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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第二章 魔狩りと妖人

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魔女の森 ーシェルアレイとエンビーアー

 山の裾野には手付かずの森が広がっている。

 いかにも魔物たちが住み着いていそうな、鬱蒼とした森だ。この中に魔女が……?


 ディナカペラは「彼女ら」を頼れと言っていた。二人、あるいはそれ以上の数の魔女が共存しているのだろうか。

 こちらにはディナカペラから貰った「三宝飾の指輪」があるが、気は抜けない。


 森の中には、どんな危険があるか分からないのだ。まあ、森巨人に遭遇する──なんて事にはならないだろう……おそらく。

 それこそ昔、森の中で建物よりも大きな森巨人に遭遇してしまい、襲い掛かられた嫌な記憶がある。


 まだ駆け出しの冒険者をやっていた頃だ。仲間の一人が握り潰された時の──骨が折れ、内臓が破裂する嫌な音は、しばらく夢に出てくるほどおぞましい体験だった。

 今は魔眼や強力な攻撃魔法──それに、探知魔法もある。充分に注意して行けば問題はない。


 大きな、背の高い木の多い森を見ると、その時の事を思い出してしまう。もう数年前の事だが。

 躊躇う気持ちもあるが、今の俺なら油断さえしなければ森巨人であっても、森に棲む猛獣であっても勝利できるはずだ。


 森の手前まで来ると、足下には膝近くまで草が伸び、森から流れて来る湿気で近くにある大きな岩が黄緑色の苔で埋もれている。

 木の幹にも緑色の苔や、木の根本にはきのこも生え出ている場所もあった。


 木の種類の所為せいか、つたに絡み付かれている樹木も目に付いた。そういった木は背は高いが、幹は細目で、上の方に細々と枝を広げている木に多く見られた。


 生命探知を使って周辺を確認すると、どうやら近くに大型の獣などは生息していないらしい。

 森の中は土や苔の匂いと湿度に満ち、日の光を遮る枝葉の所為で、気温は森の外よりもぐっと低くなっている。


 俺は少し安心した。

 森の中はざっと見たところ、危険な存在は見当たらない。森の奥には危険な猛獣などが生息しているかもしれないが──、取り敢えず生命探知を切って、魔女が居るという場所を探す事にした。


 *****


 ところが──森の中を結構歩き回ったが、人の住む様子はなく、出会ったのは鹿やはぐれ狼、うさぎに灰色狐などの生き物だけであった。

 木の上では鳥やふくろうの姿を見かける……その中の一羽。白と灰色の羽毛を持つ梟が、こちらをじっと見ている事に気が付いた。奴らは夜行性のはず……もしやと思い、指にめた「三宝飾の指輪」を梟に見せる。


 すると森の一角に突然、光が降り注いだのだ。

 どうやら結界で認識を狂わされていたらしい。

 結界に警戒しつつ行動していたのに、いつの間にか結界の事すら忘れていた──これが魔女の使う結界なのだろうか?


 魔狩りから身を隠す為だろうが、彼女らの術は自分が学んだ魔術的結界より、高度な物を使っているらしい。

 俺は光が差し込んでいる地点を目指して、ゆっくりと──若干警戒しながら進んで行く。


 森の中に降り注ぐ大きな光の柱。

 その下には集落が存在していた。


『止まれ』

 集落へと続く道の脇に生えていた樹木から声が聞こえた。どうやら精霊を使役している者が居るらしい。高度な魔法──いや、魔導の力──精霊を現界させ続けるような技術は、俺にはない。

 一時的に力を借りるのは可能だが──まさか、木の精霊に門番をさせているとは。しかも一体ではない。


 道の左右に立つ二本の樹木が、メキメキと音を立てながら枝葉を動かし、幹にできたひびの中から少女のような、小さな女性の顔らしき物を覗かせる。


「待ってくれ、俺は敵ではない」

 そう語り掛けながら指輪を見せる。

『なんだ、それは』

『奇妙な魔力を感じる』

 おいおい、精霊たちには指輪の知識を与えていないとか言うんじゃないだろうな。


『いや、待て。この指輪の魔力は、エンビーアの持つ指輪と同じ物だ』

『エンビーアのゆかりの者か?』

 二つの精霊は話し合い、こちらを見る。

「その魔女の──共通の友人……のような者だ」

 俺は言葉を慎重に選んだつもりだが、片方の木の精霊がこんな事を言った。


『嘘を言うな。エンビーアに友人などるはずがない』


 すると集落の建物の陰から、一人の少女が現れた。灰色のゆったりとした衣を身に着けた、十三、四歳に見える白い肌の少女。──髪まで真っ白なその少女は、日の光の中で何だか霞んで見えそうだった。


「まてまてまて~~! 私に友人が居ないなんて決め付けるなぁ!」

 どうやら建物の陰で俺たちのやり取りを聞いていたらしい。


『おお、エンビーア。それではこの者はいったい誰だ』

 木の精霊が問い掛ける。

「……いや、知らない」

『やはり、友人などではないではないか』

 少女の言葉に冷たい反応を示す精霊たち。

 木の精霊は警戒したままこちらを見つめている。


「待ちなさい、あなたたち」

 集落の奥へと続く道から、別の魔女が現れた。緑色の法服ローブに似た衣服を着て、茶色の短い外套を羽織った魔女は、長い黒髪をした美しい女の姿をしている。

 魔女の見た目の年齢が当てにはできない事は知っていたが、彼女の美貌についても疑って掛かった方が良さそうである。──とは言っても、幻術などで姿を変えている、という意味ではない。

 肉体を好きなように変化させる魔女も居るらしいのだ。


「あんたが結界を張っていた魔女か?」

 俺の問い掛けに、彼女は「ええ」と認めた。

「まさかこんな所に男がやって来るとは思わなかったけど、どうしてあなたは『三宝飾の指輪』を持っているのかしら」

 俺は彼女らに、魔女王ディナカペラから指輪を貰い、森に住む魔女から妖人アガン・ハーグが苦手な、「新月光の刃」というのを貰って来るように言われた事を説明した。


「なるほど──分かりました。信じましょう」

 そう言って木の精霊たちに俺を通すように言う。

「ようこそ、魔女の集落へ。大した歓迎もできないけれど」

 彼女はそう言いながら自分に付いて来るよう言って、先を歩いて行く。


「私はシェルアレイ。そっちの小さいのはエンビーアよ」

 なぜ君は三宝飾の指輪を付けていないのか、と尋ねると彼女は笑う。

「別に、婚約指輪ではないのだから、ずっと付けている必要はないのよ。まあ、その指輪は魔力の回復を速めたり、魔法の消費魔力を抑えたりする効果があるので便利なのだけれど」

 てくてくと、後ろから少女のエンビーアが付いて来ている。


「エンビーア。あなたは畑仕事に戻りなさいな。その後は川魚が取れたかどうか見に行くのよ」

 雨が降るから早めにね、と言うと。少女は渋々と別の道へ分かれて歩き出した。

 集落の道は、灌木かんぼくなどが両脇に植えられていたり、時には道の両脇に水路のような溝が作られ、石で補強されたりした場所もある。道は住居や畑に向かって続いているらしく、三つや四つに枝分かれする道の先には、灰色の石や黒っぽい煉瓦の様な物で建てられた、家や小屋がある。


 所々に畑や花壇などがあり、野菜や香草に薬草、花などが植えられている。手入れが行き届いている花壇の周囲は、茶色い煉瓦で囲まれ、見た事のない変わった花が咲いていた。


「ところで、あなたは妖人アガン・ハーグと接触するのでしょう? 奴らは危険な魔物と大差ないわよ。魔神ベルニエゥロは古い魔術などの知識を持つとされているけれど、あの魔神の配下になるのはお勧めしないわ」

 シェルアレイは前を歩きながらそう語る。彼女は腰まである外套を付けているが、短いスカートを盛り上げる大きな尻や、長い足を剥き出しにして歩いており──後ろ姿を見ていると、なんだかムラムラしてきた。


「……いや、俺は配下になるつもりはない」

 俺が尻を見ながら答えると、彼女は「ならいいのだけれど」とやんわりと返事を返す。


 彼女は一本の道を曲がると灰色の家に向かう。窓には硝子ガラス戸が付いた平屋建てだ。大きさは、独りで住むなら充分な規模の物で、隣には小屋や畑などもある。

「どうぞ」

 彼女はドアを開けると家の中へと招く。


 俺は魔女の住宅に入って行った。──ディナカペラの「工房」を除けば、魔女の住む領域に足を踏み入れるのは初めてだ。

 魔女の住む家は、魔術や儀式で使う不気味な道具で溢れている印象イメージを持っているものだが──。この魔女の家は、そういった印象とはまったく違う、普通の人里離れた場所にある一軒家といった雰囲気の家だった。


「それでは早速、()()()()()()()

 と彼女はおもむろに言って、家の奥にある寝室に俺を引っ張り込んだ。そこは清潔な寝台ベッドと、香を焚いた匂いが残っている部屋だった。

 スルスルと外套や法服を脱ぎ始める魔女。


「おいおい、いったいどういう事だ」

 危うく状況に流されるまま股間を大きくさせてしまうところだ。

「どういう事……? そう、何も知らないのね。『新月光の刃』は物質じゃないわ。魔法の名前よ──そして、その継承には──これが一番手っ取り早い訳」

 首を傾げる俺に、魔女はうっすらと笑みを浮かべる。


「『魔女の房中術』というのを聞いた事はないかしら。それであなたに魔法を与える方が早いでしょう。……もしくはあなたが、この房中術を使えるようにしてあげましょうか? そうすればあなたは、()()をした相手の魔力を増幅させたり、それを吸収したりもできるようになるし。なにより、相手の()()()()()()()()()()できるようになるのよ」

 その逆もね、と魔女は言う。

 なんと、それは素晴らしい技術だ。

 房中術の事は知っていたが、それで魔法や能力を移したりできるとは──


「それは凄いな。是非お願いしたい……それで? 俺は君に何を返したらいいのかな」

 俺の言葉に魔女シェルアレイは「あら」と淫靡な笑みを浮かべる。

「久し振りに男に抱かれるのだもの、愉しませてくれるのでしょう? それが対価で結構よ」


 おぉぅ……こんな美女を抱けて、新しい、画期的な技術を手に入れられるなんて。

「それは素敵な提案だ」

 俺は荷物を放り投げ、魔女をそっと抱き寄せた。

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