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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十二章 故郷の蠧毒(後編)

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音盗の呪符と光体

 短かった蝋燭ろうそくが数本消えて、室内は少し暗くなった。

「そろそろ寝るか?」そう俺は言ったが、二人はまだ俺との会話を続けたそうにしている。

「それほど話す事はもうないと思うが」

「久しぶりに会えて、こちらも多少は聞いてほしい事くらいあるわよ。……まあ、あなたの冒険話に比べたら、どうって事のない内容だけれどね」

 燭台に置く蝋燭を取りに行こうとするアルマを呼び止める。

「ではこうしよう。俺が今から魔法で光を作り出してやる。それが消えたら眠る事にしよう」


 そう言うと二人は、俺が魔法を使うところを楽しみに見守るみたいに椅子に腰かけた。

 俺はただの魔法ではなく数匹のおぼろちょうを呼び出し、暗かった部屋の中を青い光で照らし出した。

「きれい……!」

「こんな魔法もあるのか──」

 二人は感心した様子で、ひらひらと室内を飛ぶ柔らかい光源を目で追っている。




 こんな具合に二人との会話はもうしばらく続いた。

 親友二人の故郷での生活の変化は、彼らが大人になったという部分以外ではあまり変わらなかったらしい。ただ、父親から商売を引き継いだクーゼたちは、それなりにエブラハ領に変化をもたらそうと、新しい商品を探しに行ったり、いろいろと奔走ほんそうしていたようだ。

 農耕についての知識も他の領から学び、農具の手配と共にそうした情報も農民たちに広めた事から、クーゼはかなりの支持を市民たちから得ていたのだ。──はっきり言ってそれは、うちの愚兄など必要がないほどのものだったろう。

 むしろスキアスや俺の親父殿など、市民にとっては「居ない方がまし」くらいに思われていたかもしれない。


「お前たちの方がよっぽど領主みたいな事をしていたんだな」

「はは……それでもブラモンドを中心にした町や村に、新しい農耕の手段をちょっと広めるくらいしかできなかったさ。なにしろ農民の多くは新しい事に取り組むのを嫌がるからね」

 自分の力や知性を信じて学び、発展しようとしない者の意識がどうなるか──俺はよく知っている。自らの足を引っ張るというのは、そうした未熟な精神領域から湧き出てくる影のように、彼らの生き方を狭い範囲に押しとどめる。

 そしてその無知蒙昧(もうまい)な生き方を他人や家族にも強要し、屁とも思わないのだ。

 だから彼は現状に変化をもたらす事ができずに、それでいて現状に不満を持ち続けるという誤謬ごびゅうを犯すのだ。


「……そうだった。話し忘れていた」

 朧蝶がそろそろ「影の檻域」に戻る時間が迫ってきた。

「俺は家督かとくを父……いや、その妻のエンリエナに譲るつもりだが──クーゼ。お前には彼女の補佐をしてほしいと思っている」

「え?」

「つまり商売の事だけでなく、領地の管理をエンリエナと共に考え、エブラハ領を今よりましになるよう考えてくれと言っているんだ」

「おいおいおい」

 面倒臭そうな顔をする友人。その妻もあまり気乗りしないらしい。


「そんな簡単にはいかないでしょ。エンリエナさんがクーゼの力を借りようと思ったとしても、他の市民から変な疑いをかけられそうじゃない」

「だがお前らは実際に、市民の生活に関わる道具や食料の手配をして、それなりに町や村を発展させている訳だから、いまさらお前たちのやる事に異議を唱えたりはしないだろう。むしろ俺の方が彼らの猜疑心さいぎしん駆り立てる可能性がある」

 それは確かに……と考え込む二人。

 それほどまでに領主の血族は信頼を失っているのだ。

 このままでは義母エンリエナも苦労させられるだろう。それをなくすまではいかなくとも、クーゼたちの援助があれば、それなりにうまくやっていけるはずだ。


「まあよろしく頼む」

「本当におまえは領主になる気はないのか」

「まったくない」

 そう言って俺は立ち上がる。

「さあ、そろそろ眠るとしよう」

 蝶は幻想的な青い発光を残して消え去った。


 二人は難題を押しつけられて困っていたが、それよりもどうやら俺に、このままエブラハ領に残ってほしいと思っているらしい。

 だがそれは無理な相談だ。


 冒険者として生きる事を決め。さらには魔神との関わりももった俺にとって、普通の──市民としての生活など──送れるはずがなかった。

 魔導の中にこそ、俺が生き、死ぬべき理由がある。

 それは二人にも誰にも分からない、悟らせない。

 この俺の根幹に関わる秘密なのだから……




 屋敷の一室で眠る事になった。

 いつものように部屋に結界を張り、余計な邪魔が入らないようにした。

 今晩は神霊領域での作業をおこなおうと、次元転移をして肉体ごと移動する。

 この神霊領域の肉体か、ここで活動する魔導人形を作製する事も考えた方がよさそうだ。その人形の中に意識を移動させ操れば、肉体ごと次元転移する必要がなくなるはず。

 その他にも影の倉庫からこちらに直接物を転移させる魔法陣を用意するのだ。──今回はそれを設置する為に、広場になった草地の地面を掘り返す事にした。


 地道な作業をしながら、地面にできた空き地に草が生えぬよう施し、石の塊(ブロック)を並べて造った床に魔法陣を生成する。

 影の倉庫といくつかの法則で繋がりをもてるようにし、慎重に術を施す。

 俺の無意識領域からは、こちらの次元との接点が完全に遮断されるように設計する。──つまり俺の意識からでないと、この神霊領域がある事すら悟られないようにする為だ。

 俺の無意識に干渉して探りを入れられた時の為に、この領域の事は完全に隠さなければならない。──特に上位存在には。


 これで例え俺が意識を失った状態になっても、その無意識領域からこの場所を探るのは格段に難しくなる。もともと存在しないものを探ろうとするようなものだ。


 その作業が一段落いちだんらくすると、今度はありあわせの物で魔導人形の身体を作り出せないかと考える。

 ────しまった。獣や魔物の骨や角を獲得しておけばよかった。

 木材でも石材でも──金属でも可能だが、強度があって自在に形を変えられる材料を選ぶのなら、骨が一番効率がよさそうだ。

 灰にして土や石と混ぜた物を素材にすればいいのだから。手間もかからず、魔力回路を作り出すのにも向いている。

 あいにくと宝石の原石や金属の延べ棒が数種類あるだけで、多くの材料はない。


「木材や灰なども集めておくか」

 いちおう魔導人形を生成する魔法陣だけは先に作っておいて、素材の一部もそばに置いておく。

 ここに生えている宝石や金属みたいな草花を改めて調べてみると、こいつらがこの領域を清浄な力で満たしている役割を担っているのを知った。

 この大地の影響下から生まれた疑似的な植物。空気を生み出すだけでなく、神的な力を高める効果もあるのだ。

 この植物は一部に残しておく事にし、今後もこの領域を神聖なものとして残しておこう。


 それにこの領域でなら魔導人形を動かす活動力エネルギーは、この大地からあふれる力でまかなえる。魔力を中心にした核を生成すれば、この空間に居る間はずっと起動し続ける事が可能なのだ。

「自立して活動するほどの思考を持たせられるか、そこが問題だな」

 魔導師ブレラの残した技術がある為、それを模倣すればいいのだが、そこからさらに発展させてこそ魔術師の本道と言えるだろう。ただあるものを利用するのは凡庸な者のする事。

 技術を、知識を与えられて終わりではない。そこからさらに独自の発展を与えたりする事によって、新たな力や技術となるのだ。




 影の倉庫から取り出した物の中に羊皮紙があった。

「そうだ、これで『音盗の呪符』を作るつもりだった」

 危うく忘れるところだ。

 俺はすぐに小さな羊皮紙に図形と呪文を書き、術式を封じ込める。羊皮紙はまだ数枚分あるので、他の呪符もいくつか作製しておく事にした。




 そうした作業をしつつハッと思い出す。

 俺はこの浮遊する大地の中心にある台座に近づくと、そこに置いた天使を封じた結晶を操作し、この領域の性質を変化させられるか試してみた。

 ────思ったとおり、いくらかの自由な領域設定がおこなえそうだった。幽世かくりよと現世の狭間を移動するこの神霊領域は、時間的な影響を緩和する事ができるのだ。

「ならここでの時間の影響は魔術領域と同程度のものにしておこう」

 これでここでの活動を長時間おこなったとしても、現実世界の時間の消費はわずかなものとなる。

 より神霊領域での活動がしやすくなる訳だが、やはりここで活動するなんらかの存在を用意したいところだ。


 台座にある結晶体を使ってなにか新たな力を作り出せないかと試してみたが、やはりそれには触媒が必要であった。どちらにしてもここで活動する肉体(物体)が必要なのだ。それは現世から調達しなければならない。

 ただし霊的な防衛機構には抜かりはない。

 もともと神霊領域には防衛機構(結界)が備わっていたので、それにさらに付け足して、この結晶体の力を使った霊的防衛機構を用意した。

 神霊領域に近づく者があっても簡単には悟らせないが、万が一この大地に張られた結界を越えて侵入する者が居れば、それを排除する自動防衛機構だ。

 強力な魔神などが相手でなければ、ある程度の対抗力になるはずだ。──結晶には「神雷」の力があるので、それで反撃するよう設定した。


 侵入するにしてもその可能性が一番高いとしたら、俺の肉体と精神からこの領域への接続を知る事だろう。この神霊領域がもつ本来の秘匿性からすれば、それがもっとも懸念される。

 だからこそ俺の無意識領域からは探り出せないように、何重もの策を張り巡らせたのだ。

 魔神の力についても自分の力として取り込めないか、もう一度確かめてみる。

 ネブロムとファギウベテスの力を確認してみると、ネブロムの力の結晶を完全に取り込めそうだと知った。


「よし! いよいよ……!」

 魔力の領域(魔力をつかさどる霊体)に魔神の力を組み込む。

 強大な力が流れ込む──それは魔力の器を拡大し、さらにその中にある知識や力を自分のものにできたのだ。

「これが魔神の力……‼」

 魔神ネブロムの力を取り込んだ事で、新たな霊体を入手するきっかけを得た。まだ光体アウゴエイデスの完全な制御はできないが、膨大な魔力や、魔神や邪神などの霊質を奪えば──いずれは自分自身の光体を作り出せるだろう。


 ファギウベテスの力も取り込もうとしたが──まだ抵抗を感じる。もう少し時間をかけてこの魔神の力を分解、抵抗を奪って取り込むしかない。

 この魔神結晶の抵抗力は、ファギウベテスの司る霊的支配の力に起因するのは間違いない。おそらくだがこいつが名乗っていた「復讐者の神」という二つ名、これが意味する力が特殊な効果を発揮しているのだ。

 こいつの力自体はそれほどそれほど大したものではなかったが、その根源的な力は使いようによっては、かなり強力なものとなる予感がある。



 まずは光体の力をどこまで自在に扱えるかを確認した。

 俺の意識を移し替えるだけの「器」は構成できたが、まだまだ上位霊体としての構造は形作れなかった。膨大な力を秘める魔神や死導者グジャビベムトの力を取り込んだ存在として光体をあらわすには、もっと上位世界の力を取り込まなければならないのだろう。

 だがこれだけの「器」であっても、上位の領域での作業をこなすくらいはできるはずだ。


 この新たな霊体を基にして高位の──神的な力を扱えるように、遠大な技術への到達を果たすべく、さらなる取り組みを始めよう。

 そこでさっそく上位の霊的領域を探索しようと、この新たな器を使って上位世界に移行してみようとしたが────

「……できない」

 そう、光体で造られた器をもってしても、神的領域に入る事はできなかったのである。

魔神の力を自身と同化させる作業。

暗い深淵を飛び越えるような──精神の技術。

それは簡単なものでは決してありません。

自己の変容にも直結する危険な技術です。

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