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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第七章 神に捨てられた者と天使

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天使との決戦

つけ狙う者「陽炎の翼もつ眼」との戦い。

戦いの最後にレギは新たなものを手に入れる──

 鈴の音色が近づいてくる、相手はこちらを攻撃する気だ。俺はギリギリまで近づいて来るのを待ち構えながら、足はあくまで南東に向かって歩き続ける。

『リィィィィ──ン、リィィィィ──ィィン』

 それは耳に聞こえるのではなく、霊体の方に伝わる奇妙な振動。その音を鳴らしているのは天上界からの使者。危険な因子を排除しようとでも言うのだろう、奴はついに俺と対峙する事になった。


 もちろん奴──「陽炎の翼もつ眼(アガーループラ)」からすれば、そんな事になるとは思いもよらないだろうが。


 俺は魔神から与えられた「次元転移魔法」を使用して、幽世かくりよに近い次元の狭間へと侵入する。

 空間の壁を越え、次元を飛び越える異質な感覚。

 それを言葉にする事はできない。睡眠に落ちる瞬間がどのような感覚なのか、説明できないのに似ている。




 重力から解放されたみたいに感じたのは一瞬の事。足は固い地面を踏んだ。


 視界に広がる緑と青。大地は緑に覆われ、所々に白い岩や石があり、色とりどりの小さな花が咲いている。

 空は青く──太陽は無いが、青い空が光を降り注いでいるみたいだ。その空はどこか空虚で、偽りに満ちていると感じさせた。


 芝生に似た黄緑色の絨毯じゅうたんを歩いて周囲を見回す。草花かと思っていたそれは、花の部分──花弁が宝石を思わせる鉱物でできているようだった。中には銀や金色に輝く葉やくきを持つものまである。

「天上の美を表す、豪勢な庭という訳か? 悪趣味だな」

 自然物を模倣し、ここまできらびやかに飾り立てるのが、天上の存在が求める美や調和なのか?


 一つの草花をんでみると、緑色の葉はつややかな翠玉エメラルドに似た色合いをしていた。その葉はなめらかな石のような手触りだったが柔らかく、普通の植物と同じようにちぎる事もできた。

 薄桃色の花は紅水晶のような輝きをもっており、こちらも見た目は宝石だったが柔らかく、花弁は簡単にちぎる事ができる。──試しにその花びらを指で潰して、匂いを嗅いでみたが、匂いはまったく感じない。


 そうした中でも耳──というか、頭の中に響き続ける鈴の音。

 その命なき草花を放り投げると、俺は背嚢はいのうを近くの岩陰に置いて、魔剣を抜き放つ。


「鈴の音がうるせえよ、さっさとその鈴を鳴らすのをやめろ」

 俺は魔法障壁を展開しながら、それに向かって声をかけた。

 庭の中央にある噴水に似た円形の台座。

 そこには水ではなく、めらめらと燃え盛る、黄色に近い炎が揺らめいていた。その炎が神霊の力を持っているのは魔眼にはっきりと映っている。

 俺が声をかけると炎は、形を変えてゆっくりとこちらへ振り向く。


 ──それは()()()()()

 炎の中から現れたのは()()()()()だった。


 青色や緑色に光る虹彩こうさい。銀色の白目部分。眼球を包む肌は大理石を思わせるあでやかな乳白色と、青白い斑紋はんもん

 その大きな目玉の下にぶら下がる物がある。

 目をらして見ると、それは()()()()()()()()だった。小さな手には銀色の鈴を持っている。

 巨大な目玉に対し、赤子の胴体部分は遥かに小さい、奇妙な体型をしていた。


 だがそれ以上に異質なのは、目玉の後ろに広がる()()()

 朱色から黄色や緑色に変色する、大きな翼を四枚も広げているのだ(赤子の胴体からも、小さな炎の翼が揺らめいている)。

 煌々(こうこう)と燃え盛る炎の翼がゆらゆらと揺れ、巨大な目玉がぎょろりとこちらをにらみつける。──それはまるでこう言っているようだ。

「どうやってここに入れた?」

 仮にそう尋ねられたとしても、俺はまともに返答するとは考えていない。()()()()()()()()()()に答えてやる必要などあろうか。


 小さな赤子が癇癪かんしゃくを起こしたみたいに、手にした鈴を乱暴に振った。

「リィンッ、リィイィンッ」

 見えない刃が二本、縦に飛んできた。

 俺はその見えないものを避け、横に体をひねってかわす。

 視覚に頼るつもりはない、天使の構造を調べていれば分かる事だ。こいつらの奮う力は、下位存在に簡単に悟られるものではないのだ。


 だが今の攻撃をしてくれたお陰で、解析をする事が可能になった。俺は試しに風の属性魔法を撃ち出して、目玉の天使を攻撃する。

 ちゃんと属性魔法も放てたが、奴のからだに当たる瞬間にその魔法は遮断され、打ち消された。光体の持つ「天上の防壁」──光体波動の力だ。

「予想どおりだな」

 眼球に映る光がゆがみ、魔法を使う「陽炎の翼もつ眼」──奴の下から朱色の旋風が噴き上がり、二つの炎の旋風が渦を巻きながら、こちらに迫ってきた。

 左右から挟み込むみたいに迫る旋風。

 その炎に向けて「新月光の刃」を撃ち出し、魔法を打ち消す。

 いま使って見せたのは新月光の刃に「親和波長」を組み入れた魔法だ。「新月光の霊刃」とでも名付けるべきか。

 天使の使う魔法に干渉し、波長を合わせる事で、ある程度の力なら消滅させられると証明された。


「手加減はなしだ、一気にいくぞ!」

 俺は「光体防壁弱化結界」──「封神獄」と命名した──を展開する。

 その力の中に包まれた事に気づかなかった様子の目玉天使、奴は大きな眼球に青い光を映して魔法を使おうとする。朱色の炎が青い色の炎に変色した翼を広げた。燃え上がる翼を広げた相手に向かって新月光の刃を撃ち出し、奴が使おうとしていた魔法を封じた。下位階級の天使だったから通用したのだろう、奴は視線を泳がせて、魔法が使えなくなった事に混乱しているようだ。


 俺はさらに接近しながら「魔衝弾」を撃ち出す。

 四発の黒い球が飛び、大きな目玉の近くで爆発を起こすと、奴は「ギュピュイィイィ──」とでもいった鳴き声を発し、地面に落下する。


 天使は自らの周囲に張った結界をよほど信頼していたのだろう。その障壁を越えた衝撃をまともに喰らい、目を回したみたいになっている。


 天使を攻撃していると、無意識領域から不思議な感覚が流れ込んでくる。──そんな気がし始めた。感情を揺さぶる力が伝わってくるのだ。

 それは怒りや憎しみに似た力を俺の中に呼び起こす。


 俺は魔剣を握りしめると、倒れた目玉に駆け出し、己の内から沸き上がる憤怒を力に変えて、炎を噴き上げる天使に襲いかかる。

「ハァアァァッ!」

 振り上げた魔剣を、奴の丸い眼球の上から振り下ろす。


(殺せ!)


 そんな声が聞こえた気がした。

 憤怒の源泉から膨れ上がる衝動。


(神の使いを生かして帰すな!)


 怒りが俺を突き動かす。

 それは剣士ディオダルキスの感情の残滓ざんし、霊核に取り込まれた彼の記憶から得た、剣術に刻まれた遺志か。

 ──いや、彼の記憶を探った時に、彼の魂に刻みつけられた神に対する怒りや憎しみが、俺の無意識に影響を与え、力を増幅させているのだ。


「喰らえぇェェッ‼」

 親和波長をまとわせた剣による攻撃が、光体波動の障壁を突き抜け、刃が天使の躯を引き裂いた。

 神々への復讐心が心の中に渦巻き、強烈な殺意を生み出す。──それは、なにもかもを奪われた者が生み出す、復讐の、憎悪の炎。


「ゥビュイアァアァァ──ッ!」

 その頭部(?)から光がほとばしる。

 意外に固かった皮膚は思うようには斬れなかったが、眼球にも魔剣の刃が食い込み、まばゆい輝きが傷口から噴き出す。

 なおも魔剣を押し込もうと力を入れ、ぐいぐいと無理矢理に刃を天使の体に食い込ませる。

「おォらぁあぁアァぁっ!」

 ビキビキビキッと音を立てて傷口のヒビが広がり、その傷から白色や銀色の光が噴き出ていた。


「グギャゥビァアァァ──!」

 巨大な眼がぎょろりと動き、俺を青緑色の瞳でとらえると、閃光を放ってきた。それは俺の張った魔法障壁にぶつかり、俺の体を吹き飛ばして、奴との距離を離されてしまう。

「いってぇ……!」

 革鎧の一部が焦げて煙りをくすぶらせる。衝撃も熱量も障壁で弱めたはずだったが、胸の辺りがズキズキと痛みにうずく。


 再び光線を撃ち出してきたので、岩の陰に身を隠すと、奴は攻撃をしてこなくなった。

 メラメラと燃え上がった翼から、炎とも光とも区別のつかない球を放ち、それが俺の隠れている場所に向かって飛んできた。放物線を描いてくるのでその場から離れ、岩陰に着弾する魔法を躱しながら呪文を詠唱する。


「アヴィダクトゥス、ディァマ、ダーロァ、クァゼル、邪星の光を頭上にかかげよ、肉と霊をもむしばみ砕く、破壊の鉄槌を叩きつけん『天破槌』!」

 この魔法は霊樹の生贄いけにえの中に居た魔術師から得た魔法に、親和波長の力を組み込んだ創作魔法だ。目標に向かって曲線を描いて襲いかかる大きな光の球が飛び、対象の頭上で爆発力を解放する。

「ズガゥンッ」

 目玉の天使はこれを眼から放った光線で撃ち落とそうとしたが、弧を描いて飛んできた赤黒い魔法の球が頭上で爆発し、衝撃で地面に叩きつけられた。


「グピャッ」

 重い一撃を受けた天使は地面に転がった状態から、翼の炎を使って起き上がろうと焦っているようだ。

「とどめだぁァッ!」

 俺は素早く奴に迫ると、魔剣の柄を両手で握り、剣を突き刺す形で振り下ろし、ひび割れた傷口に深々と魔剣を突き立てる。


「ギィッッッッァアァァアァァ────ッ‼」


 出来損ないの機械が悲鳴を上げるみたいな声だと、そう感じた。人間と獣を足したような不自然な声。

 体重を乗せた一撃にさらに力を入れ、目玉の天使を刺し貫く。

 無意識領域からディオダルキスの声が聞こえてくるようだ、彼は霊核に取り込まれ、その意識も存在も失っているのに、まるで彼の怨念が俺を突き動かしているみたいだ。

「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇッ‼」

 何度も振り下ろした刃が、一気に根本まで押し込まれた。


 目玉はしぼみながら炎を噴き上げ、白っぽい色の火に包まれながら砕け散る。

 崩壊した光体から離れた天使の霊質は、死導者グジャビベムトの霊核には収まらず、眼球から遊離した光の束がゆっくりと、上空に向かって飛び去ろうとする。


「逃がさん!」

 俺は一か八か親和波動を駆使して、天使の光体を閉じ込めようと試みた。その為の示唆しさとなる物は手に入れていた。──そう、魔神ベルニエゥロからもらった「天使の遺物」を封じていた結晶、あれである。

 光体の残滓と飛び去ろうとした光を、用意していた結界で封じ込む。

 それをしだいに小さくしていき、砕かれた光体と飛び去ろうとしていた、天使の霊核を閉じ込めた。それを解析し、この次元に満ちる力を利用して「陽炎の翼もつ眼」という天使を結晶化して、封じる事に成功した。


「やったぞ!」


 俺はその結晶を手にして腕を突き上げた。

 封印された天使は機能を停止し、砕かれた光体の欠片と共に結晶化されたのだ。奴の存在はいわば休眠状態に入っている状態で、結晶の檻に囚われたのである。

 残念ながら単純に死導者の霊核に取り込み、同期させる事は──今はできそうにない。




 それにしても楽勝だった。

 下級の天使はこの程度なのかとも思ったほどだ。

 この次元空間に満ちる力は天使にとって有利な──神聖な、光の力に満ちていたが、俺たち人間は、そのどちらでもない存在。

 この領域は物質的な力も有しながら、神的存在にとって有利な条件がそろっているはずだった。


 その力を逆に利用し、封印を安定させる効力とした。俺の持つ魔力では光体や、天使の霊核を維持できないと踏んでいたのだ(ベルニエゥロはその力のみで結晶化させていた)。その予想は的中し、この次元に留める事に成功したのだ。それはこの次元と共に存在していたであろう力と調和させ、この次元で固定化させるという事。


 つまり俺は天使の霊核と共に、この「神霊領域」も手に入れたのである。

第七章「神に捨てられた者と天使」終了です。


金曜日に「用語・設定集②」を投稿予定です。



第八章では新たな展開が!

今後の展開にもお付き合いください。

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