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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第七章 神に捨てられた者と天使

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「武器を支配する王」との契約

気づけば100話こえてましたね。

これからもお付き合いください。

 荒れ果てた赤茶色の土地から、黄土色に近い色に変わってきた。所々に草木が生えている場所が増え、しだいに地面の色が茶色い場所が増えてきた。──そう思い始めた時には、荒野を抜け出ていたらしい。

 匂いに生命の息吹のようなものを感じ始めた。緑にあふれているとは言いがたいが、乾燥した砂埃すなぼこりの匂いしかしない土地とはだいぶ雰囲気ふんいきが違ってきた。


 地図を確認すると、遠くに見える山や森を頼りにして、おおよその地点を把握する。近くの町へ辿り着くのは夕方ごろになりそうだ。

 魔女王ディナカペラからたくされた用件は、宿屋に着いてからでもいいだろう。安全の確保を最優先にした行動、それを心がける。


 魔神ラウヴァレアシュの言葉からしても、少なくとも天使が俺を攻撃するのに、自然現象などを装ってくるはずだ。そこまでして自身の存在を隠匿いんとくするのだから、多くの人間が居る場所で襲撃する事はないだろう。

 町に着きさえすれば、少なくとも天使からは逃れられるはず。

 もう一方の魔神や邪神関係の襲撃者は──どうだか分からない。いずれにしてもしばらくは安心のはずだ、それまでに対抗手段を手に入れたい俺は魔術の門を開き、古代魔法の「鉄器創幻=修羅神霊刃」を修得する作業を続ける事にした。


 すでに触媒しょくばいの作製は八割がた済んでいる。呪文を刻み付ける作業に取りかかり、精巧な象徴を作ると、今度は魔法陣を用意し、そこにも呪文や紋章を描いていく。

 現代魔法や魔術の儀式は──精度の高い、細かな作業工程が多い。

 神霊に訴える儀式だけに、様々な呼びかけと防衛が必要になるのだ。

 呼び出した力によって術者が害される場合もなくはない。今回の「鉄器創幻」の古代魔法を授かるにも、神霊との間接的な接触がおこなわれる。慎重に事に当たらないと、手痛いしっぺ返しでは済まないだろう。


 魔法陣が完成したあとも、呪文を覚え、手順をしっかりと熟知した上で、その儀式を開始する。

「エメメ、デゥア、ギゥイラ、ハーハナジュ、エデム……」

 長い、長い呼びかけの呪文。

 小さな魔法陣に立ち、大きな魔法陣の手前に置かれた象徴を刻み込んだ触媒を前に、何度も呼びかける。

「デウシュリア、──レデグィ、アァ──ドゥラ、アミュニ……」

 何度目かの同じ呪文の詠唱で、やっと魔法陣の中に変化が現れた。


 無数の金属を表す小さな魔法陣に描かれた紋章から、煙か固形か分からない物が立ち上がり、中心にある大きな魔法陣の中で形を取り始める。

 煙はやがて、一本の大きな剣の形を取った。

 大きい、あまりに大きい。天井すれすれにまで届く大きさの剣は、巨人が手にする武器だとしか思えない。

 俺は慌ててひざまずく。


『何者だ』

 それは頭の中に響く古代魔術言語。

「剣の王、槍の王、あらゆる武器を支配する者の王よ。我が呼びかけにお応えくださり、感謝の念に堪えません」

 不気味に光を放つ巨大な剣は、威圧的な気配を放ってこちらを圧倒してくる。

『何者だ、お前からは()()()()()()()()()()()()()()ぞ。我をたばかり、我が力の根源を奪うつもりか』

 驚いた事に、この神霊は警戒しているらしい。この上位存在がなにに警戒しているか、その点にいくつかの心当たりがあるが、それを確認している暇はない。


「恐れ多くも、小さき不肖ふしょうの身なれば、神霊たる方々にそのような企みを持つなど、考えもおよばぬ事でございましょう」

 相手が虚心にこうべを垂れ、ひざまずいているのを見て、神霊は疑いの心を弱め始めた。魔法陣にはいつでも神霊が帰る事ができるようにもしてある、術者に束縛される事がないように。

『むぅ……、いいだろう。お前の真意を汲み取ろう。それで、お前は刃と力を求め欲するのか』

「は、……どうか、私に力をお与えください」

 そう言いながら鋼の小さな短刀を取り出し、自らのてのひらに刃で傷を作ると、赤く流れる血を短刀に塗り付けて、それを魔法陣の外に置いてある小さな台座に乗せる。

 そこには契約の約定が書かれた紙が置かれ、それに血が染み込んでいく。


『……いいだろう。汝に<鉄器創幻>の術法を与えよう──古き約定に誓い、我は汝を剣の一振りと認めん』

 すると約定を記した紙が燃え上がり、置かれた鋼の短刀も消え去った。

 巨大な剣が立つ魔法陣の中に風と炎が巻き起こる、すると俺が入っている小さな魔法陣の中にも炎と風が噴き上がり、俺の身体を包み込んだ。

 熱さは感じない。

 風と炎が俺の耳や鼻や口などから入り込んでくると、霊体の中に新たな力が備わった事を実感する。


『さらばだ人間よ。その力で自らの成すべき役割を果たせ』

 巨大な剣の形をした神霊は、そう言葉を残して炎と共に消え去った。


 強力な古代魔法を獲得した瞬間だった。

 俺は掌に付けた傷もそのままに、ぐっと拳を握りしめる。

 興奮に血がたぎり、痛みなど感じない。──まあ、ここは精神領域なので、五感とは違う感覚が支配しているのだが。

 新たな力の獲得は、いつも興奮や感動を心に溢れさせるが、このような大きなる存在と対面し、その力の一端でも与えられるというのは、大きな事だと改めて感じた。

 それも今回は様々な準備をし、大きな儀式をりおこなって得た初めての力だと言える。感動もひとしおだ。


「この力があれば、魔神が送り込んできた虚兵などに有効な打撃となるだろう」

 また同じ手を使ってくるとは思えないが、複数の敵で攻め込まれても対応ができる強力な力だ。

 上位存在に対しても半物質の身体を持つ相手ならば、充分に通用するのではないだろうか。

「使用時に金属と、それ相応の魔力も必要だが」

 金属については影の倉庫にも準備しておけるし、短刀などを触媒として使ってもいい。


 古代魔法を獲得した事により、他の古代魔法を獲得する為のいい勉強になったと言えるだろう。魔法陣には神霊の具象体(本体と結びついた幻影に近い体)が現れると考えてよさそうだ。

 力の一部が送られて来る訳で、こちらもそれに対して防御策を練ってのぞまなければならないだろう。今回の神霊は話の通じる相手だったが、そうとは限らないと考えられる。


「さて、次は……」

 天使の遺物から対抗魔法を作り出したが、専用の攻撃魔法を探してみようと考えた。過去との繋がりが断裂した意識領域をむやみに探すのではなく、霊樹から得た古き魔術師らの記憶から繋がる場所を求めて、あの広大な闇の中を探索するのだ。

 この方法ならもしかすると、無意識領域の断裂の手前から、古代魔術と繋がりのあるものが見つけられるかもしれない。

 俺はさっそく無意識領域へ意識を下ろし、虚空の闇の中へと向かう。アンシャエァとアゥルムハッド、二人の魔術師の記憶を優先して記憶の海へともぐって行くのだった。




 無意識領域の海と言っても、そこに水は無い。ただただ闇が広がっている。──だが、遠くにあっても見えない光に近づけば、それは突然に姿を現す事もある。闇の中にあるその光を求めて、どこまでも飛翔する。

 そしてその光の中には危険な罠も潜んでいるのである。────魔術師はその罠を避けて、自分にはない知識や技術を命懸けで求めるのだ。


 かなり長い距離を移動しただろうか、アンシャエァの記憶の断片に反応がある。彼女と関係のある記憶が発見できるかもしれない、あるいは彼女が生きていた時代の記憶が。


 無数の光の間を抜けてここまで来たが、ほとんどの記憶はどうでもいいものだと思われた。そうした事に気づけるかは、魔術師の判断力──あるいは嗅覚──による。

 見つけた光は魔術師たちの記憶の断片。

 だがそれは有用な記憶とは言えなかった。そうそう簡単には見つけ出す事などできないのだ。


 結局この日は収穫は得られなかった。


 二人の古代に関係のある魔術師の記憶を接点に探しても、いくつかの記憶の欠片を発見しただけだ。魔術や魔法に関係するようなものは見つけられない。

 一度、魔術の庭まで戻って来ると、ちょうど肉体側から危険を知らせる反応が伝えられた。


 *****


 現世に戻ると、周辺はすでに草や川があり、進むべき先には森がある場所まで来ていた。──地図によると森の向こうに街道があるはずだが……

「むっ、あれは……」

 森の手前に大型の獣が居る。それは黒い毛を持つ四つ足の猛獣に見えたが、よく見るとそれは魔獣だった。

「蛇竜獅子か──アントワにもこんな危険な魔獣が居るんだな」

 アントワ国についてはあまり詳しくないが、国外の冒険者が好んでこの国を訪れる事は少ないらしい、という噂は耳にしている。なにしろ排他的な民が多いから、外から来る人自体が少ないのだろう。


「この国の兵士が魔獣や亜人を放置しているのだろうな」

 一応この国にも戦士ギルドはあるが、余所よその国と連携しているかと言われれば疑問だ。

 蛇竜獅子は獅子の身体に足、大きな蛇に似た頭を持ち、長い蛇の尻尾を鞭みたいにしならせている。

 危険なのはその爪と牙。

 動きも機敏で獰猛どうもうだ。

 口から毒を吐き出すのだが──

「ま、俺に毒は効かないからそれはいい」


 岩陰に身を潜めながら面倒事は避けたいものだ、そう考えていたが──どうやらそういう訳にもいかないらしい。

 蛇竜獅子は森の横を通り過ぎる格好で移動していたが、突然こちらに向き直り、じりじりと獲物を狙う姿勢を取って、ゆっくりと音を立てずに近づいて来るではないか。

 視線は感じなかったが、また何者かが魔獣を使って俺を襲わせる気なのだろうか?


「あ──はいはい、やればいいんだろう」

 俺は岩陰から姿を現すと魔剣を抜き、魔獣の迎撃体勢に入った。

「グァルラァアァァッ!」

 そんな叫び声を上げて猛然と突進して来た魔獣。

 俺の数歩手前の位置から飛びかかり、前足の尖った爪で引き裂こうとする。

「ふんっ」

 瞬間的に奴の横に回り込み、前足と脇腹を斬りつける。斬られた痛みに短い唸り声を上げながら、こちらに振り返ろうとするが──それを悠長に待つ訳がない。


 さらに追い打ちで後ろ足を切断。

 身体を回転させて、渾身の薙ぎ払いを魔獣の脇腹に叩き込む。

 上半身と下半身の間に刃が深々と入り込み、内臓をえぐる一撃をお見舞いする。

「ゴギャァッ」

 その獅子は足をばたつかせながら横向きに倒れ込んだ。蛇の生命力を兼ね備えた魔獣は、腹部から内臓を溢れさせながらも、目の前の敵に殺気立って唸り声を喉元から響かせる。

「終わりだ」

 喉を狙って剣を振り下ろす。その一撃が首を断ち、魔獣はどすんと地面に倒れて動かなくなった。


 鋭い毒牙を二本剥ぎ取ると、それを皮袋に入れて討伐の証とする。

 剣を振って血を落とし、丁寧に残っている血と脂をぬぐっていると、森の中から鋭い「キィ──ッ、キキッ」という猿の鳴き声が聞こえてきた。

 どうやら魔獣に怯えていた猿が木の上に逃げていたらしい、蛇竜獅子が倒された事を仲間に報告したのだろう。


 森を突っ切って行く方が早いが、今回は森を迂回して街道へ向かう事にした。森の範囲が狭い方向に向かえば、さほど時間はかからずに街道を見つけられると考えた。

 森の端っこまで来ると、そこから森の反対側に歩いて行く。そこにはわだちで作られた街道が一直線に延び、東から森を避ける形で南の方へと折れ曲がっている。

 街道を南へと向かう先に、北西へと続く道との間に看板が立てられ、そこに南へ向かえば「マンアトゥラ」という町があると書かれていた。


 アントワ国は周辺の国よりも、文明の水準が低いと言われていたが……それは以前の話かもしれない。

 道の先には町を囲む外壁だろうか? ずっと遠くに灰色の壁らしい物が見えている。かなり遠くにあるその目的地に向かって進んでいると、遠くの空は朱色ににじみ出した。

「もうそんな時間だったか」

 俺は影の中から薬瓶を取り出し、それを口にした。魔女プリシアから購入した強壮薬だ。

 彼女の作った薬はなかなか効果が高い、魔女の薬学というやつだろうか。

 空になった瓶を影の中へ戻すと、再び南へ向けて歩みを進めるのだった。

古代魔術の獲得。巨大な剣はあくまで象徴としての姿です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 神霊に対しては、真摯に、謙虚に、敬意を持った姿勢で挑まないと大変なのですね。
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