時限爆弾
「日常盛大シリーズ」の第1話です。
ただの日常をいかに盛大かつ壮大に緊迫した雰囲気で書けるかを旨に書いています。
どの日常なのか推理して楽しんで頂ければ幸いです(答えは後書きに書いてます)。
男はとある小さな扉の前、苛立ちを抑える事もせずに何度もため息を吐く。
組まれた腕、右手の人差し指は腕を、右足は床を何度もトントンと音を立てて叩いている。
(何やってるんだ、早くしないと……!!)
その焦りからか男はそわそわと落ち着き無く周囲を見渡し、時計を何度も確認する。
約束の時間から5分過ぎている。普通なら何とも思わない、たったの5分。
しかし、今は1分1秒を争う。
額から変な汗が流れるが、しかし今の彼にとってその拭う行為さえも忘れている。
(破裂させる訳に行かないんだ、頼む…早くしてくれ……っ!!)
彼にとって幸いと言うべきなのは、他に人が居ないこと。
最悪破裂しても犠牲者は少なくて済む。
とは言え、誰かに見られる前に何とかしなくてはならない。
このままいけば絶対に間に合わないと踏んだ彼は他に方法が無いか頭を巡らせる。
(最悪、やるしかないのか……)
一瞬過ぎった方法は、確かに破裂させずに済みそうだ。
しかし、その行為は違法であるし、軽いとは言え立派な犯罪だ。
「緊急回避」が成立するかは微妙な所だが、彼の正義感を抜きにしても見付かれば彼は生きてはいられないだろう……
しかしこのまま待っていても、破裂してしまえば結果は同じ。
抱えている爆弾はいつ破裂するか分らない状態で、刻一刻とその時を迎えようとしている。
(俺は、どうすれば良いんだ……ッ!!)
その扉には「入室禁止」を表す赤が表示されている。
今入っている人間も同様の緊急事態で、その爆弾の対応をしている。
いや、その時点ではまだ爆弾だとはお互い気付かなかった。
だから10分という時間を設けたのだ。
なぜ、時間なのに「入室禁止」から「入室許可」にならないのだろうか。
まさかとは思うが、更に予期せぬ最悪の事態になってしまっているのだろうか?
(いや、もしそうだったならば此処に俺が居ると分かっているんだ、助けを求めるだろう…)
とは言え、今は彼の爆弾の方が危険域に達している。
助けを求めたいのは寧ろ彼の方だった。
その時、後方から人の声が聞こえてくる。
最悪の事態に更に彼は焦りを覚える。
そして彼はついに行動に出た。
「入室禁止」を表す扉を強く叩き、声を上げる
「時間です、開けて下さい!!」
男は近付いてくる人間に聞こえないくらいの大きな声で叫ぶ。
奥から漸く人が動く気配が聞こえ、そして遂に扉が開かれる。
「もう10分か、早いな…」
余程集中していたのか、或いは最初から時間を気にしていなかったのか。
彼と同じ位の年齢の男性はそう呟くが、今の彼には聞こえない。
先ずはこの爆弾をどうにかすることが先決だからだ。
直ぐに彼は部屋に入る。その怒りにも似た形相の横顔を見た男は、しかし悪びれる様子も無くその場を立ち去った。
今回の答えは「トイレ」です。
分かる人には恐らく直ぐに分かる謎だったと思います。
これからも時々投稿しますので、宜しくお願いします(_ _)