表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第八章 失墜した者ども

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

126/299

アルスゼールに向かう旅。傭兵団から学んだ事

明けましておめでとうございます、今年もよろしくお願いいたします。


冒険描写。──冒険者になってしばらくした頃に出会った傭兵団の話など。

戦場に身を置いた人の思考やその他もろもろについて。

 宿屋の小さな食堂で出された朝食を食べ、旅の支度をしながらふと思った。出された朝食にもラニ油が使用されていたが、胃にもたれたりする事もなく、出されたものを美味しく食べられた。

 生野菜や干し果物なども多く、このルシュタール独特の朝食なのだろうと考えられた。


 身支度を済ませると厩舎きゅうしゃに向かい、馬にくらを乗せたりして、すぐに町を出る行動に移る。


 昨夜のティエルアネスの言葉を思い出し、自分の構築した反撃方法について考える。──だがそれは、自分が()()()()()()()()()()()()()()の話になるだろう。


 体調は万全で、晴れ渡る陽気と過ごしやすい気温に、馬も軽快な足取りで町の門を過ぎると、街道を軽やかな足音を立てて進んで行く。

 なんと町から延びる街道は舗装され、石のかたまりが道の中央に敷かれ、その外側を煉瓦れんが造りの歩道が整えられていた。

「さすがに南の文明国と言われるだけはある」

 こうした整備された街道など、ピアネスでもほとんどないだろう。中央都市に続く街道や、その周辺の町などから延びる道が、わずかに舗装されているくらいではないだろうか。


 しばらく進んでいると馬の足取りは、段々とゆっくりとしたものになってきた、疲れた訳ではないだろう。朝日を浴びて気持ちよく駆け出したいところだろうが、俺は一定の速度で進むよう操馬して、馬にそれを徹底させたのだ。

 あまり速く進んでも馬が疲弊してしまう。いざという時の為にも余力を残しておいてほしいので、それほど速い歩みは必要ない。

 舗装された石畳をひづめが「かっぽかっぽ」と、音を立てて進むのを聞きながら、俺は魔術の門を使い、魔術の研究をするのだった。




 死導者グジャビベムトの霊核にある魔術師の記憶から、錬金術に関係ある知識を引き出し、死の魔導書の一説と関連する力を読み解く。

 変成や変質に関する力は古くからあったのだ。卑金属を貴金属に変質させるといった取り組みよりも、金属に特殊な性質を持たせたり、魔法を封入する力が多かったのではないだろうか。

 こうした新たな技術を身につけつつ、短刀などに魔法を付与したり、宝石に魔法を封入する作業などを一通りおこなっていると、かなりの距離を馬は進んでいたようだ。


 まだ正午前だろうが、周辺の様子も変わってきたと感じる。離れた場所にある山脈や森、大きな川や丘を遠望しながら進み続け、街道沿いにある砦の横を通り過ぎたり、武装した兵士の一団とすれ違ったりした。

 物々しい兵士の一団は、騎馬にまたがった者は武装し、荷車に武器や防具などを運搬させながら、その後ろから軽装備の兵士たちが歩いてついて来ている。

 まるで戦場へ向かう一部隊の行軍を思わせるが、彼らは森が広がる西の方に向かって進んで行ったのだった。


「魔物、あるいは亜人を狩りに行ったのか?」

 町を襲撃するほどの大部隊を作る群れが、森にひそんでいるのが確認されたのかもしれない。危うい事には近づかないでおこう、巻き込まれても損するだけだ。

 とは考えるものの、それではまずい場合もある。脅威は先に潰しておくべきだという考え方は、以前に同行した傭兵団の団長が言っていた。

 それにこんな事も言っていたのを覚えている。

「脅威に備える為には、常に緊迫感をもっておく事が大切だ」

 常に身体を鍛えるだけではなく、精神的な余裕をもてるだけの、ゆとりのある緊張感を保て、そんな風に言っていた。


 だからこそ危険な戦いに自ら飛び込んで行く事も、時には必要だとも言っていた。実戦から離れてはいけない、という意味だと思われる。

 戦いの感覚とは、普段の生活の中で摩耗まもうする様々な技術と同じで、取り組み続けていなければ、どんどんその技術は錆ついてしまうものなのだ。

「強い緊張は身体を強張こわばらせる。適度な緊張感をもちつつ、いつでも事態に対処できる余裕をもつのも重要な事だ」

 思えば実戦的な戦いの取り組み方について、初めに教わったのは、あの傭兵団の団長だったかもしれない。子供の頃に冒険者から学んだ事も多くあったが、それらは戦いというよりも、亜人や魔物を討伐する技術だった。


 エインシュナーク魔導技術学校で出会った、ルディナス・テシス・スピアグラーニ。彼女から学んだのは──騎士の戦い方というものであり──貴族の、騎馬を中心にえた白兵戦は正直に言うと、実戦向きとは言いがたいものだ。

 彼女の剣技は鋭く、美しいものだったが──型としての洗練さが目立ち、殺し合いを日常的におこなう戦争などで、その技術がどれほどの力を発揮するかは疑問符がつく。


 何故いま、傭兵団の団長が言っていた言葉を思い出したかというと、その理由ははっきりしていた。


 物々しい兵士の一団の中に、明らかに新兵の若者が居て、その表情が今にも死にに行くような感じだったのだ。あれでは周囲の一般人が見たら「なにかあったのではないか」と疑ってしまう。

 兵士は戦いにのぞむ時でも冷静に、表情を変えずに戦地におもむくべきだと、団長は若い傭兵に話していた。それは自分自身の為でもあり、集団的な軍勢の士気にも影響するからだ。


「不必要に動揺を表すのは素人のやる事であり、訓練された傭兵は例え劣勢に立たされていても、まるで彫像のごとくに精悍せいかんな顔をして見せ、相手の動揺を誘うものだ」とは、傭兵を率いて幾度も死線を越えてきたケディン団長の言葉。

 彼は用兵術についても熟知していた。彼の前歴はおそらく、軍隊を預かる部隊長あたりだったのだろうと思われた。──荒々しい剣術の中にときおり見せる、身体を引きながらの突きなどには、貴族的な剣の戦い方を踏襲している姿が垣間見えたものだ。


 この団長のような優れた先人の影響は、自分の戦闘形式に良い刺激を与えてくれた。戦士ギルドの訓練では得られない心構えや、判断力についての示唆しさを得られたのは大きい。

 もちろん戦闘技術についてもそれなりに学んだが、傭兵団に参加した訳ではなかったので、気まぐれに戦闘訓練に付き合わされた程度の技術的な指南だったが。


 それよりも魔法の研究などを続ける事にし、再び魔術の門を開く事にした。

「戦場に突入するまでの時間は有限で、しかもいつそれが訪れるか分からない。戦いに参加する準備をおこたれば、戦いの場で命を落とすのは敵ではなく自分になるだろう」

 そうした言葉が重く響いたものだ。

 現在の俺の立場は、ある意味では傭兵よりも悪い状況にあるのだ。

 いつ邪神や魔神、あるいは再び──神の使いが送り込まれてくるか分からない。

 そうした脅威に立ち向かうには、今まで以上に力が必要なのだ。


「対策を考えるとしよう」

 俺はそう自分に言い聞かせ研究室に入る。

 霊核にある魔術師の記憶から得た、魔術や魔法や錬金術に関する知識を集め、それらを一つ一つ自分のものにできないかと取り組む。

 長い時間をかけて、苦手としていた錬金術を学んでいると、基礎的な部分について学び終え、中級までの技術について理解できるまでになったようだ。

 もともとあった魔術的な技術に対する理解があった為に、中級以上の錬金術に対する解析も思ったより早く終わりそうだ。──問題は、そうした錬金術の技術を実践する、高度な錬成術式をおこなう為の魔法陣に通ずる物がない事だった。

 これは研究室にある魔法陣とは異なる新たな、錬金術用の魔法陣を造るしかない。


 この魔術領域に新たに「錬金工房」を造る作業を始める。

 しかしそれは簡単ではない、時間がかかるだろう。錬金釜や炉などの錬金術の道具や作業場、術式を構築するには、まだまだ知識がない(それに、魔術領域でおこなえるこうした魔法などは、限定的な物の操作に限られる)

 ()()()()()()調()()、それを基礎にして自分の魔術領域に複製を造るのが妥当だが──

「ルシュタールのどこかで、錬金術に関する書物を見つけるしかないか」

 あるいは錬金術師の工房に入り、道具を調べて回るしかない。




 そんな事を思案しながら、現世の肉体に戻ろうとすると──なんと、肉体は戦闘をおこなおうとしていた。

 相手は盗賊の一団であるらしい、通常なら戦闘になりそうだと意識にしらせてくるはずだが、無意識が「この程度なら意識に任せる必要もないだろう」と分析したらしい。

 俺はその辺りの設定を変更し、小さな危険であってもきちんと報告をおこなうような設定に切り替えた。でなければ、不必要な揉め事を起こしかねないと考えたのだ。


 俺はいきなり意識を肉体に戻さず、無意識の防衛本能がどれだけ戦えるかを見極める事にし、戦いの決着がつくまで見守った。

 三人の賊は、あっと言う間に地面に這いつくばる結果になった。

 防衛本能は俺の持つ戦闘経験などを完璧に備えている訳で、三人の盗賊などまったく物の数ではない。魔剣のみで戦い、悲鳴を上げさせる猶予も与えずに、またたく間に殺害する。


 俺は意識を肉体に戻すと、盗賊から金目の物を奪い取って、アルスゼールの街に向かって南下を続けた。

 馬は道の隅に待たせておいたらしく、馬は戦いを傍観ぼうかんしながら道端に生えた草を食べていた。もしかすると冒険者に慣れた馬には、どちらが勝つか分かっていたのかもしれない。落ち着いた様子で草を食いちぎり、もぐもぐと口を動かしながら、戦闘を終えた俺に近づいて来たのである。

 俺は馬上の人になると賊どもの死体を放って、街への移動を再開した。


 道の途中にあったいくつかの分かれ道には看板が立てられ、西へ向かった先にある集落や、東にあるらしい町の名前が刻まれていた。

 その中でも一番大きな街であろうアルスゼールの名前は、どの看板にもしっかりと書かれており、その街への距離も南下するごとに段々と小さな数字になっていく。

 ときどきすれ違う馬車や荷車には、旅人や冒険者の姿が見受けられ、徒歩で街に向かう冒険者の一団を追い抜いたりもしながら、街道を進み続ける。


 空は一部に雲がかかり、南東に見える大きな雲は、その下に大量の雨を降らせているようで、巨大な垂れ幕みたいに、白いものを大地に垂れ下げていた。

 背後から流れてくる風には、周辺の草地がもつ青臭い匂いと、湿った土の匂いが感じられる。

 舗装された街道は小川や草原のある場所を抜け、ときおり川に架かった橋を通って南へと続いていた。──橋を渡った先に小さな看板があり、東へ向かう道と南南西へ向かう道の先にあるものが記されている。


 緩やかに曲がる南へ向かう街道を進んで行くと、またしても兵士の一部とすれ違った。ルシュタールの軍というよりは、領主の抱える騎士団だと思われる部隊で、武装した数人の騎馬隊が荷車を警護しながら進んでいた。


 どうも()()()()感じだ。


 エッジャの町で起きたような、魔物のよる襲撃の噂が広まっているのだろうか。

 アルスゼールの街に着いたら戦士ギルドで、そうした事についても尋ねてみる事にしよう。


 街道はどこまでも続き、監視塔みたいな物を備えた堅牢なとりでが遠くに見えてきた。──それは街から離れた場所にあったが、なかなかに大きな物であるらしく、威風堂々と広野の中に建ち、その周辺で兵士らしい者が数十名、訓練をおこなっているようだ。


 左手側(東側)の遠くに、町らしい建造物が見え、そちらに向かって街道が分かれていた。立て看板にあった字を見ると、小さな町へと繋がっている道であるらしい。地図を確認すると、ここから東側の多くの土地が畑になっている。よく見ると街道のずっと向こうに、木の柵がずらっと並んでいる場所があった。

 相当な土地を畑として利用しているのだろう、農業政策についてもこの国は進んでいると思われる。


 道端に岩や芝草が生えた場所があったので、そこで少し休んでいく事にし、昼食も簡単に口にする。馬はその辺の草を食べさせ、飽きた様子を見せたので、貧相な形の人参を革袋から取り出し、足下に放ってやった。


 そうして昼食を済ませると馬に乗り、南へ向かう旅を再開する。

 しばらく街道を進んだ先に、道の左右に木が植えられた場所を通り、再び分かれ道に差しかかった。砦に向かう道だろうか、だいぶ砦の横を通り過ぎたが、斜めに延びている道は砦側に向かっていた。


 広野の間を抜ける街道を南へ、南へと進み続け、遠くに街を囲む外壁らしい物が見えてきた。──やっとアルスゼールに辿り着く。馬の首を撫でてやり「もう一息だ」と声をかけると、馬は首を大きく縦に振って、少し足を早めるのだった。

この団長のような~のあと、戦士ギルドの訓練では~に続く抜けていた文章を追加しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ