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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十三章 故郷の立て直しと交易路

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輝ける精霊の王

精霊の王。その姿を想像しつつ、それがどういった存在であり、大きな力を持っているか。思いを膨らませていただきたいです。

「さすがはヴラトリアの炎の守り手にして、ガングリウの炎槍の持ち主」

 俺はその名を口にした。──が、精霊の騎士はなんの反応も示さない。

 ──そうか。

「ガングリウの炎槍」の中にある呪文は、あくまで人界の魔術師なり魔法使いなりが呼ぶ名前なのだ。

 彼女らの個別の名前ではなく、あくまで魔法の契約上に使用された精霊騎士の名前なのだろう。──あるいは彼女らに本来名は無く、ただ精霊界の入り口を守るという責務以外に興味は示さないのかもしれない。


(当てが外れたか)


 だが失望は感じない。

 もともと戦う以外に道はないだろうと思っていた。

 ここは精霊界であり、俺はその中に迷い込んだ異物。

 できれば精霊と戦うなどしたくはないが、逃れられぬというのなら──戦うまでだ。それは精霊にとっても同じであろう。

 ここで戦って生き抜いた俺を、自然摂理に反逆した者として敵視したりすまい。

 彼らはそこまで理不尽に人間の生命を蹂躙じゅうりんしようとは考えないはずだ。……たぶん。


「ふぅ」と息を吐き、改めて戦いへ集中する。

 今度はこちらから攻めていった。



「ガギィンッ! ギィンッ、ガツッ、ギィイィンッッ! カシィンッ、キィンッ────」



 こちらの攻撃を弾き、切り返し、突いてくる。

 こちらも真正面から応戦し、回避しながら反撃を織り込む。

 相手の隙を引き出し、撹乱かくらんし、攻撃を弾いて槍の懐に入り込む。


 我ながらよく耐え切ったものだ。

 頬に傷がつき、赤い血が一筋流れた。

 腕にもかすり傷を負ったが、この二つの損害ダメージ以降は攻撃を完全に見切っている。



(大丈夫だ。攻撃は見えているし、予測もできるようになった。────いける……!)



 俺は強化魔法を切らさぬようにし、相手の側面にゆっくりと移動しようとした。

 すると相手は紅玉ルビー色に輝く目を開き、急に赤い槍の穂先に魔法の力を解き放った。

 銀色の穂先が燃え盛る紅蓮の炎と変わり、それが一瞬で凝縮したように刃の中へと集中する。

 真っ赤な槍は今や、灼熱の力を有した危険な魔法の武器へと変貌した。

 穂先には明らかに火の力が宿り、赤熱した刃から異様な熱が放たれ、ぶんぶんうなるような振動音が漏れている。



(あれに傷つけられたらまずいな……)



 正真正銘、攻撃魔法の元となった「ガングリウの炎槍」を発現したのだ。

 今までのは小手調べだったという訳か。


 ここでは魔神の力に類する魔法は使いたくない。効力も落ちるだろうし、なにより彼ら精霊に敵意を持たれるような行動は取りたくないのだ。


 俺が慎重に魔剣を構えると、ヴラトリア──火の力を司る炎の精霊竜──に仕えるという騎士は、先ほどよりも積極的に前に出て来て、苛烈な攻撃で俺を攻め立てる。

 相手から繰り出される突きを弾くだけで手一杯だった。

 鋭い連続突きの嵐。

 まるで三本の槍が同時に飛んでくるような錯覚すら覚える。

 剣で突き出される槍の軌道を変え、なんとか体に当たらぬよう堪えていた。


「バスゥゥッ!」


 頭の横を突き抜けた穂先が空気を焼き、突き出された先に放熱したのだ。



 槍が引き戻される前に踏み込んで、相手の腕を斬りつけたが、くるりと回避されてまた間合いを開けられてしまった。

 だが、今のは良かった。

 相手の突きを弾きつつ体勢を崩させ、懐に飛び込むのだ。

 勝機はそこにしかない。

 それほどの使い手だった。まさか精霊の騎士がこれほど武器の扱いに精通しているとは。


 俺は次の一撃に賭けることにした。やや上段の構えを取り、相手の突きを誘う。



 ぎりっ……



 騎士が槍を握ると同時に、赤熱する刃が突き出される。



「ガシィイィンッ!」



 俺は一瞬速く魔剣を振り下ろし、突き出された槍を叩き落とす。

 体の外側に向けて叩き落とされた槍の穂先が地面に突き刺さり、地面をえぐる爆発を起こす。

 後方のすぐ近くで爆発した衝撃に背中を押される格好で、俺は精霊騎士に接近し、若干よろけながらも魔剣を薙ぎ払い、相手の胴体めがけて斬りつけた。



「ガチィンッ」



 素早く槍を引き戻した精霊騎士が、槍の柄で俺の攻撃を受け流す。

 大きく足を開いて屈み込んだ格好になった相手は、剣の下をくぐるようにして回避し、くるっと後転しながら間合いを開ける。


 その柔軟な動きといい、洗練された戦い方のみならず、危機回避能力も相当に高い。

 なんとも厄介な相手だ。

 俺は即座に追撃をしようと考え、足を踏み出そうとした。




 すると森の方から、さっきとは違う楽器の音色が響いてきた。

 弦楽器のようだが、いくつも音程の異なる音色が重なり、声楽による重奏も聞こえてきた。


「ァアァアァ──、ラララララァ────」


 そんな歌声が響き渡り、太鼓や喇叭ラッパ、木琴や竪琴の音も聞こえてくる。

 いったいなにが起きたのか。

 そんな風に思ったが、気づけば赤熱した槍を手にした精霊騎士は武器を下げ、青き剣士と並んで森の近くに下がっていた。

 しばらくすると森の奥が光りだした。


 それは精霊の光。


 圧倒的な存在の気配がその森の中から現れた。

 具現化した巨大な命の炎を目の当たりにしたような、畏怖を覚えるその光。

 それは魔神と対峙した時のような、悪夢じみた恐怖に彩られたものではなく。

 まるで生命の根源を目の当たりにしたかのような、自然の中枢にある力の具現を見たかのような思いにとらわれる。


 金緑色のまばゆい光に気圧される形で俺は数歩下がり、精霊界と物質界を繋ぐ、白と黒の柱の近くまで後退した。

 自然の──生命の循環を体現するその光の中は、雄鹿が持つような枝分かれした大きな角を生やした、美しい四本足の獣の姿が見えたような気がした。

 それには影が無く、光に満ちあふれ、生命の完全なる勝利をうたっているかのように──かすかに遠く鳴り響く、荘厳そうごんなる古典音楽の音色をともなって現れたのだ。


 威圧する光はしだいに弱まったが、手をかざしながらでないと、その姿を直視する事はできなかった。──光り輝くその四つ足の獣は、多くの霊獣や侏儒こびとを伴っていた。

 大いなる精霊の背後に人型の召し使いが並び立ち、様々な楽器をたずさえて、美しく響き渡る音楽を奏でながら──主人の威光を音楽の響きに乗せて、それぞれが美しい歌声を響かせていたが、一瞬でその合奏が止んだ。



『久しいな』



 それは重低音のように頭の奥底に響き、俺に畏怖の念を抱かせた。


『無事で何よりだ』


 それは光り輝く神獣が放つ声なき声。

 頭に直接響く精神感応の言葉。

 だがそれは奇妙な感覚ではあったが、不快なものではなかった。


「俺に会った事が?」

 混乱していた為、すぐには神獣の存在がどのようなものか考える事ができなくなっていた。

『うむ。──いや、私の半身と呼べるものが、お前に会いに行ったのだ。あの時はきっと、お前にとって母の様な姿をしていたであろう』

 母──女神、精霊界……そうか、火山島の帰り道に突然現れた精霊の主。精霊の女王。つまりいま目にしている神獣は、精霊の王そのものなのだ。


「それで、俺をどうしようと?」

 しんと静まり返る精霊界の入り口で、俺と精霊の王が対峙している。


『いや、何も』

 神獣は光り輝く枝角を振り、金属の柔らかい音を鳴らすと、ちらちらと金色の光を辺りに振りく。

『邪悪な虫が入り込んだのを我らの騎士が討ち滅ぼすはずだったが、何故お前がここに迷い込んでいるのか。本来人間は立ち入れぬ場所。──わしが来なければ、お前は騎士たちによって討たれていたかもしれぬ』

「簡単に負けるつもりはありませんよ」

 俺は強がって言った。

 すると精霊の王は、森のざわめきのような笑い声を響かせた。


『ふ、ふふふふふ──そうか。そうであったな。お前は危険なほど勇猛で、それでいて臆病にも振る舞える魔術師。

 命の守り手である儂らには、お前はいささか危険に過ぎる。自らの命を賭け金のように扱うなど──おお、まったく魔術師という奴は傲慢で謙虚で恥知らずであり、二律背反の中に真理の言霊ことだまを探し求めようとするかのごとく、悪意も善意も、罪も真(誠)も飲み干して生き急ぎよる』


 驚くべき事に精霊の王は、魔導の研究にも精通しているかのような言葉を吐いた。 彼らが魔法の力の一端を担っているとしても、魔導の極致へと至る道筋にも理解を示しているとは。

 命の守護者を気取る無知な霊かと思われていた精霊が、まさかこのような人間的な知性にも興味を持っているとは知らなかった。


『まあお前はたまさか精霊界に迷い込んだのであろう。それをとがめるつもりはない。──豊饒ほうじょうを願う者の祈りの場を荒らしたというのなら話は別だが』

 六本の柱が置かれた聖域の事を言っているのだと気づき、四本の柱に触れる事で、精霊界との接点を間接的に持ち得るのかと考えた。あの柱自体には魔力などの力は欠片も無く、柱は象徴的な力の入り口のような、儀式に使用される触媒の役割を果たしていたのだ。


「あの蜘蛛妖女が襲ってこなければ、ここに来る事もなかったでしょう」

 俺の言葉に、光り輝く黄金の神獣がうなずく。

『うむ。では帰るがよい。……いや待て、せっかく来たのだ。何か取らせよう』

 そう言うと精霊の王たる獣が、青い剣士の方に視線を向ける。

 すると青白い光をまとう女剣士が前に出て来た。

 青い仮面を付けた剣士は、腰に下げた短剣を手にすると、それを差し出す。


『受け取るがよい』

 青の精霊剣士から短剣を受け取ると、俺はそっと後方に下がる。

『それではさらばだ──魔術師。お前の進む道には、嵐と暗闇が立ち込めているぞ。お前が世界の敵となるか、それとも嵐を鎮めるくさびとなるか……努々(ゆめゆめ)忘れるな、その道の行く先に、破滅の闇が広がる危険がある事を』

 黄金に輝く神獣は、いくつもの光の束となって消え去った。


 すると精霊騎士たちを残して、他の多くの獣や侏儒や精霊たちの姿も消え去っていた。

 彼女らはじっとこちらを見ていたが、すっと白と黒の柱を指差し、そこに光の輪が現れたのを教えてくれた。──どうやら帰還する為の出口を開けてくれたらしい。

「世話になった」

 言葉は通じないと思われたが、彼女らにそう声をかけると背を向け、精霊界から人界への出口に向かって歩き出す。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神よりも人との距離(境界?)が近い存在が精霊達なのでしょうね。
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