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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十四章 魔術師の陰謀

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魔術師の誘(いざな)い

第十四章「魔術師の陰謀」開幕。


前話の途中で切られた部分の回想を含む話。

ピアネスの戦士ギルドの発展した部分やその理由などが分かるエピソードなど。

魔術師たちの目的や規模が不明なまま、レギの周囲になにやらきな臭い匂いが……

 ペギゥルの街に戻ると遠くの空が色づき始めた。

 朝日が山脈と広野の狭間から昇り、暗かった世界に色を付けてゆく。

 日の光が街を囲む囲壁いへきを照らし出す。

 門を守る番兵たちと共に、亜人の侵攻を警戒していた兵士たちが領主の帰還を喜んでいる。

 ケディンは小鬼ゴブリンの群れを討伐し、危険が去った事を周知するよう告げて、街の周囲を警戒していた防衛部隊を街に中に戻すように言う。

 よく訓練された兵士たちは速やかに行動に移り、野営の撤去を始める。


「本当にもうピアネスに戻るのか」

「ええ、すぐにでもベグレザの首都に向かいたいところですが……まだ、馬車も出ていないでしょうね」

 するとケディンは考え込んだ。

「それではその馬に乗って行け。その馬が今回の件の報酬だ」

「小鬼の討伐くらいで馬一頭とは、ずいぶん破格ですね」

 そんな風に少し話し合い、互いの健在を祈って、ここで別れる事にした。

「それではまたな。──気をつけて旅をしろよ」

「はい」


 兵士を引き連れた領主と街中で別れ、俺は手に入れた灰色の馬の首を撫でてやった。

「さて、それではお前とはピアネスまで同道だな。よろしく頼むぞ」

 白いたてがみをした馬は分かっているのかいないのか、頭を持ち上げてこちらに視線を向けると、ゆっくりとした足取りで歩き始める。

 俺は街の北門に向かって馬を進めた。


 早朝のペギゥルの街から旅立つと馬を駆り、街道を走らせる。──というのも、アボッツの記憶を探り終えたあと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に言ってきたからだ。


 あの森の中で。



 ❇ ❇ ❇ ❇ ❇



「何者だ」

 暗い森の中からなにかが近づいて来る。

 それは今まで身を隠していたが、もう隠す必要がなくなったと考え、俺に分かるように近づいて来ているようだった。

 常緑樹の灌木かんぼくが生えている場所から、ちょろちょろとなにかが姿を見せる。暗い闇の中から現れたのは、小さな黒っぽい蜥蜴とかげ──いや、守宮やもりの様な霊獣だ。


 その霊獣はよく見ると濃い紫色の表皮をしており、灯明の光を受けてゆらゆらと、鈍い反射光を発している。

 そいつはちょろちょろと動いて大きな木の幹に取りつき、俺の頭くらいの位置まで登っていくと、急に小さな体から火を噴き、木の幹に火を使って文字を書き上げた。



    {レインスノークの街まで来られたし}



 そこにはそう書かれていた。

 紫色を含んだ火が消え去ると、守宮の霊獣がその場を這い回る。


「分かった。レインスノークの街まで行けばいいんだな」

 俺は守宮にそう言った。

 視覚や聴覚は霊獣を操っている術者と繋がっているはずだ。

 どうして俺に接触して来たのかが気になった。

 アボッツを操っていた魔術師本人か、その仲間のどちらかだろう。


 俺の返事を聞いた霊獣は、まるで木の中に吸収されたみたいに姿が見えなくなった。──今までこの力であらゆる探知魔法から隠れていたのだ。

 わざわざアボッツを監視し、俺に接触して来たという事は、初めから狙いは俺だったという事だ。……だとしたら、相当高い情報収集能力を持った奴が居るか、あるいは予知の才能を持つ者が居ると思われた。



 ❇ ❇ ❇ ❇ ❇



「敵対する意思はないという事か?」

 少なくともあの場で罠にかけるような真似はしてこなかった。

 俺の排除が目的なら、アボッツだけでなく他の手段も用意しておき、あの森の中で決着をつける事もできたはずだ。


 考えても分からない。──もしかすると俺をつけ狙う者は複数の組織か、あるいは同じ集団でありながら対立し合っているような連中なのか。

 魔術師の集団では十分にあり得る事だ。

 一つにまとまった魔術師の集団などほとんど聞かない。一時的に共同する事はあっても、大抵すぐに目的を果たし離れていくものなのだ。


 魔術師とは()()()()()()、精神を、その霊的本質を掌握する事に全霊を注ぐもので、世事から離れたところで生きているのである。

 だからこそ、なんらかの(共通する)目的を抱いて集団として活動すると、これほど厄介な相手は居ない。

 それぞれが得意とする技術に特化した者が集まり、目的を果たそうとするのだから。


「それに今回の相手は、魔神や邪神と協力関係を持っている可能性がある」

 あの守宮の主が俺を罠にかけるつもりでいる事も考慮して、せいぜい注意を払うとしよう。

 街中で魔術や魔法を行使する手合いだとしても、こちらもそうしたやり方に覚えがない訳ではない──

 魔術や呪術に対する抵抗や反撃。それ以外にもこちらから積極的に仕掛ける事だってできるのだ。

 敵対するとなれば容赦はしない。

 危険な相手だったら逃げればいい。

 それだけだ。

 できれば無益な戦いなど望まないが。


 ともかく相手が「来い」と接触して来て、それに乗ると決めた以上、いまさら引き返すなどしない。


 レインスノークの街までまだかなりの距離があり、途中にある小さな町に寄るのも考慮して移動する。

 日が背中を照らし出すと、周囲は暖かな日差しに包まれ、寒さが少し和らいだ。

 灰色の毛をした葦毛あしげ馬は意気揚々と、軽い足取りで街道を進んで行く。


 道の先から荷車を引いた馬がやって来て、護衛を乗せた荷車の横を通り過ぎた。

 大きな剣を背負った戦士らしい男。

 荷車に揺られながら荷台を囲む板に背を預け、周囲に警戒の視線を送っている。

 屈強な体と剛毅そうな面構え。

 その大剣にかかれば、小鬼など一撃で四体は引き裂かれてしまうだろう。通常の冒険者には扱えないような代物だ。

 革鎧に肩当てといった、身軽な格好をした壮年の戦士。

 黒々とした髪の下には、かなり長い戦歴が刻まれた厳めしい顔。そこには大きな傷痕が残っていた。




 その後も行商や冒険者とすれ違ったが、さっき見たような見るからに強者と分かるような者は居なかった。

 ベグレザの若い冒険者の中には、見るからに甘い認識で冒険をしている者が目につく。

 もちろん貴族出の者でもない限り、なかなか装備を整える事も難しいものだが。

 木製の盾を持っている者がマシに見えるほど、そうした若輩じゃくはい冒険者の武器や身なりは貧相なものだった。


(こうした問題についてはピアネスの方が進んでいると言えるな)


 ピアネスの戦士ギルドでは、国からの支給品が与えられるのだ。──と言っても、革製の籠手や胸当て、鉄の剣などだが。

 もちろんただという訳ではなく、ある期間内に支給品に科せられた金額──相場の数分の一の金銭──を支払わなければならない。

 それでも割安であり、最初にそれなりの装備品を用意する事で、冒険者たちの生存率が上がるのである。


 この制度を取り入れている国はまだ少ないらしい。

 文化的に発展したベグレザであっても、こうした冒険者の扱いに関しては、ピアネスのような国に劣っていると言えるだろう。

 ピアネスの歴史的背景を思えば、数多くの戦争経験から得た知識の積み重ねがある。戦場での戦いで、末端の兵士の生存率を高める為の物資の支給。そういった配慮をするよう考えたのは、軍隊を纏める将軍であった。

 かつてのピアネスは──現在でもそうだと言えるが──人口が多い国とは言えなかったのである。

 それゆえ兵士の一人一人の存続が、のちのち国の命運を分けると考えられたのだ。



「熟練の兵士もはじめは若輩者である。まずは生きながらえ、その中から手練れの者が生まれるように、国を守る兵士であれ農民であれ、一人一人の生存が、戦争後の国のありようを決定する」



 将軍はこう言ったとされる。

 人的資源がなにより国を支えるのだ、という意味として受け取ると、将軍は理知的な人だったと思われる。

 だが実際のところ戦場には、多くの兵士以外の非戦闘員も加わっていた。

 本音と建前は違うという事だろうか。

 理想としては農民や市民を戦場に向かわせるなど、ない方がいい。──しかし、()()()()()()として、前線にはある程度の人員を確保する必要があった。


 現実的な活動と机上の空論(理想論)には、決定的な違いがある。

 もし机上の理屈で問題解決を目指すなら──理想を捨て、もっとも悲観的で否定的な視点から臨まなければならない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なのだから。


 戦場で誰もが武器を手にして戦える訳ではない。

 まして兵士としての訓練を受けていない農民や市民が、いきなり戦場に放り出されてなにができるだろうか。

 その点、かつてピアネスの軍隊を任されていた将軍は、しっかりとその事実を把握していた。

 非戦闘員にいきなり武器を持たせるような事はせず、弓矢などの武器の補充や軍馬の管理。そうした補助的な仕事に従事させたのである。



 同時期にあったある国では、前線に農民上がりの民兵が武器を手に立たされた事があった。

 兵力を温存する為の苦肉の策だと考えたのだろうか? あるいは口減らしのつもりだったのか?

 いずれにしてもその部隊の隊長は、自分の兵士を守ろうとして、国の基盤を傾けさせただけだった。

 農村部の働き手を失った国土が、攻め入って来た他国の物になったのは言うまでもない。

 その部隊の隊長は失脚する間もなかった。──なぜならその戦いで討たれたからである。


 彼の部隊に居た兵士たちには不幸な事であったが、隊長には幸運だっただろう。

 彼がおめおめと戦場から逃亡し、国の中枢に戻っていれば、戦場で討たれるよりも苦しく、とてつもない辱めを受けて処刑されるであろうというのは、誰の目にも明らかだったからだ。




 分かれ道に差しかかるとレインスノークまであと数キロの所まで来た。

 木製の立て看板には三つの小さな看板が取り付けられ、町や村の名前が書かれた看板も目についた。

 そこは二つの街道が交差する場所であり、十字路のそばには石組みの小さな宿泊施設に、数軒の木造の小屋もある。

 道の近くの地面に何人かの行商が座り込み、ちょっとした即売会バザーのようなものを開いていた。


 レインスノークに向かう者と、レインスノークから来た商人たちがこの場で取り引きをしつつ、通りかかった者に商品を売ろうというのだ。

 俺は馬上から並んでいる商品に目を向けたが──興味を引く物が無かったので、そのまま彼らの横を通り過ぎる事にした。

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