表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十五章 死霊の王と魔剣の再生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

252/299

シグンとの共闘。戦場に乱入してきたもの。

「シグン!」

 俺は生存者を取り囲む骸骨の戦士に背後から斬りかかり、救出に来た男の名を叫ぶ。

「なにッ⁉ レギ──なのか? いったいどうして──」

「話はあとだ! ここを離れなければ俺たちは皆死ぬぞ!」

「しかし、どこへ行くって言うんだ⁉」

 シグンではない冒険者の男が、疲弊ひへいしきった様子で声を上げる。もうその声は、力のこもっていない絶叫みたいなものだった。

 呼吸は荒く、剣を握る手は小刻みに震えている。


「この囲みを突破する! ……こっちだ!」

 俺は宣言し、突破口を切り開くべく骸骨兵の壁に突撃した。奴らを次々に打ち倒して突き進もうとすると、ぞろぞろと傷口をふさごうとするように集まって来る。

 立て続けに斬りつけ、襲いかかってくる不死者の軍勢を倒していく。


「ぐあッ!」

 背後で一人の冒険者が槍で足を貫かれ、地面に倒れ込んだ。倒れた冒険者に別の骸骨兵が剣を振り下ろし、また他の骸骨が槍を突き刺す。

 倒れた男は小さな呻き声を漏らし、そのまま呼吸を止めた。


「ちぃっ‼」

 シグンが近寄って来た敵を大剣で横薙ぎにしている。

 そこに、魔法による攻撃の兆候が感じられた。

 不死者の壁の向こうから、なんらかの魔法の波長を感じたのだ。──感覚的なものと言うよりは、俺の中の聴死の霊感が、魔法による攻撃だと判断したようだ。


「まずい! こっちへ来い!」

「なに⁉」

 残された二人に呼びかけたが、シグンももう一人の冒険者にも、すぐに判断し、行動に移す余裕はなかったようだ。

 なんとか彼らを守ろうと呪文を詠唱し、魔法を使用する。


「『セラシュの(セラシュ・)精霊盾(ヴィラージ)』!」

 二人の仲間に向けて魔法障壁を掛ける。

 相手が使う魔法がどの程度の、どういった力を源にする魔法かは分からないが、強力な魔法障壁で攻撃魔法の威力を弱められるはず。

 二人の体を魔法の光がおおった時、離れた位置から数本の青い火柱が上がった。

 どうやら敵の中には不死者の魔術師が複数居たようだ。


 高く噴き上がった青い火柱が蛇の様にうねって、こちらに向かって鋭く落下してくる。


「ハァッ‼」

「フゥンッ‼」


 俺とシグンはほぼ同時に青い蛇を攻魔斬で迎え撃ち、二本の魔法攻撃を落下途中で撃ち落とす事に成功したが、残りの三本がこちらに落下し、近くに居た骸骨兵もろとも激しい爆発に巻き込んだ。


「うわぁァッ⁉」

 吹き飛ばされた冒険者の生き残り。

 足に力が入らずに踏み止まれなかったようだ。

 それが彼の不幸を招いた。

 俺とシグンから引き離され、さらに運の悪い事に、男が倒れたのは武器を手にする骸骨の戦士たちの目の前だった。


「ぎャァあぁァアァッッ‼」

 槍や剣を突き立てられて男は悲鳴を上げた──が、すぐに静かになった。

 俺とシグンは爆風になんとかあらがい、魔法障壁の力で被害は最小で済んだ。

 さらに追い打ちにくる敵の群れに向かって、俺は対抗する手段を一瞬で選び取った。俺はやむを得ず、全力でこの場を押し切る選択をした。力を隠しながらこの窮地を脱するのは不可能だった。

 このままではシグンを守るどころか、こちらまで死んでしまう。



「ぉおオォオッ‼」

 業魔斬を最大の力でぶっ放った。

 振り下ろした魔剣から爆発的に解放された破壊の衝撃が、襲いかかってきた骸骨兵たちを木っ微塵みじんに打ち砕く。

 骨も鉄の武器や鎧すらも粉々に粉砕するほどの破壊力。

 さらにその衝撃で周辺に居た敵がばたばたと倒れ、折り重なるようにして転がった。


「なっ……!」

 後ろから驚愕の声が漏れたのが聞こえた。

 さすがのシグンも、この威力の業魔斬を放つ事はできないだろう。

「いくぞ! ここを駆け抜ける!」

 えぐれて一段低くなった地面を走り抜け、なんとか包囲網を突破しようとした。


 しかし敵の魔術師が追撃を仕掛けてくる。

 灰岩戦士に敵の魔術師を倒すよう指示を念話で送ったが、すでに一体が倒されていた。

 二体が骸骨兵を倒しながら魔術師の居る方向に向かって突進し、敵が魔法を撃ち出す前に一体を倒したが、二体の骸骨の魔術師が暗い光を発する魔法の矢を数十発、こちらに向けて撃ち出してきた。


 その魔衝弾を武器で打ち落とそうとするシグン。

 しかし数発が彼の体を捉えた。

 魔法障壁でかなり被害は抑えられたが、それでもかなりの損害ダメージを負ってしまったようで、腹部を押さえながら走っている。

 俺は反射魔法で攻撃を弾き返したが、一発を足にもらってしまった。

 なんとかその場を離れようとしたが、不死者の部隊が先回りして道を塞いでしまう。


「くっ……!(霊獣もこの結界内では呼び出せないらしい)」

 俺は焦りながら足の傷を癒し、周囲の敵を斬り伏せ、魔法で倒したりしながら、なんとか生き延びる方法を探っていた。

 シグンも相当な疲労と傷を受けながら、懸命に戦い続けている。

 不死者の魔術師に向かって行った灰岩戦士は目標を倒したが、骸骨兵によってすべて倒されてしまった。

 別の場所から魔法による攻撃が飛んできて、それもなんとか障壁で防いだ。


 俺は敵の魔法攻撃を封じる為に、強力な攻撃魔法を使って敵の魔術師を排除した。

 骸骨兵の壁の向こう側に落ちた巨大な火柱。

 周辺が紅蓮に染まるほどの圧倒的な力で敵を焼き尽くした。


「レギ──おまえはいったい……⁉」

 その威力を見たシグンも、俺の異常な力に気づいたようだ。

 当然だろう。彼も多くの冒険者と行動を共にし、何度か攻撃魔法を使う術者を見てきただろう。それに敵の魔物などが使う魔法も目撃してきたはずだ。

 記憶にあるそれらの魔法よりも、俺が使った魔法の威力は桁違いだと感じたはず。

 それに呪文を詠唱せずに魔法を行使したり、魔法にうとい彼でも、その異常な水準レベルの魔法の技術に、違和感を覚えているに違いなかった。




 それでも俺たちは必死に戦い続けた。仲間の持つ力に戸惑いを覚えている暇はない。

 どれだけの数の不死者を撃破しただろうか。

 不死者の魔術師が魔法で攻撃してくると、俺はそれを障壁で防いだり、時には呪文の詠唱を妨害したりした。

 広大な範囲に張られた結界を解析し、なんとか光の精霊を喚び出す経路パスを作り出すと、光の精霊に俺たちを守らせ、その間に回復薬を口にして体力や魔力の回復を図る。


「このままではまずいな」

「同感だ。──レギの魔法や召喚魔術には驚かされるが、やはり()()()を叩くしかない」

「しかし、正確な位置が分からないんだ」

 敵を斬り伏せながらそうした会話を続ける。

 するとシグンがおかしな事を言い出した。


「レギ、おまえのその剣はいったいどうした?」

「なんだって?」

「手にした剣をよく見ろ。刃の色が──」

 そう言われ、俺は初めて自分の手にした魔剣の刃が変色している事に気がついた。

 青紫色だった刃の色が濃い紫色──剣の根本の部分に至っては黒く染まっていたのだ。


「この魔剣は、実は以前ここで拾ったものなのだ。こいつは不死者の魂を喰らう魔剣で──」

 そう説明しながらも、襲いかかって来た骸骨の戦士を鎧ごと斬り裂いた。

「とにかく、不死者に対抗できる武器という訳だ」

「そいつはいい!」

 彼はそう叫ぶと大剣を薙ぎ払い、二体の骸骨兵を吹き飛ばした。


 しかし敵の首領は、この広大な領域を支配しているのだ。

 奴の魔法が不死者をあらゆる地点に喚び出し、俺とシグンの周囲を囲むように次々と出現させ、時には倒した者まで蘇らせる。

 しかもその中には、死亡した冒険者たちも含まれているのだ。

 死者の戦列に加わった彼らを俺の魔剣で斬り、二度と復活できぬようにする。


 やがて再び俺たちの息が切れ始めた。

 このままでは……また、そうした焦りが頭をぎり出した時、骸骨兵の一部がどこかへ移動を始めた。

 俺たちを取り囲む軍勢の外に居る部隊が、どこかに向かって移動して行くのが見えた。


「なんだ……? なにが起きている?」

 シグンも気づいたらしい。

 すると遠くからなにかが吠え叫ぶ声が聞こえてきたのだ。

「援軍──? いや、この声は……」

「どうやら湿地帯に棲み着いていた蜥蜴とかげ亜人たちのようだ」

 湿地帯の隅っこで暮らしていた群れが居たらしい。

 それが不死者の軍勢に向かって行く。

 縄張りを守ろうとしているのか、粗末な武器や防具で武装した蜥蜴亜人の雄や雌が、果敢にも骸骨の集団に突撃してきたのである。


 その一瞬で戦場の流れが変わった。

 戦いの勝敗を分ける流れが。

 離れた場所にちらりと赤い法衣ローブを身に着けた魔術師らしい姿が見えた。

 普通の不死者の魔術師ではない。明らかに高位の不死者。──その姿には見覚えがあった。



「見つけたぞ……! 敵の親玉を」

 鮮やかな朱色に染められた法衣。その豪奢な法衣を纏った不死者は──死霊の王だ。


 かつてこの土地に君臨した魔導師の領主。それが復活したのか? しかし奴は一度、魔神ヴァルギルディムトの計略によって、異端の魔導師ブレラの館と繋がる幽世かくりよで復活し、俺の手で倒したはずだ。


 金糸を編み込んだ法衣を纏った死霊の王は手をかざし、蜥蜴亜人の集団に不死者の部隊を向かわせた。そのため奴と俺たちの間に隙間が生まれていた。

 無防備になった奴の姿を見ると、以前に出会った個体とは違う部分も見えてきた。

 あの黒い──黒曜石の仮面を付けていないのだ。


「見えた! あの赤い奴が不死者を蘇らせているんだな⁉」

 シグンはそう吠えた。

「ああ、死霊の王。間違いない、奴が親玉だ」

「なら──一か八か。蜥蜴亜人のおかげでできた隙を突いて、奴の首を落とすべきだ」

「そうだな。危険だが──それしかないだろう。生きてここから帰りたいなら!」

「おう!」


 シグンは俺の言葉にそう応え、敵の群れに突撃して行く。

 こちらも死霊の王に接近する為に、死霊の兵士が作る壁を薙ぎ倒しにかかった。

 魔剣を何度も振り、黒く染まった刃で不死者の魂を狩り続ける。

 俺とシグン。たった二人の生き残り。

 それでも俺たちは一心不乱に不死者を斬り伏せ、不死の軍勢を支配する指揮官へ突撃する。


 骨と鉄の壁に阻まれていたが──徐々にその距離は縮まってきた。

 俺たちは限界まで力と技を振るい、この危機を脱しようと死力を尽くして戦い抜いた。

 シグンは全身鎧を着た重装兵を倒し、怒濤の勢いで死霊の王へと迫ったのだ。

 そして俺もまた、左右から迫ろうとする死霊の兵士の群れに猛炎の壁を放ち、奴らの進軍を食い止めた。

 乾いた音を立てて大剣が次々に骸骨兵を打ち砕いていく。戦場に嵐を起こすみたいに、敵という敵を薙ぎ払って突き進むシグン。


 死霊の王もこちらの進撃に気づいていたようだ。

 蜥蜴亜人へ部隊を送る指示を出しながら、こちらに向けて魔法で攻撃しようとしている様子が見えた。

「気をつけろ! 奴がこちらを狙っている!」

 俺はそう言いながら魔法障壁をシグンと俺に重ね掛けし、離れた位置から放たれる魔法に用心しようと魔剣を前に構える。


 驚いた事に死霊の王は不死者の兵士を衝撃波で吹き飛ばし、鉄の鎧や武器を装備した骨の兵隊を粉砕して、それをまるで飛礫つぶてのように俺たちにぶつけてきたのだ。

 それらは魔法障壁では防げず、俺は魔剣と防御魔法で対処したが、シグンは大剣と防具でなんとか防いでいる状態になる。


 さらに死霊の王はなにかを撃ち出してきた。

 青く光る魔法の短槍が飛ぶのが見え、俺はそれを魔剣で下から上に斬り上げて打ち消し、シグンを見た。


 シグンは大剣で魔法の短槍を防ごうとしたのだろう。──だがその青い光の槍は大剣を透過し、彼の肉体に深々と突き刺さったのである……

シグンの体に突き刺さった光る短槍。なぜ大剣をすり抜けてしまったのか。

急展開を迎える次話。シグンは無事なのか……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
激戦ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ