筋肉も炎装もチートだったよ
さっそく修行をするため、廃坑にまでやってきた。
山に現代日本のトンネルのような大きさの穴が空いており、床にはトロッコを乗せていたであろうレールが引いてある。
灯りがないのに、内部はボワっと光っている。
ジジに聞いたところ、この廃坑は、魔素がある空間で光りを発する“魔光石”が以前はたくさん採れたようだ。魔光石の捨石が光を発しているので、大穴の内部がボワッと光っているらしい。1つでは価値がない捨石でも、たくさん集まればそれなりに明るいようだ。
廃坑の入り口には魔物避けの木製の柵がある。見た目は普通の柵だが、魔物が嫌がる木材が使われているらしい。
入り口に魔物避けの柵がある理由、それはもちろん、廃坑の内部に魔物が棲んでいるから、ということのようだ。
ちなみに、この廃坑には強い魔物は棲んでいないとのことだ。魔物避けの柵にビビって外に出られないレベルの魔物は、脅威ではないらしい。
廃坑だから人はいないし、内部は広く、光源があり、魔物が出る。
確かに、修行に適していそうな場所だ。
大穴を奥へと進んでいくと、いた。
緑色の肌に、大きな鼻に、尖った耳。
ガリガリな体に粗悪な服を着ていて、小汚い棍棒を握っている。
そして、ギラギラと輝く目。
どう見てもゴブリンだ。
『ジジ、まずは普段通り戦ってみせてくれ』
「わかった」
トットットットッ
ゴブリンに駆け寄ると、ゴブリンがジジの方を向いた。
ブンッ
ジジがゴブリンにストレートパンチをはなったが、ゴブリンはジジの攻撃をサッと避ける。
ブンッ ブンッ ブンッ
アッパー、フック、回し蹴りと、ジジが攻撃を放つが、ゴブリンはことごとく避ける。
「ゲッギャッギャッ」
当たらなければどうということはないとでも言うように、ゴブリンが醜悪な顔で笑う。
ガッ!
ゴブリンの棍棒が、ジジに当たった。
「痛っ」
ジジは歯を食いしばりながら、ゴブリンの攻撃に耐える。
ガッ ゴンッ
ゴブリンの攻撃に耐えながら、ジジは前に出る。ゴブリンに接近していくジジの目には、うっすらと涙が浮かんでいる。
ジリジリとゴブリンに接近していき、ゴブリンとの距離がゼロになる。
「それっ、ぎゅーっ!」
ジジがゴブリンに抱き着いた。
ん? 抱き着いた?
「ゲギャ! ゲギャギャギャ!……ぐへっ」
ゴブリンが血を吐いてお亡くなりになった。
ゴブリンの穴という穴から変な液体が出ている。
じゃっかん、ゴブリンが潰れているような気が……
「勝った!」
拳を天に掲げ、嬉しそうに勝利のポーズを決めるジジ。
色々言いたいことはあるが、一番は、あれだな。
『ジジ、ひょっとして、いつもあんな感じで戦ってるのか?』
「うん。攻撃が当たらないから、いつも相手を締めあげるの。この戦い方だと弱い敵には勝てるけど、私が倒したい奴には敵わないから……。攻撃が当たれば、きっと勝てるのに。だから、悔しくて……」
ジジの表情が沈んでいく。
『だから、俺がいるんだろ』
ハッとジジが顔をあげる。
『俺の炎装というスキル、使ってみてくれ』
炎装に関しては、俺もよく分からない。ステータスを見ても、炎装というスキルを覚えているということ以外は、分からないんだよな。ただ、かなり強いスキルだということだけは、何故か確信をもっていえる。
「≪ 炎装 ≫」
ジジの拳に、ユラユラ揺れる真っ赤な炎が纏われる。
まるで、炎で出来たボクシンググローブのようだ。
「すごい……ッ!」
装備しているジジは、熱くなさそうだな。
『そのまま何かを殴ってみてくれないか?』
「わかった」
ジジは頷くと、石壁に向かって歩いてく。
そのまま徐に、石壁を殴った。
ドーン!
……は? 殴った? 石壁を?
埃が宙をまっている。
しばらくすると、視界が晴れた。
石壁に、ジジの拳の形をした、穴が空いていた。
「すごい。いつもは頑張っても罅が入るぐらいなのに」
ジジはキラキラとした目で、自らの拳を纏う炎を眺めている。
HAHAHA ツッコミどころが多すぎて、なんも言えねぇ。
『想像以上だな』
ある程度は想像していました風の態度を、なんとなくとってみる。
さすがに石壁に穴を開けるとは、思わなかった。
『炎装が発動できるのは、拳だけなのか? 炎を足に纏うことはできないか?』
「やってみる」
ジジの拳の炎が消えた。
そして、ジジの踝から下に炎が現れる。
ユラユラ揺れる、真っ赤な炎の靴のようだ。
「ビックリ」
できるもんだな。
ジジもビックリしている様子だ。
「ちょっと走ってみる」
トッ……ポテ
走ろうとしたジジは、3m程跳んで、転んだ。
どういうことだ?
「むうぅ……」
恥ずかしそうにしながら、ジジは立ち上がる。
『ジジ、その場から思いっきり、前方にジャンプしてみれくれないか?』
「うん」
ジジは、立ち幅跳びのようにジャンプした。
10m程。
ジジの体に反動は……なさそうだな。ピンピンしてる。
ウザ神様がチートと言っていた意味がわかったよ。とんでもスキルだわ。
ジジは嬉しそうにピョンピョン跳ねてるな。
ピョンピョンどころの高さじゃないけど。
炎装を使いこなせれば、敵に攻撃が当たらないというジジの弱点を大きく補えるな。
『炎を拳に纏うことを≪ 炎装・拳 ≫、炎を足に纏うことを≪ 炎装・靴 ≫と呼ぼうか。この2つの炎装を用いた戦闘ができるように、今日から修行していこう』
「うん! デビルン、よろしくね!」
元気な声で、ジジが応える。
炎装を纏った状態で身体のコントロールがどれだけできるようになるか、それが修行のメインになるんじゃないかと思う。
炎装・拳を一撃必殺に、炎装・靴をスピードに活かせれば、どれだけ強くなれるだろう。
ジジの両親の処刑まで1週間しかない。
あまり時間はかけられない。
強くなろう、ジジ。