筋肉少女に装備されたよ
コロコロ……
腕輪ボディでボロボロの革鎧を着た中学生ぐらいの少女の近くまで転がり、停止した。
「……?」
俺が転がった音で気が付いたのだろう、体育座りをしていた少女が顔をあげ、黒い瞳をこちらに向けてきた。目が腫れてるな。相当泣いたんだろうな。それに、顔も傷がたくさんついているな。痛そうだ。
「何?……腕輪?」
さて、どうしようか。動いたら警戒されるだろうな。俺のことに気づいたみたいだし、たぶん近づいてくるよね。俺、価値が高そうな腕輪だし。深紅で目立つしね。待ってみるか。
「……」
あ、顔を俯かせた。こっちに興味ないみたいね。どう見ても訳ありだもんなぁ。腕輪に構っている精神的な余裕がないんだろうね。
よっしゃ。警戒されてもいいから、動いてみるか。
当たって砕けろだ。
コロコロ……コロコロ……ゴッ……カランカラン
石に引っかかって金属っぽい音が大き目に鳴ってしまった。
「!?」
おうおう、こっちをビックリした顔して見つめてるね。パッチリお目めをたっぷり開いてさ。
もう少し動いてみるか。
コロ……
トットットットッ
少女が俺の方に駆けてくる。
少女の目が鋭いような。なんで腕を振りかぶってるの?
え!?
拳が俺に向かって接近してくる。
俺は洞窟の石床に転がっているから、天から拳が振ってくるみたいな感じに見えるね。
瓦割りの瓦視点みたいな感じ。
どう見ても避けられないスピードのパンチだ。
俺、死んだかも。
ガキーン!
Oh……すごい音が洞窟に響いたな。
マイボディ、大丈夫かな。
俯瞰視点で自分の体を見てみる。大丈夫そうだ。丈夫なのね。マジで当たって砕けたかと思ったわ。
そんなことより、いや、そんなことではないが、今、よく分からないことが起こった。
「ん!?……なにこれ!?」
何故か俺の腕輪ボディが少女に装備されちゃったみたいだ。
殴ったのに腕輪がはまるなんて、意味が分からないね。
無機物の癖に意思があって、視覚や聴覚があって、意識的に転がれる摩訶不思議な腕輪だから、意味が分からないのは今更か。
少女が必死に腕輪を外そうとしてるね。
ひっぱたり、腕をブンブンまわしたり、壁に腕輪をぶつけたり。
それでも腕輪がミラクルフィットしてるみたいで、外れないみたいだ。
しばらく腕輪と格闘した少女は、諦めた様子で、また体育座りを始めた。
『しょげないでよベ●ベー』
「え!? 何!?」
ん……? すごい顔して少女が俺を見つめてくるな。
ひょっとして、テキトウに歌ってたら、伝わってしまったのか? そういえばウザ神が「装備者とおしゃべりし放題」って言ってたな。
恥ずかしっ。顔が紅潮するわ。顔ないけど。
『気のせいだ』
「!?」
あ、やっぱり、装備者に話しかけれるみたいね。
少女の表情が歪んでいく。
どう見ても怒ってるな。怒ってるなんてレベルじゃないな。魂の叫びが聞こえそうな表情だ。
「あちきを追い詰めて、そんなに楽しいか! バカにしてっ!」
事情は知らないが、追い詰められていたようだ。
『俺はたまたま洞窟でコロコロ転がっていた、どこにでもある普通の悪魔の腕輪だ』
「悪魔の腕輪……? バカにするのも、大概にしてっ! 村から追い出すだけでは飽き足らず、ここまで追いかけて来るなんて……ッ!」
重い。
この少女は村を追い出されたのか……。
少女が俺を睨む。
『俺は装備者であるお前に害をなすことはできない』
スキルは、少女が使おうと思えば使えそうな感じがする。腕輪の本能的なもので、それが分かる。だが、自分のスキルで装備者である少女を害せないのもまた、腕輪の本能的なもので分かる。
「悪魔って、人を害す存在でしょ? 自分で悪魔と名乗るということは、あちきを害そうとする気満々ってことじゃないの!」
そうなるか。悪魔は契約を重んずる的な話をラノベで読んだ気がする。そっちの方面でいってみようか。
「俺は装備者との契約は守る。俺を装備して世界を見せてくれ。そうすれば、願いを一つ叶えてやろう」
今、めっちゃテキトウなこと言った。
でも、少女の表情が少し揺らいだな。
「……あちきを強くすることはできる?」
『容易い』
俺のスキル「炎装」のレベルをあげれば、たぶん装備者である少女は強くなれる。炎装がどんなスキルか知らんけど。
俺が自信満々に言ったからか、少女も俺の発言を信じてそうだな。大丈夫か、この少女。詐欺にひっかかりそうだ。
「倒したい奴がいるの。そいつを倒す為なら、悪魔にでも魂を売ってあげるわ」
『魂はいらん。俺は世界を見て回りたいだけだ』
倒したい奴か。少女が泣いていた事情と関わってるんだろうな。
ちなみに世界を見て回りたいというのは、本当だ。完全に旅行者気分だけど。
「ふふっ、ずいぶん変わった悪魔ね」
お、少女がちょっとだけ笑った。笑うと可愛いな。
髪はボサボサ、顔は傷だらけだけど、身なりを整え、傷が癒えたら化けそうだな。
『契約するのなら、名前を教えてくれないか?』
「あちきはドワーフのジジ。少しだけ格闘スキルを使えるわ」
少しだけ? 俺を殴ったあのパンチは、少しだけにしては重すぎるような……。
この世界の基準では、少しだけなのかもな。
というか、ジジはドワーフだったんだな。
ドワーフって髭だらけの親父のイメージがあったけど、少女もいるんだな。あ、もちろんジジに髭ははえていないよ。
さっきまで意識していなかったら気が付かなかったが、よく見ると筋肉すごいな。ムキムキだ。筋肉少女だ。
「あなたの名前は?」
明らかにジジの態度が軟化しているな。でも、まだちょっと緊張しているのが分かる。
『まだ名は無い。』
「まだってことは……あちきが付けてもいいの?」
ジジの目が輝いている。おらワクワクすっぞ的な目をしている。
『構わない』
「ん~……それじゃあねー……」
ジジは目を瞑り、顎に手を当てながら、「んー」と言いながら頭を左右に揺らしている。
さて、どんな名前を付けてくれるかな。
あれ? 前世の俺の名前ってなんだっけ? まぁ、いいか。
ハッ! と、ジジは目を開いた。頭の上にピコーン電球が浮かんでそうな表情だ。
「デビルン!」
≪ 名称:デビルン が登録されました ≫
え? 何か声が聞こえたような……。