「暗闇」・第6話 最強邪羅鬼・巨重尖角(きょじゅうせんかく)
『五聖神』第52話。フィロスの春に開かれるお祭り、リネンフェスタに生まれて初めて参加したバルトゥル。途中で同級生のロザリンドと共に花屋を営むが、楽しいお祭りの中異変が起きる! 最後で最強の邪羅鬼と戦ったバルトゥルだが、本当の恐怖はこれからだった……。
中央大陸にあるリニアス国のどこかで、一体の邪羅鬼が生まれようとしていた。
その邪羅鬼は黒曜石のような甲殻に包まれていたが、内側から破って誕生した。
二メートルは超す背丈、巌のような体格、黒泥色の固い皮膚、頭部には大小二本の角が前面に付いていた。
「お前の名は巨重尖角。我の妨げをする聖神闘者を倒せ」
邪羅鬼を生み出したその声に従い、巨重尖角の名を持つ邪羅鬼は地上へ出た。
清々しい大気、晴れ渡る蒼穹、暖かさと共に草木も鮮やかな緑に芽吹いて、中央大陸の最東国リニアスの中部あたりにあるカミール地方の町、フィロス。フィロスの名産は五色の花をつかせる植物・五色麻で住民も五色麻でできたシャツやスカート、帽子や靴をまとって農業や園芸、酪農や漁業で生活していた。
家によって何を営んでいる以外、どこの家も白い石造りの家屋、家屋の後ろには畑や庭、その一角に鳥よけの網が張られ、ザクロとリンゴの木が植えられている小農園があった。そこに住むのはサムエルとマーニャ、彼らの子となる少年、そして三匹の動物たちであった。
「ただいま」
赤いぼさ毛に空のような青眼、浅黒い肌に緑色のベストと萌黄のシャツ、黒いズボンの少年がメスの金毛山猫、薄茶色の角ウサギ、そして灰色の仔馬を連れてシャロン農園に帰ってきた。
「お帰り、バルトゥル。ジョーイのお散歩は終わったのかい?」
黒い髪に黒いあごひげ、黒い目に中間肌の男、サムエルが少年に尋ねる。
「うん、いっぱい走ってきたよ」
バルトゥルは端綱を引いて、家の傍らに建てた小さな馬小屋にジョーイを入れて、ジョーイのために新しいい草と水の桶を用意する。庭にある鉄のポンプを引いて水を出し、ジョーイは桶に鼻面を入れて水を飲み、い草をかじる。
「それにしても、ジョーイは大きくなったわねぇ」
オレンジブロンドに萌黄色の目に白い肌の婦人、マーニャがジョーイを見てつぶやく。
「うん。もう……一ヶ月以上前になるんだな」
バルトゥルが呟いた。バルトゥルはフィロスの生まれではなく、十年前に隣国のラザドの軍隊に滅ぼされた村の生き残りで、父は戦火に巻き込まれて母はバルトゥルを連れて山へ逃げてその後病死した。バルトゥルは九年の間、森の動物たちと暮らし、今から九ヶ月前に山道に迷ったサムエルと出会い、サムエルはバルトゥルを野盗だと思った。しかし孤児だとわかると、彼を自分の町へ連れて自分たちの子として育てた。
最初の一ヶ月は町中の高い所に昇ったりなどの野生児らしいことをやっていたが、思っていたより学習能力があって、一ヶ月後にはフィロスの中等学校に転入。体は弱いが賢明で飛び級で五年生になったトルスカと友情を育んだり、仲の良い友人も幾人かできた。金毛山猫のミグと角ウサギのカルクはバルトゥルが山にいた時の友人で、バルトゥルの後を追ってフィロスの町にやってきたのだ。
そして更にバルトゥルは中央大陸の五聖神・翠麒によって“純”の意の高さゆえ、世の悪から生まれし怪物、邪羅鬼と戦う聖神闘者として戦うことに。それからして持ち主に強大な力を与えてくれるという伝説五玉の一つ〈紫誠玉〉の欠片を探すことになり、最後の五つ目はヤマアラシの邪羅鬼に奪われ、バルトゥルは挫折。その後は父サムエルの甥のイザーク=アルヴィスという青年が失業を理由に家に転がり込んできたのを目にして、バルトゥルは妬み心を感じてフィロスの町から逃げ出す。家で先の森で出会ったのが馬のジョーイであった。
ジョーイと出会った日、フィロスの町に超邪羅鬼が出現して、バルトゥルはジョーイを連れてフィロスに戻り、超邪羅鬼と対戦。戦いのさ中、超邪羅鬼の中とバルトゥルの持っている紫誠玉の欠片が一つになって、バルトゥルは聖神武匠に進化し、超邪羅鬼を倒したのだった。
シャロン夫妻やトルスカたちにバルトゥルが聖神闘者ということが知られてしまうが、バルトゥルはフィロスの町にまたいられるようになり、イザークもラザフィの町に引っ越しして、そこの町記者として再就職が決まったのだった。
あれから一ヶ月半、中央大陸のどこにも邪羅鬼が現れるということもなく、バルトゥルは学校と家庭、友人付き合いや中級学校卒業後の進学に勤しんでいた。
バルトゥルは隣町の通信制高校へ進学を考えており、そこの勉強はあまりきつくなく、コースも普通科や国際科、芸能科や服飾科といくつかあり、バルトゥルは自然学科を志望した。バルトゥルは国語や数学などの座学より体育などの実技が好きだからなのもある。
トルスカはジャーナリズムを志望しており、いずれはフィロスを出て都会の量のある高校への進学を目指しており、委員長のロザリンド=コロナは母や兄と一緒に植物研究センターに勤めることを希望しているため、やはりフィロスを出て都会の高校とその後の植物学科のある大学への進学を考えていた。
他にも同級生の中にはラグビー選手や商業、神学を希望している者もおり、中学五年生の大方はフィロスを出て、都会の高校へ進学する者は珍しくなくフィロスに残って隣町や近くの市町の高校へ通う者も見られる。まぁ、都会や他所の町で就職できなかったり失職したりすればフィロスに戻ってくる場合もあるのだが。
その日の晩餐、サムエルはバルトゥルに尋ねた。晩食のきのこたっぷりクリームシチューを食べながら、バルトゥルはフィロスの春に開催される『リネン・フェスティバル』に参加するかどうか、と。
「うん、参加するよ。お祭り大好きだし」
バルトゥルは答えた。リネン・フェスティバル――フィロスは五色麻の産業が豊かなため、五色麻の服や靴や鞄の販売を中心に行われる祭りである。他にも菓子や焼き肉、牛や馬などのビューティーコンテストも催されるのだ。
バルトゥルは考えるの苦手なため屋台の組み立てや牧場の地ならしといった力仕事を任せられた。
「イザークも来るんだよね?」
バルトゥルがシチューをすすりながらサムエルに聞いてくる。
「ああ。遊びに来るのも兼ねた取材だとよ。ラザフィに引っ越ししてから順調にいっているそうだ」
「そうなんですか」
マーニャが甥っ子の現状を聞いてほっとする。シャロン農園のリンゴやザクロも祭りの品物に使われ、かご売りやジャム、パイにして売るのだ。ともかく、リネン・フェスティバルはフィロスやその周辺の者に楽しみであった。
リネン・フェスティバルは三日間行われる。幸い祭りが開かれる三日間は雨天の心配はなく、晴天の下で屋台の準備やら商品の下準備などが行われていた。バルトゥルも屋台を組み立てたり、乗馬体験の土を鋤でならしたり、家畜を放牧させる広場の杭を立てたりとせっせと取り組んだ。
午前十時に晴れた空に煙玉が打ち上げられ、リネン・フェスティバル開催された。フィロスの人々の屋台や体験の担当者が噴水のある町の広場に集まり、町長のあいさつが始まる。
「皆さん、今日から三日間、リネン・フェスティバルです。他所の町からやってくる人々と共にめいいっぱいお楽しみ下さい!」
町長は灰色の巻き毛に立派なひげ、黒い燕尾服に鼈甲縁眼鏡の小柄な老人でマイクを持って町の人々にあいさつを述べた。町の人々は拍手を鳴らし、自分たちの持ち場へと足を向けていく。
「バルトゥル、お前は好きにしていなさい。ちゃんと準備をしてくれたのだから」
「いいの? ありがとう」
サムエルから許しをもらったバルトゥルはフィロスの町広場を出て、祭りのある場所へ飛び込んだ。
祭り中のフィロスは屋台・体験・休憩などのエリアに分かれており、バルトゥルは白い石造りの家と畑が並ぶ町並みを歩き、自分たちが行こうとしている場所へ駆けていったりする子供たちや青年の姿も目にすることができた。
「おーい、バルトゥルー」
バルトゥルを呼ぶ声がしたので振り向いてみると、車いすに乗った少年と背丈や髪色が異なる少年たちが四人ほどいたのだ。
「トルスカ、みんな」
バルトゥルは車いすの少年たちのいる所へ向かい、少年たちはあいさつする。
「よっ」
「お前は何をしているんだ?」
彼らはバルトゥルの同級生の少年であった。髪色・背丈・服装は異なるけれどフィロスの住民である。車いすの少年は極端に白い肌、ハニーブロンドの巻き毛に青緑の目が特徴のトルスカ=フェビアンはバルトゥルの最初の人間の友達で十三歳だけれど知能は十五歳を上回っている程である。トルスカは五色麻のシャツとズボンではなく、サテンでできたシャツとツイード素材のズボンをまとっていた。トルスカの膝の上にはミグとカルクが乗っていた。
「ミグとカルクを見ていてくれてありがとうな」
バルトゥルはトルスカからミグとカルクを受け取り礼を言う。
「ううん、大丈夫。ところで、バルトゥルは祭りの下準備を手伝っていないのなら、みんなと遊ばない?」
「うん、そうするよ」
こうしてバルトゥルはトルスカや町の少年たちと一緒にリネン・フェスティバルを楽しむことにした。
牧場では牧羊犬が羊やロバを追いかけて柵の中に集める見せ物、羊飼いによる羊毛刈り競争、子豚のレース、白い鶏と黒い鶏の闘い合い、牛の毛色や模様で競うコンテスト、馬や山羊のふれあいといった光景が見られた。ふれあいコーナーではジョーイもまざっていた。
屋台でも大型のテントには単色や虹色に染めた五色麻のシャツやスカート、キャミソールにカットソー、サンダルや外履きの販売が開かれ、他所の町から来た客が主に買い手だった。他にも鉄や銅に金銀メッキを加工したネックレスやブレスレットの販売、粘土を固めて焼いて色付けした花瓶や器を売る屋台、ガラス工房も祭りのために一つ一つ丁寧に作ったガラスの動物たちを並べていた。
屋台料理も辛味ソースや塩をふって焼いた魚にニンニクやトウガラシで味付けした牛肉や鶏肉の串焼き、フライドポテト、キャラメル味や塩味のポップコーン、客の注文に応えて作る飴細工、綿あめ、チョコバナナ、杏子飴と豊富だった。
屋台めぐりをする前に父が六リモスくれたけど、バルトゥルは自分が持っていた一リモスと一緒に使った。バルトゥルは一週間につき三リモスの小遣いをもらっていたが、その時に使うのは鉛筆やノートなどの学用品や半リモスのおやつ、男子に人気のカードゲーム・ロボットウォーズで使うくらいだった。買った品物のおつりは貯金箱に戻していたため、それでお金が貯まっていったのだった。
「お花ー、お花いりませんかー」
一つの屋台で長い黒髪のウェーブヘアに菫色の瞳と白い肌の少女が植木鉢や花束にした花を持って呼び寄せをしていた。
「よう、ロザリンド」
少年たちが少女に声をかけてきたので、ロザリンドは少年たちに目を向ける。
「あら、みんな。いらっしゃい」
ロザリンドはあいさつする。ロザリンドの花屋は赤や黄色のガーベラや小さな花の群れたヒヤシンス、二色がまざったチューリップや淡い紫のアヤメなどが置かれていた。
「一輪いかが? 私の家で育てた花よ」
ロザリンドはみんなに花を勧める。
「そんじゃー、俺が一ついただこうかな」
どこかで聞いたことのある声がしたのでバルトゥルは振り向くと、そこにはGジャンにラフなTシャツ、カーゴパンツにサムエルによく似た風貌の長身の青年、イザーク=アルヴィスが立っていたのだ。
「こ、ここにいたのぉ!?」
バルトゥルは驚いてイザークに声をかける。
「いたとは何だ、いたとは。俺は記者になったんだから、来月のシティニュースに載せるリネン・フェスティバルの情報を集めるのは当たり前だろ。あっ、ロザリンドちゃん。そこの白水仙残しておいてよ。部長たちのお土産にするから」
「はい、わかりました」
ロザリンドはイザークの注文を聞いて返答する。その時、他所の町から来た老人や婦人、他にも客がいろいろきたので、ロザリンドは目を丸くする。
「おーい、スノードロップをおくれ」
「私はミルトの小鉢をちょうだい」
「シクラメンの白いのを一株」
何せロザリンドが一人で花屋をやっているから、そんなに客は来ないだろうと思っていたら、意外とわんさか集まってきた。
「はいはい、ただいま」
少年たちとイザークはロザリンドの邪魔にならぬようにと立ち去ったが、バルトゥルは引き返した。ロザリンドが客の一人にピンクのクロッカスが植えてある鉢を渡そうとしたとき、ロザリンドがつまづいて倒れそうになった。
「あっ……」
ロザリンドの手から鉢が落ちて地面に叩きつけられそうになったその時だった。
ズザザザッ
バルトゥルがロザリンドが落とした鉢を両手で受け止め、地面にひざをつけていたのだ。
「バルトゥルくん……」
ロザリンドはバルトゥルを見て目を丸くするが、バルトゥルは服に付いた土ぼこりを手で払ってクロッカスの鉢をおばさんに渡した。
「はい」
「あ、ありがとね」
バルトゥルはロザリンドに視線を向ける。
「手伝うよ?」
「い、いいの? あ、ありがとう……」
それからは二人で花屋をすることになった。
「ありがとーございましたー」
バルトゥルがゼラニウムを買ってくれた婦人にあいさつを送ると、客が来なくなったのを見て、ロザリンドはバルトゥルに尋ねてきた。
「ねぇ、バルトゥル。私ね、ずっと前からあなたに言いたかったことがあるの……」
「何?」
「私、バルトゥルのことがす、き……」
と、ロザリンドが言ったその時だった。ミグとカルクが野生の勘とはいえ毛を逆立てて唸ってきたのだ。
「ど、どうしたんだよ!?」
バルトゥルはミグとカルクに尋ねてくると、空の彼方が黒く染まり、空だけでなく建物や植物、大地を紫がかった黒いそれが覆い尽くしたのだった・
「い、一体何だぁ、これは……!?」
バルトゥルがこの光景を目にしていると、その黒く悪しき力はフィロスに来ていた人々を足元から青銅のように固めてしまったのだ。一人や二人ではなく、バルトゥルとミグとカルク以外を。ロザリンドもどこかの芸術家が作った様な少女像になってしまったのだった。
「ななな、何が起きてんだよぉ……!!」
バルトゥルが周囲が闇に覆い尽くされ、人々も鳥も獣も虫も魚も青銅のようになってしまったのを目にすると、泣きそうになった。と、その時懐に入れておいた緑色の掌大の道具、転化帳が鳴ったことに気付いて、バルトゥルはフタを開いた。
『こちら翠麒。バルトゥル、応答願う』
赤い鬣に緑の鱗に覆われた体、空のような青い双眸、四本の蹄足、額に長い金の一角を生やした中央大陸の五聖神・翠麒がバルトゥルに聞いてきた。
「あ、す、翠麒。どうしよう、みんなが銅像みたいになっちゃって、周りも夜みたいに真っ暗になって……。俺とミグとカルクだけがそのままで……」
バルトゥルは自分の身の回りに起こった現象を翠麒に伝える。
『落ち着けバルトゥル。これはもしかしたら今までより上位の邪羅鬼、あるいは邪羅鬼を生み出した者の仕業だろう。ミグとカルクが銅像みたいにならなかったのは、君が私から授けた力の恩恵のおかげだ。要は邪気の闇の耐性のためさ。すまないが、しばらくこの闇の空間を歩いてくれないか。邪羅鬼を倒せば元に戻るかもしれない』
「だけど、もし戻らなかったら……」
『君とミグとカルクだけだと辛いけど、闇の空間を探ってくれないか。後は頼むよ』
ここで翠麒との通信は切れ、バルトゥルはミグとカルクを連れて闇の空間を歩き出した。だけど、どこからが始まりでどこまでが終わりなのかわからない。でも聖神武匠であるバルトゥルがこの闇を探索するしかないのだ・
その時だった。どこからかズシン、ズシンという音が響いてきて、ミグとカルクが毛を逆立てて唸りだした。
「ど、どうしたんだよ……あっ」
それと同時に転化帳の邪羅鬼センサーも探知していたため、バルトゥルとついになる場所から一体の巨体の邪羅鬼が出てきたのだ。
漆黒の真ん中だけの黒髪、頭部には大小二本の角、黒泥色の固い皮膚、二メートルは超す巨体、巌のような体格、ダメージ加工がされている黄土色の衣装、それはサイのような邪羅鬼。
「お前がこの真っ暗な空間を生み出したのか!」
バルトゥルは邪羅鬼に向かって尋ねてくると、邪羅鬼は鈍重な声を出して答える。
「俺は最強にして最後の邪羅鬼、巨重尖角。俺はお前を倒すために生まれたが。この闇を巨重尖角。俺はお前を倒すために生まれたが。この闇を創りだしたのは俺ではない」
「えっ、じゃあそいつは誰なんだよ!?」
バルトゥルが尋ねてくると、巨重尖角はバルトゥルに向かって聞いてくる。
「戦うのか、聖神闘者。さぁ、かかってこい」
バルトゥルは両腕に抱えていたミグとカルクを自分の元から少し離れた場所に、置き、転化帳を出して〈転化〉のパネルを叩いて叫んだ。
「聖神土転化!!」
バルトゥルの周りに翠の結晶が彼の実の周りを包み、結晶が砕けると、翠麒の体の模様を思わせる左右非対称の衣は翠の鱗模様、中衣は深緑で半袖の左腕が出ており、腰に二本のベルト、ズボンも左右非対称で明灰色をしており右脚に深緑の下地、靴も左右非対称で左が長く、両腕に深緑のグローブがはめられているバルトゥルが現れた。
「ぬぅん!!」
巨重尖角は足を大きく踏んで地面を大きく響かせた。ズシーンという震動でバルトゥルの身が大きく跳ねた。
「うわっ!!」
バルトゥルは今までより優れているという最後の邪羅鬼の突然の攻撃に驚くが震動で大きく跳ねたのを利用して両掌から翠と紫の結晶の針を飛ばしてきた。
「石英針!!」
無数の針が邪羅鬼に向けられて放たれた。だが巨重尖角は平気だった。邪羅鬼の腕に石英針がいくつかつき立てられたが、蚊に刺されたような感じだった。
「お前の実力はこんなものか?」
巨重尖角はほくそ笑む。バルトゥルは宙に浮いた体の体重を中心にかけて両腕を×字状にし、急降下してきた。
「麒走突!!」
聖神武匠に進化したためか麒走突のスピードが増していた。以前は秒速五キロ程だったのが三、四倍程になっておりバルトゥルは隕石落下のように邪羅鬼に衝突した。
ドォン、と周囲一〇キロまでなら唸る地響きがしたかと思うと、巨重尖角は仰向けに倒れ体の三分の一が地に埋まっていた。
「あーつつつ、こいつ頑丈だなぁ」
バルトゥルは真っ赤になった両腕を掌で押さえて立ちあがった。邪羅鬼は固かったがバルトゥルの骨は折れていなかった。
「これがお前の力か?」
巨重尖角がむくりと起き上がって両拳を組んでバルトゥルの背を強く叩いた。
「ぐあっ!!」
邪羅鬼の攻撃を受けてうつぶせになったバルトゥルは地にひざを着いた。更に邪羅鬼はバルトゥルの首根っこをつかみ、空いた右手を拳にしてバルトゥルの鳩尾に幾度も殴りつける。
「ぐぶっ!!」
折角伝説五玉の力を手に入れても、最後の邪羅鬼は勝てないというのか……? バルトゥルは邪羅鬼の攻撃を受けてもうろうとしていると、邪羅鬼の様子に変化が起きた。
「うわっ、お前ら何をしやがる!?」
何と邪羅鬼の顔にみぐと軽くが飛びかかってはりついていたのだ。
「今だっ」
バルトゥルは体を振って右脚に重心をかけて巨重尖角の胸を蹴ったのだ。その時巨重尖角は体のバランスを崩し、ミグとカルクも離れた。
「神速突!!」
バルトゥルは飛びひざ蹴りを邪羅鬼に向けて放った。
「ぬおっ……、おのれ……」
頭に頂点がきた巨重尖角は最後の切り札である角を直角にした突進攻撃を発動させた。バルトゥルは相手の動きをよく見てから地を強く蹴って大ジャンプをし、空中回転をしながら両手に土行の聖気を込めて光の翠麒を撃ち放った。
「翠麒地烈!!」
バルトゥルが避けたうえに自分は一度突撃したらエアブレーキをかけないと止まれないと知った巨重尖角は、真後ろからバルトゥルの攻撃を受けて弧を描いて倒れた。
「うぐおっ」
そして更にバルトゥルは止めとして腰に提げている紫誠玉がはめ込まれた切れ込みの入った太刀を抜き、大地に突き立てて邪羅鬼に向かって無数の岩の剣が出現してきたのだ。
「翠麒大陸剣!!」
巨重尖角はバルトゥルの最強技によって体を貫かれて、土くれとなって風化したのだった。
「何とか……倒せた……」
バルトゥルは自分の顔に付いた汗と血を拭って、暗闇の空間が元に戻るのを待ったが、変化は一向に起きない。
「この闇を造ったのはあいつじゃなかたったのか……」
バルトゥルは肩を落とした。その時、転化帳が鳴ってバルトゥルは開いた。
「あ、翠麒! さっき最後の邪羅鬼を倒したんだけど、真っ暗なままだ」
バルトゥルは画面の翠麒に向かって尋ねてくる。
『バルトゥル、やはりこの空間は邪羅鬼が造ったものではなく、邪羅鬼の創造主が造った闇だ。すまないが。何か変化があるまで闇の中をうろついてくれ』
「そー言われても……」
バルトゥルは不安になったが、他にすることがない。ミグとカルクを両腕に抱えて暗闇の中を歩きだした。純粋な黒というより紫がかっているため、毒々しく思える。
バルトゥルが闇の空間を歩き出してから十分近くが経った頃、バルトゥルは気配を感じた。一人ではなく四人もだ。
(邪羅鬼? でもさっきのあいつは自分から“最後”の邪羅鬼と言っていた筈。もしかしたら嘘をついていたのか?)
でも敵ならば自分が戦うしかない。そう思った時だった。そこにいたのは黒髪に白い衣の少年、桃金髪のショートヘアに黒い衣の少女、金髪長身に青い衣の青年、そして茶髪に赤い衣の少女が立っていたのだ。しかも彼らは頭部や腰に五聖神と同じ角や耳、尾を持っていた。赤い衣の少女に至っては朱色の鳥の翼を生やしている。
「お前らは……」
バルトゥルは四人に尋ねる。
「僕は西大陸の五聖神、白虎に選ばれた玫化浪」
白い衣の少年があいさつする。
「わたしは北大陸の五聖神、玄武に選ばれたリシェール=グラコウス。この蛇は玄武のお使いのクァンガイ」
黒い衣の少女が言った。
「僕は東大陸の五聖神、蒼龍に選ばれたケンドリオン=アーベル」
青い衣の少年が言った。
「私は南大陸の五聖神、朱雀に選ばれたサユ=コーザよ」
赤い衣の少女があいさつする。バルトゥルは驚いた。みんな人種も国籍も違うのに、四人とも言葉が通じているのだ。
「お……俺は中央大陸の五聖神、翠麒に選ばれたバルトゥル=リムド。こっちは金毛山猫のミグと角ウサギのカルク……。
き、君たちが他の大陸の五聖神なのか?」
バルトゥルがおそるおそる四人に尋ねると、一人ずつ答える。
「そうだよ。僕は学校にいる時に突如周りが闇に覆われて、僕以外の人や動物は青銅のようになってしまった」
「わたしも学校で……」
「僕は朝起きた時の家で……」
「私も学校でみんなが青銅になってしまって……」
四人の話を聞いて、バルトゥルは気づく。
「俺も……町の祭りのさ中に周りが闇に覆われてみんな銅像みたいになっちゃって、邪羅鬼の仕業かと思っていたけど、そうじゃないって……」
邪羅鬼を生み出した者の仕業だ、とケンドリオンが言ってきた。
「でも、その者って一体誰でどんな奴なんだか……」
リシェールが呟くと、リシェールの腕に巻きついているクァンガイが察知し、更にミグとカルクも唸りだした。
「ど、どうしたんだよ!」
バルトゥルがミグとカルクに言うと、五人のいる場所の向こうの闇から得体のしれない大いなる存在が近づいてきたのだ。




