「暗闇」の書・第5話 最強邪羅鬼 灰燃夜眼(はいねんやがん)
『五聖神』第51話。超邪羅鬼との戦いを終えたサユはツドイ家の人達と相談して「卒業後はWUP(国際同盟警察)に就職して不幸な子供を救いたい」と言ってきた。ツドイ家の人達は賛成するが、サユの同級生のギオンはサユのWUP就職が不愉快だった。サユの周囲に異変が起き、彼女の前に最強邪羅鬼が現れる!!
南大陸の一国・ロプスのある場所で一体の邪羅鬼が生まれようとしていた。
周囲が完全な漆黒の闇の中に紫紺の卵があり、その卵から一体の邪羅鬼が殻を破って出てきたのだ。
四肢は蹴爪、両腕には翼、眼は赤みがかった金色で、その邪羅鬼は“声”に従って南大陸の地上へと出る。
「お前の名前は灰燃夜眼。我の邪魔をする聖神闘者を倒せ」
その“声”は男とも女ともにつかぬ声で、邪羅鬼に命令した。
南大陸の最北端国、ロプス共和国にあるジャングルシティの一つランゴ。ランゴの住民はバン=ダルーイと呼ばれる巨木の中に住居を造り、店舗や図書館などの公共施設も設けて暮らしている。バン=ダルーイの赤いピスタチオ型の実は赤ん坊の頭と同じ大きさだが油分が多いため燃料として活用している。
バン=ダルーイの木々やアカシアなどの熱帯性植物のある地域から南の方角、小高い丘の上に白い石造りの建物があった。ランゴ中級学校である。
生徒は男女ともに襟と袖口とボトムがモスグリーンで胴体がベージュの制服をまとって学校生活を送っている。
今日の六年生は進路指導の日で、サユ=コーザも教室を出て、教師と生徒が向かい合って座る机と椅子、両壁には卒業生の進路の資料が入ったファイル入りの金属棚が設けられていた。
ランゴのような非都会の中等学校生の進路は高等学校に三年間通う、理髪師や整体師といった国家資格の職業を得る、大学資格学校に通うといったコースがあった。
「サユさんはWUPが第一志望なの?」
進路指導をする国内史世界史担当のモーラ=ピチャ先生がサユに尋ねてくる。ピチャ先生は一六〇センチ超えの背丈にふっくらした体格で長い黒髪をアップにした五〇代半ばの女の先生で、サユの進路調査票を見て、第一志望の欄には「WUP(世界同盟警察)」と書かれていた。
「はい。不幸な子たちを助けて、人並の幸福を与えるのが、WUPになったらの私の夢なんです……」
浅黒い肌に黒い瞳、赤みがかった長い褐色の髪、細見だがしっかりした筋肉質な体つきのサユ=コーザはピチャ先生に返事をした。
「サユさんの志はいいけれど、WUPの訓練学校に入ったら、健康管理とか体術訓練とかあなたが志にしている以外の知識も学ばなくちゃいけないから、結構大変よ?」
「それでも、WUPに入りたいんです」
サユははっきりと言った。第二志望はWUPに入れなかったら養護施設職員、第三志望は看護士と書かれていた。
「サユさん、あなたの将来の夢が<人助け>なのは先生感心するけれど……、今の親御さんの許可がなければWUPに入れるかどうか……」
ピチャ先生は呟いた。
進路指導や全ての授業が終わり、HR後の掃除の時間、サユとイロナ、ギオン=クヴァイは白い壁に濃色の床の廊下にいて、床をモップで磨き、乾いたぞうきんでカラぶきしていた。教室では他の生徒たちが机を前後に動かして床を磨いたり、ゴミをゴミ捨て場のある場所に運んだりと、各々の場所の掃除をしていた。廊下から見える窓の景色は白い曇天と緑の木々の二色に分けられていた。今のロプスとその周辺の国は雨季で今は雨は降ってはいないが、もう一、二時間したら降りそうな気配である。
「そーいやサユ、うちのお父さんたちに言ってないんだよね。世の不幸な子供たちを救いたいという夢」
サユとイロナはモップで床を磨きながら会話をする。サユの親友であるイロナ=ツドイはサユより小さめの背丈に長い黒髪をツインテールにし、白い石灰のような肌を持つ南国人にしては珍しい容姿で父が他所の町の児童保護局勤めで母は生物学者、大学生の兄もいるという恵まれた環境に育ち、サユは幼くして父を病気で亡くし、母と二人で暮らしていた。
サユは今から七ヶ月前に母が何者かによって殺されてしまい、サユは独りになってしまう。サユは幸い母の同級生であったイロナの父によってツドイ家に引き取られた。ただ母の死で気がかりだったのは財産が盗まれていなかったことと、母の死体の周りに見たこともない鳥の羽が散らばっていたことである。
またそれからしてサユは南大陸の五聖神・朱雀によってどの人間よりも“愛”の意が強かったことにより、世の邪気から生まれし怪物・邪羅鬼と戦う聖神闘者として選ばれ、最初に倒した邪羅鬼の情報漏洩を聞いて、母を殺したのは一体の邪羅鬼の仕業という事実を知り、サユはとうとう母を殺したコンドル邪羅鬼と戦い母の仇討ちを果たした。
その後は母のような犠牲者を出さないために邪羅鬼と戦い続け、更に朱雀から持ち主に強大な力を与えるという伝説五玉の一つ、<紅熱玉>の欠片を探すように命じられ、最後の一つが邪羅鬼に奪われてその邪羅鬼は超邪羅鬼に進化し、サユを追い詰める。ところが強化の反動で休眠状態に入り、その三週間の間にサユは学校や普段の暮らしの合い間に修業。
三週間後、サユは同じ学校の五年生のエバリ=バオニコが両親の虐待で体内に宿っていた邪羅鬼がエバリの体を依り代してエバリの両親を殺害し、サユが駆けつけるも邪羅鬼を倒せばエバリも死ぬことを聞かされ、迷っていると超邪羅鬼も現れ、エバリ邪羅鬼が超邪羅鬼を吸収して変異邪羅鬼となった。
だがサユの“愛”の意と紅熱玉の共鳴でサユは聖神武匠に進化し、武匠としての技で邪羅鬼だけを倒して、エバリを赤ん坊に変えて救ったのだった。赤子になったエバリは南サンブロンの商人の夫婦に引き取られた。
そして更に元をたどれば超邪羅鬼は今はサユたちの学校のエリスナ語教師として過ごしているがWUPのエリート隊員であるアーメッド=シモンの従兄弟を一年前に殺害。アーメッドは従兄弟を殺した者と邪羅鬼の対になる者の調査のため、ランゴに来ていた。
エバリを救ってからの後日、サユはアーメッドと同じWUPの隊員になって世の不幸な子供たちを救いたいという夢を持つようになり、WUPの訓練学校の入試勉強も始めるようになった――のはいいが、WUPは時には戦地への派遣などの危険な仕事もあるため流石にサユの後見人であるツドイ夫妻は赦してくれないだろう。サユはWUP入試の勉強はこっそりやっているのだから。
「何、お前WUPに入りたいのか?」
そう言ってきたのは短い黒髪に浅黒い肌の男子、ギオンであった。ギオンはランゴ内の染物店の息子で両親と三人の妹と暮らしている。
「え、うん。まぁ……」
サユは尋ねてきたギオンに曖昧に返事をする。
「俺もそんなによく知らねーけどさ、WUPって軍人に近い仕事だからやめておいた方がいいんじゃねぇのか?」
「うん、だけど……」
サユが言おうとした時、ギオンがサユの表情を見つめる。
「サユ、お前……」
ギオンが真顔で尋ねてきたので、サユは表情が固くなる。
「な、何……?」
(ギオン、あんたもしかしてサユのことが……)
イロナは思った。でも今の場所は学校の廊下で色々な人が教室に出入りしている。告白にしてはカミングアウトすぎる。
「いや、やっぱしいいや」
と、ギオンが不意に返答してきたのでイロナはずっこけ、サユは緊張がほどけてきょとんとなる。ここで掃除終了のチャイムが鳴ったので、みんなはクラブに行ったり帰宅したりとする中、サユはイロナだけを家に帰して自分は児童保護局の事務のアルバイトへ行くこととなった。
外では雨はまだ降ってはいないが、念のために折りたたみ傘を持っている。低木や巨木がジャングルの道を通ってサユは児童保護局へと向かっていった。
(今日こそイロナのお父さんたちに言おう。WUPに入りたい、って)
ジャングルシティを出て、荒れ地の中の白い要塞風の建物を改良した児童保護局。ここは親や親族に虐げられていた子供たちの安住の場所で、義務教育が終わっても職員として居続ける者や養子として出ていく者もいる。
サユは児童保護局の週四日はタイプライター清書や原稿の訂正、書類の整理で週の糧を稼いでいるのだ。
児童保護局のアルバイトは月曜日と火曜日と木曜日は一時間、土曜日は三時間勤めている。以前はマルゼン動物保護園で迷い子カバのベラルダの世話をしていたが、学校とアルバイトと邪羅鬼退治の三つ重ねの疲労でサユは倒れてしまい、サユは学校の先生の勧めでランゴ児童保護局のアルバイトを勤めることになった。
サユはアルバイトを終えると、雨が降る前に薄暗いジャングルの道を駆けていき、バン=ダルーイの住宅街が並ぶ区域の一本のバン=ダルーイに設けられた外階段を昇って扉を開けて中に入る。
「ただいま、帰りました」
ここがサユの現在の家、ツドイ家である。木の中心には一階から四階に昇り降りする階段、三、四つに区切られた部屋、机やベッドは木壁を削って造られておりバン=ダルーイの家屋は丸太小屋やレンガの家や石造りの家とは違った趣があってこっているのだ。
玄関に入ってすぐの部屋が居間で居間には木材のローテーブルやソファといった家具や照明用のランプといった調度品があり、居間には誰も居ないと知ると、サユは四階にある自分の部屋へと昇る。
サユの部屋は西の部屋で、家具は全て壁と一体化している。机もタンスもベッドも本棚も。家具はカーテンとベッドカバーと椅子のクッションと床のラグが全てサーモンピンクである。ただ一つ違うのはクッションは無地で、あとのは千鳥格子模様である。空からいくつかのインテリア。百合型のランプ、フラミンゴが湖から飛び立つ場面のタペストリー、家から持ってきた楕円型の鏡、そして机の上の写真立て。机の真正面は大きなかまぼこ型の木枠の窓になっている。
学校の制服から普段着のワンピースに着替え、一階の台所兼食堂へ向かっていった。食堂には既に当主のパレル、妻のティリア、大学生の長男コーベン、イロナが集まっている。
「ただいま帰りました」
サユはツドイ一家にあいさつをし、部屋の中心の長方形の食卓に座り、ティリア夫人の作ってくれた晩食のスープや川カマスのフライ、木の実入りサラダにありつく。スープには草の実や香草が入っており、フライには甘辛ソースがかかり、サラダには葉菜や赤玉ねぎの他にクコの実や松の実が入っている。それから付け合わせとして、大麦のパンが一人二切れとして平皿の上に置かれている。
パレルが上座に座り、ティリアとコーベンが上座の近く、サユはティリア夫人、イロナはコーベンの隣に座り、今日の夕食を味わった。食事が終わると石造りの流し台に食器を入れていく中、サユは今日こそツドイ家の人たちに言わねば、と思った。
「おじさん、おばさん、コーベンさん、お話があります……」
「……?」
食堂を出て勉強や仕事の続きをやろうとしたパレルとコーベンは立ちあがるのをやめて、サユの話に耳を傾ける。
「何だね、サユ」
パレルが呑気そうに尋ねてきたので、サユは顔を上げてみんなに言った。
「今日学校で進路指導の授業があって、私は先生にWUPに入って世の不幸な子供たちを救いたいと訴えました。先生はWUPに入るには今の親御さんの許可が必要だと言われました。おじさんたち、WUPは軍人に近い大変な仕事なのは知っています。でも、私はどうしてもWUPに入りたいんです……」
パレルもコーベンも食器を洗っているティリア夫人もサユの進路希望を聞いて、しばしの間黙っていた。でも、パレルたちはこう言ってきた。
「そ……そうか。サユがWUPに入って目標があるのなら、それはそれでいいんじゃないかな……。ねぇ、父さん?」
コーベンが苦笑いしつつも父パレルに言ってきた。
「あ、ああ、そうだな。だけど、WUPでの仕事がきつかったら、いつでもうちに戻ってきなさい。そしたら別の仕事を探せばいいだけのこと……」
パレルが咳払いをしてサユに言った。ティリア夫人も少しほうけながらもサユの進路に賛成した。
「じ、自分で決めたことなんだもの。サユちゃんならきっとやれるわよ。ね?」
ツドイ家の人々の反応を見て、サユは一先ず胸をなで下ろした。
「おじさんたち、どうもありがとう……。いつまでもここに居たら、私は変わらないと思って……」
WUPに入りたいと言ったら危険な任務が多いからやめておけと反対されると思いきや、意外と赦してくれたことにサユは安心した。
「サユ、やっぱり学校のみんなにも言うの?」
イロナが尋ねてきたので、サユは頷いた。
「うん、言うよ。WUPに入る、って」
翌朝、サユは一時間目の授業が始まる前に 黒いくせ毛をシニヨン付きポニーテールにし、少し太めのアノン=ドヴァルや背の低い赤茶色の髪をウルフカットセミにしたフルル=スヴェリャや枢密顧問官の娘でありながらデザイナー志望のレイラ=ロッカといったクラスの同級生に自分はWUPに入って不幸な子供たちを救いたいという夢を話した。
「すごーい、なれるといいね」
「女子でWUPに入るなんて珍しいよ」
「応援しているよ」
一度に五人が座れる長机と長椅子のある教室ではみんな席を離れたり立ったりしていて、サユの話を聞いて敬ったりしていた。だが一人だけサユのWUP入隊志願を快く思っていない者がいた。ギオンである。外では雨は豪雨であるが、土砂降りの場合は今が雨季といえど休校になる場合もある。晴天のように明るいみんなの様子と違い、ギオンだけは外の豪雨のような気持であった。
(サユ、お前のことを本当に深く考えている奴のことも知らないで……)
全ての授業が終わり、生徒たちがクラブ活動や家に帰っていく中、サユはイロナと帰ろうとしたが、サユは図書室に行って本を返しに行くからとイロナに教室で待つようにお願いした。
生徒たちがクラブのある教室へ向かったり通学鞄を持って帰っていく中、サユは階段の所でギオンに足止めされた。
「どうしたの?」
いつもと様子が違うギオンを見てサユは尋ねてくる。
「お前、WUPに入る、って本当か?」
「うん……。最近決まったばかりの夢なんだけどね、私は誰かのために働いている、ってのが向いている、って気づいて……」
「俺は赦さねぇぞ、軍人みたいな仕事に就くのは」
「ギオン……?」
サユはギオンの様子を見て首をかしげる。
「いつか俺の両親が店を営めなくて俺一人で店の切り盛りと妹の面倒、家事をしなくちゃいけない時、俺は助けに来てくれたサユを見て本当に安心した。サユ、家庭に入っている方が幸せなんじゃないか、って。妹もサユになついていたみたいだし……」
いつも他の男子といたずらして楽しんでいるギオンとは違い、この時のギオンはサユに対しての気持ちが本当のようだった。
その時だった。ギオンの足元から紫がかった闇が出てきて、辺りを侵食していくのをサユは目にした。すると廊下にいた生徒や教師たちが青銅のように静止し、教室に射る人たちも闇に侵食されて青銅のように次々と変わっていく。シトシトと言う雨の音も聞こえなくなっていき、ギオンも青銅のように動かなくなっていった。
「これは……、まさか邪羅鬼が……!?」
闇に包まれた学校や人々を見てサユはゾッとした。その時、制服のポケットに入れていた掌大の赤い電子手帳型の道具、転化帳が高音を鳴らしていたので、サユはスカートのポケットから転化帳を出して開いた。上に画面、下には機能チェンジのパネルがいくつも並び、画面には赤い羽毛に覆われ緑の双眸を持つ鳥型の五聖神、朱雀が映っていたのだ。久しぶりに対面する朱雀にサユは尋ねてきた。
「朱雀、いきなり辺りが暗くなって、闇がみんなを銅像みたいに変えていって……」
『サユ、落ち着いて。これは今までより強い邪羅鬼の仕業よ』
「じゃあ、その邪羅鬼を倒せば元に戻るの?」
『でも今までより邪気が強大過ぎる……。邪羅鬼を倒しても何も変わらなかったら、サユには闇の中を確かめてもらいたいの。出来るかしら?』
朱雀に言われて、動けるのはサユしかないと悟ると、サユは頷いた。
「絶対、元に戻して見せる……。そして、ギオン。あなたの気持も……」
サユは自分の近くに立つ静止したままのギオンを見つめる。ギオンの気持ちにサユは気づいたのだから。
闇は純粋な黒というより、紫がかってより恐怖を思わせた。人の声も動物の鳴き声も雨の滴る音も聞こえない。足場はあるけれど、どこからどこが終わりなのかもわからない空間。
人も獣も鳥も魚も虫も静止してしまい、動けるのは五聖神・朱雀の恩恵を受けたサユだけ。サユが一人闇の空間にいると、ピピピという邪羅鬼反応を知らせる転化帳の電子音と共にサユは邪悪な気配をつかんだ。
どこからか羽根の矢が飛んできて、サユは咄嗟に避けた。足場の闇に三枚の灰色の羽根の矢が突き刺さっている。サユのいる方向とは逆の方から琥珀色の二つの輝きが現れ、サユの前に姿を見せる。
銀灰色の羽毛に覆われ、四肢の蹴爪と頭部の嘴は黒く、いかつい体格をしているが女の邪羅鬼で胸と袖がむき出しの生成の衣をまとい、頭部には獣耳のような羽毛があった。ミミズクの女邪羅鬼である。
「私の攻撃を交わすとは、流石聖神闘者だ」
「あ……あなたの仕業なの!? みんなを動けなくして、この闇を作ったのは?」
サユは邪羅鬼に尋ねてきた。邪羅鬼は低いが女の声を発してサユに言ってくる。
「私は灰燃夜眼。今までの邪羅鬼と違ったより強い邪羅鬼。この闇を広げて人間を滅ぼし、邪羅鬼の世界に変える」
灰燃夜眼の台詞を聞いて、サユは沈黙した。
(人間を滅ぼして邪羅鬼の世界に変える? 何て恐ろしいことを……)
だが邪羅鬼を倒せるのはサユしかない。サユは迷いを振り切り、邪羅鬼に言った。
「私が阻止してみせる! 世界を邪羅鬼の世界に変えさせはしない!」
制服のポケットから転化帳を取り出し、タッチペンで〈転化〉を示すパネルを叩いて叫ぶ。
「聖神火転化!!」
サユは炎の渦に包まれ、炎の渦が爆ぜ散ると、朱雀の翼と尾羽を背に持ち、羽毛のような飾りがついた真紅と緋赤の重ね衣をまとい、両手首に黒リボン付きの赤い腕布、足元は黒い足布付きの赤い靴をまとい髪の毛を三叉のポニーテールにした姿のサユが現れた。更にサユは銀刃の三叉矛先の付いた赤い槍を出して邪羅鬼に向ける。
サユが聖神武匠の姿に転化すると、灰燃夜眼も武器を出してきた。薙刀である。
ガキィィィンと矛先の刃がぶつかり合い、サユも邪羅鬼も互いの攻撃で押し返される。
灰燃夜眼は自分の羽毛を三、四本程抜いて火の粉に包ませサユに向けて飛ばしてきた。サユも負けじと羽根矢を飛ばし、二つの羽根矢は紫と朱色の炎となって爆ぜてサユはその閃光でまぶたを閉ざすが、灰燃夜眼は大きく跳躍して足の蹴爪をサユに向けてきて急降下してくる。サユはその気配に気づいて、槍を回転させて炎の渦を起こす朱雀炎斬を出して、邪羅鬼を押し出した。
サユの攻撃を受けて邪羅鬼は足場に当たる場所に落下し、サユが矛先を向けてくると地灰燃夜眼は口から火を吐きだした。
「きゃあ!!」
サユは邪羅鬼の攻撃を受けそうになって下がるが、衣の裾に邪羅鬼の赤黒い炎が燃え移るが、槍先で火の付いた部分を切り落とした。灰燃夜眼は次々に火の粉を出してきてサユに襲ってくる。サユは槍を回転させて敵の攻撃を防ぐが、聖神闘者よりも優れた聖神武匠だからといって力が継続で出来るという訳ではなかった。
(世界が邪羅鬼の世界になる前に、私がやられてしまう。何とかしなければ……)
サユは考える。以前動物図鑑でフクロウのような夜光性の鳥は闇に眼が利くということを。この闇の中なら灰燃夜眼は尚更有利である。ならば、とサユは一つの賭けに出る。
両目をつむり、気配で邪羅鬼を察知し、自分の真上四十五度から灰燃夜眼が迫ってくると感じた時、サユは熱を帯びた刃を放つ熱裂刃を出し、邪羅鬼の眼に当たる空間に熱刃の光で八方に描いた。その光熱が邪羅鬼の眼に当たった。
「ぎょおぅっ!!」
邪羅鬼は真っ逆さまに落下し、サユは止めとして火の聖力と槍に付いた紅熱玉の力を合わせた技、朱雀癒炎光閃を放った。
サユの両手から真紅と朱色の波動の玉が両手で眼を押さえる灰燃夜眼に放たれ一条の光線となり、扇状に広がって巨大なクジャクサボテンの花を思わせる炎となって邪羅鬼を包み込み、邪羅鬼は灰となって散った。
「やった……。倒せた……」
サユは邪羅鬼を倒したことによって胸をなで下ろすが、闇が消えるような気配はなかった。
(そう言えば朱雀が「邪羅鬼よりも強大な力」と言っていたっけ。この闇の中をうろついていれば、源があるのかもしれない)
それを思い出したサユは闇の空間を歩き回った。邪羅鬼を倒してから数分後、サユは四人の気配を感じ取った。
(邪羅鬼? それとも……)
サユは槍を構えた。邪羅鬼よりも強い悪がこようとも絶対に負ける訳にはいかない、と。サユが目にしたのは意外な人物だった。
その人物とは……。




