表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第一章 魔導を極めし魔女
18/291

宮殿内への侵入

 二階へ続く曲がり階段が広々とした広間の左右にある。その大きさ、高さは途轍とてつもない物で、二階の高さは──おそらく、通常の人間の城の高さほどはあろうかという代物だ。

 階段の一段一段も、飛び上がれば届くような高さではない、だが上に上がる方法はありそうだ。──それは階段の手摺りのある場所だ、ここは段差がなく坂状になっている。


 ただしかなりの急斜面だ、登ってる最中に滑り出したら危険だし、階段側に落ちても大怪我、反対側なら問答無用で死ぬだろう。──果たして冥府で、物質界の常識が通用するかは分からないが。

 右側か左側か、どちらの階段を上がるかを決めるのに天井や、その他あらゆる場所を観察してみた。一瞬、二階の奥に何かが消えて行くのが見えた、かなり大きな影だ。できれば遭遇したくはない。右奥に消えたその影と反対側に──行くのは止して、右側の階段を上がって行く事にした。


 二階には奥へと続くと通路が二箇所あるのだ、その通路は奥で繋がっているはずだ。どちらの階段を上がっても、二階に居ると思われる「番人」との遭遇は運だ。

 見つかったら発光魔法(ここで使えるかどうか確認はしていないが)で目潰し、あるいは認識阻害を使うしかない。どちらも駄目なら外へ逃げる。

 そんな予定を立てて、二階へ向かって手すりの下にある坂を登って行く事にした。


 坂は本当に急だ、滑り止めを付けた靴で良かった。これは河原の苔が薄く付いたような岩の上にも滑らずに、足を乗せられる優れ物なのだ。こいつのお陰で坂は何とか前屈みで進んで行ける。──一番上が果てしなく遠くに感じるが、慎重に一歩一歩踏み出し、大理石か何かで造られた坂道を上って行く。


 時折、手すりを支える柱に足を落ち着けて、休憩を取りながら、二階へ向かって進み続ける。左側を見るとすでに相当の高さを登ったと思いきや、三分の一にも満たない高さしか登っていないようだ。ふと二階を見上げると、何かが左奥の通路から姿を現し、俺は柱の陰に身を潜める。

「番人」とはあれの事なのだろうか? 何という奇怪な存在なのか、下からでは良く見えないが、蜘蛛や百足むかでさそり蚯蚓みみずを合成した様な──醜悪な、巨大な生き物が通路をうろうろと這い回っているのだ。


 そいつが通ると、ガジガジと奇妙な音を立てながら床を這って移動し、二つの階段が合流する二階通路の中央で立ち止まって、辺りを警戒する動きを見せる。

 建物の外に居た番犬も相当な大きさだったが、こちらの醜悪な怪物は高さはさほどでもないが、下半身の百足の部分が長く、体長は相当な長さがあるだろう。


 いずれにしても見つかりたくはない、あいつが再び行動を開始すると、二階へ向かって坂道を上がる作業に移った。疲れは感じないので一気に駆け上がる。

 二階へもう少しという所で、床を這うガジガジという音が聞こえてきた。まずい、このままでは見つかる、俺は慌てて手すりの陰に隠れた。


 柱の裏手に回り込んで止まろうとした時に、靴の裏が「きゅっ」と音を立ててしまった、奴に聞かれたら最悪だ。

 祈るような気持ちで柱の陰から、二階の様子をそっと窺う……


 二階を彷徨うろつく怪物は、その音を聞き逃したらしい、ほっと胸を撫で下ろすと、通路の中央で止まっている奴の動きを確認し、動き出して通路の奥に姿が見えなくなると、二階へ向かって一気に坂道を登って行き、巨大階段の手すり坂を登り切った。




 改めて二階から周囲を見回すと、広大な城内が、あまりに規格外の大きさで設計されており、自分が小人になった気分だった。

 この冥府の宮殿には生憎あいにく侍女メイド服姿の女子はおらず、床板を傷付けながら這い回る、気色の悪い怪物が居るだけで、小人になって下着を覗くなどといった行為に及ぶ事は、期待できそうにない。


 そんな冗談はともかく、宮殿二階にあるはずの、魔神が封印されている金色の結晶を探しに行かなければならない。気味の悪い怪物が歩いて行った通路に向かって走り出す、生命探知はここでは意味がないのは確かだった、すべての物が灰色に見える。

 魔眼を使った魔力感知では、この建物の中にいくつかの反応があるのが見えた。通路の奥へ向かって行く怪物は一体しか居ないのだろうか、他に反応は無い。


 左奥の通路へ消えた怪物の後を追う形で通路に入った。そこは薄暗く、明かりは後方の玄関側から差す光と、通路の先にある白っぽい明かりだけである。──通路にも所々に、壁と一体化した柱の出っ張りがあり、その陰に身を潜める事はできそうだ。


 魔力感知を使いながら進んで行くと、あの気味の悪い「番人」は通路の奥の方へ進んで行ったのが見えた、今ならば通路を駆け抜けられる。そう判断し、足音を立てぬよう注意しながら、暗い通路を一気に駆け抜ける。通路の奥にも左右に分かれた道があり、床板の至る所が、怪物の通った足跡で傷が付いていた。

 しかし通路の左側と右側では、明らかに足跡の形が違う。


 百足型の脚を持ったあの怪物が通った右の通路は、道の中央辺りが削れているのに対し、左側の通路は、道の端の方が傷付いているのだ。


 どうやら別の「番人」が、もう一体はいるらしい。左に曲がる通路の先にも丁字路が見え、右の通路には扉が左右にあるのが見えた。

 そして左側──つまり玄関側から遠い方の扉の奥から、魔力の反応があるのだ。俺は左右のどちらにも「番人」が居ない事を確認すると、通路の奥へ向かって駆け出す。


 壁際の柱の陰にいつでも隠れられるように、後ろを振り向きながら進んでいると、後方の通路に何かが現れたのが見え、反射的に柱の陰に隠れた。


 不気味な「番人」は蜘蛛の脚を持った奴だった。細長い脚を持ったそれは、胴体が茶色の丸い球根か何かの様な物でできており、その上から何本もの大きく、異様に長い人の腕を生やしていた。

 球根の頂点には、干からびた人間の上半身の様な物も見えているが、見つかるといけないので、注視するのは止めて柱の陰に隠れる。


 百足型の「番人」が玄関前で一度立ち止まり、再びこちら側の通路の警戒を始める前に、扉の中になんとしてでも入らなければ──さもなければ、あの気色悪い奴に発見されてしまう。


 そう考えながら左側の通路を見ると、蜘蛛の脚をした奴は左奥の通路に向かって歩き出す。この機会を逃さず、壁際を走って扉の前まで駆け込んだ。

「さて、この扉をどうやって開ければいいのだ?」

 扉の下はわずかな隙間があるようだが、そこから部屋の中へ入る事はできそうにない、体が小さな子供でも通り抜けるのは無理だろう。魔眼を使って調べて見ると、扉には結界が張られているらしい──そして、その扉には魔法の鍵が掛かっており、魔法によって開ける事ができるようになっていたのだ。


「おいおい、聞いてないぞ」

 そう呟いた俺の足下に何かが滑り込んで来た。どうもそれは俺の影から這い出てきたようだったが、それは小さな灰色の鼠だ。

 その鼠は、扉の下にある隙間から結界をすり抜けて部屋に入り込む。どうやら魔女王ディナカペラの使役する使い魔らしい、いつの間にか俺の影に忍ばせていたのか──いや、ここは冥府だ。そして彼女は今、俺の身体のそばに居るのだ。そこからこちらの様子を察して、鼠を送り込んだに違いない。


 しばらくすると、扉に掛けられた結界が解除されて、扉がわずかに開いた。その隙間に体を滑り込ませると、再び扉は静かに閉められた。鼠は扉の前に座り込んで、いつでも扉を開けられるように待機しているらしい。

 灰色の鼠は落ち着きなく鼻をひくつかせて、辺りの様子を窺うみたいにきょろきょろと周囲を見回しているが、その場を離れる気はないようだ。


 扉の事は彼に任せて、俺は、部屋の中にある魔神の封印を探す事に集中する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ