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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第一章 魔導を極めし魔女

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ツェルエルヴァールムの復活

 意識が朦朧としている、悪夢から目覚め覚醒するはずだが、目を開く事もできなければ、指を動かす事すらできない。

 すぐそばに居るはずの魔女王ディナカペラの声が、やけに遠くの方から聞こえて来る。

「ツェルエルヴァールム、我が盟主。戻られたか! あの虚無の牢獄から」

 何かが砕け散る音が地鳴りのように響いて、俺の身体に伝わってくる。

「うむ、久しいな、ディナカペラよ。して、この者は何者か、冥府より我を連れ出した、この者は」

「ツェルエルヴァールムよ、この男はレギスヴァーティと言う者であり、あなたの同胞ラウヴァレアシュが遣わした人間です」

 少しの間をおいて「そうか」と言う女の声。

「では、この者を目覚めさせよ」




 胸の辺りが冷たいと感じ始めた。すると、胸に刺さっていた短刀の事を思い出してきた。そうだ、魔女王ディナカペラによって、冥府へと送り込まれていたのだ。

 目を開くとゆっくりとだが、身体に血が流れ温まって行くのを感じる。今まで寒いと感じていたが、体が震えたりする事はなかった。死んでいた為か? 死人が寒さに体を震わせる事はないだろう。しかし擬似的とはいえ、死を体感する事になろうとは思わなかった。


「死の衣」をまくって右腕を見ると、何も変わった所は無い。冥府で起きた事象は、やはり、こちらでの肉体には影響を及ぼさないらしい。ようやく体を自由に動かせそうだと感じ始め、重く強張った体を起こして、魔女ともう一人の女を見上げた。


 見覚えのない女は、薄い桃色の肌着を身に着けているだけの格好だ。乳白色の肌に奇妙な青や赤の模様が入っている女がじっと、こちらを赤く輝く瞳で見ている。──それは魔神ツェルエルヴァールムに違いない。

 頭や肩から生えていた角は持っていないが、特徴的な、毛先が緑色をした長い銀髪をしていた。見た目は美しい女性だが、身に纏う威圧感のある気配がそばに居るだけで伝わってくる。


 俺は寝かされていた低い石の台から起き上がると、「死の衣」を脱ぎながら魔女の方を見た。

「大丈夫、あなたの中の『生命循環の定理』を()()()()()()()()わ。あなたは、あらゆる病魔を退ける身体を手に入れたのよ」

 ディナカペラが言うと、魔神ツェルエルヴァールムが頷き「我からも、お前の働きに褒美を与えよう」と言って、左手を差し出してきた。


「さあ、手を出せ、勇敢なる人間よ。お前に、水と氷を自在に扱う魔法を与えよう」

 彼女の赤い爪の乗った、真っ白な指先に触れると、頭の中に魔法の心象イメージと呪文が流れ込んでくる。水を自在に操る「水蛇槍」や「氷獣」など、複数の魔法を与えられたらしい。中には水の性質や、状態を変化させるようなものも含まれていた。


 俺は魔神に一礼すると感謝を述べ、魔女を見て、これで仕事は終わりだなと確認を取る。

「ええ、ありがとう。お陰で盟主を取り戻せたわ、あなたの道行きに魔神たちの加護を」

 その言葉を聞いて思い出した。四柱の魔神の探索だ。ツェルエルヴァールムを発見した今は、残り三柱の魔神になった訳だ。魔神ツェルエルヴァールムに、他の魔神の居場所を知らないかと尋ねると、彼女はこう言った。


「ベルニエゥロやアウスバージスはおそらく、この現世うつしよと繋がる幽世かくりよに身を潜めているはずだ。居場所については分からぬが、ベルニエゥロの僕である『妖人アガン・ハーグ』を当たって行けば、奴らの主の情報が手に入るであろう」

 魔神はそう語ると、無表情の顔に少し影を差して、残りの一柱である魔神について語り出す。


「最後の一柱、ディス=タシュは危険な魔神だ、特に人間にとってはな。奴の翼は嵐を起こし、その吐く息は恐るべき毒であり、忌まわしい口から紡がれる言葉を耳にした人間は、気が狂うとされている」

 毒については問題なくなったのでは? と魔女王ディナカペラを見ると、彼女は首を横に振る。

「現世の毒物ならね、残念ながら、神々の領域の事柄には無意味よ。特にディス=タシュは、五柱の魔神の中でも強大な力を持ち、神々のみならず、他の魔神とも敵対するような、異質な魔神であるわ。仮にあなたがラウヴァレアシュの庇護を受ける者だとしても、あの魔神が手を出さないという保証はないはずよ」


 おいおい、そんな奴とも接触しなければならないのか? これは一度ラウヴァレアシュと話し合う必要がありそうだ。あの魔神が「確かに危険だから、奴には接触しなくて良い」と言い出すとは、到底思えないが。


 *****


 ともかくラウヴァレアシュの同胞を見つけ出したのだ、それも予想よりもかなり早い期間でだ。やはり今回の冒険も、今まで経験してきた冒険とは違った、驚異に満ちたものになった。危険も格段に増したが、得られる報酬も大きなものであり、しかもそれが約束されているのだ(今までの冒険は、むしろ、徒労に終わる事の方が多かった)。


「それでは、あなたをダンベイテの町近くまで送り届けさせましょう、リアヴィーシスならすぐに着くわ」

 俺は魔女王と魔神に別れを言って、洞窟内にある魔女の工房らしき場所を出る事になった。

 先導する黒い液体の少女リアヴィーシス。彼女は光を放つ結晶を手に持って真っ暗な洞窟を進んで行く。この小さな体から巨大な蛇の様な姿になるのだから、魔女王の力がいかに強力なものであるかは、言うに及ばずといったところであろう。


 水晶が壁から突き出す通路などを抜けて、洞窟の入り口にまで戻って来た。まだ夕暮れには遠い時間だろう、リアヴィーシスの移動速度なら町には暗くなる前に戻れそうだ。

「人間に見つからないよう注意してくれ」

 黒い水の大蛇となった彼女に言うと「わかった」と、素直な返事が返ってくる。


 椅子の形になった頭部に座ると胴体をくねらせて、ゆっくりと地面を滑るように移動を始める。──最初はゆっくりとした動きだが、徐々に加速を始めると、風圧で顔が歪みそうになるくらいの速度で、荒れ果てた大地を移動する。


 体を背もたれに預ける、というよりは押し付ける格好で運ばれている俺。快走している彼女には申し訳ないが、もう少し速度を落としてもらいたい──しかし、口を開けて喋るのも大変なのだ。

 俺は特等席に腰掛け、なすがままの状態で運ばれていると、しだいに速度を落とし始めてほっとする。大蛇は大きな崖の陰に止まると、頭を地面に付けて俺を降ろしてくれた。


 髪を手櫛てぐしで整えてリアヴィーシスに礼を言うと、彼女は大蛇の頭の部分を人間の少女の上半身に変化させ、両手を振りながらこちらに背を向けて──ずるずると、地面を移動しながら去って行く。

 そんな彼女の愛らしい姿を見送ると、ダンベイテの町に向かおうと歩き出す。と──体が強張っているのに気づく。


 凄まじい速度で運ばれていた時に、相当(りき)んでいたのだ。簡単な柔軟体操をしてから町に向かう。町に着いたら鉱夫たちの寄り合い所が魔物に襲われて、おそらく全員死亡した事を報告しなければならない。町の何人かに鉱山への道を尋ねていた為、あらぬ疑いを掛けられる可能性も捨てきれないからだ。


 気乗りはしないが、重い足を進めて町へと向かって歩き出した。

第一章「魔導を極めし魔女」はここまでです。


読んでくれた方に感謝を。


温かい評価や感想を頂けるとありがたいです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういうオールドスクールなファンタジーも、やはりよいものです。
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