「白の」書・第1話ヤンジェの過去
『五聖神黙示録』の第1シーズンの1話目です。西大陸の五聖神・白虎によって聖神闘者になったファランは邪羅鬼退治と日常の掛け持ちを行っていた。ファランには祖父の養女であるヤンジェと同居・通学しているのだが……。
夕方の空き地。秋なので夕日も西に入りそうな頃。誰も知らない戦闘がおこっていた。
空き地はだたっ広く、薄茶色の大地にちまちまと雑草が生えている。空き地の両隣は廃屋と奥に有刺鉄線の柵が張られ、これまた廃工場だった。どうやらここはかつては工場地帯だったらしい。
ヒヒの邪羅鬼は白っぽい黄色の毛並みに、長い尾、赤ら顔の怪人で古代人のような装束をまとっている。
対するファランは、黒いストレートの髪、色白の肌、血のような紅い瞳、頭部に白虎の耳を生やし、前髪の二房が虹色がかった白になっており、白地にチャイナ模様入りの金縁の衣、藤紫の半ズボン、二本の細剣を下げている帯と胸元のスカーフは萌黄色、両手のグローブと靴は茶色、腰に白虎の尾がついている。ファランは腰に差した剣を引き抜いて電撃を走らせて、大きくジャンプして、邪羅鬼を三等分に斬りつけた。
「金雷斬!!」
凄まじい放電と共に邪羅鬼は消滅し、喰われた魂は金色の放射状の光を描いて飛んでいった。
「今日の邪羅鬼退治、終わり」
そう言うとファランは、転化を解いた。一瞬白く光ったと思うと、すぐに消えて、耳としっぽと白い聖衣の姿から、普段の白地に金蛇模様の上着と黒いシャツとベージュのズボンと黒いカンフーシューズの姿に戻った。
空き地の入り口に置いてあった肩掛け鞄とバドミントンのラケットのバッグを持つと、祖父と妹の待つ家へと帰っていった。
淡岸の街中は白い石壁と両端が曲がった瓦の屋根の建物で埋め尽くされている。海に近い淡岸では、海水に強い石で建物を造っている。夕方なので、勤め人や子連れの主婦やカルチャーセンター帰りの老人が自宅へ帰るところだった。
ファランの家は町外れの丘の上にあり、母屋と離れの二つがある。壁にひびが入り。かなり古びているが、ファランの我が家である。
観音開きの扉を開けると、すぐ居間である。居間は九畳の広さで、長椅子二脚とテーブル、それから壁に備えられた棚の中央にテレビがある。長椅子は一脚に三人が座れるもので、カラフルなクッションが計六個ある。
居間の隣は祖父の寝室、それからファランとヤンジェの部屋が一つずつある。ファランの部屋は母屋の奥にあり、ベッドと机と本棚とタンスが置いてあって板張りの床。鞄を机の上に置き、バドミントンラケットのバッグを机の傍らに置く。
「っあー! 疲れたっ!」
ファランはベッドの上に寝転がった。
「クラブと邪羅鬼退治と学校の三立って、大変なんだな~」
さっきまで“虎”だったファランは、ウミウシになった。中学校三年終了と同時に両親を事故で亡くしたファランは、いないと思っていた母方祖父に引き取られ、更に祖父の養女ヤンジェと暮らすことになった。それから九月二十三日の十四歳の誕生日に彼の人生は大きく変わり、西大陸の五聖神・白虎から聖力を授かり、全ての生命を滅ばさんとする邪羅鬼という邪悪生命体から世界の均衡を守ってほしいと言われて、聖神闘者を務めている。
“勇”の意を司る白虎は、最も“勇”の意が強い人間に力を与えて、聖神闘者にして邪羅鬼と戦ってもらい、自分は月長殿という場所で世界を見守っているのことだった。
ファランは“勇”の意を持っていたのだ。自分では気づいていなかったと思っていたが、持っていたのだ。そして今日四体目の邪羅鬼を倒したのだった。その時、家の内線電話が鳴ってファランは起き上がった。
「あ~、ご飯できたんだ」
体をコキコキ鳴らしながらベッドから立ち上がり、居間に戻って内線電話を取った。
「はーい」
『ファラン、帰ってたの? もうご飯出来てるわよ』
「今行く」
ガチャリと内線電話を切ると、ファランは母屋を出て台所のある離れへと行った。
離れの中にある台所、食事は祖父かヤンジェが毎日の食事と昼ごはんの弁当を造っている。今日のおかずは青菜炒めとエビギョーザとカニ卵スープ、それから一盛りのごはん。ファランはクラブと聖神闘者の役目を同じ日にやって、腹ペコだった。
「ヤンジェ、おかわり」
ファランはご飯茶わんをヤンジェに差し出す。
「はいはい」
ヤンジェは炊飯器からご飯をしゃもじで盛り付ける。
「ファランたら、クラブに入ることになったから、家事が大変よぉ」
ヤンジェはそう言いながら、ファランに茶碗を渡す。
「うん、悪いと思っているよ。でも、クラブのない日はきちんとご飯作っているからさ」
ファランがこの家に来てから、食事は三人で当番で作っていた。ところが、ヤンジェが熊の邪羅鬼に襲われた次の日、ファランは学校から帰る時、バドミントン部のシャトルを拾ったのがきっかけで、バドミントン部に入部した。部長に誘われてためしにやったところ、かなりの腕前だと言われて入部したのだった。ヤンジェはそれを聞いて驚いた。ファランがクラブに入ってしまったら、家事が大変になるじゃないか、と。祖父にファランのクラブ入部のことを話すと、祖父はファランの入部に賛成した。
「別にいいじゃろ。ファランだってやりたいことがあったんだから」
心の広い祖父は実の孫のクラブ活動を喜んだ。ヤンジェは料理や掃除や洗濯といった家事をしなければならないため、クラブはあえて入らなかった。祖父は風水師であるが、収入は家族三人の生活費と孫二人の学費を稼ぐだけであり、家政婦までは雇えないのだ。だからヤンジェがやる他なかった。但し、ヤンジェ一人で家事をやるのはかわいそうなので、ファランはクラブのない日は食事を作るという条件で成立した。
ファランとヤンジェは義兄妹である。ファランはこの家の主、玫建雄の孫であるが、ヤンジェは後とり娘だったファランの母が駆け落ちしたため、孤児院から引き取った娘であった。
しかしヤンジェの出自は不明であった。誕生日と名前の書いてあった紙と封筒しかヤンジェは持っていなかった。物心ついた時には孤児院にいて、五歳の時に今の養父に引き取られたのだから。育ての祖父は優しい人だったが、ヤンジェはいつも他人の負い目を感じていたのだ。
ヤンジェは時折、自分の前に本当の両親或いは親族が迎えに来てくれるかもしれない。要らないから捨てられたのではなく、きっと訳ありでヤンジェを手放したのだと。何年だって待ち続ける。それがヤンジェの希望だった。
そして、その思いはすぐ近い未来に出たのだった。
節気は寒露の真ん中あたり。ファランが淡岸に来てから、三ヶ月半が経っていた。淡岸は港町だが、東側に面しているため、西や北の海辺のような寒さはなかった。港では漁船や商船が行き交いしており、浜辺では子供たちが鬼ごっこやケンケンで遊んだり、穏やかな平和があった。
町の真ん中に立つ瓦屋根の校舎は、町立小学校と中学校である。ファランとヤンジェは町の中学校に通っている。
校庭の木々は紅やオレンジや黄色に染まり、学校の地面を落ち葉で染めていた。学校の鐘が響いて掃除が終わり、生徒達はクラブ活動へと向かう。ファランのクラスは二十五人いて、そのうちの五人は帰宅部いわゆるクラブ無所属者がいて、ヤンジェはその一人だった。
ファランは鞄とバドミントン道具一式の入った学用品店で買った紺色のスポーツバッグを持ち、ヤンジェに言う。
「ヤンジェ、僕はクラブで遅くなるから先帰ってて」
「うん」
そう言うとファランは鼻歌を歌いながら、教室を出ていく。
「……」
バドミントン部へ行くファランの背中を見送りながら、ヤンジェは少し淋しい気持ちになった。ファランのクラブのない日は一緒に帰宅している。同級生や同学年者の六割がたはファランとヤンジェは兄妹と見ているが、二人のことをよく知らない下級生や上級生は中学生のカップルだと思っているらしい。
ヤンジェは肩下げ鞄を持ち、帰ることにした。廊下から見た学校の光景はランニングしている部やテニスの素振りを練習していたり、サッカーの練習試合と運動部の活動が見られた。そのほとんどが学校指定の上が白で下が紺のジャージを着ている。ラクロス部とかはポロシャツとプリーツスカートとスパッツという服装だったが。
ふとヤンジェは足を止めた。バドミントン部の練習風景である。スポーツポロシャツ、女子はスコート、男子はハーフパンツ。ボトムは紺地に白ラインである。四年生で新部員のファランはシャトル拾いの役だった。
ファランが入部したのは十月一日だったと訊いている。しかし入部してすぐ中間テスト期間に入ったので、練習は始めたばかりのようだった。しかし一年生と同じ扱いもかわいそうなので、最初の二ヶ月を見習い期間にし、十二月には試合に出させるのことだと部長と顧問とで成立した。
(しっかし、ファランって実は文武両道だったのね)
ファランは語学以外の勉強は良ランクで、公民と保健においては優である。それから艶のある黒髪、色白の肌、紅眼に整った顔立ちと容姿端麗。学校の噂では、ファランのファンクラブもあるらしいともいわれる。そして何よりも人望の高さである。学校、近所、地域問わずに困っている人を助け、物資的お礼は受け取らず、感謝の気持ちと褒め言葉だけ受け取るという心意気である。ヤンジェや祖父や同級生は気づいていなかったが、きっかけはファラン十四歳の誕生日にヤンジェが同級生のシウロンとタイチェンと一緒にファランにサプライズを用意してあげたのと、西大陸を守る聖神闘者としての“勇”の意があったからである。
古から忌み嫌われている赤眼として生まれ、その瞳のせいで周りから苛まれ、人間不信になっていたファラン。ただ二人守っていてくれた両親が亡くなってから、祖父と義妹に恵まれ、新たな居場所を持ったのだから。祖父の存在がなかったら、施設で苛まれて孤独な人間になって誰にも心を開かなかっただろう。
ファランのクラブ活動している姿を見て、ヤンジェはファランが自分を置いてって大人になってしまったように思えた。ヤンジェにも女の子の友達はいるが、自分と同じ帰宅部ではないため、ヤンジェは放課後は一人が多かった。
(いいや。帰ろ)
そう呟いて、ヤンジェは祖父の待つ家へと帰っていく。
夕方の町並みはいつもと変わらない。子供たちは浜辺や公園で遊び、母親は買い物、老人は散歩という風景である。淡岸の町は似たような家がずらりと並んでいる。瓦も壁の色も同じ。見分け方は家の大きさや庭の広さや生け垣の有無ぐらいだろう。
歩いていて、丘の家が見えてきた。ヤンジェが一直線に早歩きすると、家の前に祖父と立派な身なりの男の人が立っているのが見えた。その男の人は、六十歳ぐらいの背の高い老人で、金縁の黒い丈長の服を着ていた。祖父とその人は何かを話しあっているらしい。
「おじいちゃん、どうしたの?」
ヤンジェは祖父の方へ駆け寄って走ってきた。
「おお、ヤンジェ。帰ってきたか」
祖父はヤンジェの方へ振り向く。と、同時に男の人も振り向いた。よく見てみると白髪混じりの長い髪を一つにまとめて、四角い顔に険しい顔と立派なヒゲを蓄えたお偉方の様である。
男の人はヤンジェに言った。
「あなたが……、あなたがヤンジェ様ですか?」
「はい……。メイ・ジェンシュンの孫……というか養女の陽傑ですが?」
ヤンジェがそう答えると、祖父が言った。
「この人が、お前の出自を知っているというんだ」
「えっ!?」
どういうことなのか、ヤンジェは思わず声が出なくなった。驚いたのだ。自分がどこの誰なのか知らずに育っていたヤンジェは、突然の出来事に動揺していたのだ。
祖父はヤンジェと男の人を中に入れて、居間へと招いた。祖父とヤンジェは右側の長椅子、男の人は左側の長椅子に座る。
「むさ苦しいところですが、うちに客人というのはあまり来ないものなので……。お茶とお茶菓子です」
祖父はガラスのコップに入れたウーロン茶とまんじゅうを二つ出してあげた。
「いえ、これで結構です。それより紹介が遅れましたな。私は連極皇帝に仕える皇宮の大臣で、延新と申します」
「こっ、皇帝の……!?」
「皇族の大臣が……私達に何か、用ですか……!?」
皇帝と聞いて、ヤンジェも祖父も驚いた。皇帝の気に何か触らせるようなことでもしたのだろうか。
「落ち着きなさいませ。私が今日、ここに来たのはヤンジェ様のことなのです」
「わ、私……!?」
「それで、ヤンジェと皇帝様、どういう関係なのですか?」
ヤンジェと祖父がイエンシン大臣に訊くと、彼は話し始めた。
「我が国連極は皇帝が治め、皇帝には皇妃と四人の側室がおります。そして五人の皇子と四人の皇女がおります。しかし、皇帝には六人目の奥方様とその子供の存在が判明したのです。我々側近たちは、その第六妃と子供を十四年間探索しておりました。そしてそれが、ヤンジェ様だという事です」
「私が……皇帝の娘……!?」
ヤンジェは信じられなかった。今まで肉親や親戚がいないと思っていた自分が、皇帝の娘だったというのが。
「しかし……、ヤンジェが皇帝の娘という証拠はあるのですか?」
祖父がイエンシン大臣に訊くと、彼は次々に答える。
「ええ、あります。DNA検査、出生ルート、それからお母様のことも。全部調べてあります。
ヤンジェ様はA型ですね。皇帝はAB型で、お母様はO型ですが、DNAは皇帝と一致しました。
間違いなく、あなたは皇帝の娘なのですよ」
「あの……私のお母さん……。お母さんはどうしたんですか?」
ヤンジェが一番訊きたかったのは、実母のことだった。どうして自分が孤児院に捨てられていたのか知りたかったのだ。
「ではお話します。よく、お聞きください」
イエンシンはヤンジェの母のことを話し始めた。
ヤンジェの母はメイ一家が暮らしている白浜省の隣にある南林省を牛耳る雷族の領主の娘で、名は一陽といい、器量は美しかったが心は邪悪だった。実の祖父の夜王も邪悪な人間であった。レイ族の領主や上民は衣食住と裕福であったが、下民は重税や重労働で苦しめられ、貧富の差が明白していたのだ。
今から十五年前、皇帝がレイ族領区の視察に行ったところ、皇帝は下民の貧しさと苦しみを見て、領主に下民の税を減らし、労働をやわらげてほしいと言った。しかしイェウォン領主は「いくら皇帝といえど、部族長がどうしようと勝手です」と言い返した。そこで皇帝はイェウォンの娘イーヤンを側室として迎え皇宮に住まわせるという条件で、領主に下民救済をお願いした。
だが、ヤンジェが生まれる五ヶ月前に苦しみに耐えかねた下民たちが反乱をおこして、領主の屋敷を襲撃し、イェウォンは惨殺され、イーヤンは逃亡。富裕者から極貧者に一気に転落したイーヤンは着の身着のままで各地を放浪し、身重ながらも生き伸びた。その逃亡生活の中でイーヤンは父と自分の行いを非常に悔い、お腹の子も生まれて皇帝に委ねても他の皇子達から「悪人の子」と罵られて哀れな人生を送るだろうと悟ったのだ。
そしてイーヤンはレイ族領区から遠く離れた小さな寺院で、尼僧たちの手伝いもあってヤンジェを生み落した。ヤンジェという名は皇帝が考えてくれた名である。そしてイーヤンは八日間寺院でヤンジェと暮らし、お金も家もないこの母はヤンジェを白浜省へ連れて孤児院の前に生年月日と名前のある紙を入れた封筒を置いて、さすらって五日後に冬の寒さで荒れ地で死んでいるのを地元の警官によって発見されたのだ。
ヤンジェはイエンシン大臣から自分の出生を聞いて、すすり泣いていた。ヤンジェに取って悲しかったのは、実の祖父と母が独裁者で人々から嫌われていたことであった。
「これだけは信じて下さい。ヤンジェ様のお母様とおじい様は確かに悪人でした。しかし、ヤンジェ様が生まれる前のことです。ヤンジェ様に罪はありません」
イエンシンが宥めるように言う。しかしヤンジェは首を振る。
「違うんです……。私、ずっと……捨てられてたかと今日まで……。でも、わかったんです……。お母さん……。私を巻き込みたくなかった……って、良かったって思って……」
ヤンジェは服の袖を涙で拭う。
「そうですよ、ヤンジェ様。あなたのお母様は、あなたの幸せを願って亡くなられたのです。気にすることありません」
イエンシン大臣は祖父の方へ振り向く。
「今日、わたくしめがお伺いしたいのは、ヤンジェ様を皇宮に連れて行こうという件です。ヤンジェ様を皇帝陛下の第十子、第五皇女として迎えたいのです」
「ふぇ?」
イエンシンの台詞を聞いて、ヤンジェは泣くのを止めた。
「ヤンジェ様にも皇女としての公務を務める義務の他、次期皇帝の相続権があります。もちろんヤンジェ様を引き取るだけでなく、育てのおじい様にもヤンジェ様を育てて下さった礼金として、一千リウを差し上げますとも」
「一千リウ……!」
一千リウと言えばかなりの大金である。祖父はその額を聞いて腰を抜かしそうになった。しかし……。
「あの……イエンシン大臣。私、行きたくありません……。私、本当の家族でなくても生まれた場所でなくても、淡岸とこの家が好きなんです……。友達とか先生とか近所の人も……。おじいちゃんとファランと一緒にいたいんです……」
ヤンジェは断った。
「ファラン?」
イエンシン大臣がその名を聞くと、祖父が答える。
「わしの……実の孫です。娘夫婦が亡くなったので、わしが引き取って一緒に暮してるんです」
「わかりました。皇帝陛下は無理に連れてくる必要はないとおっしゃっていました。ここに残るか皇宮に来るかはヤンジェ様のご自由です。では一千リウはヤンジェ様の養育費として与えます」
イエンシン大臣はヤンジェの養育費として、一千リウの小切手を祖父に渡した。
「どうもありがとうございます」
祖父は小切手を受け取ると、イエンシン大臣に頭を下げた。
「それでは、私は失礼いたします」
そう言って、イエンシン大臣はメイ家を出ていった。ファランは家への帰り道で、イエンシン大臣と入れ違いになったのには気づかなかった。
ファランが家の戸を開けると、祖父が大臣に差し出した食器を片づけているところだった。
「ただいま……て、おじいちゃん、お客さん来ていたの?」
「ああ、ファランお帰り。お客さんはさっき帰ったとこじゃよ」
「ふーん。で、ヤンジェは?」
「ああ、ヤンジェか。今日、ちょっと家に帰ったとたんに具合が悪くなってな。ご飯作れないんじゃよ。今日は店屋物にするけど、いいな?」
「そうか……。ヤンジェは大丈夫だよね?」
何も知らないファランは、自室へと行った。そしてヤンジェは部屋のベッドで寝込んでいた。今日はいろいろありすぎて疲れたのだ。そして、他の皇子や皇女たちと仲良くできないことも、
ちゃんとわかっていた。
血のつながりがなくても、貧しくても、ヤンジェの居場所はここなのだから。