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五聖神黙示録  作者: 浅葱沼 氷雨乃
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「暗闇」の書・第4話 最強邪羅鬼・枯吸刃狩(こすいじんしゅ)

『五聖神』50話。超邪羅鬼と大学進学受験が終わって一息ついたケンドリオン。ある日、ケンドリオん宛の手紙が届くと、出してきたのはケンドリオンのライバルを自称するテイラー=カーリンだった! 手紙の指示に従うケンドリオンだったが、それは意外なものだった。

 その後で、ケンドリオンの周囲に異変が起きて……。

 東大陸の一国、サンセリアのどこかで、一体の邪羅鬼が生まれようとしていた。

 純粋な闇といってもいい空間に、闇色の繭があり、その繭から一体の邪羅鬼が繭を斬り裂いて出てきた。背には長く透明な翅、節のある四肢、両手首には三日月状の鎌がついていた。前頭部に複眼、顔の表面にも眼、どちらの眼も金褐色だった。

「……お前の名は枯吸刃狩(こすいじんしゅ)。我の邪魔をする聖神闘者を倒せ」

 どこからか聞こえてくる“声”で邪羅鬼は従った。




 赤茶色のレンガとステンドグラスを合わせた建物、オレンジバレー=ハイスクール。そこの生徒はオールドブルーのブレザー制服に身を包み、生徒は褐色の肌の南方人種もいれば、肌の白い北方人種系やサンセリア原住民のマアトリ族の黄色い肌もいれば、白い肌と黒い肌の中間もいる。

 東大陸の大国の一つ、サンセリアは先住民のマアトリ族だけでなく、他大陸からの移民や奴隷として連れてこられた南方大陸人の子孫が入り混じっている国なのだ。

 冷気と暖気が合わさった白い空は薄い雲がおり重なっていて太陽がぼんやりと光っていた。校庭の庭木は白や薄桃の花と緑の若葉をつけ、穏やかな東風が吹いて、木の枝や新しく生えた草を揺らした。

 高校三年生はあと二ヶ月で卒業の時期となり、現在は進学決定者や再受験者などに分かれ、そのまま帰宅したり町中のアルバイト先に行ったり、進学受験のための予備校に行ったりと下校後の行動をとっていた。

 他の生徒たちと共に校舎を出て、ケンドリオン=アーベルもオレンジバレーの近くの町、グラスフィールドにある自分の家へ帰っていった。

 長身に切りそろえた金髪、赤みのさす白い肌、銀の双眸にはノンフレームの眼鏡のケンドリオンは、犬の顔を思わせる古風なバスに乗って、バスはグラスフィールドへと向かっていく。二階建ての家や店舗の多い町並、どこもかしこも生えたての鮮緑の草と木の芽、中には花を咲かせたばかりの木々もあり、ピンクや白の花を人々に見せつけていた。

「もう一ヶ月半が経つのだな……」

 学校や仕事場帰りの若者や都会の病院から帰ってきた老人、幼い子を連れた母親に交って、ケンドリオンは思い出して制服の内ポケットに入れてある蒼い掌大の道具、転化帳に手を触れる。

 今から九ヵ月前、ケンドリオンは東大陸の五聖神・蒼龍によって“智”の意が高かったことによって、世界の邪気から生まれし怪物・邪羅鬼と戦う聖神闘者として選ばれ、学校や家庭といった日常の合い間に邪羅鬼と戦ってきた。

 更に年明けでは、持ち主に強大な力を与えるという“伝説五玉”の一つ、緑幸玉(りょっこうぎょく)の欠片を探すものの、最後の五つ目が邪羅鬼の手に入り、邪羅鬼は緑幸玉の欠片で超邪羅鬼に進化を遂げて、ケンドリオンを追い詰めるが進化の反動で三週間の休眠状態に入り、ケンドリオンは大学入試の勉強も兼ねて修業。大学入試日に超邪羅鬼が現れて、ケンドリオンと同じ学校の女子高生、テイラー=カーリンを人質に取られるも、ケンドリオンは自身の“智”の意と緑幸玉の共鳴で今までとは違った姿の聖神武匠に進化を遂げ、超邪羅鬼を撃破。そのおかげで大学の一部が損壊して試験が中止及び延長してしまったが……ケンドリオンは見事大学に合格した。それから一ヶ月半の現在、四月下旬は平和で平穏だった。一人も邪羅鬼が出てくることなく、ケンドリオンは離婚した母についていった妹と弟と面会したり、親友のジェイミー=ハーマンと一緒に過ごしたり、大学合格祝いとして一人列車旅行したりと過ごしてきた。三年生は今年の六月に卒業のため、クラブは先月に引退。ケンドリオンはたった半年とはいえ、鉄道研究会を引退した。

 バスがグラスフィールドに着くと、ケンドリオンは定期券を見せて下車し、草原の中に造られた町、グラスフィールドに降り立つ。どこの家も二階建ての屋根のある家が多く、二月末まで茶色が混じっていてカサカサになっていた草は瑞々しさと鮮緑を取り戻し、道や庭の木には芽が吹いて、緑色の葉をつけている木もあった。町中には学校や公園から帰ってきた子供たち、店から食糧を買ってきたばかりの主婦、散歩から帰ってきたばかりの老人、犬連れの者といった様子が見られ、声も響いてくる。バス停から歩いて数分の所にある二〇〇坪はありそうな二階建ての勿忘草色の面棟屋根の家屋と駐車場がある『草笛荘』。ここがケンドリオンの家である。

 母がピアニスト復帰による離婚で掃除や洗濯、主の食事の用意は父が雇った近所のモニカおばさんがやってくれていた。ケンドリオンは家の様子を見て呟く。

「父さんはまだ帰ってきていないか。今日は残業だったかな?」

 ケンドリオンは制服の表ポケットに入れておいた携帯電話を取り出して画面を見る。父からの連絡メールがないということは夕方の六時から七時あたりに帰ってくるということだ。

 ケンドリオンは安心して外付けのポストを開けて今日の夕刊を取り出す。他には隣町の市場の特売チラシや廃品回収のチラシ、父名義の今月の水道代の請求のハガキ、そしてケンドリオン宛ての桜色の定形型封筒。

「誰からだろ?」

 ケンドリオンは封筒を見て思った。差出人名が書かれていない。

 ケンドリオンは郵便物を持って家の中に入り、チラシなどはダイニングの食卓の上に置き、桜色の封筒だけは自分の部屋に持っていた。

ケンドリオンの部屋は二階の七畳半で出窓と普通の窓が設置されていて、壁の北側が本棚と一体化した机、南側がクローゼットとラワン素材のベッド、カーテンや寝具は全て黒いマドラスチェックで統一されており、本棚は辞書や図鑑、法学部大学の入試問題集や暇つぶし兼リフレッシュ用の推理小説や犯罪小説が入っている。フローリングの床は北側の半分がアイボリーのじゅうたんが敷かれている。

 ケンドリオンは制服から普段着の紺のセーターとライトカーキのパンツに着替えて、卓上のハサミで封筒を切り、中に入っている便せんを取り出す。

 便せんは白地にピンクのアスター柄で鋭角な文字が書かれていた。

『明日の放課後四時に校門近くの楓の木の下で待っています。テイラー=カーリン……』

 手紙の持ち主の名を見て、ケンドリオンはハッとなった。テイラー=カーリンといえば、ケンドリオンにふっかけてくるケンドリオンと同じ高校の三年生で、ケンドリオンとはテストのライバルとして見ているのである。それからテイラーとは学部は違えど、ケンドリオンと同じジャックロンド大学の入試に合格したという。

「まさか超邪羅鬼との戦いで人質に取られた時、聖神武匠が僕だと気づいてしまったのでは……!?」

ケンドリオンはそう思った。聖神武匠は誰にも知られてはいないし、話してもいない。テイラーは聖神武匠の男がケンドリオンと気づいて、世間にばらされたくなかったら口止め料を払えと求めてくるのではないか、と恐れにおののいた。

だからといって放棄する訳にもいかないし、手紙に従ってテイラーが何をしてくるかの覚悟も決めておいた。


 


 翌日、全ての授業が終わりケンドリオンは一日中ぼんやりとしていた。他の生徒たちが帰宅したり予備校やアルバイト先に行く中、ケンドリオンは目をしょぼつかせながら席を立ちあがった。

「大丈夫? ケンドリオン、体調が悪いんじゃないの?」

 ケンドリオンの親友、ジェイミー=ハーマンがケンドリオンに尋ねてくる。栗色の髪にサルビアブルーの瞳、色白にケンドリオンより低めの背丈でおぼつかない姿だが、ケンドリオンの母でピアニストのエイミー=ポーリーンのファンである。

「ん……大丈夫だ。昨日訳あってそんなに眠れなかったんだ……あふぁ」

 ケンドリオンは本日六回目のあくびをふかした。授業の内容はなかなか頭に入らなかったし、体育の授業のバスケットボールなんかはパスができずに頭にぶつかってくるという具合だった。テイラーからの手紙の内容が気になりすぎて、この日は支障が出まくっていた。

「悪いけど先に帰ってくれないか……」

「うん、わかった……。また明日……」

 ケンドリオンは自分の鞄を持ち、ジェイミーと別れて教室を出て校門下の楓の木に向かっていった。学校の中ではクラブ活動に励む一、二年生の声や楽器の演奏する音が響き渡り、廊下ではクラブ先の教室に向かう生徒の様子があった。

 校庭では陸上部やサッカー部などの運動部員が走ったり練習に勤しんでいたりと賑やかながらも平穏だった。

 空は白い雲に覆われていて太陽がぼんやりと浮かんでおり、生温かな東風が吹いていた。校庭の木々も緑の葉を色づかせて風邪でさわさわと揺れ、花壇の花も赤いチューリップや黄色いパンジーや青いクロッカス、紫のアヤメと彩られていた。

 ケンドリオンが校門に向かって歩いていると、五又の葉をつけた楓の木の下に一人の少女が立っているのを目にした。

 肩まであるコッパーブロンドの髪にエメラルドグリーンの瞳、肌は中央大陸人に多い黄色がかった肌で四角い眼鏡をかけている。ケンドリオンとは別のクラスの女子、テイラー=カーリンである。

「や、やぁ」

 ケンドリオンはテイラーの姿を見ただけで眠気が薄れて声をかける。

「来たのね、ケンドリオン」

 テイラーはケンドリオンを見ると口元をつり上げ、つり目気味の視線を向ける。

「これ、君が出したんだろう?」

 ケンドリオンは制服のポケットから手紙を出し、テイラーに見せる。

「ええ、そうよ。あなたの携帯アドレス知らないから電話帳で住所を調べたのよ」

 テイラーは返事した。ケンドリオンは「そうか」と言って、テイラーに尋ねてきた。

「何故、僕にこの手紙を……」

 するとテイラーは上目づかいでケンドリオンに言ってきた。

「あの……さ……、私と付き合ってくれない? 私、ケンドリオンのことが好きになっていたの……」

「え!?」

 ケンドリオンはそれを聞いて、裏返った声を出した。

「ど、どういうこと……」

 いつもは冷静なケンドリオンもテイラーからの返事を聞いて混乱しかけていた。

「大学受験が終わってからさぁ、私あんたのことが気になっちゃって……。学校で中々思いを踏みだせなくってねぇ、んで手紙出して呼んだのよ。告白しないまま卒業するのは気が引けないと思ってね……」

 テイラーは赤面しながら自分の思いを赤裸々に伝えた。

「テイラー……そうだったのか」

 聖神武匠がケンドリオンだと知って世間にリークされたくなかったら口止め料を要求してくるのかと思いきや、テイラーはいつの間にかケンドリオンのことが好きになっていたという告白だったことにケンドリオンは少し安心した。だけどテイラーの純粋で率直な思いを踏み倒すのは告白された者としてどうかと思い、返事をした。

「……いいよ。テイラーがそう言うのなら」


 家に帰って夕食をとり、入浴してケンドリオンはベッドに転がり込んだ。

「意外、だったな……」

 ケンドリオンは呟いた。勝手にライバル視されていた自分がその相手に惚れられるのは。

 九ヵ月前には同じ学校の女子生徒に告白されたとはいえ、その相手はケンドリオンや今まで付き合った男は亡き父の替わりでしなかったけれど、テイラーの方は本気だと思った。

 ケンドリオンは自分は恋をする余裕なんてないと思っていた。大学受験と父だけとの暮らしと邪羅鬼退治に心を向けていたからだ。

(けれど、大学に合格して邪羅鬼も出てこない今は恋を見つめてもいいのかもしれないな……)

 そう考えなおして、ケンドリオンは寝入った。テイラーとの恋という新しい生活を試みるために。




 四月第三日曜日、空は曇天に覆われて雨に見舞われていたが、暖気と交わった温暖な日だった。ケンドリオンとテイラーはグラスフィールドを出て、そこから電車で二〇分行った先にある町、ポピーファームに来ていた。ポピーファームは数年前に出来たばかりの新しい町で白や茶色や灰色のプレハブ住宅街にだだっ広い敷地に建てられた大型ショッピングセンターのある地域であった。ショッピングセンターは二階建てでチャコールグレイの半円屋根にピーチベージュの壁、中は白い柱に白と色ブロックの床、店は服や靴などのアウトレット店から東北中央のブランド品店、自転車店は数十台の色も性能も異なる自転車が並び、地元や周辺地の育成野菜や肉や魚や缶詰が食品市場に置かれ、チェーン店のフードコートから著名レストランの支店があった。

 今日は休日のため地元や他所からたくさんの人々が集まってきていた。雪のような白い肌の人もいれば、褐色の肌や黄色い肌や先住民の小麦色の肌の人もいる。賑やかで騒がしく、ケンドリオンとテイラーもそこのショッピングセンターに居た。センター内の映画館で映画を観るためいやって来たのだ。ケンドリオンは緑と黄色の二色ストライプのシャツと紺の半袖ジャケットとベージュのコットンスラックスと合皮革の黒いカジュアルローファの姿で、テイラーは白とチョコレート色のツートンワンピースに裾レース付きの黒いハイソックスと赤い折り返しミドルブーツと白いつば広レディースハットという制服姿のテイラーと全く違う姿だった。

「テイラー、こういう映画が好きなのかい?」

「うん。一人や女友達と観るより、彼氏と観た方がいいと思ってね」

 映画館内のポスターにはSFアクションや児童向けのCGアニメやホームコメディーなどのジャンルがあり、その下に上映時間が書かれていて、二人が観るのは『ハニー=ロマンス』という恋愛映画で、ヒーローもヒロインも人気若手俳優だった。


 二時間後、シアターから出てくる人々と共にケンドリオンとテイラーは出てきた。テイラーは眼鏡を外し、目頭を押さえている。

「テイラー、大丈夫? 気持ち悪くなったの?」

「あ、ううん……。私、こういうシリアスな問題の後に最後はハッピーエンドに弱くってね……。テレビでも本でも」

「そうなのか……」

 本当にテイラーの知らなかった面を見て、ケンドリオンは驚いていた。テイラーは顔を上げ、眼鏡をつけ直すと、笑ってケンドリオンに言った。

「そんじゃ、お昼ご飯でも食べようか! 私、お腹すいちゃった」

 その後は二人でフードコートのオムライスを食べた。テイラーと一緒に有名ブティックのウィンドーショッピングを見て回った。テイラーが一品だけとはいえ、新しいエナメルバッグを買った。テイラーと一緒に人気ワッフルのお店で買ったバニラクリームココアワッフルを食べた。本当に充実した時間だった。

 夕方になると、テイラーを家の近くまで送った。テイラーの家はオレンジバレー駅近くの低層アパートで茶レンガの壁と緑の面棟屋根がモダンチックな三階建てで、テイラーと両親、今は遠くの町で暮らしているが六歳年上の兄との四人住まいだった。

「送ってくれてありがとう。じゃあまた学校で……」

「ああ、じゃあね」

 ケンドリオンが帰宅したのは夕方の六時過ぎで夕日の朱と夕闇の紫で染まった空で雨はすっかり止んでいた。


 あくる日の明け方、ケンドリオンは悪夢にうなされていた。暗闇の中にいて、その闇が自分にまとわりつくという嫌な夢だった。

 ケンドリオンは目を覚まし、肩や背中に鈍い痛みを感じた。

「何だ、まだ夜が明けていないのか……」

 ケンドリオンはそう呟くと、再び布団の中に潜った。と思ったら、違和感に気づいた。

「明け方だったら鳥の声が聞こえてくるし、夜でも風のなびく音とかが聞こえてくる筈だ……」

 そう感じたケンドリオンは起き上がって携帯電話を開いて現在時刻を目にする。『AM6:45』と表示されており、ケンドリオンは朝なのに光が差さないことに気がついて、カーテンをめくった。

「あっ!!」

 何と空は暗闇だったのだ。夜だったという訳ではなく、紫がかった黒い空間になっていて、更には木に泊まっている小鳥や庭の犬や猫、早朝の作業をこなそうと始めた人たちは青銅のように静止していたのだ。

「と、父さん! 父さん!」

 ケンドリオンはこの様子を見て、父のいる寝室へ向かって駆けだした。

「父さん、大変だよ! みんな銅像のようになって動かないんだよ!」

 ケンドリオンは布団に入っている父を揺さぶり起こそうとしたが、父の反応がない。ケンドリオンがおそるおそる布団をめくってみると、父もまぶたを閉ざし、仰向けの姿で銅像のようになっていたのだ。

「と、父さん! どういうことなんだよーっ!」

 ケンドリオンは朝起きたら突然の異変に自分以外が変わり果てたことにパニックに陥った。その時、ケンドリオンの部屋から電子音が聞こえてきて、ケンドリオンはパニック状態から覚めて自分の部屋の制服ポケットから青い掌大の電子手帳型の道具、転化帳を取り出して開いたのだった。転化帳の画面に青い鱗に覆われた金の双眸に二本の角を生やした龍の姿の五聖神――蒼龍が映し出された。ケンドリオンは久しぶりに蒼龍の姿を目にした。

『ケンドリオン、聞こえるか。私だ、蒼龍だ』

 人間の若々しい男のような声を出して蒼龍はケンドリオンに言った。

「蒼龍……。大変だよ、父さんや町の人たちや動物が銅像みたいに動かなくなったんだよ! おまけに外は不気味な空間に包まれていて、一体何が……」

『落ち着け、ケンドリオン。これは最強の邪羅鬼が生み出した空間で、聖神武匠である君以外の人間や生命体は強力な邪気で静止してしまったんだ』

「じゃあ、その邪羅鬼を倒せばいいんだね?」

『ああ、邪羅鬼を倒しても周囲に変化が起こらなかったら、空間をうろついていてくれ。もしかしたら邪羅鬼よりも強い何者かの仕業ということかもしれぬ』

「その強い何者か、って……?」

『わからない。だが地上で動けるのは君だけだ。頼んだぞ』

 そこで蒼龍からの連絡が切れ、ケンドリオンは蒼龍の言葉に従って、今までより強い邪羅鬼を探すことにした。

 ケンドリオンは寝着から制服に着替え、転化帳を持って家を出た。グラスフィールドの町を徘徊するなか、建物が一軒ずつ闇に呑まれていくのを目にした。きっと自分の家も闇に呑まれていったのだろうとケンドリオンは悟ったが後戻りする訳にはいかなかった。ケンドリオンは家を出て十数分経った先のどこが始まりでどこが終わりかわからない暗闇の空間の中に居た。と、その時、どこからか三日月状の濃緑の斬撃が三つ飛んできて、ケンドリオンは転がるように避けた。足場らしき空間に当たったがすぐに斬撃は消えてしまった。そしてケンドリオンのいた反対側から一体の怪物が出てきた。

「ヒャーハハハハ、俺の斬撃をかわすとは流石聖神武匠だ」

 かん高い笑い声と共に邪羅鬼は姿を現した。全身濃緑の体に節のある四肢、背には長く透明な翅を生やし、両手首には三日月状の鎌が付き、前頭部には大きな複眼、顔の真正面には金褐色の双眸があり、袖や裾や胴体に切れ込みの入った淡紫の衣をまとっていた。

「お前が父さんや町の人たちを銅像の様に変えて、闇の空間を創りあげた邪羅鬼か!」

「そうだ、俺は枯吸刃狩(こすいじんしゅ)。最強の邪羅鬼だ。これよりこの世界を邪羅鬼だけの世界に変え、人間たちを滅ぼす。しかし、人間の味方であるお前がいるのならここで片付けてやる!」

枯吸刃狩(こすいじんしゅ)と名乗る邪羅鬼はケンドリオンに鎌刃を向けてきた。

「お前を倒して、人々も世界も元通りにして見せる!!」

ケンドリオンは転化帳を出し、タッチペンで転化を現すパネルを叩いて叫ぶ。

「聖神木転化!!」


 ケンドリオンの周囲に青い疾風が渦巻いて包まれ、ケンドリオンが姿を変えたケンドリオンが疾風の中から出てきた。前髪の二房が青くなり、頭部に蒼龍の二角と腰に尾を持ち、青い大きな襟がついた水色の半袖衣、衣の裾は長く、黒いズボンと白いレッグカバー、足元は青い編み紐ブーツ、両腕は青と水色のグローブ、手には龍頭の付いた長銃を持っている。

「行くぜ、聖神武匠!!」

 枯吸刃狩(こすいじんしゅ)がケンドリオンに刃を向け、三日月状の斬撃をいくつも放ってきた。ケンドリオンは長銃を持ちかまえて、木行の聖力からなる弾丸をいくつも撃ち放ち、青い光の弾は邪羅鬼の斬撃を撃ち砕いて防いだ。

(奴の両手の鎌を壊せば戦いは早く済む。だけど……)

 ケンドリオンは敵の能力を把握したのは良いが、邪羅鬼の素早さとテクニックがやたらと高いことに悩み、聖力の光弾で奴の斬撃を防ぐのが一杯だった。

(ならリスクを承知でやるしか……)

と、ケンドリオンは長銃を持って、邪羅鬼の攻撃を撃ち砕きながら、一歩ずつ前進していった。邪羅鬼の攻撃の破片で顔や腕や脚に切り傷が入るが、ケンドリオンはかまわず前進する。

「こいつ一体何考えてんだか? わざわざ自分から俺の攻撃を受けようとするなんてよ」

 枯吸刃狩(こすいじんしゅ)はケンドリオンをあざ笑ったが、邪羅鬼の鳩尾にケンドリオンの銃口がつきつけられた。

「ハッ!?」

 枯吸刃狩(こすいじんしゅ)は気づいたが、ケンドリオンは銃から一条の光線を放つ双飛閃(そうひせん)の強化版である(ちょく)長閃(ちょうせん)を放ち、邪羅鬼の胴体の中心に風穴を空けたのだった。

「ぐわっ!!」

 枯吸刃狩(こすいじんしゅ)は後方までに飛ばされ、大きく弧を描いて地面に当たる空間に倒れる。

「くっそ……。俺は“あの御方”のためにこいつを……」

 邪羅鬼は胴体から紫の血を出し、有り余る力で両手を×字状に振るって、大きな×字状の斬撃をケンドリオンに向けて放ってきた。

 大きな斬撃がケンドリオンに向かってくるが、ケンドリオンは青い風の盾、風防盾(ふうぼうじゅん)を出し、左手で風の盾を出しながら右手で銃口を枯吸刃狩(こすいじんしゅ)に向けて、銃に付いた緑幸玉の力と木行の聖力を込めたエネルギーカートリッジに群青色と深緑の波動が混ざり合ってチャージしていく。

蒼龍木嵐砲(そうりゅうもくらんほう)!!」

 ケンドリオンは銃のチャージが終わると、引金を引き、銃口から群青色と深緑の波動の光線が邪羅鬼の体を貫き、枯吸刃狩(こすいじんしゅ)は自分の放った斬撃を押し返されて受け、群青色と緑の閃光に包まれて無数の木の葉や枯れ草となって散っていった。

「ふぅ……。これで奴を倒した……」

 だが、いくら待っても闇が消え、生命の気配を感じない。蒼龍の言った通り、邪羅鬼よりも強い者のせいなのか。

(だがここで留まっていたって仕方がない)

 ケンドリオンは何処にぶつかるかわからない暗闇の中を歩き進んだ。

 しばらくすると、ケンドリオンは気配を感じ、銃を構える。一人ではない。四人もいる。

(どんな邪羅鬼がこようとも、僕は……)

 家族も友人も恋人も暗闇に呑まれたケンドリオンが遭遇したのは意外な人物であった。




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