直往邁進......大出力ゥー!だよ
ザッ ザッ ザッ ザッ
大勢が規則的に歩く音が聞こえてくる。
「いよいよね」
ジジが前方を睨み付ける。
ゴブリンの角笛に呼び寄せられたゴブリンが、廃坑の奥から五列縦隊で行進してくる様子が見える。
多くが普通のゴブリンだが、要所にはゴブリンナイトが見える。恐らく後方には、ゴブリンアーチャーやゴブリンメイジもいるだろう。
『ジジ、無理をするなよ。危なくなったら即、撤退だ』
まるで軍隊のように整った動きだ。
この群れのトップは、本当にゴブリンリーダーなのか?
「わかっているわ。それよりも、掛ける言葉があるんじゃない?」
フフンと笑うジジ。
相変わらず、心が熱くなる煽り方をしてくれる。
それなら俺も、ジジに応えるまでだ。
『蹴散らすぞ!』
「当たり前よ!」
ジジがファイティングポーズをとる。
「≪ 炎装・拳 ≫」
その呟きと共に、ジジの拳が真っ赤な炎に纏われる。
ゴブリンの群れの先頭がジジに接近してくる。
「直往邁進……大出力ゥゥウウウウウウ!!!!!!」
現在のジジ最強の攻撃、それが直往邁進大出力だ。
炎装・拳を使用した状態で、ただ全力で右ストレートを放つだけの技なのだが、その威力が桁違いだ。
全力のジジの拳は、音の壁を超える。
キィイイイイイン ゴオオオオオオオ
戦闘機が飛行する時のような音が、ジジのパンチから聞こえて来る。
ソニックブームが伴うジジの拳は、もはや兵器である。
それがもしゴブリンの群れに向けられたなら……
ドガァアアアアアアアン
土煙が舞う。
廃坑に悪臭が漂う。
視界が晴れてくる。
隊列の前方にいた30匹ほどのゴブリンがグチャグチャになっていた。剣が転がっているので、普通のゴブリンだけではなく、ゴブリンナイトも一定数倒せたのだろう。
生き残ったゴブリンの中にも、腕がちぎれたり、腹から内臓が露出している個体が見られた。
『三十六計逃げるに如かず』
「うん。ちょっとテンションあげすぎた」
恥ずかしそうにポリポリと頬をかいたジジは、ゴブリンに背を向け、駆けだした。
実は、炎装・拳による全力攻撃は、一日一度しか出来ないのだ。
しかも、その全力攻撃を放った後は5分間、炎装そのものが使えなくなる。
ジジの肉体に負担がかかりすぎることと、スキルのレベルが低いことで、そのような制限がついているのではないかと考えている。
つまり今、ジジと俺は、戦略的撤退をしているのだ。
ジジがいきなり全力攻撃を仕掛けるとは思わなかったから、俺もビックリだ。
「ギャ?」
「ゲギャギャ?」
「ゲギャ!」
「ゲギャギャー!」
しばらく唖然としていたゴブリンたちが、何やら会話をしていた。
ゴブリン語がわからない俺でもわかる。
逃げるんなら、追いかけようぜ的な会話がなされたことを。
そんなに情熱的に追いかけて来なくていいよ。
追いかけてくるなら、せめて可愛い女の子にしてくれ。
あ、でも、ゴブリンの雌は簡便な。人間のみで。
「ゲギャーッ!」
そんなアホなことを考えている間に、ゴブリンの群れの一部がジジに追いついてきた。
炎装を使っていない時のジジは、速く動けないから仕方が無い。
すべてのゴブリンに追いつかれ、隊列を整わせる前に、少しでも敵の数を減らしたい。
「くらえ!」
ジジはゴブリンにパンチを繰り出した。
ジャブもストレートもフックもアッパーも当たらない。
「ゲッギャッギャッギャ」
以前、ゴブリンと戦った時と同じ展開になった。ゴブリンが醜く笑っている。
『今だ!』
ガシッ
ジジがゴブリンの腕を掴んだ。
そのままグイッと自身の体に引き寄せ、ゴブリンの手足を力ずくで拘束する。
ゴブリンの表情が恐怖に染まる。
「仲間シールド!」
ジジがドヤ顔でのたまった。
仲間シールドから抜け出そうとゴブリンがジタバタと抵抗するが、それを許すジジではない。
ジジは仲間シールドをゴブリンに突きつける。
ゴブリンが仲間シールドに攻撃するのを躊躇ってくれればいいのだが……
「ギャ」
バシッ
近くにいるゴブリンが、仲間シールドを棍棒で攻撃した。
やっぱり仲間シールドは通用しなかったか。
「これならどう?」
ジジは仲間シールドの両足を持った。
それから仲間シールドを、自分の体ごと独楽のように振り回し始める。
「仲間ジャイアントスイング!」
回転するジジと仲間シールド。
鋭い回転だ。
当たったら、ただでは済まないだろう。
誰にも当たらないけどね。
仲間ジャイアントスイングから、ゴブリンたちは一定の距離を取っている。
「せーの!」
ジジが仲間シールドから手を離した。
すごい勢いで吹き飛んでいく仲間シールド。
とんでもないスピードで迫る仲間シールドに、ゴブリンたちはたまらず逃げ出す。
グゲチャ
逃げ遅れた一匹が、仲間シールドもろとも勢いよく岩壁に体をぶつけた。
ジジが逃げ出したゴブリンたちの顔を見回す。
「さあ、かかってきなさい」
ゴブリンに向けて手招きするジジ。
ゴブリンたちは、岩壁に体をぶつけ白目を剥き緑色の液体を口から垂らしている二匹のゴブリンを見る。それからジジを見る。
倒れたゴブリンとジジを見比べながら、ジリジリと下がっていくゴブリンたち。
手招きをやめないジジ。
その時、ジジの前方から、火弾が撃ち込まれた。
魔法か?
火弾を避けたジジは、ため息をつく。
「いいところだったんだけどね……」
ジジの視線の先には、今まで見たことがない服装のゴブリンが立っていた。
ガリガリな体に質の悪いローブを着ていて、ボロい杖を握っている。
ゴブリンメイジだ。
しかも三匹いる。
ゴブリンメイジの近くには、ゴブリンアーチャーが二匹いる。
炎装のクールタイムは、あと少し残っている。
ここからが、本当の戦いだ。
『やるぞ、ジジ!』