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強者と弱者だよ

 その建物の内部は、テレビで見たことがある貴族の邸宅といった趣であった。


 壁はエメラルドグリーンに金色の縁がついたデザインで、天井は白色、床は豪華な絨毯が敷いてある。


 精緻な壺や、美しい絵画、煌びやかな刀剣などが飾ってある。


 魔光石が嵌められたシャンデリアが天井から吊り下げられているので、部屋の端に居る人の顔を確認できるぐらいに明るい。


『虱潰しに探す時間は無さそうだな』


 俺たちが家に侵入していることは、既にバレている。


 家の警備の者だけではなく、町の治安維持の者がやってきたら厄介だ。


「そいつから訊きだす」


 うつ伏せに倒れている眼鏡の男を、ジジは指差した。


『お手柔らかにな』


 首肯したジジは、眼鏡の男の槍を破壊した。


 それから眼鏡の男の体をつかみ、その男の体勢を仰向けに変え、胸部の上に自身の両手を重ねて置く。


「活ッ!」


 気合いと共に、ジジは両手を力強く押し込んだ。


「ゲホッ。ゴホッ。何――」


 意識を取り戻した男の目の前には、笑顔のジジがいた。


「ヒッ」


 自分が置かれた状況が分かったのか、眼鏡の男が青ざめていく。


『ダダの居場所はどこ?』


 ジジの両親を嵌めた奴の名前は、ダダというのか。


「だ、誰が言うか!」


 抵抗するのは当たり前か。


 ジジが、笑顔でハーッと拳に息を吹きかける。


 そのまま拳を、男の顔面に振り下ろす。


「ちょ!? 待っ」


 バキィ


 ジジの拳は、男の顔面の真横を貫いた。


 ジジは、床に突き刺さった拳を引き抜く。


「もう一度、聞くわ」


 ジジの笑顔が怖い。


 笑いながらの威圧って、怖いんだね。


「ダダの居場所はどこ?」


 今度こそ顔面を撃ち抜くと、ジジの目が言っている。


「言う! 言うから、拳をおろしてくれ!」

「あ?」

「拳をおろして下さい」


 ジジが拳をおろすと、男はふぅと息を吐く。


「ご主人は寝室にいると思います。いや、います! 絶対に! 寝室は、この部屋から出て右に曲がり、廊下を直進した突当りにあります」


ジジが眼鏡の男を訝し気に睨む。


「ホントです! 嘘なんてついてません!」


 ジジは満足気に頷いた。


 バシッ


 そして、眼鏡の男を殴り、意識を奪った。


****************************


 部屋を出ると、やはりというべきか、武器を持った男たちがいた。


 居たのだが……


 弱い。


 弱すぎる。


 ジジがワンパンで沈めていく。


 ジジが強いのか?


 いや、違うだろうな。


 ジジはあまり強くならないと言われている格闘スキル持ちだし、俺の炎装だってレベル2だ。ここの警備の連中が弱すぎるだけだろう。


 こいつらゴブリンに勝てるの? ってぐらいの強さだ。


 そんなこんなで、眼鏡から聞いたダダの部屋の前に着いた。


 白を基調に金色の装飾が施されている、ひときわ豪華な扉なので、偉い人が好みそうだな。


 まぁ、扉はいいや。


 問題は、扉の前に、おっさんが仁王立ちしているんだよな。


「通してくれる?」

「断る」


 即答するおっさん。


 そりゃ、そうだよな。


 おっさんは、歴戦の猛者といった雰囲気を醸し出している。


 黒い金属製の鎧を身に纏い、腰には剣を挿している。


 髪は白髪の混じった金髪のオールバック。


 カクカクしたゲルマン系の顔立ちが渋い。


 見た感じ、50代ぐらいだろうか。


 目尻の皺が、積み重ねてきた年月を語っているようだ。


 おっさんが、青色の瞳で睨みつけてくる。


「力づくでもいいのよ?」


 ジジは、自身の後ろをクイッと親指で差す。


 ジジにワンパンで倒された男たちが転がっている。


「試してみるか?」


 おっさんの眼光が鋭くなる。


 あ、このおっさん、強者だわ。


 しかも戦闘狂だわ。


 おっさんがジジと戦いたくてウズウズしているのが伝わってくる。


「あなたは他の男どもと違うようね」


 好戦的な笑みを浮かべるジジ。


「いいわ。相手になってあげる」


 ジジは、チョイチョイと手招きした。


「世の中の広さを思い知れ」


 おっさんが剣を抜いた。


 いや、正確には、剣を抜いたところまでは見えた。


 ジジの首に、おっさんの剣の切っ先が向けられている。


 あまりにも速すぎる動き。


 人を殺す覚悟のある瞳。


 身動き一つとれない。


 強さの次元が違う。


「お前のような小娘が、何故この屋敷に押し入る」


 おっさんの静かな声が、恐ろしい。


 答えを間違えると、即座に首を刎ねられるだろう。


「あちきの両親が、ダダに無実の罪を着せられたの。その証拠を奪いにきたの」


 ジジは、いつも真っすぐだ。


 剣を突き付けられても、ジジはぶれない。


「その為に、自分が犯罪者になってもいいと?」


 おっさんの眼光の鋭さが増す。


「覚悟の上よ」


 ジジに迷いはない。


「嘘では、無さそうだな」


 チンッ


 おっさんが、剣を収めた。


「俺の名は、バイラン。お前の名は?」

「ジジよ」


 バイランが破顔する。


「ついて来い、ジジ」


 バイランが踵を返し、ドアハンドルに手を掛ける。


『行くのか、ジジ?』

「もちろんよ」


 圧倒的な強さを持つバイランが、ジジを罠に嵌める意味はなさそうだ。


 だが、ダダとバイランは、一体どういう関係なのだろう。


 ダダを守っていると考えるのが自然だが、他の警備の者と比べて、バイランは強すぎる。


 ただの警備や護衛には、どうしても思えない。


 そのバイランが、ついて来いと言う。


 その目的は、何なのだろうか。


 考えても、答えはでない。


 少なくとも、ジジはバイランについて行くと言っている。


 だったら俺は、ジジを守る。それだけだ。

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