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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十章 海を越えた先での死との邂逅

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魔神の手引きと偽りの神

 魔神の話では、トルーデンの火山が噴火した理由は、神々の力とアウスバージスの力がぶつかり合いが原因らしい。

 幽世かくりよでの戦闘の影響が地下にある気脈に影響を与え、島の大半を埋め尽くす溶岩を噴き上げる、炎の地獄を島にもたらしたのだと言う。

 ある意味では魔神アウスバージスの強大な力の影響で、火山が噴火したとも言える。


「オレとしても不本意な事だ。しかも奴らの使った霊験れいげんの力。──それは精霊にも影響し、気脈が傷ついたままになり、魔精霊が地上を歩き回る結果になった」

 それを止める為に、俺に働いて欲しいと狼魔神は言う。

「いったいどういう事なのですか」

「現世とも精霊界とも繋がる狭間の領域、そこに巣くう存在を討伐してほしいのだ。それは魔神や精霊や天使、そういった存在の滅びから発生した、光体アウゴエイデスや霊質の残滓ざんしが混じり合って生まれた──異質なる存在」

 そんな滅茶苦茶めちゃくちゃな存在が居るのかと考えたが、「闇の五柱の王」と呼ばれる魔神の一柱ひとはしらであるアウスバージスの力で倒せばいい。俺はそう主張した。


「もちろんそうだ。しかし奴は狭間の領域に存在し、そこから別の次元に影響を与えるのだ。残念ながらその領域にオレが直接、出向く事はできない。あの領域にオレが侵入すれば、狭間の領域は崩壊し、その影響で気脈は寸断され、この島にさらなる災いを引き起こすだろう」

 よって、人間である俺が狭間の領域に侵入し、「炎の魔精()()」を倒せと言う魔神。

 魔精偽神──その新たなる「存在」に付けた名だと、アウスバージスは言った。


「はっきり言うが、人間には危険な敵だ。極力あの狭間の領域でも力になる物を与えたいが──ふむ。そうだな、火の力……熱を無力化する『火神の加護』の魔法を与えよう。これがあれば、火による攻撃を無力化できる。──ただし、吸収できる熱量の限界を超えれば、この力は効果を失うが」

「相手は火の力を持っているんですよね?」

 魔神の王はうなずき、火が漏れ出る金属の指先を差し出してきた。その大きな身体をかがめ、突き出された指先と鋭い爪は、俺の手首くらいの太さがある。

 その爪に手を当てると、魔神の身体から銀色の火が走り、俺の身体を貫く──熱さは感じない。


 その接触から「火神の加護」と「魔神の獄炎」「火精爆破」「猛炎の壁」の魔法を習得した。

 それらの呪文や魔法の使用心象(イメージ)が頭の中に映像化され、自分の魔術領域とも結び付けられる。

「『火精爆破』も上手く使えば、魔精偽神の攻撃を防ぎ、動きを止められるはず。あとはお前の実力しだいだ」

 きょう戦った魔精霊や魔精火竜との戦いを思い出し、新たな魔法を使ってどのように戦うかを考える。

「炎の魔精偽神が居る領域は、火の精霊力を強める場所だ。そして炎の魔精偽神は精霊や魔神など、複数の力を根源として持つ存在。過酷な戦いになるのは間違いない」

 できればなんらかの護衛をつけてやりたいが。

 アウスバージスはそう言うと、ガゥリスを呼び戻した。


「お呼びでしょうか」

「この男に、狭間の領域で使える護衛をつけてやれ」

 銀狐の魔神は「わかりました」と応え、手に炎を発生させ──そこから小さな結晶を二つ生み出す。

「お前は魔術の領域に『使役獣の支配領域』を持っているな?」

「ええ、影の中に霊獣との接点を持たせてあります」

 よし、と頷く狐魔神。

 ガゥリスは手にした杖で石床を一突きする。

 すると一瞬で床の上に魔法陣が現れた。


「その中に入れ」

 言われるがまま、魔法陣の中に進み出る。

「火の精霊と風の精霊、その二つの精霊と結び付けてやろう。使役獣の支配領域とは異なる、精霊界との接続ができる霊域を新たに作ってやる」

 そう言って杖を振ると、魔法陣から火が噴き上がり、俺の周囲をぐるぐると──まるで蛇のように、渦巻く火炎が取り囲む。

 ごうっと音を立て、炎の一部が俺の身体に入り込んできた。それは霊的な焔であり、熱さは感じない。

 続いて青色と緑色の半透明な壁が俺を取り囲んだ。

 それは風の心象、精霊の具象化された姿。

 渦巻く風はびゅうびゅうと、頭の奥に鋭い風鳴りを響かせながら回転し、やはりその一部が俺の中へと滑り込む。


「よし、あとは自分で確認してみろ」

 魔神はそう口にすると下がって行く。

 確かに影の檻域に新たな領域が接続され、そこが精霊界との接点を持つ、魔法陣のような役割を果たす事が分かった。

 そこには火と風、二つの精霊の力と結び付けられ、暗闇の中にぼんやりとした魔法陣の光を感じる。──そんな心象が浮かび上がる。


 火の精霊は、長い尻尾を持つ、背中から火を噴き上げる蜥蜴とかげ亜人のような姿。胸当てや兜を身に着け、手には槍と大きな盾を構えている。中位精霊の「火蛇戦士」だ。

 風の精霊は、半透明の虫のはねに似たものを背中に生やした女。ゆるやかな白と薄緑色の衣をまとい、輝くような緑色の瞳を持っている。──こちらも中位精霊の「風の選定者」という精霊だ。

 どちらも守りの力に優れている。

 今回の戦いではどちらの力も、大いに期待できそうだ。




「狭間の領域に行く準備はいいか?」

 火を噴く狼の魔神アウスバージスはそう言って、黒い金属の顔にある、金色に光る眼でこちらを見下ろす。

「────おそらくは」

 相手がどれほどの力を持っているのかも分からないのだ、答えようがない。

 しかし、この魔神が「人間には危険な敵」と断言しているのだ。並の魔物など比較にもならないだろうと思われた。

(未知の存在との戦いも、これで何度目だ?)

 だが──その危険な戦いを乗り越え、俺はより強くなってきた。この戦いも勝って強くなる。──でなければ、ここで旅は終了となるだろう。


 異界での戦闘。

 それが命を賭けたものになるのは間違いない。

 氷獣を召喚する水晶もしっかりと準備する。

 この切り札を残しておいて良かった。

 火の力を持つ相手なら、きっと役に立つはずだ。


「では、向こうに送ってください」

 アウスバージスは黒く光る狼の顔を重々しく頷かせる。

「頼んだぞ」

 大きな魔神が手を振るう。

 足下から緑色の火が噴き上がり、俺の身体を飲み込んだ。


 一瞬の静寂。


 そして落下。


 がくん、と足下の地面が沈み込む。

 身体を包んだ緑色の光は熱を感じない。

 轟々(ごうごう)と遠くから響いてくる音。

 それがしだいに近づいてくる。

 ごうっ、と顔に熱風が吹きつける。

「くぅっ」

 慌てて火耐性魔法や、「水冷被膜」の保護膜を展開する。

 緑色の光が弾け飛び、辺りの輝く炎の揺らめきを体全体で感じる。

 ここは炎の大地。

 乾燥し、ひび割れた大地。

 ここには生命は存在しえない。

 腐敗もなく、滅びもない。

 生命がないのだから。


 物質界や精霊界の狭間にあるという次元領域。

 そこは火の力が大地を割って噴出する場所。

 気脈が炎に侵食されているみたいだ。

 ここはきっと広大な領域なのだろう。

 高い場所に上って周囲を見渡す。

 どこまでも広がる大地と炎の海。


 上を見上げれば、高い空に炎と煙の渦が見える。

 渦の中に見える暗い深淵しんえん

 そこに飲み込まれる炎が雷電を放つ。

 その穴の下に、大きな光を放つなにかがある。


 精霊の光。

 人魂の光。

 魔力の光。

 それらが一体となった光。


「あれか」

 丘の上から降りると、そこに向かって歩き出す。

 この異様な空間をなんと表現すればいいのだろう。

 生命の源である気脈の流れが狂い、精霊の力も及ばぬ領域。

 ここには破滅しか刻まれていない。

「しかし、あの上空の深淵はなんだ?」

 大地から勢いよく噴き上がった炎を飲み込む穴。

 その下に居るあいつは……

 光の輪が見える。

 地上に浮かぶ大きな光の輪。

 光の輪を背負っている奇妙な生き物の姿。

 近づいて行くと、その存在の全貌が見えてきた。


 下半身は黒いうろこを持つ竜。

 太い足──逆関節をした足の先には、鋭い鉤爪。それはまるで大地を穿うが鶴嘴つるはしのよう。

 不気味な下半身と繋がる脇腹が見える。

 肋骨の浮いた乳白色の皮膚。


 背中から光の輪が広がり、魔力や気を放出しながら、空に向かって光や炎を吐き出し続ける。


 上半身は、人間の──女の胴体と頭を持っていた。

 それは地面にうずくまるように、まるで祈りを捧げているように、大地にこうべを垂れていた。


 それは巨人であり、竜だった。

 精霊であり、光や闇とも関連する上位存在のからだを持つ。

 光体と精霊の力を組み合わせた存在。

 そして──それには、膨大な人の命が渦巻いていた。


「そうか、こいつを生み出したのは──この島に住んでいた人々の霊魂。その信仰から発生した、まがい物の神という訳か」

 巨大な生物状のそれは、天使や魔神の残滓ざんしを掻き集めて躯を造り、生まれたのだが──それを成す原因となったのは、人間の自然信仰だったのだ。

 この島(トルーデン)の人々の精霊信仰。

 根強いその想念が死を通じて集結し、一つの異形の存在として形作られた。

 これは神でもあり、精霊でもあり、幽鬼でもあるのだ。


 幽世でおこなわれた上位存在の戦いにより火山が噴火し、その犠牲となった者たちの魂。その魂が救いを求めた結果がこれなのか?

 精霊を信仰していながら、その精霊の力を奪い、乱し、破滅を齎す一因となってしまっている。

「死によって狂わされた人々の怨嗟えんさゆえか」

 高貴な存在に祈りを捧げ、生前に抱いた想いのまま、死後も平穏でいられるか。その信仰を寄せるところのものを、変わらずに愛し続けられるか。

 ──そうはならないのだ。


 死を覚悟していると豪語しても、死の世界に落ち込めば、その決意は意味を成さない。死とは、そのような脆弱ぜいじゃくな精神の想いを、いとも簡単に踏みにじる。

 死の壁を越えてなお、その精神を失わないでいるには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、手綱を手放さない事だ。

 ちょっとした事で感情に流されるような精神では、死の力に触れた瞬間に、自らの根幹から引きがされ、理性も失った意識に成り果てる。現実での自分という存在が、妄執もうしゅうや幻想の寄せ集めに過ぎないのだと思い知らされる。

 そうした脆弱な魂は、禍々(まがまが)しい怨念の総体となり、それらが集積し、このような化け物を生み出したのだ。


「人の精神体──その融合がどれほど危険かは、いつぞやの霊樹で思い知っている」

 今回のはそれに加え、光体や精霊の力の根源まで取り込んでいる。──正真正銘の化け物だ。

 この化け物──魔精偽神の一部は幽鬼の力。つまり悪霊に近いものだそれならば死王の魔剣が有効だろう。

 だが、あの巨大な身体をした相手だと、いささか分が悪い。

 大地にし、丸まった格好なので、どれほどの大きさか正確なところは判別できないが、足から頭まで、垂直に立ち上がれば──おそらく、十五メートルは超えるだろう。


 あの魔精偽神の背中に光る光の輪。

 あれから上空の深淵に向かって伸びる光や炎の柱。

 あれがなんなのか俺には分からないが、奴を排除しなければ、どのみちこの領域からは出られない。

 俺は奴に近づきながら、自分に「火神の加護」と、ありとあらゆる強化魔法を掛け、さらに二体の中位精霊を呼び出した。

いくつもの力(中には人間の想念も入っている)によって生み出された偽神(いつわりの神)。

人間の魂を取り込んで発生したはずですが、この化け物に取り込まれた魂の多くを死導者は回収している。

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