ダダの気持ちだよ
どういう、ことだ。
ダダが、ジジの父親の親友だって?
ダダは、ジジの両親を嵌めたんじゃないのか?
「ジジの両親は、ダダに冤罪を被せられたというのだな? しかも、国王様へ献上する剣を盗んだとして」
黒騎士バイランが感情のこもらない声で、ジジに問いかける。
「ええ、その通りよ。ダダが主犯か、ダダに指示をした人がいるかは、分からないけどね」
ジジが首肯する。
ダダは、ただじっとしている。反論でもするかと思ったのだが、不思議だ。
「では、ダダよ。お主の意見を訊こう」
バイランは、嘘は許さないといった雰囲気をたたえ、ダダを見つめる。
「私は幼い頃より、ロロに忠告して来たのだ。ドワーフの誇りを忘れるなと」
昔を思い出しているのだろうか、ダダがゆっくりと目を閉じた。
ロロというのは、恐らくジジの父親の名前だろう。
「だが、ロロは私の話を聞こうとしなかった! それどころか、自分の行いに誇りを持っていると言ってのけたのだ!」
ダダがカッと目を開き、怒気を含んだ声をあげた。
「ドワーフに生まれたからには、モノ作りに励むべきなのだ。不器用だというのは、言い訳に他ならん」
ロロが運送屋をしていたのが気に入らなかったのか?
種族のことはよく分からないが、能力によって、適材適所があるんじゃないのか。
「例え不器用でも、努力を積み重ねれば職人として大成できるのだよ。私のようにな」
だからといって、人に押し付けるのは、どうかと思うがな。
「私は刀剣の職人として一流になった。職人たちをまとめ上げ、商会をつくり、商人としても一流になった。私にできたのだから、ロロにもできるはずだ」
独りよがりじゃないか?
「子どもの頃、ロロは言った。最高の剣を作りたいと。俺は、ロロに夢を諦めて欲しくなかったのだ」
子どもの頃の夢を諦めて欲しくない、か。
それと今回の事件と、どう関連するんだ。
「運送なんぞにかまけておるから、言ってやったのだ。ドワーフの誇りを忘れるなと。そしたら、なんと言ったと思う?」
ダダは今や、身振り手振りを加えて、感情的に喋っている。
「俺はドワーフとして、誇りを持って仕事に取り組んでいると言ってのけたのだ!」
一段と、大きな声で言ったな。
「俺のところで働けば、お前の夢を叶えてられると、何度もロロに話した。そしたら、どうだ」
自分のもとで剣をつくって欲しかったのか。
ロロの気持ちや事情を考えずに。
「お前こそ、ドワーフの誇りを忘れるなと、俺に向かって言ってきたのだ。傑作じゃないか」
ダダのいうドワーフの誇りと、ロロの考えるドワーフの誇りは、どうやら違うようだな。
「謝るなら許してやると言ったのだが、ロロは取り合わなかった。後悔するなよと言ったが、ドワーフの誇りにかけて後悔しないと言ってのけた」
ダダの目が血走っている。
「ドワーフの誇りを忘れた分際で、俺にドワーフの誇りを説いた。それが、許せなかった。親友に目を覚まして欲しかった」
俺はダダに冷静になって欲しかったよ。
「お灸をすえるつもりで、ロロを脅したつもりだった。だが、少々やりすぎてしまった……」
ダダの表情が沈んでいく。
感情のままに動いていたら、やりすぎたのか。
やりすぎにも、程があると思うが。
バイランが、ダダを睨む。
「ダダは、今のロロの生活を見たのか?」
「見たさ」
「では、ロロと共に生活する家族の表情を見たか?」
「……」
「夢を追いかけることを誇るのは構わない。だが、家族を大切にするのも、誇るべきことだろう」
バイランが、堂々とした口調でゆっくりとダダに語りかける。
「家族の為に自らの身をいとわず、殴り込みをかける。やり方は過激ではある。だが、親を思う素敵な気持ちを、ジジは持っている。ならば、ロロもまた子を思っていると、そう思わないか?」
バイランはジジの方を見た後、ダダの方を見た。
「よく分からない。……俺には、家族がいないからな」
「そうか……」
「俺はロロの為を思った。それと同じように、いや俺以上に、ロロは家族を思っていたのかも知れんな。それこそ、自分の信念を曲げるほどに」
ダダは寂しそうに見えるが、どこかスッキリとした表情をしている。
「お前には悪いことをした」
ダダが、ジジに頭をさげた。
「謝るなら、父さんと母さんに」
ジジの言うことは、もっともだ。
「そうだな……」
ダダの目が、優しくなった気がした。
「ダダ、お前は黒騎士の前で罪を自供した。国王様に献上する予定だった剣を盗んだだけに飽き足らず、その剣を盗んだ罪を他人に擦りつけたのだ。どうなるか、わかっているのだろう?」
「覚悟はできている。処刑、だろう?」
バイランの問いかけに、ダダは即答した。
バイランが、頷いた。
「ダダ、お前は俺について来て貰う」
ダダが頷く。
バイランは、どこからともなく取り出した真っ黒なロープで、ダダを拘束した。
ダダを引き連れ、部屋の入口の方へ歩いていく。
「ジジも、ついて来い」
バイランとダダの少し後ろを、ジジは歩いて行く。
どこかへ向かって、歩いていく。