三日間の修行の成果だよ
ジジと修行を始めてから3日が経過した。
炎装について分かったことがいくつかある。
・≪ 炎装・拳 ≫と≪ 炎装・靴 ≫は、同時に発動できない。
・今のところ上記の2つの炎装しか発動できない。
・炎装の発動は、連続して15分が限界。もう一度発動するには、5分のクールタイムが必要。
・炎装は、ジジの感情の影響を受ける。
ちなみに、修行中の食事は倒した魔物の肉を食べ、水は廃坑の近くの小川で確保しているよ。そして寝る時は、俺とジジが出会った洞窟まで戻ってるよ。
『またゴブリンだな』
「頑張る」
トッ トッ トッ
ジジがゴブリンに歩み寄る。
「≪ 炎装・靴 ≫」
ジジの踝から下を、真っ赤な炎が纏う。
タンッ! タッ タンッ!
ジジが前方にステップを三歩踏む。ジジにとっては、力を抑えた小さなステップ。その距離、おおよそ20m。
「ゲギャ!?」
ゴブリンがジジに気が付いた。目を見開き、攻撃を回避しようとする。
でも、もう遅い。
「ベイビーステップ……ストレート!」
ガンッ!
ジジの右腕がゴブリンの頬を射抜く。
ゴブリンの体が宙に舞い、10m程先で倒れる。
『これで今日10匹目のゴブリンだな』
「ゴブリンは動きが単純だから、簡単に倒せる。でも、遠距離攻撃ができる敵や、変則的な動きが得意な敵がいたら、今の私だと厳しいかも」
そこなんだよな。直線的な動きは、ジジは相当に速い。
パワーとスピードでごり押しできる敵なら簡単に倒せるが、もしそうで無いならと考えるとな。
ジジの表情が浮かないな。
炎装のコントロールが徐々に上手くなってきているし、そろそろ提案してみるか。
『廃坑の奥に行かないか?』
「え? ……でも……」
ジジが不安そうな表情をする。
『そろそろ対人を意識した戦いをした方がいい。ジジならやれるさ』
「できる…….かな?」
『危なかったら、引き返そう。ジジに追いつける敵なんて、早々いないさ』
「こんなところで不安がっていちゃ、ダメだよね」
バシバシと、ジジは自分の頬を叩いた。
「よし、行こう。やってやるわ」
ジジの黒い瞳に、決意の焔が灯ったように感じた。
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廃坑の奥には、恐らくゴブリンの巣がある。たぶんその予想は当たっている。
廃坑で出会った魔物のほとんどがゴブリンだったことが、理由の1つ。
もう1つが、1度だけ深めに潜った際、弓を持ったゴブリン――ゴブリンアーチャー――を見かけたことだ。
ゴブリンアーチャー、ゴブリンナイト、ゴブリンメイジといったゴブリンの進化種は、通常、ゴブリンの群れの中にいるらしい。
魔物避けの柵を壊して廃坑の外に出ないことから、ゴブリンキングはいないが、ゴブリンリーダーはいるかも知れないと、ジジは言っていた。
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ジジと廃坑の奥に進んでいく。
途中でゴブリンが3匹出てきたが、今のジジの敵ではなかった。
「居た」
緑色の肌に、大きな鼻に、尖った耳。
ガリガリな体に質の悪い革鎧を着ていて、ボロい弓を背負っている。
腰に円筒状の何かを挿しており、目がギラギラと輝いている。
ゴブリンアーチャーだ。
『今まで戦ったゴブリンより強そうだな。気を引き締めていこう』
「うん」
ジジは深く呼吸をした後、一言呟く。
「≪ 炎装・靴 ≫」
炎の靴を履いたジジが、ゴブリンアーチャーに向かって走っていく。
「ギャ? ……ギャッギャッギャッ」
ジジに気が付いたゴブリンアーチャーが醜く笑う。
やれやれとでも言いたげな顔で、弓を引く。
ビュン!
矢が風を切り裂き、ジジに迫る。
「遅い!」
ジジは横にステップした。
矢がジジの横を通過していく。
「ギャ!?」
ゴブリンアーチャーが目を見開く。
焦った様子で、腰にある円柱状のものを口元まで持ってくる。
「させない」
タッ タタッ タッ
小刻みにステップを踏み、ゴブリンに接近していくジジ。
「ベイビーステップ……アッパーカット!」
ステップにより加速したジジの拳が、ゴブリンの顎を捉える。
ゴブリンの体は中に浮き、5m程上にある天井にぶつかる。
「グギャーッ!」
ドサッと床に落ちたゴブリンを見ると、顔面が潰れていた。
『よくやった』
「倒せると思わなかった…..倒せてよかった……」
ジジの声が震えている。
今までゴブリンアーチャーに勝てたことは無かったらしい。だから、本当に怖かったようだ。
「もっと奥へ行こう。まだまだ、強くなれる気がする」
ジジが廃坑の奥を睨み付ける。本当は怖いのだろう。だが、修行して強くなり、両親を助けたいという、ジジの決意は本物だ。
その心意気に、俺は応えたい。
『その意気だ』
その時だった。
ゴブリンアーチャーが震えながら、円柱状のものを口に咥えた。
まだ生きていたのか。
何をするつもりだ。
「ブォォオオオオオオ」
不気味な音が、廃坑の岩壁を反射していく。
響く音が、不安を煽っていく。
「まさか……ゴブリンの角笛!?」
ジジが呆然としている。
大変なことが起きたということは、伝わってくる。
『ゴブリンの角笛とは、なんだ?』
「ゴブリンが仲間を呼ぶ時に使う笛よ。たぶん50匹以上はやって来るわ」
50匹以上!?
……なんだ、その数。
あまりにも多すぎる。
『どうするんだ?』
ジジに動揺が伝わらないように、なるべく冷静なように装う。俺が動揺すれば、ジジまで動揺するかも知れないからだ。
「決まってるわ」
フフッとジジが笑う。
先ほどまで呆然としていたとは思えない、好戦的な表情だ。
「見敵必殺よ」
申し訳ありませんが、明日は投稿できません。