表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/16

ダンボールがあればバレなかったと思うよ

「今宵の月も美しい」


 ずんぐりむっくりな体系に濃い髭を顔中に蓄えた彼の容姿は、イメージ通りのドワーフそのものだろう。


 だが、彼が着ているものは、ドワーフのイメージとはかけ離れている。


 上品な光沢のある青地に銀のストライプが入った、見るからに高級なスーツを身にまとっている。


 赤ワインを片手に窓辺に佇む彼は、ドワーフの豪商だ。


 彼は毎日、記憶を無くすまで酒を飲む。


 彼は自分を責めている。


 彼は自分が醜いと思っている。


 だから、自身の醜さと月の美しさを見比べては、酒を煽る。


 そんなつもりは無かった。


 ただ、ドワーフの誇りを取り戻して欲しかっただけだ。


 最早どうしようもない言い訳を繰り返しては、酒に逃げる。


 いつ、どこで、何を間違えたのだろうか。


 自問自答を繰り返しながら、ドワーフの豪商・ダダは、酒を飲み続ける。


****************************


 辺り一帯に、酸っぱくもあり苦くもある、吐き気がする臭いが漂っている。


 ゴブリンの血と酒を混ぜたものを燃やすと、本当に臭いな。臭いしか言いようがない。


 あまりにも酷い臭いに、目を覚ました周辺住民と興味本位の酔っ払いが、様子を確認しに外に出て来る。


 そして、辺りが騒ぎに包まれた。


 炎を消そうとする者。

 臭いと騒ぐ者。

 逃げ出す者。

 祭りだと勘違いする者。

 喧嘩を始める者。


 寝起きの者と酒に酔っている者が多いだけに、カオスな状況だ。家が燃えないことが分かっているからこそ、酔いが醒めていないのだろう。問題は臭いだけなのだから。


 騒ぎに乗じて、ジジは目的地へと向かう。


 周囲の家と比べて五倍ほどの大きさがあるその家を、物陰から観察する。


『門番は……さすがにプロだな』


 鼻をつまみながらではあるが、門の両脇で目を光らせている。


 巡回の者は、どうだ?


 何やら二人で話し合っているな。


 そのうちの一人が門番に駆け寄り、何事か話した後、門の中へ入っていった。


 しばらくすると、巡回の者が二人の男を引き連れ、門から出て来た。


 その巡回の者と二人の男は、臭いの元――騒ぎの元――へ駆けて行った。


「今がチャンスかも」


 確かに、ジジの言う通りだ。


 家の周囲を巡回している者は、今は一人だ。


 しかも門の内側にいた二人の男――恐らく警備の者――も、臭いの元の方へ行っている。


 その上、家の周囲はざわついている。


 侵入するなら、今だろう。


 こういう時は、恰好よく発破をかけるもんだよな。


『貪欲に駆けろ! そして、すべてを救え!』


 胸の前で両手の拳をバシッと合わせ、ジジは、ニッと微笑む。


「当然だわ!」


 ジジの瞳に炎が灯った気がした。


 周囲に人がいないことを慎重に確認した後、スウッとゆっくり息を吸いこむ。


「≪ 炎装・靴 ≫」


 ジジの踝から下が、真っ赤な炎に纏われる。


 トッ トッ トッ トッ


 目的の家に向かって、ジジは駆けていく。


 タンッ!


 ジジは、力強く跳ねた。


 高い。


 宙に舞う体が、大きく孤を描く。


 腰を逸らし、腕を回す。


 走り幅跳びのような跳び方なのに、距離だけではなく高さまで出ている。


 ダンッ


 ジジは目的の家の屋根の上に着地した。


 やっぱり、音が鳴ったな。


 石造りの頑丈な屋根だからか、音は鳴ったが揺れはしなかった。


 だが、気づかれたんじゃないか?


 ジジは体を伏せ、顔だけチラリと屋根から出し、下を見下ろした。


「~~~~~~~~!?」


 こちらを指差しながら何事かを叫んでいる男がいた。


 完全に気づかれているな。


『誰にもばれないのが理想だったが、仕方が無い』

「力づくで行くってことね」


 今のジジに、基本的に逃げの選択肢はない。


 ジジは、命を懸けているから。


 だとしても、俺はジジに死んで欲しくないし、俺のその気持ちをジジは知っている。


 だから、逃げるという行為は、本当にどうしようもない時だけの選択肢だ。


『ベランダから侵入しよう。翔ぶが如く行ってしまえ!』


 負けん気の強そうな笑みを浮かべ、ジジは頷き、立ち上がる。


 ベランダの上まで移動し、身をかがめる。


 屋根に手を掛け、足を宙に放り出す。


 足を後ろに投げ出した後、振り子の要領で、足を前に蹴り出す。


 バッ


 ジジは屋根から手を放した。


 ジジの体が宙に浮く。


 ザンッ


 ジジはベランダに綺麗に着地を決めた。


 その時だった。


 ジャキ!


「止まれ!」


 ジジの前方には、槍を構えた男が三人立っていた。


 三人とも黒のスーツを着ており、全員、身長は180cmほど。


 左はマッチョ、真ん中は眼鏡、右は顔に傷がある。


「ここがダダ様の御宅であると知っていての狼藉か!」


 眼鏡が、眼鏡を光らせながら睨んでくる。


「だったら、どうだって言うの?」


 ジジが挑発的に笑う。


 眼鏡がピクピクとコメカミを痙攣させる。


「排除する!」


 眼鏡が槍を突き出してくる。


 だが……


「ベイビーステップ」


 ゴブリンアーチャーの矢と比べると、眼鏡の槍は欠伸が出るほど遅い。


 ジジは斜め前にステップを踏み、難なく槍を回避する。


「ショートフック」


 眼鏡の顔面側頭部に、ジジの拳が突き刺さる。


 眼鏡が顔面からバタンと崩れ落ちた。


 眼鏡の眼鏡を見ると、バキバキに割れていた。


「やろう! よくも眼鏡を!」


 激昂したマッチョがジジに槍を突き出す。


 やっぱり眼鏡は眼鏡って呼ばれてたんだな。


 それにしても、遅いな。


 せめて眼鏡と同時に攻撃してくるべきだった。


「ベイビーステップ」


 マッチョの槍を跳んで回避した。


「ドロップキック」


 そして、跳んだ勢いのまま、マッチョを両足で跳び蹴りした。


 バリーン


 マッチョはベランダの窓ガラスを突き破り、屋内に吹き飛んで行った。


 あとは顔に傷がある男だけだ。


 こいつは強そうだ。


 二人が倒されても全く動じていない。


 慎重にいかねば。


 ジジも表情を引き締めている。


 さあ、勝負だ。


「……」


「……」


 ……ん?


 近づいてよく見てみると、傷の人、気絶してるわ。


 ジジも困惑している様子だ。


 見た目だけ強キャラっぽいから、警備に採用されたのか?


 大丈夫か、ここの家主。


 なんだかいけそうな気がしてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ