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五聖神黙示録  作者: 浅葱沼 氷雨乃
53/54

「暗闇」の書・第7話 最後の相手・我意亜(ガイア)

『五聖神』第53話。暗闇の空間で初めて顔を合わせた5人の聖神武匠たち。彼らの前に現れたのは、地球の創物神・我意亜ガイア。人間が出現してから、戦争や暴動が起きるたびに出現する邪羅鬼と五聖神の申し子との戦いを目にしてきた我意亜は人間に失望して、人間を滅ぼして地球を邪羅鬼の世界に変えようとしてきた。5人の最後の戦いが始まった!!

 

それはまさに異形の存在であった。

 人間の男と同じ顔と胴体、背にはワシやタカを思わせる黒い翼、頭部にはシカのような枝角、耳は猫を思わせるもので、両腕はトカゲや蛇のように鱗に覆われており指先はとがった爪、下半身は昆虫の腹部を思わせるもので六本の細い脚で体を支え、下半身の後部には魚を思わせる巨大な尾ひれがついていた。

「で、でかい……!」

 バルトゥルがその異形の者を見て呟く。その身の丈は二、三〇メートルはあったのだから。そしてその異形の者は太く雄々しい声を出す。

「我は地球の創物神(そうぶつしん)我意亜(ガイア)。よくここまでこられたものだ、五聖神の申し子たちよ」

我意亜(ガイア)は金色の眼でファランたちを見つめる。ファランたち聖神武匠は我意亜(ガイア)の容姿と威厳に怖気ついていたが、もう引き返せまいと心に刻んでいた。我意亜(ガイア)が地球の創物神ときいて、リシェールは我意亜(ガイア)に質問してきた。

「地球の神様がなぜ、それもいきなり出てきて……」

「おい、図々しすぎるぞ」

 クァンガイがリシェールに注意したが、我意亜(ガイア)はリシェールの好奇を見て答える。

「いいだろう。教えてやろう。今から三十五億年前に地球は広大な宇宙の中に誕生し、地球と共に我も生まれた。地球を創造するためにな。

 海を創り、空を創り、陸を創り、森や川や山に見合った場所に暮らす動植物を創り、昼には太陽の恵み、夜には月の慈しみを全生物に与えた。

 生物たちは時と世代を超えて進化し、ある生き物は体が大きくなって強くなり、ある生き物は体が小さくなったが知恵を得た。

 巨大隕石の落下、地殻変動による氷河期で恐竜たちは滅び、鳥や獣が地球の支配者となり、今から数百万年前に人間が生まれた。

 人間は他の生物より知性があり、感情も多く、次第に人種や国土や法律や倫理や宗教を生み出していった。

 だが、領土をめぐっての争いや宗教の価値観の違いによって人間たちは戦うようになった。

 そこで我は五つの大陸にそれぞれ違う姿と能力の異なる神を創造し、大陸の均衡と生命体の守護を委ねた」

 我意亜(ガイア)の話を聞いて、ファランたちは驚いた。自分たちを聖神闘者に選んだ五聖神たちは我意亜(ガイア)によって生み出されたのだ、と。

「それじゃあ朱雀たちは我意亜(ガイア)……あなたによって誕生したっていうの!?」

 サユは口を押えて発した。

「そうだ。白虎・玄武・蒼龍・朱雀・五〇年に一度雌雄が変わる麒麟は我の子でもあるのだ。

 人間たちが個々の理由で争いが起きるようになると、人間たちの悪意や邪心――それらが実体を得た生命体が邪羅鬼だ。

 邪気から生まれし存在、邪羅鬼はやがて清らかな人間の魂を次々に奪い、喰らっていった。邪羅鬼を野放しにしていたら清廉な人間がいずれいなくなり、暗闇の世界になってしまうと察した五聖神は邪羅鬼と戦おうとした。しかし自分たちは大陸の柱という役目があるため戦いたくても戦えず、そこで自分たちの持っている聖力(せいりょく)を清く正しい人間たちに与え、邪羅鬼と戦う戦士、聖神闘者に変えた。聖神闘者の出現で世の悪気はうすれ、世界の悪化は防がれた。

 しかし平和と争いは昼と夜のようなもの。平和は長く続かずまた争いが起こり、邪羅鬼も生まれる。そしてその度に聖神闘者も現れる。邪羅鬼と五聖神の間では当然のことになってしまった」

 我意亜(ガイア)の話を聞いてファランたちは呆気にとられた。人間たちの争いで邪羅鬼が生まれ、五聖神が邪羅鬼を食い止めるために清く正しい人間を聖神闘者に選んで戦いに出していたことを。いわば地球は邪羅鬼と人間と聖神闘者の繰り返される循環を(おこな)ってきたのだ。

「邪羅鬼と聖神闘者の戦いは数百万年前からあったのか……」

 賢明なケンドリオンも両者の戦いの歴史の長さに目を丸くする。

「我は思った。数百万年間、人間たちの様子を目にしていたが、人間は失敗や過ち、差別や迫害、争いを延々と繰り返してきているのを。そこでだ、もういっそのこと、人間たちを滅ぼし、世界を邪羅鬼の世界に変えようと。

 邪羅鬼は迷いも悩みも情けも持たない。人間たちの清らかな魂がなくても生きていけられるように、世界を暗闇に包むことにした。

 新しい邪羅鬼はもうすぐ殻を破って生まれるだろう」

 我意亜(ガイア)の言った殻と聞いて、リシェールとバルトゥルは気づいた。

「殻って、まさか……」

「もしかして、銅像にされた人たちや動物……なのか……!?」

 それを聞いたファラン・ケンドリオン・サユもぞっとした。

「じいちゃんやヤンジェや学校の、いや世界中の人間が邪羅鬼に……!?」

「なんて恐ろしいことを……」

「こ、こっちの方がよっぽどひどいじゃないの。人間を邪羅鬼にするなんて……」

 ファラン・ケンドリオン・サユの言葉を聞いて、我意亜(ガイア)は続ける。

「ならば我を倒してみるがいい。世界を、いや人間たちを助けたければ地球の創物神である我を倒せ」

「……!」

 我意亜(ガイア)のセリフを聞いて、五人の武匠は沈黙するも、迷いや悩みを振り切り、自分たちの武器を持ち構える。

「行くぞ……!」

「世界を邪羅鬼のものにはさせない……!」

「僕たちでやるしかないんだ……!」

「みんなを救ってみせる、いいえ救うわ!」

「俺たちは絶対に諦めない!」

 最後の敵との対決の火ぶたが切って落とされた。




「運命に従わぬのなら、立ち向かうということか。いいだろう……」

 そう言って我意亜(ガイア)は左手の人差し指から一条の紫色の光線を出してきた。光線は長線状に五人の聖神武匠に放たれたかと思うと、彼らは大ジャンプでよけて光線は空間の地上にあたる部分に当たって爆ぜる音とともに灰茶の煙が発せられる。

 ファラン・リシェール・ケンドリオン・バルトゥルは大ジャンプの後に着地し、サユは空中を飛んでいる。

「ならばこれはどうか」

 サユに目を付けた我意亜(ガイア)は右掌から水色の水泡を出し、サユに向けて飛ばしてきた。

「はっ!」

 サユは我意亜(ガイア)の攻撃に気づくと、火行である自分に水行の攻撃が向けられてきたと悟ってつい止まってしまう。

「危ない!」

 ケンドリオンが長銃の銃口を水泡に向けて木行の聖力の弾丸を撃ち放ち、水泡は木行の弾丸によって砕けた。

「あ、ありがと」

 サユがケンドリオンに礼を言ったが、我意亜(ガイア)は木行のケンドリオンに金行の針攻撃を掌から出し、ケンドリオンは振り向いてつい足を止めてしまうがリシェールが反射技の水鏡、流水鏡(りゅうすいきょう)を出して我意亜(ガイア)の金行攻撃を防いだ。

「はーっ!!」

 その時、ファランとバルトゥルが剣を持ち、ファランは剣に電撃をこめた金雷斬(こんらいざん)、バルトゥルは湾刀から結晶の針、石英針(せきえいしん)我意亜(ガイア)に向けて攻撃してきた。

 白い稲光と翠の結晶が暗闇の空間で一瞬だけ、閃くが我意亜(ガイア)は何ともなかった。

「こんな基本技では我は倒せぬ」

 我意亜(ガイア)はニヤリと笑うと、黒がかった紫の波動を両掌から出し、ファランとバルトゥルを弾き飛ばした。

「うわぁぁぁぁっ!!」

 ファランとバルトゥルは我意亜(ガイア)の攻撃を受けて地面に叩きつけられる。

「まだ僕たちがいるぞ!!」

 ケンドリオンが両手に木行の聖力をこめて両手を空気の塊でできた蒼龍を放つ技、蒼龍風剛(そうりゅうふうごう)を発動させ、サユが火行の聖力を槍にこめて回転させて炎の渦を出す朱雀炎斬(すざくえんざん)を発動させる。風のエネルギーの蒼龍と炎の渦が混ざり合って威力が倍増した。更にリシェールが我意亜(ガイア)の後ろに回り込み掌から水行の聖力をこめた水の槍、流激長槍(りゅうげきちょうそう)を出し、水の槍は我意亜(ガイア)の右腰に刺さり、更に真正面から炎と風が合わさった龍が襲い掛かる。

「何だと!?」

 火山が爆ぜるような音が空間に響き渡り、一瞬とはいえ朱色の閃光が広がる。白い水蒸気の煙と火の粉が舞う中、ファランたちは我意亜(ガイア)にどれくらいダメージを与えられたかと目を見張る。

「それがお前たちの実力か?」

 我意亜(ガイア)は平然としていた。

「そんあぁ、合わせ技でも無理だったなんて……」

 リシェールが我意亜(ガイア)のスペックの高さに愕然とする。

我意亜(ガイア)ってしぶといよー」

 バルトゥルが毒づくがファランがほかの四人に言った。

「なら、僕たちのそれぞれの強力技を一斉に出すんだ。一か八かだけど」

「同時攻撃か……。勝算があるのかないのか兎も角、それなら相当なダメージが我意亜(ガイア)に与えられるな」

 ケンドリオンがファランの案に賛成する。

「みんなで五方を囲むのよ!!」

 サユが叫ぶと、ファラン・リシェール・ケンドリオン・サユ・バルトゥルはそれぞれ二時・四時・八時・十時・十二時の方位に立つ。

 ファランは両手に剣を持ち片方に白、もう片方に黄色の波動を起こし剣に電撃を走らせる。

 リシェールは四節棍を持ち構えて棍の両端に灰色と水色の波動を起こす。

 ケンドリオンは長銃のエネルギーカートリッジに蒼と深緑の波動をこめる。

 サユは朱色と紅色の波動を両手に出し、更に槍に宿す。

 バルトゥルは湾刀に翠と紫の波動をこめて剣を逆手に構える。

白虎雷刃(びゃっこらいじん)!!」

玄武氷結波(げんぶひょうけつは)!!」

蒼龍木嵐砲(そうりゅうもくらんほう)!!」

朱雀癒炎光閃(すざくりょうえんこうせん)!!」

翠麒大陸剣(すいきたいりくけん)!!」

 ファランの剣から白と黄色の電撃が大地をつたって放たれ、リシェールの棍から灰色と水色の氷柱が大地をつたって突き出て、ケンドリオンの長銃から蒼と深緑の光線が発射され、サユの槍から朱色と紅色の波動が炎の花弁となり放たれ、バルトゥルの湾刀から翠と紫の波動が大地を走り弧を描いて地面から巨大な岩石の剣が出てきて我意亜(ガイア)の胴体を貫いた。

 そして十色の波動が混ざり合って巨大な光のドームとなって爆ぜる。

 その眩しさのあまり聖神武匠たちは瞼を閉ざしてしまったが、眩しさが治まると目を見開いて驚く。

「そんな……!!」

 我意亜(ガイア)はまだ、いやすぐ再生したのだった。逆戻りのように傷がふさがり、何もなかったような体に戻ったのだった。

「お前たち、伝説五玉の力で聖神武匠に進化して超邪羅鬼や最強邪羅鬼も倒せたと自惚れていたか。我は邪羅鬼ではなく地球の創物神なのだぞ。強くなった人間ごときに我を超えられる筈がない!!」

 そして我意亜(ガイア)は両手を上にあげ、掌から黒い闇の波動弾を豪雨のように放った。

「うわああああ!!」

 我意亜(ガイア)の攻撃を受け、ファラン・リシェール・ケンドリオン・サユ・バルトゥルはダメージを受け、衣服がズタズタになり体が傷とアザだらけになる。

「そんな……! ここまで来た、のに……」

「もうダメかもしれない……」

「くそっ……。今までの努力が……」

「私たちの運命はここで終わり……?」

「父ちゃん、母ちゃん、みんな……」

 ファラン・リシェール・ケンドリオン・サユ・バルトゥルは我意亜(ガイア)の攻撃力の高さに悔しがる。

「リシェール……」

 クァンガイがリシェールに寄り添う。

「ミュ~」

「キィキィ」

 ミグとカルクがバルトゥルに頬ずりしてくる。

「ミグ、カルク……」

 彼らは思った。どんな小さな生き物でも一生懸命生きている。人間だってそうだ。失敗や罪過を何万何千年と繰り返しつつも、決して滅ぶことはなかった。それはまだ償いの機会があるからだ、と。

 その時だった。ファランたちの体が浮いて五人は何かの上に乗っていることに気づいた。

 ファランは白い毛の獣、リシェールは黒い甲羅を持つ爬虫類、ケンドリオンは青い鱗の龍、サユは赤い羽毛の鳥、そしてバルトゥルは角と蹄と鱗を持つ翠色の獣の上に乗っかっていたのだ。

「お前たちは……、五聖神!! 何故、ここに!?」

 我意亜(ガイア)は五大大陸の柱であり守護者である五聖神の出現に驚く。




「な、何で白虎たちが僕たちの目の前に……?」

 白虎の背に乗っているファランが五聖神に尋ねる。

「私たちの神殿も暗闇に浸食され、神殿の住民も銅像に変えられた。私たちはしかし、思ってもいなかったことが起きた。私たちは神殿から出ることが出来たのだ」

 白虎の説明を聞いて、ケンドリオンが右手を拳にして叩く。

「そうか、神殿が暗闇に侵されたことで、蒼龍たちはここにやってきたのか!」

「そうだ」

 ケンドリオンを頭に乗せている蒼龍がケンドリオンの考えをほめる。

「今までリシェールを支えてくれてありがとう、クァンガイ。わしらも行こうぞ」

「はい、玄武様!」

 玄武が甲羅の上のクァンガイとリシェールに言う。

「あなたたちは五人だけじゃない。私たちもいるわよ、サユ」

「朱雀……」

朱雀の言葉を聞いてサユは安堵する。

「僕たちも任せてばかりはいられない。この戦いを終わらせよう」

「ああ!」

 翠麒のセリフにバルトゥルがうなずく。

 我意亜(ガイア)はまさかの五聖神の出現に驚くが、気を取り直して五聖神と聖神武匠に言う。

「お前たち……。我は五つの大陸の柱としてお前たちを創造した。いわば我はお前たちの親! 子が親に逆らうとは何事だ!!」

 我意亜(ガイア)に向かって白虎は答える。

「人間は弱い。しかし、いざとなれば勇気が彼らの原動力となる」

 続けて玄武が答える。

「人間が争うのはこれしかなかったという選択肢。本当は安楽を好む生き物じゃ」

 蒼龍は、

「人間は自分たちの知恵で自分たちの暮らしを切り開き、過去の人間の知識が未来の人間を育んでくれる」

 朱雀は、

「人間の愛は相手や弱者や小さい者に与えてくれる。愛は金や宝珠よりも尊い」

 翠麒は、

「人間は生まれた時から持っている純真さはなくならない。たとえ慾や悪意に心がまみれても、純真さは永遠にあり続ける」

 その時、五聖神の体がそれぞれの白銀、黒曜、鮮青、真紅、翡翠色の光に覆われ、ファラン、リシェール、ケンドリオン、サユ、バルトゥルも同じ色の光に包まれる。そして五聖神と聖神武匠は五方を囲んで、我意亜(ガイア)に五色の光の波動を浴びせる。

「これは一体、何なんだ……。地球の創物神で、五聖神の親でもある我が……人間と格下の神に敗れるなんて……」

 だが次第に我意亜(ガイア)の人間に対する失望感が薄れていき、我意亜(ガイア)は以前とは穏やかな顔つきになり、五聖神と聖神武匠に言った。

「我の負けだ。お前たちの勇気・安楽・知恵・愛・純真にはかなわなかった……。

 我は地球の中核で眠りにつく。全ての生命も元に戻そう。しかし覚えておくがよい。人間たちが愚かな争いと過ちを起こせば、邪羅鬼がまた生まれることを。

 さらばだ」

我意亜(ガイア)と暗闇は中心らしき場所のひずみに呑み込まれ、周囲がさっきとは異なる白い光の空間になる。

「終わったのか……?」

 ファランが我意亜(ガイア)と暗闇の消失を見て呟く。

「みたいね……。我意亜(ガイア)も暗闇もなくなった、ってことは邪羅鬼が生まれる心配もなくなったってことよね?」

 リシェールがさっきまで深刻だった表情からいつものにやけ顔に戻る。

「でも我意亜(ガイア)が人間たちが争う限り邪羅鬼が生まれる、って言っていたからなぁ。今は大丈夫なんだろうけど」

 ケンドリオンが腕を組んで呟く。

「もう戦わなくっていいって話になるのよね? ――なんか終わると寂しくなるわね」

 サユが安心さともの悲しさに包まれる。

「そうだ、これから俺たちどうすればいいんだ!?」

 バルトゥルが邪羅鬼及び我意亜(ガイア)との戦いが終わった後の自分たちの今後という疑問に気づく。

「君たちはもう戦わなくてもいい。これからは自分と自分の周りの人々のために生きてほしい」

 白虎がファランをはじめとする聖神武匠に優しく言った。

「なにその言い方? まるでわたしたちと五聖神が永遠の別れをしなくっちゃいけないようなセリフを……」

 リシェールが玄武たちに聞くと、玄武が答える。

「そうじゃ。邪羅鬼がいなくなったから、お前たち聖神武匠の役目はおしまいじゃ。これからは普通の子じゃ」

「言わなくてごめん。邪羅鬼を全て倒したら、聖神武匠の役目も終わりで、俺たちももう人間と関わらないんだよ……」

 クァンガイが申し訳なさそうにリシェールに言うと、リシェールは平手で口を押えた。

「君たちとはもう会えないのか……」

 ケンドリオンが悲しそうに蒼龍に尋ねる。

「そういうことになる。だけど、君たちのことは大陸の中核である神殿から見守り続けるよ」

 蒼龍が返事をする。

「今まで助けてくれてありがとう……」

 サユが目を潤ませながら朱雀に言う。

「あなたや他の子たちの夢を応援しているわ」

 朱雀が優しく言う。

「翠麒や他の聖神武匠や五聖神のこと、忘れないよ……」

 バルトゥルが翠麒に寂しいながらも我慢して言った。

「ああ、僕たち五聖神は君たち人間の中にい続ける」

 五聖神たちの背に乗っていたファラン・リシェール・ケンドリオン・サユ・バルトゥルの体が浮き上がり、彼らの体が透き通りだす。

「え……、何だよ、これ!?」

 ファランや他の聖神武匠が自分たちの様子に驚くが、白虎がなだめる。

「もうすぐこの空間もなくなる。君たちを家や家族のもとに帰すだけだ。

 君たちが家に帰ってきた時、もう君たちは聖神武匠でない普通の子に戻る。ただそれだけだ。さらば、ファラン」

「さよなら……」

 ファランの姿は消えていき、リシェール・ケンドリオン・サユ・バルトゥルの体も次々に消えていった。

 この空間に残ったのは五聖神だけであった。しかし彼らも自分たちの大陸の中核となる神殿に戻っていた。

 光の空間も爆ぜるように消えていった。




 ファランは部屋のカーテンの隙間から入ってくる光で目が覚めた。机と箪笥と本棚とオーディオが乗っている台、麻のマットが敷かれた自分の部屋。ファランは起きてベッドから出ると、白虎の耳と尾のない姿になっていることに気づく。

「もう、聖神武匠じゃないんだ……」

 ファランはそう呟いた後、廊下からヤンジェの声が飛んできた。

「ファラン、起きなさいよー。今日は学校祭の日でしょー」

 ファランは学校祭と聞いてハッとなる。今日は淡岸中学の学校祭でファランたちのクラスは小劇場をやることになり、ファランは主役に抜擢されたことを思い出した。

「ああ、今行く!」

 ファランは麻と木綿の寝着から襟の立った普段着とシャツとベストとズボンに着替えて肩掛けバッグを持って台所へと向かった。

 


 ピピピ、ピピピ

 目覚まし時計の音でリシェールは起きた。赤いパッチワーク柄のカーテンに同じ色と模様の寝具カバー。机と椅子とローテーブルと本棚とぬいぐるみと絨毯の部屋、ここがリシェールの自室である。

 リシェールはいつもは布団の上の乗っかっている生き物の存在がいないことに気づく。

「クァンガイ、もう会えないのね……」

 リシェールは呟いた。まだ十三歳のリシェールの支え役として玄武が送ってくれた蛇、クァンガイはもういない。喧嘩もしたけれどリシェールのよき友であった。

「ワンッ、ワンッ」

 リシェールの部屋の扉の向こうから犬の鳴き声がした。グラコウス家の飼い犬オラフのものである。

「起こしにきてくれたのか、オラフ。今起きるよ」

 リシェールはベッドから出ると、藤紫のネグリジェから普段着の黒を基調としたカジュアル系の服をクローゼットから取り出して着替えて、扉を開けるとブラックレトリバーのオラフが入ってきた。リシェールは通学用のリュックを持つと、オラフと一緒に一階の台所へ向かっていった・


 ケンドリオンはベッドから出るとオールドブルーの制服に着替えて一階の台所へと向かう。すると父がシャツとネクタイとニットベストの上にエプロンをはおって朝食の目玉焼きを作っていた。

「父さん、おはよう」

「おお、起きたか、ケンドリオン」

 父は笑ってあいさつをする。ケンドリオンは冷蔵庫からミルクとソースとケチャップ、ヨーグルトとシリアルを出すと、テーブルの上に置いて二人分の朝食の支度をする。父は目玉焼きを完成させると平皿に乗せてプチトマトとレタスを添える。

「父さん、今日はいつぐらい帰ってくるの?」

「今日は夕方六時半には帰ってくるよ」

「わかった」

 また父だけとの暮らし。でも、これがケンドリオンの日常なのだと悟った。


「サユ、サユ。起きな」

 自分を呼んでいる声でサユは目が覚めた。サユは机の上でつっぷしていた。机の上には参考書やノート、鉛筆が無造作になっていた。サユの後ろには同居人のイロナが立っていた。

「あれ、私……」

「サユ、勉強しながら寝ちゃったんだよ。WUPに入る志はともかく、生活くらいはちゃんと整えなよ」

「ああ、そうか……」

 自分はもう邪羅鬼と戦う聖神武匠ではない。父は幼い頃に亡くなり、母は邪羅鬼に殺された。幸い母の同級生だったイロナの父がサユを引き取ってくれた。母の復讐を終え、聖神武匠の役目を終えたサユの今の目的はWUPに入り、まずWUPの養成学校への入学であった。

「グズグズしてないで着替えて、学校へ行くよ」

「うん」

 イロナに言われてサユは机から立ち上がる。


「ミャウ、ミャウ」

「キィキィ」

 バルトゥルは緑色の布で調度された部屋にいた。ミグとカルクが布団の上に乗っかっている。

「おはよ……」

 バルトゥルは布団から這い出ると五色麻のシャツとベストとズボンに着替える。

 カーテンを開けると、日の昇りはじめで空が紫色になっていて、東から太陽が顔を出している。

「そうだ、今日はリネン・フェスティバルがあるんだった。お祭りの準備をしなくっちゃ」

 バルトゥルはミグとカルクを連れて一階の台所に降りる。台所にはすでに養父母が朝食を食べていたのだ。

「父ちゃん、母ちゃん、おはよう」

「バルトゥル、今日は祭りだからって早いな。まぁ、お前には祭りの下準備という仕事があるんだったな」

 養父のサムエルがバルトゥルに言い、養父母のマーニャがバルトゥルの朝食となるライムギパンとスライスチーズ、スライスハムとサラダを出してくれた。

「いただきます」

 バルトゥルはがっつくように食べた。ミグとカルクも小皿のミルクとパンを口にする。


 もう彼らは聖神武匠ではない。普通の子となって、未来を築いていく。

 新しい時の刻み始めだった。






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