表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第七章 神に捨てられた者と天使

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/298

旅の途中。そして決戦へ

ちょっと旅の描写が細か過ぎたかなと反省。

しかしリアリティの為にも、作者的には重要視しているので……

「俺も旅を再開するとしよう」

 旅支度を整えると、南東へ向けて歩き始める。

 朝日が昇り、やっと日差しが温かいと感じられた頃になると、立ち止まり、大きく深呼吸をして新鮮な空気を取り込む。


 小川を越えた先は草花の多い草原になっていた。所々に樹木が生えているが森はなく、雑木林ぞうきばやしのような木々の集まりが、ぽつぽつと草原の中にいくつか見える。目標にしている遠くにある森まで、まだまだ距離はありそうだ。


 猪や馬などの姿も見かけたが、離れた場所で草を食べながら移動しているみたいで、こちらに近づいて来る気配はない。──魔術の庭で本を読みながら歩き続ける事にした。




 あの魔法に隠された街で発見した、歴史書のような本。あれをなんとか読めるようにならないかと、霊核に記憶された魂の記憶をそれぞれ当てはめていく。……アントワ国内の古代遺跡で発見したので、てっきりアントワの古い言葉で書かれているものだとばかり思っていたが、どうやらその予測は間違っていたようだ。

 あの本の中に書かれた文字は、ベグレザの古代文字を変換した、()()()()()であると気づいたのだ──それは偶然に思い当たった。


 古代帝国の文字なら多少は読める。……とは言っても本当にわずかなものだが。

 その暗号化した文字を解読するのは、大元の文字を把握すれば簡単だった。なぜ素直に古代帝国の文字を使わなかったのだろうと思ったが、それはこの本に書かれた序文を読んで、なんとなく想像する事ができた。


 あの土地に逃れて街を作った人々は、俺が魔神ラウヴァレアシュと接触した、黒曜館のあった遺跡、()()()()()()()()()というのだ。実に奇妙なえにしが、時を超えて結び付いているように感じる。


 街の危機を察した街の有数の資産家、あるいは魔術師などが結託して、国王の送り込んできた軍勢から逃れる事にしたらしい。──兵士による暴虐を逃れた彼らは、国境を越えてアントワ(その時代は別の国だったろう)にまでやって来て、彼らはその土地に暮らす人々を雇ったりしながら、街を作る事にしたらしい。


 さらに読み進めると、その街の発展には天上の存在の協力があったと書かれているが、それは天使の姿をしてはいるが、本当に天使だったかどうかは疑わしい。

 古代魔術が関わる神々は──その素性がどうも曖昧あいまいで、一介の魔術師には理解できない存在である場合が多そうなのだ。この本を記した人物も、それが上位界の存在であると書いてはいるが、「どのような上位存在であるかは判然としない」とも書いている。

 それにしても間にエンシア国を挟む──古代のベグレザやアントワなどの国ではなかっただろうが──位置であるのに、ここアントワのはずれまで逃亡して来るとは。どうやってこの地までやって来たかは、書かれていないので分からないが、船を使って来たかもしれないし、陸路であったかもしれない。

 どちらにしてもかなりの距離を移動したはずだ。軍勢から追っ手がかかるかもしれないと、できる限り遠くへ逃げたにしても、かなり遠方まで移動を続けたものである。


 この本──『出奔記しゅっぽんき』とでも訳しておこう──には、三つの家族が国を捨てて逃げ出し、その先で小さな町に移住した歴史が細々とつづられていた。

 元からあった町を大きくしたのは、彼ら氏族であったようで、山脈から鉄や銀を掘り当てたり、薬草を育てる事で繁栄したらしい。

(ココテ村で栽培されているという薬草は、この氏族が育てていた薬草と関係があるのか?)

 この『出奔記』に書かれているのを読むと、彼らが育てていた薬草は効果の高い、品質の良い物だと評判だったらしい。


 ──だがどうも、そのまま安穏あんのんと生活し続けたのではない様子だ。

 彼ら氏族が余所よそ者であるのを問題視する者が現れた。

 ここには詳しく書かれていなかったが、ただの小競り合いではない、氏族(貴族)対民衆の争いがあったのだろうと思われた。民衆は氏族らを排除しようと目論もくろんだのだ。

 彼らはそうした市民や、他の町との関係を絶つ為に、上位存在の力を使って街の守護をさせる事にしたらしい。


 それが街を隠蔽いんぺいする結界であり、その周辺の土地に展開された、いくつもの魔法の領域であると書かれていた。

 途中でこの本は白紙が続くが、天使らしきその上位存在姿を素描スケッチした物が記されていたのだった。


「大した事は分からなかったな」

 この『出奔記』を書き記した者は、街を守る為に力を借りた天使の記録として、壁画に彼らの知る天使降臨の場面を描いたとも残している。古代時代に神々からつかわされたという天使によって、人の生きるべき未来の啓示を受けた、などという内容であるらしい。詳しい事は──神官でも王族でもない彼らには、知らされていないのだとか。


「あの街に住んでいた魔術師などは高い能力を持っていたのだろうが、まさか上位存在を使って街を守る隠蔽いんぺいの魔法を掛けるとは」

 強大な力を持っているといっても、軍勢を相手には戦えないと理解していたのだろう。対決するよりも隠れ、閉じもる事を選んだのだ。

 あの図書館の様子からすると、あの街を放棄して逃げ去ったように思えたのだが、本には街のその後については書かれていないので、知りようもない。


『出奔記』を読み終えると次は、霊核や魔法について調べる事にした。いつもながら魔術の庭での作業を慎重におこないながら、精神力や魔力はいつも以上に気をつけて管理する。

 いつ戦いに巻き込まれるか分からないのだから、無駄に魔力を消費する訳にはいかない。

 今できる対策はすべて準備してある。これで勝てなければ、もはや初めから勝率などないだろう。それくらいまで考え抜いた対策だ。

「来るなら来い」

 そうした心持ちでいる。


 魔神ラウヴァレアシュを筆頭に、ベルニエゥロ──の配下であるティエルアネスや、アーブラゥムなどの魔神からも勝利を期待されているのだ、天使や邪神に敗れるなどあってはならない。とうぜん俺自身の為にも。




 その後も研究や訓練を続け、身体の方は南東に向かって順調に進み続けていた。

 川の手前で熊くらいの大きさがある、犬型の魔獣に出くわし、これを討伐したくらいで、他には外敵に襲われる事もなく、無事に旅を続けていたが──その先で大きな池を発見した。

 水辺での危険について知っている俺は、無意識領域に池の調査をさせたが、わになどの巨大な生き物は居ない様子だ。

 ……しかし、池の中を泳ぐ大蛇の影を見つけた無意識が、池から離れて歩く事にしたようなので、いちど意識を肉体に戻して池の中に向かって生命探知を掛けた。するとそこには、たくさんの蛇の影が……水草の生える場所にも、無数の小さな蛇が居て、池の底にも大きな影が、いくつも見えている。


「やばそうだ」

 体長十メートルを超える蛇の姿もある。

 こちらには気づいていないようなので、池から離れて南東へと急ぎ足で向かう。

 池の周囲にも大きな蛇の姿があったが、それは五メートル前後の蛇だった為か、こちらを襲ってくる様子はない。

 池から流れてくる小川があるが、その水は少し汚れていた。水苔が生えた石の上に蜥蜴とかげが座っていたが、人間の姿を見ると、水の中へと逃げ去る。

 青くきらきらした光を反射する、小さな体の蜥蜴だった、見た事のない蜥蜴だ。人の踏み込まない場所に棲む蜥蜴、もしかするとここにしか居ない種類の爬虫類はちゅうるいかもしれない。

「毒々しい色とも言える、毒のある蜥蜴かもな」

 まあそんな生き物を調べている場合じゃないのだ、さっさと先へ進もう──


 そう考えて背嚢はいのうを背負い直す。

 ふと地面を見下ろすと、そこには小さな花が咲いていた。それは白色と水色の濃淡がある花、それが一ヶ所に咲き乱れていた。

「おっ、これは『ダミドマ』じゃないか」

 疲労回復に効果のある薬を作れる薬草の一つだ。精神的な疲労も取れるという高い効果があるが、り過ぎると危険だとも言われている。

「せっかくだ、採取していこう」

 俺は革帯ベルトに付けた短刀を抜くと、それで地面を掘り返して、根っこから草花を採取する。


 ある程度の量を集めるとそれを手にして、どこか座って調薬できる場所を探す。

 せっかく新鮮なやつが手に入ったのだ、乳鉢にゅうばちを影の中から取り出し、平らな岩の上に乳鉢などを置いて──そこで調薬を始めた。

 新鮮な薬草の葉をすり潰し、根っこは一部を混ぜて残りは保存しておく、こちらは乾燥させて使うのである。

 他の薬草や少量の水と香料を加え、それを布でして薬瓶に入れていく。


「あっと……瓶が足らないか」

 残ったものは布からしぼり出して乳鉢から飲んでしまう。……はっきり言って苦い、不味まずい、青臭い。香料を増やした方がよかったか? そんな考えを抱きつつ、詮をした薬瓶をしまう。


 東側に小川があるようなので、そこに綺麗な水が流れているのを期待して、乳鉢を影の中に沈める。

 背嚢を背負い直して川を目指して歩き出す。背の低い木と、その周辺に青々とした草も生えていたが、それはただの雑草の集まりだった。

 そうした草木の向こうに小高い丘があり、その近くを流れる細い水の流れがあった。

 東から流れてくる小川の流れは清らかで、冷たい水で乳鉢と乳棒を洗い、乾いた布で水分を拭き取る。


 布を洗っていると、残っていた薬草の搾りかすに引かれて、小魚たちが集まってきた。人間にとっては苦い薬であっても、水の中に生きる魚たちには、なかなか得られない貴重な栄養だと分かるのだろう。

 下流の方できらきらとうろこまたたかせながら、大急ぎで栄養を取り込んでいた。


 影の倉庫に調薬道具をしまい込むと、耳鳴りのような音を感じた。──いや、これは鈴の音。

 天使が近づいた時に聞こえる、異なる次元から聞こえてくるあの音だ。俺は身構える事なく落ち着こうと、胸を二度たたく。


 さあ、神の送り込んで来るという存在の力を、見極めてやろうじゃないか。

 戦う意志も覚悟もある。

 こそこそと人を付け回す卑怯者を、こちらから狩り出す時間だ。

 正面から挑み、完膚かんぷなきまでに叩き潰してやろう。

❇第六章を分割して、新たに第七章「神に捨てられた者と天使」としました。(五章も分割しようかな……とか考えたり)


次話で第七章も最後です。

その次の章の前に「用語・設定集②」を投稿します。

次話は次の火曜日に投稿予定です。


あ、「ダミドマ」は創作した(実在しない)薬草ですよ~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 人の手で荒らされていない自然の情景が思い浮かんできて楽しかったです、そして、戦いに備えるレギの意思に読んでいるこちらも緊張感が。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ