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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十四章 魔術師の陰謀

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荒れ地の遺跡と粘土板

 古代の知識と現在の魔術の関係に頭を悩ませている間も、馬は街道を進み続けていた。

 そうしつつ、未だに霊的領域にも警戒を続けたが、やはり追跡者はあきらめたようだ。一切気配が消えていたのだ。


 辺りはすっかり暗くなってきたので、馬に背負わせた荷袋から角灯ランタンを取り出し、火を点けるとそれを鞍に取り付けた。

 幸いすぐに道の先にも明かりが見えてきた。

 ブラモンドの街の明かりだ。

 街を囲む壁の外にも松明たいまつかれ、金属の支えの中で丸太が火の粉を飛ばしている。


 その周辺を兵士たちが松明を手にして哨戒しょうかいしている。その中には戦士ギルドの自由戦士も居るだろう。

 彼らに近づいて行くと、どうやら街の自警団だけでなく、国の中央から派遣はけんされた兵士も加わったようだ。

 交易路を作る為に必要な資材の運搬経路を守るのに、街道や街を警護する兵士を送るよう要請していたのだ。


「アゼルやベゼルマンが上手くやってくれたようだな」


 空の一部が群青色ににじむ頃。俺はブラモンドの中に入った。──交易路についての交渉からずいぶんと遠回りをしてしまったが、無事に帰ってこられたと胸を撫で下ろす。

 ──ついさっき起きた事に比べれば、ケディン元団長に付き合って出動した小鬼ゴブリン狩りなど、お遊びのようなものだ。

 そのお遊びの中でどうしようもない人間を殺害した事も含め、神々の領域から付け狙われる危険に比べれば、それらはどうという事もなかった。


 暗い大通りを移動して館に帰ると、馬を下りて門を開けた。小さな厩舎きゅうしゃに馬を入れて馬房に餌を入れた桶や水を用意していると、厩舎の入り口に誰かが立った。


「……なんだ、レギだったのか」

 ほっとしたようにクーゼが言った。

「おう、今戻ったぞ」

「その馬は?」

「バクシルム領の領主からもらった。──いろいろあってな、あちらの領主はやはり俺の知り合いだったんだ。それで小鬼狩りに付き合ったりして、帰るのが遅れた。」

 そう話してやるとおさな馴染なじみ呆れたように溜め息を吐く。


「無事だったならいいけど。──夕飯はどうする? 用意させようか」

「ああ──いや、酒とつまみだけ用意してくれないか。……というかお前、まだこの館に居たのか」

「いや、夜はいつもは店の方に居るよ。今日は領主様に話す事があって。──そこへ帰って来るとはちょうどよかった。なにしろレギが好みそうな話でもあるから」

「ほう? ではその話を聞くついでに、お前も少し飲んでいかないか」

 誘うとクーゼは笑顔でうなずく。


 馬の背から荷袋などを取ってクーゼに渡し、鞍を外して馬の背中を拭いてやりながら、今回の交易路の件は上手くいったことを伝えた。

「ああ、それは知っている。なにしろすぐに早馬で手紙が送られてきたようだから。ベゼルマンという文官は信頼できそうだよ」

「エブラハ領は当事者だからな。その当事者をないがしろにするほど愚かな奴じゃないさ」

 どうやら領主のエンリエナの下に手紙が送られてきて、それにクーゼも目を通したらしい。


「領主補佐の役目ご苦労」

「ああ、商売の片手間でやっているけど──そろそろ厳しい。専門の人員を付けるべきだと思う」

「そうだな。義母の様子も心配だ」

 父親の容態を尋ねると、未だに目が覚めないという事だった。もしかするとこのまま死んでしまうかもしれない。


 館に入ると俺は侍女にクーゼを客間に案内し、酒の支度をするように言って、エンリエナの所に向かう。

 彼女は目覚めぬ夫が居る部屋に居るとの事だった。

「どうぞ」

 部屋のドアを叩くと中から声がし、俺はドアを開けた。

「ただいま戻りました」

「レギ……ご苦労様でした」

 やや疲れ気味な義母の様子。

「父の容態を見ます」

 俺は寝台に近づき、ケルンヒルトの体を解析した。


 相変わらずといったところか。

 いつ死んでもおかしくないし、もしかすれば意識を取り戻し、少しは会話できる可能性もあるかもしれない。いずれにしろ、良くなる事はないのだ。

「特に変化はないようです」

「そうですか」

「お疲れでしょう。もう休んでください」

 俺はそう言って、彼女に部屋を出るよううながした。

「ベゼルマン殿から手紙が届きました。交渉の件、改めてありがとうございます」

「ええ、それでは俺も少し友人と話があるので」

 彼女が立ち上がり、部屋を出るのを見送って一階へと降りて行く。


 アゼルが用意してくれた棒状のパンを包んだ布を持って客間に行くと、四つの燭台に蝋燭ろうそくともされ、テーブルの上で明かりを放っていた。

 テーブルの上には一本の葡萄酒ワインの瓶と二つの杯が用意されている。小皿の上に乾き物(干し肉)や乾酪チーズが整えられていた。

 ドアを開けたところへ、侍女が丸めた紙を乗せた木箱を手にして現れた。

「これを持って来るようにとクーゼ様が」

「分かった」

 それを受け取りながら部屋の中に入る。


 クーゼは蝋燭の予備を入れた木箱をテーブルの隅に置き、干し肉を手にして食べていた。

「これは?」と丸めた紙と箱を見せる。

「ああ、それは地図だよ」

 地図だという紙を受け取るとそれを広げ、紙の四隅に重石おもし代わりの小さな銀製の器と、木箱を乗せる。

「交易路の建造と共に、北西部の荒れ地を開発しようと動いているんだ」

「へえ、あそこは結構危険じゃないか?」

「もちろん兵士や冒険者に安全を確保しながら探索をさせてるよ。そこでおもしろい物を見つけたらしい」

「おもしろい物?」

 だいたいこの辺りだと、地図の上を指し示すクーゼ。


 そこは北西部のかなり西側の山に近い場所で、ボアキルソ村の北にあるバフサフ村に近い場所だった。

 俺は棒状のパンをナイフで半分に切ると、それを自分とクーゼの皿にそれぞれ載せる。

「そこになにが?」

()()()()らしい物があったそうだ」

「……本当か? 荒れ地には無謀な狩人たちが何度も足を運んでいると聞いた。いまさら村の近くで遺跡が見つかるものか?」

「だから遺跡の『跡』なんだよ」


 クーゼが報告を受けたのは昨日だったという。

 荒れ地の本格的な調査に乗り込んだのは、少数の戦える者たちと、地質に詳しい専門家など数名だったらしい。

「植生を調べたり、鉱石などの採掘場所はないかと調査させたんだが、思わぬ発見があったというわけさ」

「それで、具体的にはどんな物が見つかったんだ」

 クーゼの説明によると、風化して屹立きつりつした岩のようになった柱だという。

 その柱の表面には浮き彫りにされた彫刻があり、文字や絵柄らしき物も刻まれていたそうだ。


(精霊を信奉していた先住民みたいな連中の痕跡かな?)


 山の中にあった巨大な柱や精霊との関わりを示す壁画があったのを思い出し、それに関係する古い時代の痕跡なのだろうと推測した。


「残念ながら歴史の専門家は居なかったので、詳しい事は分からないんだが……」

 そう言いながらクーゼは先ほど手渡した木箱を前に出す。

「なんだそれは」

「実は荒れ地を調査するよりも前に、西部にある町や村などに残る伝承や、遺物はないかと号令をかけて探させたんだ」

「おもしろい取り組みだな」

「これはシャルディムの行商に聞いた手段だよ。町の周辺などを活動する民衆が、生活圏の中で拾い集めた遺跡などの収集物を集めている事があるそうだ」

「なるほど」

 木箱の蓋を開けるとその中に布がしまいこまれ、それを開いていくと中から焦げ茶色の粘土板が出てきた。


「これはバフサフ村の村長が持っていた物だ。文字が彫られているが、その言葉が分からない。──ので、解読を頼む」

「どれどれ……」

 粘土板を取り出すと一部が欠けていたが、多くはそのままの状態で残っていた。

 だがあいにく、そこに書かれた文字は読めないものだった。例の山の中腹にあった庭園や至聖所で見た謎の文字と同じ物だというのは分かる。


「残念だが俺にも読む事はできないな。ただこれはおそらく、精霊を信仰する人々が使っていた文字だろう」

「精霊?」

「そうだ。かなり古い時代の──古代よりは新しい時代の、ピアネスが国として成り立つ以前にあった国。またはなんらかの集団といったものの遺物」

 そうか……と、考え込んだ友人は葡萄酒ワインを口にし、俺が持って来たパンを口にした。

「お、これは上等な加工肉ハムとパンだな」と、友人はそれをぺろりと平らげてしまう。


「それよりも、これを手に入れた場所は分からないのか」

「村長の家には荒れ地から流れてきた物だと伝えられていたらしいね」

「流れて──? 川の氾濫はんらんか」

「山から流れてくるのは小さな川ばかりだけど、大雨が降ると氾濫する事があるそうだよ」

「だいたいの場所でいいから分からんのか」

「バフサフ村の近くで見つけた粘土板らしいから、おそらく今回見つかった遺跡らしい跡と関わりがあるんじゃないかな」

「遺跡か……よし、ウイスウォルグに帰ったら、そこから行ってみるとしよう」

「ウイスウォルグから? ──かなり距離があるけど」

「ここから行くよりは近いだろ」

「それもそうだね」


「義母も一緒に行く予定だが、あとの事は任せて大丈夫か?」

「まあ……短期間ならなんとか。ぼくよりもアルマを気遣きづかってやってくれ。いつも領主補佐として事務処理を任せているから」

「そうか、分かった」

 その後しばらく俺がベグレザで体験した出来事をいくつか話し、──多くは話さなかったが──帰る途中でアゼルゼストに会ったと説明した。

「ああ、レギの学友の……例の文官からの手紙でも、エブラハ領の発展に協力してくれる領主という話だった」

「ああ。ピアネス全体の国益というものの重要性を理解している奴だからな。信頼していい」

 そんな話をしてからクーゼが帰るのを見送った。


 その日は寝台ベッドで横になると「天蓋の追跡者」について調べようとした。

 精神世界の追跡者の正体を見破ろうとの考えだったが、やはり奴らは高度な霊的存在だったらしく、痕跡はなにも残っていなかった。

 追跡を逃れる為に罠を張ったり、こちらから反撃をしなくて正解だった。

 もしそうした行為に及んでいれば奴らは侵入者の存在を認め、追跡をあきらめなかったかもしれない。


 精神世界に障壁を張り巡らすなど、気になる部分はあるが、今は他の危険について考えなければ。

 上位存在が魔神との関連から俺を狙って刺客を送ってくるとしたら、それに対しては明確に反撃なり、逃亡する手段などを用意しなくてはならない。

 そのような事柄について熟慮しつつ、俺は睡眠と考えをまとめる作業に移ったのだった。

新たな展開を予期させる?

けど思ったものではないかもしれませんよ……

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