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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第八章 失墜した者ども

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借り馬屋、国境を越えルシュタールへ

やっとルシュタール国へ。

旅の演出──描写かな。

 昼食を食べ終えた俺は店を出た。

 味もなかなかに満足できるものだったが、お値段もなかなかのものだった……まあいい。


 改めて町の様子を見てみると、兵士の姿はちらほらと見られるだけで、市民の方が多いだろうか。

 炭を保管しておく倉庫の前に居た人に話を聞いてみると、ここで作られた炭はルシュタールに輸出しているらしい。

 どうやらメアキブの町は、ルシュタールとの交易をおこなう拠点ともなっているようだ。どうりであちらの文化が入り込んでいる訳だ。ルシュタールからすれば、アントワという国を武力で侵略する必要うまみなどないのだろう。


 メアキブを統治している領主は、自国に攻めてこないよう見張りながら、自国で手に入りにくい物を買い付ける相手として、また炭を買い取ってくれる相手として、互いに都合の良い関係でありたいと望んでいるのではないだろうか。


 第一──ルシュタールの金属加工技術は大陸でも上位に位置し、もちろん武器などの兵器についても、強力な鋼を大量に使用しているはずだ。

 ルシュタールの軍事的優位は明らかで、兵装についても、食糧についても、アントワを含めた周辺国より数段、優位に立っている。


 大陸南方の文明国(ルシュタール)は大陸の外、南東にある大陸「アディルジャ」にいくつかの拠点を持ち、そこで貴金属や鉄鉱石などを採掘している(南の火山島にも金属を採掘する拠点があった)。

 ルシュタールが蛮族領の蛮人を奴隷として本土に連れてこない理由は、向こうの大陸で金属の採掘作業を負わせている為だ。

「発展した国でも、内情はそんなもんだ」

 現在のアントワとルシュタールの関係は悪くはないのだ。ルシュタールに軍事的な対抗心を持つよりも、交易に注力した方がいいと忠告した臣下が居たのだろう。

 むしろアントワは、それ以外の国とのいざこざが多そうだし……


 ああ、そんな事はどうでもいい。

 この炭の香る町を出て国境を越え、ルシュタールへ向かうのだ。その手段は荷車か馬車か──そう考えていたが、冒険者用の馬が借りられる施設があるという。


 それはルシュタールが取り入れている「借り馬屋」というもので、ルシュタール国の街と街を繋ぐ手段の一つとして採用されているらしい。

 それを隣の国アントワのメアキブの町まで広げたのは、アントワ国に冒険者を流入させる狙いがあるみたいだ。

 冒険者の活動をルシュタールが後押ししているのは、彼らの活動で魔物や亜人の活動範囲を削れると考えているからだ。


 以前はアントワとの国境近辺では、亜人や魔物の出現によって交易路が脅かされていたが、冒険者を互いの町の間を行き来させる事で、彼らがそれらの外敵を狩り、現在は街道の安全が確保されてきている。

 この流れに乗って馬を借り、ルシュタールへ向かう事にした。


「一日二十エナスだよ。ルシュタール硬貨での支払いなら十七ルートベリアとなっているが。冒険者の方?」

 馬屋の店主はそう言いながら戦士ギルド印章の呈示を求める。

 壁に架かった板を見るとそこには、馬に餌を与える事、休みを与える事などが契約として定められ、馬が傷ついた時の賠償や、死亡(行方不明)した時に支払わなければならない金額などが提示されていた。


「馬に餌と水をきちんと与え、雨に濡れたら体を拭いてあげること。宿屋に泊まる時は厩舎きゅうしゃに預けるように」

 そんな簡単な説明をしながら、契約書をねた小さな銅板を差し出してくる。

「銅板には借りた日にちが刻まれている。各町にある馬屋で代金を支払う事ができる。ちゃんと町の馬屋に返すまでの契約となるので」

 俺は金を支払うと、厩舎の中から一頭の青毛の馬を借りる事にした。

 銅板を胸の物入れ(ポケット)にしまい、ルシュタールの町に向かうと告げる。馬屋の話では南側にある町は「ベンクレー」というらしい。


 あぶみを踏んでくらまたがると、ゆっくりと町の外へ向かう。馬は従順で簡単に操る事ができ──街道に出ると、馬は待ってましたとばかりに駆け足になる。

 街道は山とそのふもとから続く森林の間を通って南東へ延びている。

 風は森林と林の間を吹き抜けて行く、穏やかな風には木々から落ちた葉の、枯れて朽ちた匂い、果実が腐って地面に種を根付かせる。そんな命の息吹が感じられた。


 街道を進み続けると、東と南に分岐する地点にやって来た。俺は南へ向かう道に馬を誘導すると、南からやって来た荷車とすれ違った。荷車を操る御者ぎょしゃと挨拶を交わすと、その横を通り過ぎて行く。

 街道はしっかりと踏み固められ、わだちがうっすらと道をえぐっていた。道幅は広く、二台の馬車が走れるだけの余裕がある。

 頻繁に馬も通るのだろう、ひづめの跡が街道の外にも付けられていた。草地を通って木と岩の間にある場所に行き、そこで一休みした冒険者が居たのかもしれない。


 視線が高くなった事で遠くまで見渡せるようになり、だいぶ安全に旅を続けられた。街道から離れた位置にある森を警戒したり、丘の近くを通る時にも馬との旅は快適なものだと、認識を新たにする。

 町まではまだ遠いだろう、それにいま居る場所はまだアントワの領内であるはずだ。分かれ道の東に進んだ先にも関所があるだろうが、南へ向かう街道の先にも関所が設置されているだろう。


 軽快な蹄の音を鳴らして歩く馬の背に揺られていると、道の先にある灰色の建物が見えてきた。

 関所──というか、道の横にとりでが建っていた。小さな兵士の休憩所くらいの目的で造られたような石造りの砦。

 その前に立っている兵士はアントワの兵士らしいが、こちらから出て行く者は素通りさせると決めているらしい、俺が冒険者の身なりをしていた所為せいかもしれないが。


 その先には道の反対側に建つ、小さな木造の検問所みたいな施設があり、そこにはルシュタール兵の姿が三人ほど確認できた。

 彼らは荷車を引いた行商人は引き留めていたが、一人旅の冒険者を止める気はないらしい。──彼らが国を挙げて冒険者の活動を支援しているのなら、いちいち検問所で氏素姓うじすじょうを尋ねたりはしないだろう。




 馬上から軽く会釈をして通り過ぎ、街道の先を見ながら、ここがルシュタール国かと辺りを見回したが、当然アントワ国の風景と大差はない。

「あたりまえか……町までどれくらいの距離があるのかな」

 ベンクレーのだいたいの方角は知っているが、まだ町は見えてこない。風に背中を押されながら進んでいると、視線の先に、丘の上にあると思われる森が確認できた。

 こんもりと隆起した土地に密集した樹木たち、濃い緑色の葉を広げているもの、すでに葉を散らしたものなど、種類の異なる樹木が丘と、その周辺を取り囲んでいる。

 その丘のそばを通って曲がり角をゆっくりと通って行くと、その先に砦の壁が見えてきた。


 先ほどの検問所のような簡素な建物ではなく、石造りの壁に囲まれた大きな建造物で、やぐらもつけられているしっかりとした砦だ。

 その前を通ると、鎧を身に着けた兵士たちが馬に乗って、見回りに出る姿が見受けられた。

 砦の前を通り過ぎ、ゆっくりと歩き始めた馬の歩みに任せて進んでいると、緩やかな上り坂の先に少し地面の盛り上がっている場所があり、そこに造られた町の壁が見えてきた。


 小高い丘陵きゅうりょうの上に陣取るみたいに外壁が張り巡らされ、近づいてみると壁の一部にはルシュタールの紋章が刻まれており、道の先にある町の入り口は開放され、大きな門が口を開けている。

 古びた城塞を思わせる壁が威圧的な雰囲気を出し、丘の上から近づく人々を監視しているかのようだ。

 その門の前に数人の人や荷車が、町の手前に列をなしているのが見える。


 ぱっかぱっかと音を立てて進む馬。

 門へと続く道は大きな敷石が敷き詰められて舗装されている。

 人の列とは別に、冒険者らしい一団が馬を連れて並んでいる場所がある。──荷車を持つ御者もそちらに並んでいるみたいだ。

 さすがに町に入る時は通行税を取るのだろう。

 ルシュタール領に入って初めての町には、日が暮れる前に壁の内側に入ろうとする、多くの人が居たが、町から出て行く荷車や馬車もある。

 冒険者の多くはすんなりと町に入って行くが、商人などはそれなりの支払いが義務づけられているようで、積み荷の中身を調べられるなど、兵士たちも慎重に手続きを踏んでいる様子だ。


「冒険者か?」

 俺の番が回ってくると、鉄の胸当てを着けた兵士が階級印章を出すよう求めた。

「ええ」

 そう返事をしながら階級印章を見せると、「ピアネスの冒険者か」と口にした兵士にルートベリア銅貨を数枚支払う。──ぱらぱらと手にしていた紙をめくってなにかを確認する兵士。罪人かどうかを確認しているのだ。

「通ってよし」

 兵士はそう言って俺と馬を通した。


 町は思いのほか広く、かなり多くの人々が通行している。門から続く道──町の中の通りはほとんどが舗装されているようだ。

 国の中心地からは遠いはずの町だが、かなり豊かな経済的土壌があると思われる。

 大通りからそれた通りにあった戦士ギルドにも厩舎があり、そこに馬を預けて馬の世話をしている老年の──じいさんに銅貨を支払う。

 ギルド前に架かっていた掲示板に目を通してから、町の中の散策を始める。


 まだ午後三時ごろだろう──この町から次の町に向かう前に、ここの道具屋でルシュタールの詳しい地図を購入しに行く。

 道具屋はすぐに見つかった、戦士ギルドのそばに構えた店だ。看板を見つけると店に入り、地図を購入して店を出た。──それを背嚢はいのうに入れるフリをして、影の倉庫にしまい込む。


 ここベンクレーの町から南東にも町などがあるのを確認すると、だいたいの移動時間を計算する。──地図上に描かれた街道を馬で移動するとなると、要所要所で速く走らせれば、二時間くらいで南の町ゼクアに着くだろうか。


 ギルドの厩舎に戻り馬を見ると、じいさんは馬に餌と水を与えて体の汚れを落としてやったようだ。馬がご機嫌な感じで、俺が近づいて行くと耳を立て、頭を上下に振って喜びを表そうとする。

 俺はじいさんの働きに礼を言い、追加に銀貨を手渡すと馬上の人となり、厩舎を出て南へ向かう門へと馬を歩かせた。




 南門の大きな門扉もんぴの間を抜け、街道の先へと馬を進める。

 本当は町中を見て回ってもよかったのだが、今回は先を急ぐ事にした。今からベンクレーを出て南に向かえば、ちょうど夕暮れ前くらいにゼクアの町に着くはずだ。

 ルシュタールの街道の安全は、各場所に設置された砦や監視所のような、兵士たちが詰める施設が多いところからも推測できる。

 街道を進んでいる時も、何度か武装した兵士たちとすれ違ったほどだ。国の治安を守る為、亜人や魔物と戦う兵士を育て、冒険者たちを雇用し、秩序を維持してきたのが分かるというものだ。


 だがそれは、この国が本質的に、()()()()()()()()()()()()()という証でもあるのではないか。戦士ギルドの壁に架けられた掲示板には、そうしたいくつかの不穏な情報について書かれていたものがあった。


「ルムダーテ村を襲った魔物、または魔獣の討伐依頼。の地は現在、兵士らによって封鎖され、今なお未知なる存在の探索がおこなわれている」


 などという報告書が貼り出されていたり、ある魔物に懸賞金がかけられ、それを()()()()()()()、などと書かれているものもあった。


 特に目を引いたのが、亜人や魔物の軍勢が街を襲撃したという報告だった。ルシュタールの街を襲撃した魔物の軍勢は、街を守護する兵士や冒険者によって撃退されたらしいが。

 各地でこのような襲撃が相次いでいるとしたら、なんらかの上位存在が手引きしている可能性を疑った方がいいだろうか。──いや、その前に俺自身に降りかかる脅威をなんとかしなければならない。


 ルシュタールの戦士ギルドで昇級審査を受けようと考えていたが、場所は中央の近くか、港町でもいいだろうと思った。焦る必要はないし、こちらの体調がいい時を狙って昇級審査に挑もうと思う。


 天使を倒し、新たな領域を手に入れた所為せいか──気持ちにも余裕がでてきた。邪神や魔神が襲ってきた時の準備に集中できる。

 ゼクアに着いたらギルドの昇級審査や、持っている武器や道具などについても考え直してみよう。それに──ルシュタールは文明度の高い国だ、本なども多く売られているだろう。

 魔術や錬金術関連の書物はたいてい高額だが、手に入れる価値がある物ならば手に入れておきたいところだ。


「──その前に両替をしておかなければ」

 ルートベリア硬貨の持ち合わせは少なかった。ピラルやガインといった硬貨でもなんとかなるだろうが、店によっては拒否される場合もあるだろう。

 古代の指輪や金貨を売ってルートベリア硬貨を入手する方が早そうだ。そう決めると馬の腹を軽く蹴り、早歩きで街道を南下させる。

 馬はちゃんとこちらの意思を汲み取って行動してくれる。なかなかに頼れる相棒と言えた。


 兵士が分かれ道の近くに立っていて、近くを通過したが──なにかを注意される事もなかった。彼らは周辺の安全に警戒をしているのだろう。街道から離れた場所にある森に向かっている騎馬の一団も確認できる。

 それは兵士であるらしく、危険なものが森に隠れ潜んでいないか、調査していると思われた。

 ギルド掲示板にあったように、確かに人々を脅かすなにかが、この国にも迫っているようだ。

次話は水曜日に投稿します。

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― 新着の感想 ―
[一言] レギの「気持ちにも余裕がでてきた。」を馬も感じ取って落ち着いているのでしょうね。
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