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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第七章 神に捨てられた者と天使

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異界化、禍々しき戦場

たくさんのブックマークに感謝感激です。

ありがとうございます!


よ──し、11/3日の文化の日に、次話を投稿しますよ!(まあ、戦闘シーンばかりなのですが)

これからもお付き合いください。

 俺は岩陰に身をひそめ、異界に引きずり込んだ敵の姿を探る。

 戦いの準備も覚悟も整っているが、できれば不意を突いて敵の戦力を削ぎたいところだ。

(この感覚……敵は相当な数が居るようだ)

 まだ距離が離れている感じだが、相手の集団が複数に分かれて配置されているような感じがある。──魔眼の視野に映る多くの危険な影、そいつらは互いに離れた位置から移動を開始した。


 遠くにある影の中に人型の一団があるのを確認した、あの手練れの剣士が再度の戦いを仕掛けてきたのだろう。確かな事は分からないが、なんとなくあの危険な気配を察知しているのだ。闘う前から感じる──鋭い刃を思わせる闘気。

 奴が元は人間であるのは間違いないはずだが、今は魔神のしもべとなり、命令のまま敵を倒す暗殺者のような真似事まねごとをしているのだろう。あるいは操られているのかもしれないが。


 魔神ツェルエルヴァールムから授かった「氷獣」の魔法を使う為に用意した、魔法の結晶を使う事になるかもしれない。それは魔力を封入した触媒しょくばいで、すでに魔法の術式の多くをその結晶の中に封入してある。召喚魔法に近い強力な魔法なので、今の俺にはこうした触媒がないと扱えないのだ。

 他にもあらゆる魔法を準備しているが、問題は冷静に状況を判断し、戦いを有利に進める方策や手立てを実行できるかどうか、そこが一番の問題になる。

 切り札を使うにしても、相手にかわされない状況を作り出さなければならない。あの手練れの剣士──あいつは、至近距離から放たれた攻撃すら躱してみせた。奴は自分以上の「聴死」の使い手かもしれない。

 攻撃を確実に当てて倒すには、奴の隙を生み出すか、油断を誘わなければならないだろう。あの手練れの剣士に心があって、人間じみた判断で油断をするとしたなら、だが。




 相手の動きは散漫なものだった。こちらの居場所を把握している訳ではなく、あちこちに動き出しており、集団はばらばらに分かれて岩場の間を通り、索敵を開始したようだ。

(なんだ……? なにかが妙だ)

 どの集団も行動を開始するまでに時間がかかっていた、まるで()()()()()()()()()()()()()()()()かのように。


 近寄って来た集団の影に、蜘蛛くもの下半身を持った「蜘蛛妖女」の姿や、「死肉喰らい」らしい姿を確認した。集団の二つはいかにも化け物の姿をした連中が群れを作り、一つの集団はまるで冒険者の一団パーティを思わせる人型の、武器や鎧を装備した戦士の手勢である。

(まさか……()()()()()()()()しているのか?)

 まずい状況が、なおまずい想像を膨らませる。


 冷静に三つの集団を解析すると、どうやら魔神の配下と邪神の配下が同時に存在しているらしい。

 囲まれる訳にはいかない。この異界には岩山や大きな岩がたくさんあり、隠れる場所には困らなかった。


 三つの集団は大きく広がって索敵を開始した。戦士の集団だけは広がり方に規則性があり、まるで軍隊が哨戒しょうかいしながら行軍するように、ゆっくりと進んでいる。

 奴らに見つからぬようにして後方へと回り込む。岩陰を利用して付かず離れず、一定の距離を保って異なる集団の勢力に目を光らせる。巨大な影も見えてきた、大きな身体を持つ魔物──ひょう頭闘鬼だろうか? 背の高さに比べてしなやかそうな体型に、細い腕と足をしている。

 豹頭闘鬼は動きが速く、硬く鋭い爪であらゆる物を引き裂いてしまう。


 他にもサイの頭を持つ闘鬼や、牛頭闘鬼の姿も見える。柄の長い大きな両刃の斧を両手で持ち、周囲を見回しつつ歩き回っている。その足下には複数の妖魔を従えているらしい、姿形の異なる異形の化け物を引き連れながら敵を探し求めていた。

 異様な姿形をした魔物と、戦士の姿をもつ二種類の集団。これが接触する──その瞬間が訪れた。


 岩山の陰にある広い空き地に、一つの魔物の集団と、戦士の軍勢が対峙たいじする。大きな岩の陰から覗き見ると、七体の戦士たち──それらは虚兵ゴーレムの反応がある。魔法によって活動する鎧の虚兵、その中心に居る者から特殊な反応を感じる。

「奴だろうな」

 魔眼があったから気づいたが、虚兵と同じ鎧をまとい、魔法による擬装を施した戦士が見つかった。危険な技量を持つ剣士、あいつがまた送り込まれてきたのだ。それも今回は以前の倍となる数の虚兵を引き連れて。


 それに加えて邪神の送り込んだと思われる蜘蛛妖女や、闘鬼の集団もあるのだ。──絶体絶命。逃げるには異界を作り出している力の根源を破壊しなければならないだろう。


「──妙だな」

 異界化の中心となっている魔力の根源を感じない。どこかに身をひそめている者が居るか、力の根源を隠しているのだ。

「全滅させるしかない」

 不意を突いて一気に大打撃を与え、身を隠しながら敵の数を減らしていく、それしかこの戦力差をどうにかする方策はない。


 そう考えた時、それは起きた。


 闘鬼の率いている魔物の集団と、虚兵たちの集団がぶつかり合ったのだ。激しい戦いの音が離れた場所に居ても響いてくる。

 鋼の武器が敵の身体を引き裂く音。

 化け物の上げる悲痛な悲鳴。

 怒りに満ちた咆哮ほうこう

 異界の中はたちまち戦場となった。


 牛頭闘鬼が振るう大斧が虚兵の一体を捉え、一撃で鎧を粉砕する。

「グモォオオォオォッ!」

 大気を震わす咆哮を上げると、手にした大斧を左右に振り回しながら突進する牛頭闘鬼。味方であるはずの犬頭悪鬼や妖魔なども巻き込んで虚兵を打ち倒す。

 剣戟やときの声を思わせる魔物たちの咆哮が響き渡る。

 戦いの音を聞きつけ、豹頭闘鬼や蜘蛛妖女なども合流し、そこは魔法も飛び交う魔物と虚兵たちの戦場となった。


(奴ら、結託してこの異界に入ってきた訳ではないらしい)

 俺は注意深く戦いを見守りながら、異界に引きずり込まれる前の事を思い出していた。あのとき感じていた奇妙な視線、あれは虚兵や魔物を送り込んできた上位存在の視線ではなかったらしい。

 つまりこの異界を作り出している者は、()()()()()()()()()()()()()()なのだ。


「は、こいつはいい」

 それが何者かは知らないが、今のところは敵ではないと考えてもいいだろう。この場に居る虚兵や魔物を倒したあとでは敵になるかもしれないが。


 虚兵たちの集団は、二つに分かれていた魔物の集団に左右から挟まれる形になった。完全な挟撃ではないが、元からの数が違う。虚兵たちはあっと言う間に劣勢に立たされた。


 豹頭闘鬼と、虚兵に擬態している手練れの剣士が正面からぶつかり合った。素早い攻撃をかわす剣士が剣を振り上げると、闘鬼の腕が吹き飛んだ。危険を察知した闘鬼が二歩、三歩と後退して腕の傷を修復しようとしたが、別の虚兵が雷撃の魔法を撃ち出して攻撃し、豹頭闘鬼を倒す。


 懸命に戦っている虚兵の一団だったが、戦況はかなり厳しいものになった。──とはいえ、手練れの剣士が魔法を使う蜘蛛妖女を倒し、その勢いのまま牛頭闘鬼をも倒すと、戦いの流れではかなり優位な状況へと持ち込んだ。

 犀頭闘鬼が手にした槍で虚兵の胴体を貫く。

 それに呼応するようにして犬頭悪鬼らが突撃を開始し、戦場は嵐のごとく激しい暴力と怒号に包まれたのだった。


 蜥蜴とかげと昆虫が融合したような姿を持つ妖魔などが、犀の頭を持つ闘鬼と共に攻め込んだ。

 次々に倒されていく妖魔や魔物。

 そして虚兵たちも徐々に傷つき倒れていく。

「これを逃す手はない」

 俺はなるべく岩陰に隠れながら戦場へ近づき、残った敵をまとめて倒す事に決めた。


 魔物たちの戦いの場に近づくと、そこは思っていた以上に凄まじい戦渦の騒音に包まれていた。

 乱戦状態になった戦場に近づくのは簡単だった。あとは奴らに悟られぬよう強大な魔法を使い、その一撃で奴らに甚大な被害を与える。

 俺は鉄器創幻の術式を刻みつけた鋼の延べ棒を影の中から取り出す。

 この延べ棒を握りながら延べ棒と己の中にある魔力に集中する。


「我が声を聞き届けたまえ、武器をたずさえる者の王。力の証を示し剣の威を知らしめよ、我は汝の奮う刃なり!」

 鋼の延べ棒が光となって消失する。

 かかげた手の中に出現した光を空へと飛ばす。

 魔物たちの頭上で光が広がり、光の中から次々に両刃の剣が生み出される。俺の意志から創り出された剣。そしてそれは大いなる戦いの歴史から、戦士たちの記憶から創り出された剣だ。


「滅びを与えよ、霊験れいげんなる刃の嵐!」

 地上に振り下ろされる刃の雨。

 無数の剣が次々に襲いかかる。

 犀頭闘鬼、妖魔、犬頭悪鬼、虚兵──そのすべてが鉄器創幻で創り出された剣によって貫かれた。

「グワァォオォッ!」

「グギィッ!」

 大地に振り下ろされた剣は次に横へと飛翔し、残った魔物を斬り裂いていく。


「ギィィンッ!」

 飛んできた剣を避け、剣で弾き返す者が居る。次々に飛んでくる剣を躱しながら素早く剣を振るう剣士。

 虚兵と変わらぬ鎧を纏った剣士は、自らの生存を賭けた戦いをおこなっていた。死に物狂い……という感じではない。

 一つ一つをたくみに躱し、剣を弾き、叩き落としている。その間にも他の魔物や虚兵は次々に倒れ、飛び交う鉄器創幻の剣が消失したあとも、その剣士だけが生き残ったのだ。


「恐ろしい戦士だな、あんた」

 岩陰から姿を現しながら虚兵の剣士の前に進み出る。

 見ると剣士は腕と足に怪我をしていた。

 鉄器創幻の刃を躱しきれなかったのだ。

 兜や鎧に傷がつき、太股をおおう装甲が剥がれ落ちている。身に着けていた灰色のズボンも切り裂かれ、わずかだが赤い血が染み付いていた。

 それを見てわずかながらほっとする、優れた剣士ではあっても無敵ではないはずだ。全力をもってかかれば勝てるはず。


「決着をつけようぜ」

 魔剣を構えると自らに魔法を掛け、戦いに備える。

「あんたが誰の命令を受けて俺を殺しに来ているかは知らないが、そんなつまらん役回りから解放してやるよ」

 剣士も手にした幅広の剣を構えた。

 鈍い光を放つ銀色の剣に鎧。

 剣士の身体から放たれるのは凄まじい闘気。

 殺気は感じない。

 まるでこの戦いを望んでいたかのようだ。


「先に言っておくが、あんたが虚兵でないのは了承済みだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()知らんが、もう兜も鎧も脱ぎ捨てたらどうだ?」

 俺がそう呼びかけると、相手の闘気が少し弱まった。どうやら会話が通じる相手のようだ。──つまり人間としての意識があるという事だろう。

 剣士は少し間合いを取ると、金属の籠手やすね当てを外し、離れた場所に蹴り捨てた。鎧は着けたままにするようだが、兜を脱ぐと──それを片手で放り投げる。


 目の前に居る男は、人間の物ではない黄色い眼光を放つ瞳を持っていた。鋭い眼光の奥には、人の死を見続けてきたもの特有の、悲哀に満ちた光が沈んでいる。

 灰色に近い青白い肌をした皮膚、首や腕の筋肉を見るだけで、卓越した戦士であるのは分かる。鍛え抜かれた身体というだけではない、数々の傷痕が残るその肉体は、数多くの戦いを重ねた戦士の身体だ。何度も死線をくぐり抜けてきた、剣士の生き様が刻まれた肉体。


 人の道を外れ、人外の存在となった剣士。

 そいつは剣を片手に持ち、俺の前に立ちはだかると、視覚にとらえられそうなほど濃密な、戦いを求める闘気を身体から放ち始めた。

誤字報告ありがとうございます。


さっそくですが一部の文章を変更しました。


「掲げた手の中に出現した光を~」に変更しました。


「消失した光」では訳わからん、となりそうでしたので。

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