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ジジの涙だよ

今回は少し短いです。

 そこは、堅牢な建物だった。


 両脇の塔は、高く聳える。


 その間に挟まれた建物は、二つの紋章が彫られている。


 一つは、ドラゴンを模した紋章。これは恐らく、国の紋章。


 もう一つは、盾と剣を模った紋章。これは恐らく、ドワーフの町の紋章。


 真っ白な石造りのその建物は、威風堂々と構えている。


 初めて見たが、間違いない。


 ここは――


「領主様の館……?」


 ジジが建物を見上げ、呟いた。


「そうだ。この建物の地下に、今から来てもらう」


 バイランが表情を変えずに答えた。


 領主の建物の地下に連れていって、何をする気なのだろう。


 そこに一体、何があるというのだろう。


「ここに来たこと、そしてこれから見ることは、他言無用だ」


 もし他言すれば殺すという意味だろうことが、バイランの眼光から伝わって来た。


 ジジとダダは、バイランの言葉に無言で頷く。


 バイランは門番に何事か告げると、ジジとダダを連れて、そのまま奥へと進んでいく。


 建物の中に入っても、歩みを止めない。


 広い建物の中を、歩いて行く。


 ジジとダダは、バイランの背中だけを見て、歩いて行く。


 いつしか階段を下り、地下に来ていた。


 そこは、地下牢だった。


 暗く冷たい石でできた壁に、魔光石が輝いている。


 鉄格子で出来た檻を見て、心まで冷たくなっていく気がする。


 本当にここが、領主の館の地下なのか?


「ここに地下牢があったとは……」


 ダダが驚いている。


 俺だって驚いた。


 領主と犯人を近くに置くという危険な行為を、想像できるはずがない。


「知らなくて当然だ。王家に関わる罪など、重大な事件を犯した者のみ、収監される牢なのだから」


 領主の館の地下には、必ず牢が備わっているそうだ。

 

 王家に関わる罪などの、“など”の範囲が、個人的には気になるな。ただの好奇心だから質問はしないが……


「何者だ!」


 全身鎧の兵士が、こちらに剣を突き付けた。


「バイランだ」

「!?……失礼しました!」


 兵士は一瞬驚いた表情をしたが、バイランの纏う黒い鎧を見た途端、剣を下げ、敬礼をした。


「ロロとヤヤが収監されている牢に入りたい。鍵をくれないか?」

「ハッ!」


 兵士は迷うことなく、バイランに鍵を手渡す。


「場所は?」

「一番奥の牢であります! よろしければ案内するであります!」


 この兵士、ガチガチに緊張しているな。


「よい。ここの守りを続けてくれ」

「ハハッ」


 ビシッと敬礼した兵士は、どことなくホッとした様子だ。


 黒騎士は、かなりの偉いさんなんだろうな。


 バイランを先頭に、それから数分間、俺たちは奥へと歩いて行った。


「ここだな」


 一番奥の牢までの距離は、兵士と別れた場所から、さほど離れていなかった。


「父さん! 母さん!」


 駆け出したジジは、牢の鉄格子を掴む。


「「ジジ!」」


 二人のドワーフが、ジジに近づいてきた。


 一人は、筋肉質な体系で顔中に髭を蓄え、温和そうな顔をした男。彼がロロだろう。


 もう一人は、筋肉質な体系にショートヘア、そしてパッチリとした黒い瞳の女。彼女がヤヤだろう。


 二人とも、白無地の服を着ている。


「中で話そうか」


 ガチャン


 バイランが牢の鍵を開け、中へと入っていく。


 ジジの両親は呆然とした表情でバイランを眺めていたが、バイランの後ろにいる男に気が付くと、目を剥いた。


「ダダ!」


 ロロが、ダダの胸倉を掴む。


「どの面さげてやってきやがった!」


 ロロは火を噴きそうな表情だ。


「すまん……」


 ダダは俯いている。


「お前のことを、友達だと思っていたんだぞ!」


 つりあがったロロの目には、涙が浮かんでいる。


「すまん……」

「妻まで牢にぶち込みやがって!」

「すまん……」

「すまん以外の言葉を忘れてしまったのか!」


 クソッ興ざめだと言いながら、ロロはダダから手を放した。


「ジジ……あなた!?」


 魔光石に照らされたジジの姿を確認したヤヤの顔が青くなる。


 今のジジは、着ている革鎧はボロボロ、髪はボサボサ、顔は無数の傷と泥で汚れている。


「あちきは平気だよ。父さんと母さんが無事でよかった」


 ジジが微笑む。


 どう見ても平気ではなさそうなのに。


 こんなの何てことないというような表情をして。


 両親の無事をただ喜ぶジジ。


「ジジ……」


 ヤヤは、ジジの体を優しく抱いた。


 そして、ジジの背中をポンポンと叩く。


「親の前でぐらい、素直になりなさい」


 ジジの目から、涙が溢れて来る。


「生き゛ででよがっだ。も゛う゛死んじゃっだかど思っで、不安だった。も゛う゛会え゛な゛いがど思っでだ。会゛い゛だがっだ。お゛母ざん゛」


 その涙は、ジジが今までため込んできた感情をすべて吐き出すかのように、とめどなく流れていった。

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