力への集中を始めた。

やや複雑なレギの(分かりにくい)心情の吐露。彼は自己(個人的な意識)と、魔導などの人間意識を超越した──上位世界関わるもの──を同時に自己の中心に置こうとしている。多くの魔術師が現世との関わりを極端にまで捨て去ったりするのと違い、彼は人間のままである事を望んでいる。──ただその「人間」とは一般の人間という定義には当てはまらない、魔術的な人間の事を差す。



次話の更新は遅くなるかもしれません。

引き続き応援していただければありがたいです。

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― 新着の感想 ―
相変わらずの状況描写に溜息が出ます。(想像し易くて素敵)
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