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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第二章 魔狩りと妖人

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セベナの町で背嚢を購入

 セベナの町は小さいが、囲壁いへきに囲まれたしっかりとした町でもあった。囲壁の中には畑や放牧場などもあり、羊毛や麻から糸や布を作り出す「工場」がいくつかある、そんな町だった。

 つまりプラヌス領の中で、布などを生産する一つの拠点として存在する町なのであろう。商人たちがこの町に食料を運び込んでは、この町の特産である糸や布を購入して、他の町に売りに行く──そんな経済活動の一端を担っているのだ。


 興味を引かれたのはこの町で衣服を作り、販売する店もでき始めていた事だ。おそらくは布や糸などの生産品を余所に持って行く事で、商人が利益を得ていたが、町の中で布などを使った新たな商品を作りそれを売り出す方が、この町の利益になると考えた者が居たのだろう。


 生地を売る店が並ぶ「布地通り」に、衣料品を扱う店や、革製品を扱う店なども新しく建ち始めているのが窺える(建物や看板が妙に新しいのだ)。


 その中で一軒のかばん屋が目に留まった。

 俺はその店に立ち寄ると、旅用の鞄──背嚢はいのうなどが置かれている場所にやって来た。

 丈夫な素材で作られたそれらの品々は丁寧な仕事が施され、重い物を入れても壊れず破れにくいように、硬い皮を縁に仕込んで縫い込まれたりしているのだ。

 物入れ(ポケット)も外側にいくつか付けられており、理想的なその品がすぐに気に入ってしまった。値段は高めだが、長持ちするであろうそれを購入すると、すぐに決めたのである。


「いらっしゃい──」

 奥のカウンターに座っていたのは、何ともしょぼくれた爺さんだったが、爺さんが声を掛けると、奥から別の若い男が姿を見せた。

「いらっしゃいませ。何かお探しの物はございますか?」


 ハキハキとした喋りでそう語る俺と同じくらいの歳の男は、俺を爪先から頭の天辺てっぺんまで舐めるように見ると、「冒険者の方ですね? 生憎あいにくうちは、防具は扱っていませんが、ご紹介したい品物がございます」と、勝手に話しを進め出したが、何となく興味を引かれて男のあとをついて行くと、皮の手袋を見せる。


「これ、お勧めです。よほど切れ味の鋭い物でなければ、傷を付けるのも大変だというくらい丈夫で、水を弾き、寒さにも強い。剣を握るのにも邪魔にならないどころか滑りにくく、武器を扱う方にも大好評なんです」

 そう言って男は、手袋と同じ材質の物を板に貼り付けた物を見せて、そこに短刀で切り付けるが、確かに切れていない。俺も短刀を手にして切れ味を確かめてみたが、普通の良く切れる短刀だった。


「へえ、結構いいね。一つ貰おうか」

「ありがとうございます!」

「……じゃない、背嚢を買いに来たんだ」

 そう言いつつ、手袋の大きさを確認して、装着して確かめる。手袋も買う気満々だった。


「背嚢ですか、うちの品は壊れにくいのが自慢ですよ。こちらも傷付きにくい加工を施した、皮や布を使っていますからね。重い物入れても壊れないように、接合部分には皮を三重に縫い込んで、厚みを持たせてありますから、ちょっとやそっとの重みでは、底が抜けるような事はありません」

 そう言って背嚢が置かれた場所へ案内する。


「俺は外側にいくつか物入れの付いた、これが気になっているんだが」

 すると男は「お目が高い!」と言って、これは自信作をさらに改良して作った商品なんですと誇らしげに語る。

 彼からは商品を売りたい、というだけでない──何か、こうせざるを得ない理由があるかのように、商品の性能を嘘偽りなく語りたいのだと言う、そんな意志が伝わってくる。


「相当商品に自信があるんだな」

 俺がそう口にすると、男は「もちろんです!」と即座に答えた。

 俺は頷くとこれを貰おう、と一つの背嚢を指差す

「ありがとうございます! それではこれと同じ商品を奥から持って来ますので、少しお待ち下さい」と言い残して、男はすぐに奥の部屋へと引っ込んだ。


 カウンターに行くと爺さんは、いつの間にか居なくなっていて、座布団の敷かれた椅子が置き去りにされ、カウンター上には謎の茶菓子が置かれていた。


 店内には鞄や荷袋などの他にも、衣服やズボンなども陳列されているが、冒険者が腰帯ベルトに取り付ける小物入れなども並んでいる──どうやら旅人や冒険者を標的にした品揃えらしい。


 しばらくすると真新しい背嚢を手にして現れた男。俺は手袋と腰帯に取り付ける小物入れも購入する事にした。

 男は喜び、手袋の分は無料にさせて頂きますと言う。確かに背嚢は結構な値段がする。新しく買った物を確認しながら、今使っている荷袋に入っている物を、新しく購入した背嚢に移し替えていく──腰帯に付けた小物入れも中身を移し替え、早速腰に取り付ける。


「古い物は引き取らせて頂きますね」

 男に硬貨の入った皮袋ごと手渡すと、俺は買い物に満足して店を出た。

 薄い皮手袋は腰から下げた小物入れにしまい、いつでも使えるように用意しておく。

 背嚢を背負い、革帯を調整して固定すると、今までの荷袋よりも格段に歩きやすくなった。動きやすいし、剣を抜くのにも引っ掛からない。


 良い買い物をしたと満足して、次は宿屋を探す──大通りから見て回ると、この町には戦士ギルドが無い事に気がついた。その代わりと言うか、兵士の宿舎と訓練施設のある区画があった。

 おそらく領地を接しているケアーファード領との、小競り合いが起こった時の為に居るのだろう。領主同士が領地の奪い合いをしている所は多くある。同じ国の人間であってもだ。


 もちろん健全な支配者が国を治めていれば、そうした臣下の争いを裁定して、争わせないようにするだろうが。以前にも言った通り、この国の愚かな独裁者は、そんな事を耳に入れても何もしようとはしないだろう。何故なら愚か者だからである。


 宿屋は二軒あった。どちらもしっかりとした石造りの二階建てであり、窓には木製の戸が付けられている。

 立地的にも大差ない宿屋を選ぶ時に問題になるのは、風呂があるか、食事はどうか、この二つが重要になる──しかし、風呂が無い事は普通だ。一部の都市や、寒い北国──この辺りも冬には相当冷え込むと思われるが──にしか、お湯で体を洗う(体を湯に漬ける)という考えを持つ者は少ない。

 俺は冒険先で発見した温泉の湧き出る場所を見つけて以来、温かい湯に体を漬けるという──贅沢を覚えてしまった訳だ。


 となると食事な訳だが……こちらは正直に言うと、それほど固執しない主義だ。もちろん美味しくて体に良い物、栄養のある物を食べたいとは思うが。しょっちゅう冒険する中で得た経験からすると、食料が手に入らなくなって、飢餓状態に追い込まれる恐怖を拭えるなら、多少の不味い食い物でも、口にするべきだと思うようになった。

 街に居る時くらいは美味しい物を食べたい、という気持ちもあるにはあるが。


 まあそんなこんなで一軒の──大通りの奥側にある宿屋に泊まる事にした。街の入り口に近い方が、客の入りが多いのではと思ったからだ。空いている方が快適だろうと考えた。

「風呂はあるか?」

 と尋ねると、店主の中年男は「公衆浴場ならあるよ」と言って、場所を教えてくれた。意外な事に公衆浴場が半年ほど前に建てられたのだと言う。

 布製品や革製品のお陰で経済的に豊かになっている為であろう。


 都市に住む領主も、この町に特別の計らい(資金の投入)をしているようだ。囲壁の外に隣接する新たな壁を造って、羊を飼う区画を広げる準備が進められているらしい。

 公衆浴場も領主の計らいで建てられたのだ。プラヌス領のすべての街には、公衆浴場が設置されるのではと領民の間で囁かれている。


 プラヌス領の領主は、領民の事を大事に考える人柄であるらしい。黒い噂の件も、領民の事を考えてのものだと思えば納得である。


 いずれは国と対立し、争う事になるのは時間の問題だと思われた。税をさらに引き上げ、領地から金を巻き上げようとする、この暗愚王を排除する行動に出る者は多い、そう考えられた。

 ここプラヌスの領主の多くは、周囲の国と平和的な関係を築く事に努めてきた。中には同国の領地をかすめ取ろうとする輩も居ないではないが。


内乱になる(その)前に、プラヌスを出た方が良さそうだ」

 戦争に巻き込まれて良い事など何もない。

 粗暴な連中なら、略奪に強姦などが「合法的」におこなえるというので(実際は罰則がある場合も)、喜び勇んで参加するだろうが、俺はそういった活動に加わるつもりはない。下らん権力闘争に巻き込まれるなど、自らを下等な権力の犬の地位に落とすだけだ。


「どうせやるなら派手にやれ」

 などとは言わないが、過去には魔導の力で国を揺るがした魔導師も居た──そのように、やるからには根底から突き崩すみたいな方法が好ましい。

 そうする事で清浄化への流動が起こるのだ。困難な状況が人間を正気に戻す、でなければ──絶滅しかない。


 その日は公衆浴場で旅の汚れを落とし、宿で食事を取ると(味はそこそこ)、柔らかい布団が敷かれた寝台ベッドで横になった。


 新しい背嚢を購入し、気分を一新して冒険に出掛けようという前向きな気持ちになっている。

 明日は歩いてケアーファード領のドナッサングの街に向かうのだ、危険な地域を通って行かなければならない。今日はしっかりと体を休めて、明日に備える事にした。

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