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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十三章 故郷の立て直しと交易路

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隠れて敵に接近せよ

 バクシルム領のペギゥルの街までやって来た。

 馬車でかなりの時間をかけて、ここまでやって来たのだ。

 馬車を降りて背伸びをした俺を気づかってケディンは声をかけてきたが、俺は「大丈夫です」とだけ返答した。

 空は夕暮れに差しかかる頃。

 街を囲む灰色の壁を染める夕日の朱に彩られ、ペギゥルの街は燃え上がっているように見えた。


 バクシルム領は草原地帯が多く、林や森の他にも、多くの丘や岩山、川や池なども豊富にある。

 ただ──地面は平坦ではなく、隆起していたりくぼんでいたり……

 そのお陰で街道は曲がりくねり、ペギゥルに辿り着くまでにかなりの時間がかかってしまった訳だ。

 手つかずの自然豊かな場所ではあるが、農地として利用する為には、大規模な地均じならしをする必要がありそうな場所だった。


 だが国が交易路の整備を兼ねて巨額の資金援助をするとなれば、このバクシルム領は変わるかもしれない。

 領主のケディンには、そうした想いがあるように見えた。

 馬車が停車したのはケディンが住む屋敷の前だった。

「まずは体を休める部屋を用意しよう」

「いや、それよりも、すぐにアプトゥム村に向かうか決めた方がいいのでは?」

 俺の言葉にうなずくケディン。

「──そうだな、亜人の勢力を知る為に森に人を向かわせる事にしよう。そうしつつ我々も森の近くに陣地を張り、亜人の行動範囲を広がらぬようにしようと思う」

「ではさっそく出ましょうか。亜人は夜半にかけて移動を開始するでしょうから、アプトゥム方面に向けて……」

「もちろん敵がどの経路を使って来るか分からない以上、いつでも敵の動きを追える場所に陣地を設置しなければならない。だから今日は、アプトゥム村から離れた所にある平地まで移動しようと思う。

 そこは山脈から続く森からも少し距離があり、敵を迎え撃つには絶好の場所になるだろう」


 さすがに傭兵を率いていた団長だっただけはある。老いたとはいえ、まだまだ戦略を見誤るような真似はしない。

 たとえ目標がぼんくらな盗賊団の一味だとしても、彼は最小の労力で最大の効果を上げるべく、相手を軽んじたり、気を抜いたりはしないのだ。

 的確に相手を追い詰め、退路を断ち、最初の対戦で最大の打撃を叩き込み、できうる限りその最初の一手で敵を撃破する事を求める。

 もちろんその為にわざと最初は敗戦を匂わせ、撤退する振りをして自分たちに有利な状況を作ったりするのだ。

 追い込んだつもりが実は罠にかかっていた、そんな事が戦場では命取りになる。──そんな話をケディン以外の傭兵からも聞いたものだ。


 ケディンは今回の交易路の話が出る前から、山や森に棲む亜人などを狩り、村や町を守る活動をしていたという。

 冬を前に移動して来た亜人の集団があったと推測しているようだったが、どうにも腑に落ちない。……魔術師の直感が、今回の事件にはなんらかの作為がひそんでいると訴えている。

(ま、小鬼程度なら問題はないだろうが)

 戦いは夜になるはずだ。

 暗がりに乗じて行動するのなら、幽鬼兵や霊獣を使ってもいい。

 打つ手を考えながらケディンの屋敷に少し滞在し、陣地を張る用意ができるとすぐに出発する事になった。



 ペギゥルを守る私兵たちは領主の命を受ける以前に、小鬼ゴブリンの集団を撃破するべく、陣地を張る準備を進めていたのだ。──街にある倉庫や兵舎には、武器や天幕などの装備品が整えられ、いつでも使用可能な状態だったのだ。

 彼らは夜半になる前に陣地を張る地点に移動し、夕食の支度と陣地の備えを同時におこなっていた。


 丘や大きな岩山に囲まれた平地に陣地を構え、山脈から続く森や平原を警戒して待っていると、ケディンが送り込んだ斥候せっこうが戻って来た。

 彼らの情報をまとめると、百近い小鬼や魔獣の一団が森の中に潜んでいるとの事だった。奴らは一個のかたまりとなって活動しているらしく、部隊を分けたりしている様子はなかったという。

「どうやらその一団が次に狙うのはペギゥルのようです」

「ご苦労、天幕テントで休んでくれ」

 ケディンはしらせを持って来た男たちをねぎらうと、少し考え込む。


 ──これから森に襲撃をかけるか。それとも森の近くまで部隊を押し進め、相手の動向を探るか。そのどちらを選択するかを悩んでいる様子だ。

「食事のあと、さらに山脈側に陣地を移動させよう」

 ケディンは俺に言うと、そばに居た兵士に声をかけ、食事をとっている者に指示を伝えるように言った。


「できれば森の中での乱戦は避けたいところだが」

「小鬼どもが森から出て来ますかね? 相手が手出ししやすくなるよう、こちらの兵士の数を隠すんですか?」

「ああ。部隊を三つに分けて、左右に少数の部隊を隠して移動する」

 主力の二十名を森の近くで野営させて敵にわざと発見させ、森から誘い出されて来たところを、左右に展開した伏兵の強襲で殲滅する算段だ。

「では俺はどうしますか」

「うむ、そうだな……よし。できれば左右どちらかの部隊に加わってくれるか」

「分かりました」


 俺の返事を聞くと彼は頷き、伏兵の部隊を率いる者をよびつけて、俺を紹介してくれた。

「この男はレギ。手練れの戦士だ。彼と協力して事にあたってくれ。魔法も使える頼れる若者だ」

 中年の兵士は「了解しました」と告げると、拳を胸に当てる兵士流の挨拶をしてきた。

「よろしく」

「こちらこそ」

 がっしりした体格を持つ兵士は肩当ての付いた鉄の胸当てを身に帯び、腰には長剣を下げている。

 拳を握った手の様子から、かなりの腕力を持つ兵士だと推察できた。


「それでは移動しましょう。──岩場に隠れるようにして進むので、暗くて大変だとは思いますが、どうぞよろしく」

 部隊を率いる隊長は気を使ってくれているようだ。

 実際は、俺の方が彼らを心配するところなのだが。

 彼ら街の警護をしていた兵士と違い、こちらは旅をして、人跡未踏の地すら歩いて来た冒険者だ。闇に対する経験が違う。

 それに魔眼もある為、夜闇の行動もお手の物だ。


 ……だが彼らは、なかなかに訓練された兵士のようだ。月明かりも乏しくなった闇夜の中で、明かりも点けずに岩場の間を的確に移動している。

 鞘を岩にぶつける事もなく、足音も殺して移動するその動きからは、平時からこうした野外訓練を徹底しているのがうかがわれた。



 どれくらい移動しただろう。岩場を抜けて林の中へと入り、森から離れた岩山の近くまで来ると、亜人が潜伏しているという森の方の様子を探る。

 俺が魔眼を使って遠距離の生命探知を掛けると、森の中に無数の赤黒い光が見えた。──その中に、水色の影も確認できたのだった。


(水色──だと? まさか……あれは人間か?)


 まるで獣の檻に閉じ込められでもしたみたいに、怯えているように青白い光を放っている。

 そいつは遠目ではっきりとは分からないが、亜人に捕らえられている訳ではなさそうだ。


(いったい何者だ……?)


 小鬼の群れの中には大きな獣らしい影も見えるが、地面に伏せている為に正確な頭数や、姿形が視認できない。

 魔眼の力を使い続ける訳にもいかず、生命探知を切り、俺は敵が隠れているだいたいの場所を隊長に教えた。


「魔法とは便利なものだな」

 隊長はあまり魔法については詳しくないようだ。──そちらの方がありがたい。余計な詮索をされずに済むからだ。

「敵が動く前に一休みしよう」

 準備を怠るな、そう八名の兵士たちに告げる。


 岩陰に隠れながら森のようすを探っていると、森の中の赤い光が強い光を発し、本隊に気づいた亜人の群れが活動を始めようとしていた。

「どうやら敵が本隊にきづいたようです」

 隊長に知らせると、彼は仲間たちに静かに武器を抜くよう示す。

「これから小鬼の集団が本隊に向かって突撃するところに、横から奇襲をかける。ぎりぎりまで相手に悟られないように、静かに近づくぞ」

 兵士たちはそっと剣を抜き、槍を構えて、戦いへの闘志を静かにたぎらせる。

 俺たちはくらやみのなかを静かに、身を低くして進んで行く。


 まだ距離は離れている。

 本隊に奇襲をかけようとしているのだろうか、小鬼たちの進軍もかなりゆっくりとしていた。もともと背の低い小鬼どもが、身を屈めて闇の中を歩いている。

 百体ほどの小鬼の群れという情報だったが、そこまでではなさそうだ。──だが、五頭ほどの魔獣の姿も確認できた。

 影の形や大きさから火噴き猟犬だと思われる。──それ以外にも一頭だけ、大型の魔獣の姿がかくにんできた。


「奴ら──火噴き猟犬と、カラクームの骸獣を従えているようです」

「火噴き猟犬ならまだしも、骸獣カラクームをか……」

 ゆっくりと敵の群れに接近しつつ隊長は、カラクームがどの辺りに居るかを尋ねてきた。

「今のところこちら側に居ますよ。──このまま接近できれば、俺たちで対処する事になりそうですね」

「そうだな」

 隊長は緊張している様子だ。

 あまり大型の魔獣とは戦ってこなかったのだろうか。


 カラクームの骸獣は地面を這うような格好で進んでいる。

 骸獣はその名前が示すとおり、まるで骨だけでできた様な見た目をしているのが特徴だ。しかもその姿は喰らった物の特徴を受け継ぐ為、個体によって外見が変わるのだ。

 犠牲となった生き物の骨まで喰らい、その硬い骨の鎧を作り出して体の表面をおおう。──甲殻蜘蛛よりも固いとされている──


 こいつの場合、鹿や山羊などを喰らった所為せいか、枝角や横から前方にねじれた角を持っていた。

 手足が細長く異様な見た目だが、不死の眷族けんぞくという訳ではなく、魔獣に属する怪物であり、二メートルを超える体はまるで人間と犬の合成獣の様である。

 黒や灰色の皮膚をしたあの骸獣は、夜に活動する魔獣の中でも厄介な敵となるだろう。動きは素早く──跳躍したり、長い尻尾にある鋭い先端で攻撃してきたりするのだ

 今は小鬼の群れと同調してゆっくりと歩いているが、攻撃となれば俊敏な動きで敵に迫り、角や爪で攻撃してくる。

 中堅冒険者でも苦戦する相手と言えるだろう。

 たまに戦士ギルドの掲示板に、カラクームの骸獣によって犠牲者が出た、という報告が載る事もあるくらいだ。


「カラクーム」という名は、古い魔法使いによって付けられた名前だと言われている。古い時代にあった伝承の中に登場する魔物の名前だと言われ、悪鬼と魔獣の合いの子だとする学者も居る。



「伝承にあるこの魔物は、生き物であれば大牛だろうと亜人だろうとなんでも喰らう怪物とされ、虚空から現世に迷い込むと、人界に災いをき散らすと言われていた。

 その名前が付いたのは『カラクルム村』から取られたらしく、その村は一夜にして村人全員が殺害されたと伝えられている」



 魔物に関する文献に書かれた内容は、いささか情報として頼りない。現在の骸獣の出現率はそれほど高くないが、戦士ギルドでも出没が警戒されるくらいの強敵であり、凶悪な存在だ。


 ──それを従えている小鬼の群れ。そして謎の水色の人影……

 そこには嫌な予感がある。

 慎重に戦いにのぞんだ方がよさそうだ。

この物語と同じ世界の物語『蛇は卵を呑む』が完結しました。

戦う力を持たない主人公による恐怖の街からの脱出劇。

読んでいただけたら嬉しいです。

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