強くなりたい理由を打ち明けられたよ
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おっす、おら腕輪。
筋肉少女のジジに攻撃されたら、何故かその少女に装備されていて、デビルンという名前がつけられたよ。
名前がつけられた瞬間、どこからか声が聞こえたような……。
「技神イブの声? 名前をつけただけで聞こえるなんて……」
ジジも困惑している様子だ。
あの声、ジジにも聞こえたんだな。
『俺はこの世界の事情に疎いんだ。よければ、教えてくれないか。技神イブの声とは、なんだ?』
ジジは右腕にはまった俺を、黒い瞳で見つめてくる。
今、ジジと目が合った気がする。恥ずかしい。
目を逸らし、俯瞰視点にしてみる。
あれ? 俺のサイズ、縮んでないか? 成人男性の腕が覆えそうなサイズだったのに、今はジジにぴったりの大きさになっている。相変わらず、不思議な腕輪ね。
サイズが縮んだ以外は、変化はなさそうだな。
ジジの右腕で、禍々しい深紅な腕輪がうっすらと赤く光っている。
フッとジジは息をはく。
「この世界という言葉がひっかるけど……。いいわ、教えてあげる。デビルンに害はなさそうだし」
しまった。この世界って言ってしまったな。
悪魔の腕輪というだけでも不審さ全開なのに、もし異世界から転生したなんて言ったら、ダブルパンチで不審者度が天元突破してしまう気がする。異世界云々の話は、もっと信頼された時にでも打ち明けてみようかな。
考えが逸れた。
でも、大丈夫。ジジがしてくれた技神イブの声についての話は、ちゃんと聞いていたよ。
ジジの話をまとめると、こうだ。
・10歳になれば、スキルが1つ目覚める。
・スキルが目覚めた時、技神イブの声が聞こえる。
・スキルは通常1人1つだが、2つのスキルが目覚める天才と呼ばれる人がいる。噂レベルだが、世界には3つスキルが目覚める人もいるらしい。
・多種多様なスキルの中で、ジジは格闘スキルに目覚めた。
・スキルはレベルがあがれば進化することもある。
・スキルが進化すれば、称号を得られる時もある。
スキルに目覚める時という一生に一度の機会にしか聞けない声が、腕輪に名前をつけただけで聞こえたなんて、そりゃ困惑するわな。
『説明、感謝する。それで、ジジはどれぐらい強いんだ? 強くなる為に、現状を知っておきたい』
「力には自信があるよ。でも、足は遅いよ。細かいことは苦手だし、格闘スキルもレベル1だし……」
後半にいくにしたがって、声が小さくなっていったな。あらら、表情も沈んでいってるな。
ジジはパワーファイターか。
俺に繰り出したパンチは鋭かったから、当たれば強そうだよな。
『俺は炎装というスキルが使える。まだレベルは1だがな』
「スキルが使える装備なんだね。珍しいね」
ジジの目が輝いた。さすがドワーフだ。イメージ通りだな。
『珍しい装備が好きなのか?』
「そりゃ、ドワーフだからね」
もしイメージ通りのドワーフなら、ジジは鍛冶職人の町にでもすんでいるのかな? もしそうなら、ドワーフのジジからしても珍しいということは、俺のようにスキルが使える装備は相当珍しそうだな。他にもスキルが使える装備があるということにもなるけど。
おいおい、ジジさん。マイボディをツンツンしなさんな。
『それで、どうする?』
「どうって?」
ジジが腕輪ボディをつつきながら、首をかしげる。
『強くなりたいと言っていただろう? 修行できそうな場所とかあるのか? それと、どれぐらいの期間をかけて強くなりたいんだ?』
「やさしいね」
ジジが微笑む。
「自分でも分かっているわ。あちきぐらいの年齢の女が、1人で洞窟で泣いているなんて、何か事情があると周りに知らしめているようなものだってことは。でも、デビルンは、あちきの事情について、詳しく聞いてこない。人の心に土足で踏み入るようなバカちんじゃなくてさ、あちきは嬉しいの」
俺は、自分が喋りたくなるまで、誰かに悩みを話したくない。だから、相手が喋りたくなるまで、質問はしない。
『世界を旅する為だからな』
少し恰好つけてみた。
「バカ言っちゃって」
ジジ、嬉しそうだな。
しばらく微笑んだ後、ジジは真面目な顔になる。
空気が変わった。
「1週間後、あちきの両親が処刑される。無実の罪を着せたあいつを許せない。あいつを倒したい」
悩みの相談? そんなもんじゃない。俺の想像力がいかに貧しいか思い知らされた。
自分のツラをぶん殴ってやりたい。
「やったのは、あちきの両親じゃない。あいつがやったんだわ。きっとあいつの家に、あいつがやった証拠がある。じゃなきゃ、あいつの家の警備があんなに厳しい理由にならないもの。力づくでも何でもいいから、あいつの家に押し入って、両親の無実を証明するものを手に入れたい」
ジジが奥歯をギリギリと噛みしめている。
歯を噛みしめる音から、ジジの感情が伝わって来るようだ。
「お願い、1週間以内に、あちきを強くして。修行の場所なら、廃鉱にいくらでもあるから。どれだけ辛くてもいいから。あちきの命を捧げてもいいから……」
ジジ……
「あちきは、自分が犯罪者になっても、自分の魂を悪魔に魂を売っても、両親を助けたいの」
泥棒になってもいいから、暴力を振るってもいいから、自分が死んでもいいから、両親を助けたい。
なんてことを、俺に頼むんだ。
そんなの……
そんなの……
断れるわけ、ないじゃないか。
『任せろ』
後先考えずに、感情の赴くまま、俺は即答した。
誰だか知らんが、許させねぇ。
こんな健気な子の両親をはめるなんて……。
俺はそいつを、許さねぇ。そう、決めた。